【完結】剣姫と恋仲になりたいんですけど、もう一周してもいいですか。   作:ねをんゆう

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15.分からない○○○

あれから、私は少しずつ身体の調子を取り戻す努力をし始めた。

……レベルは上がっていた。幸いにも。

けれどそれ以上に大切な時間を失ってしまって、私はようやく決意をすることが出来た。それはつまり、今まで使って来たこのズルを止める決断だ。限定的な不死を利用した物事の解決、これを止めることにしたのだ。というより、止める以外の選択肢が他にないというべきか。

 

『もし次に魂にダメージが入ったら、その時はほんまに終わりやと思っとき』

 

ロキ様にそう言われた言葉を、胸に強く刻み込む。

私は別に死にたい訳じゃない。むしろ死んでしまったら、それこそ目的を果たすことが出来なくなってしまう。これまでの全ての無茶は自分が死なないという前提のものであり、その手段が実質的に使えなくなってしまったというのなら、他の方法を模索するしかない。

否が応でも、これから先もダンジョンに潜っていかなければならない。アイズさんの隣に立つとはそういうことだ。故に改めなければならない。何もかもを。それこそ、これから先も彼女の隣に立ちたいのなら。

 

「ふぅ……ごめんなさいアイズさん、私の身体の慣らしになんか付き合って貰っちゃって」

 

「ううん、気にしないで。……次の遠征、行きたいんだよね」

 

「はい、絶対に行きたいです」

 

「それなら、頑張らないと」

 

「ええ、ありがとうございます」

 

半年も眠っていて色々と劣化してしまっている自分を、アイズさんに見て貰いながら少しずつ矯正していく。恩恵のおかげで肉体の劣化はそれほど酷いわけではなかったのが幸いだが、それでも1ヶ月後の遠征までに万全の状態にしておくには、少しの手抜きもしていられない。

……それに、こうしてアイズさんと一緒に居る時間が増えたのは素直に嬉しいことだ。この機会だって無駄には出来ない。アイズさんの優しさを利用しているみたいで少し罪悪感も感じてしまうけれど、しかし今の自分にそんな余裕がないことも分かっている。成就させたいのなら、これを利用しないでどうするというのか。

 

遠征まであと1ヶ月、アイズさんとベル・クラネルはその遠征の終わり際に出会っていたはず。……正直、以前の時の記憶が徐々に薄れていて、今回の気絶を機に更に記憶の穴が増えている。故にどんなきっかけで2人が出会うことになったのかが、かなり朧げなものになってしまっている。確か帰り際の何らかのトラブルが原因だった筈だが、具体的にそれが何だったのかまでは思い出せない。

しかしそれ故に、次の遠征に参加しないなんてことは絶対にあり得ない。そこさえ止めることが出来れば、少しは時間稼ぎが出来るかもしれないから。可能性は少ないけれど、もしかしたら2人の関係を食い止めることが出来るかもしれないから。単なる荷物持ちであったとしても、一先ずは着いて行かなければ。そこだけ絶対に譲れない。

 

「……少し、休憩しよう?ノアはあんまり休憩しないから、危ないよ」

 

「!……そう、ですかね。分かりました、それではお言葉に甘えて」

 

アイズさんに促されるままに、彼女の隣に座る。よくよく考えてみれば、ダンジョン内でこうして普通に休憩するのも、それまではアイズさんと潜っている時くらいにしかなかったことだ。

だって別に休憩なんかしなくても傷は元に戻るし、疲れは気絶しているうちに治っていたから。だからこういう習慣も、これからはちゃんと付けていかなければならない。しっかりと最善の状態で、いつでも戦闘に臨める様にしていかなければならない。そうでなければ死んでしまう。

…‥こんな風に、普通の人間なら当然のことでさえ、今の私には欠落しているのだ。それは普通の人から見たら、明らかに気持ちの悪い要素になる。これも少しずつでも治していく必要がある、アイズさんに気味悪がられないように。

 

「ノアは、辛くない?」

 

「え?……怪我のことなら、もう大丈夫ですよ?」

 

「ううん、そうじゃなくて……」

 

「?」

 

「戦ってると、偶に……すごく、辛そうな顔をするから」

 

「……そんな顔、してましたか?」

 

「うん。だから心配」

 

「大丈夫ですよ。むしろアイズさんにこんな風に付き合って貰っちゃって、私は幸せなくらいです」

 

「……そっか」

 

「むしろ一人で潜っていた時よりも、ずっと楽で、ずっと楽しくて。ここまで努力をしてきて良かったなって、本当にそう思うんです」

 

「…………うん」

 

戦うことは好きじゃない。

それはまあ確かに前提としてある。

最初に恩恵を貰ったのは生きていくため。最初に冒険者になろうとしたのは主神様のため。そしてここまで来たのはアイズさんの隣に立つため。

私のこれまでの過程の中には、モンスターに対する憎悪や、戦いの中で得られるという楽しみなんかは一切なくて。私にとって戦いというのは、目的ではなく手段だ。だから別に楽しくもないし、もしアイズさんという目標がなかったら、他の方法でお金を稼いでいたかもしれない。

けれど憧れて、こうなってしまったのだから、頑張って、努力して、自分の多くを捨ててまで得た現在に、満足するしかない。ここからどうにかしてベル・クラネルよりも強くアイズさんの心に残る方法を考える以外に、道など何処にも残されていない。そのためなら好きでもない戦闘だって、これまでと変わらずやり続ける。辛くとも苦しくとも、それを手段として使い続ける。

 

「アイズさんは最近どうですか?私が眠っている間もかなりダンジョンに潜っていたそうですが」

 

「……あんまり、伸びなくて。そろそろやっぱり、レベル上げないと」

 

「そうですか……」

 

「でも、もうレベル5になってかなり経つから。仕方ないのかも……」

 

「確か、もう3年でしたか。時期的には丁度ですね」

 

「もし、次の遠征でも伸びなかったら……やっぱり」

 

 

「……………どうしましょう」

 

 

「え?」

 

……これは少し、困ってしまう。

いや、こうなるのも当然なのだけれど。

しかしまさか、こんな欠点があったとは思わなかった。それこそ正に今この瞬間まで、こうなることを予想すらしていなかった。言う側から言われる側になっていて、つまりは自分にはそれを言う資格もなくなっていたなんて。

 

「いえ、その、『あまり無茶をしないでくださいね』って言おうとしたんですけど。……これ絶対私が言えることじゃないなぁ、と思ってしまいまして」

 

「……ふふ。うん、ノアが1番無茶してるから」

 

「我儘ですよね。私は無茶をしてるのに、アイズさんには無茶をして欲しくないだなんて」

 

「そうだね、我儘だと思う」

 

「……でもやっぱり、私はアイズさんのことが大切なので」

 

「………!」

 

「あんまり無茶して欲しくないなぁって、言っちゃいます」

 

まあそうは言っても、アイズさんは直ぐにLv.6になってしまうのだけれど。だからきっと直ぐに、私のことなんて追い抜いてしまうのだけれど。

 

……分かっているとも、どうしようもないこともあると。

 

例えばもう私は、アイズさんの横に一生立ち続けることなんて、口では言えても、やる気はあっても、現実的には絶対に出来ない。

どれだけ努力をしても、それは所詮これまでの方法が使えない中での凡人の努力だ。スタートラインが同じでも、才能のない私ではアイズさんには絶対に追い付けない。

それに激しい戦闘の中にも、私は迂闊に入ることは出来ないだろう。下手に攻撃を受けて魂が砕けてしまえば、その時点で私という存在は今度こそ終わる。私はもう不死ではなく、状況によってはむしろ他人より脆い。

 

……アイズさんの隣に一生立ち続け、彼女を助け続けるだなんて。それを売りにして彼女に売り込んでいたけれど、それは嘘になってしまう可能性の方が高いのだ。

これから遠征でもなんでも、きっと私は最前線に送られることはない。ロキ様は既にフィンさんやリヴェリアさんにそう伝えているだろう。

……こんな身体に、いや、こんな魂になってしまったが故に。だが、それでも私は。

 

 

「……私も、ノアに無茶して欲しくない」

 

「!」

 

「ノアも、あんまり無茶しないで」

 

「……アイズさん」

 

 

その表情に、心を打たれる。

 

 

「私も、私が言えることじゃないけど……今回起きれたのも多分、奇跡みたいなものなんだよね」

 

「……………」

 

「駄目だよ、そんなの……ノアは私のこと助けてくれるって、言った」

 

「……はい」

 

「隣に居てくれるって、言った」

 

「…………はい」

 

「だからもう、あんなことしないで。お願い」

 

「………………はい」

 

 

ぎゅっと手を握られる。

彼女はまた以前のように、私の手を両手で優しく包み込む。そして目を合わせて、訴えかける。諭すように、言い聞かせるように。

だから私はそれに対し、ただ頷くことしか出来ない。ただ申し訳なく、こんな自分のエゴに巻き込んでしまっている彼女に罪悪感を得てしまって、力を失う。

 

……アイズさんはあの日から、私が目覚めたあの日から、定期的にこうして私の手を握ってくるようになった。こうして手を握って、目を合わせて、言葉をかける。そうされると私は途端に何も言えなくなって、アイズさんの言うことにただ頷くことしか出来なくなってしまう。

 

「ノア」

 

「はい……」

 

「ノアはまだ私のこと、好き……?」

 

「……はい、大好きです」

 

「そっか……」

 

アイズさんは狡い。

私にはこうして言わせる癖に、いつもその返答をくれない。私はこんなに好きなのに、アイズさんはどう思っているのかを教えてはくれない。

だから分からないのだ。

何をどうすればいいのか、どうすればアイズさんに好きと言ってもらえるようになるのか。……恋愛の駆け引きなんて知らないし、それだけは勉強する機会もなかったから。本当はそれだってしてから今日に至るつもりだったのに。

本当に、この半年間の空白というのは、重過ぎる。

 

 

 

 

「……リヴェリア様。もしかしてアイズさんって、意外と悪女なのではないでしょうか」

 

「……お前もそう思うか?レフィーヤ」

 

「いえあの、私もそこまで恋愛に詳しい訳ではないんですけど……あれは流石にノアさんがちょっと可哀想というか」

 

「なんと言うか、そんな育て方をしたつもりは無かったのだがな……自分の気持ちが分からないだけならまだしも、独占欲で相手の気持ちだけを引き出し続けるというのは流石にな……」

 

「この前、ノアさんが逆にアイズさんの気持ちを聞き出してるところを見てしまったんですけど」

 

「それは勇気を出したな……」

 

「『……よく、分かんない』って言ってました」

 

「………」

 

「………」

 

「もうなんか最近、ノアの方によっぽど感情移入してしまっている自分が居る。もちろん、アイズが何も悪くないのは知っているのだが……」

 

「私は恋愛の難しさを痛感させられています……なんかこう、もっと簡単なものかと思っていました。お互いに好き合って、気持ちを伝え合って、寄り添っていく〜みたいな」

 

「もちろん、時には相手を妥協して選ぶということもあるのだろうがな。流石にお前達の年頃でそういう選択をするのも良くないだろうし、それはそれでノアは傷付くだろう……」

 

「……アイズさんに振られたら他の女性のことも見るようになったりとか、しませんかね。ノアさん」

 

「無いな、あれは振られたら心が壊れるような状況だ。というか壊れる以前に自殺しかねん。……人目につかない場所で、一人で」

 

「そんな猫みたいな……アイズさんお願いします、なんとかノアさんに恋心を持ってあげて下さい」

 

「恐らくこれは、そう願うものでもないのだろうが……こうまで難しいのか。あれを見ていると自分の伴侶など永久に見つけられる気がしないぞ、私は」

 

「同感です……」

 


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