【完結】剣姫と恋仲になりたいんですけど、もう一周してもいいですか。   作:ねをんゆう

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16.○○の限界

「あの……リヴェリアさん、アキさん。助けてください……」

 

「「!?」」

 

それは遠征まであと1週間程度まで迫った頃のことだった。

アキとリヴェリアが主に2軍メンバーを中心とした遠征中の動きについて相談しているところに、彼はやって来た。……泣きながら。

 

「ど、どうしたのノア!?何かあったの!?」

 

「な、なんだ!?アイズがまた何かしたのか!?」

 

ぶっちゃけ他人の世話などしたこともないレフィーヤとアイズに代わり、起きたばかりの頃のノアの世話はアキがしていた。故に本当に最近は姉妹のように接しているアキ。

そしてもう自分の娘のあまりの恋愛下手に逆に申し訳なくすら思い始め、それまでのこともあって変に世話を焼いてしまっているリヴェリア。

そんな彼等にノアが素直に助けを求めに来たのは至極当然の話であり、しかし何より彼が泣きながらここに来たということに、2人は酷く驚いて対応する。当日の遠征の話など放り出す。これはそれくらいに大切な事案だった。

 

「ア、アイズさんが……アイズさんが……」

 

「な、なんだ!?今度は何をやらかした!?」

 

「アイズさんが突然部屋にやって来て、『自分の好きなところを教えて欲しい』って言って来て……」

 

「「あっ……」」

 

「一つ一つ細かく聞き取られて、同じことを3回くらい言わされて、それを全部メモまでされて……」

 

「「うわ……」」

 

「最後は何も言わずに、何も教えてくれずに、何処かへ行ってしまって……私もう、もう……どうすればいいのか……」

 

「ひ、酷過ぎる……」

 

「ほ、ほら泣くな。大丈夫だ、お前が頑張っていることは私達もよく分かっている」

 

「うぅ……」

 

酷い、あまりにも酷い。

泣き崩れてしまった彼の背中を摩り、2人は近くのソファに座らせる。アキはその涙を拭ってやり、リヴェリアは彼のために温かい飲み物を淹れてやる。

 

……あれほどの痛みに耐えてここまで努力して来た彼が、こうまで途方に暮れている。そして素直に助けまで求めて来た。それはつまり、もう本当にどうしたらいいのか分からないということだろう。

しかし2人はこれまでの経緯を見てきた。ぶっちゃけ良く今日まで頑張ったと思っているくらい。それくらいには本当に、彼は耐えていた。

 

「恋愛を知りたいって……知るために、私のために頑張ってくれてるって……分かるんですけど……分かってるんですけど……」

 

「あ、ああ。お前はよく耐えているよ。……だからその、もう少し断ってもいいんだぞ?」

 

「いえ、あの、リヴェリア様?流石にノアの立場的にアイズの頼みを断るのは難しいと思います。アイズはあくまで恋を知るためにやっていることなので……」

 

「くっ、あのバカ娘……だからと言って本人に聞くやつがあるか。それに聞いたのなら感想の一言でも残せ。というか普通そこまで来たら少しの情くらい湧かないのか」

 

「い、色々……色々頑張って、考えて、試してみたんですけど……なんか、全部駄目で……もう何をしたら良いのか、分からなくて……何が正解なのかも、分からなくて……」

 

「分かった、うん、分かったから。一旦落ち着きましょう?今は考え過ぎて混乱してるだけよ。私達も一緒に考えてあげるから、ね?」

 

「あ、ありがとうございますぅぅ……」

 

最早不憫で仕方がない。

あの日からノアは、こうしてずっとアイズによって色々なことを根掘り葉掘り聞かれている。

それはアイズが恋について知るためにやっていることであり、そこには確かにノアの気持ちに対して向き合おうとする気持ちがあるのだろう。それはとてもいいことだ。ノアとてそこは素直に嬉しいだろう。

 

……だが普通、それを本人に聞くか?

 

せめて同じように恋をしているティオネなんかに聞くのが普通のことのように思うが、何をトチ狂ったのかアイズはそれを本人のノアに聞いている。聞きまくっている。聞き尽くしている。

そして当人のノアは、自分のために努力しているアイズの頼みを断ることなど出来ず、むしろ向き合ってくれるからこそ断ったりなど出来る筈もなく。羞恥を抱えながら、自分の秘めていた想いを、まさにその本人に、まるでひっくり返されるように踏み荒らされながらも、ずっとずっと誠実に答えていた。

 

……その結果、未だ何の成果も得られていない。

 

ノアにとってはこれが一番苦しい。

 

2人の間には未だ進展らしきものは一向になく、ただただノアの心が削られていくばかり。

自分でもデートに誘ってみたりなどと色々してみたが、それこそ女装が悪いのかと髪を縛って男性っぽい服装をしてみたりしたのだが、これが本当に何の効果も成していない。アイズは未だに恋について理解をしていないし、そう言った気持ちが芽生えたような様子すら見せていない。むしろ時間が経つほどに分からなくなっているらしく、そういう意味ではここまでやったのに進展はマイナスとすら言っていいだろう。

 

そうして遠征まで残り1週間。

つまりはベル・クラネルとアイズが出会うまでのタイムリミットは2週間。もう時間がないどころの話ではない。

ここに来てようやくノアの心は折れたのだ。

それこそ、これまではフェアではないからとアイズの保護者であるリヴェリアに対しては恋愛についての相談は極力しないようにと意識して来たが、それすら破ってこうして泣き付いた。それくらいにノアにはもう後がない。

 

「リヴェリア様、流石にこれは……」

 

「ああ、流石にな……」

 

「うっ、うっ……」

 

……とは言え、リヴェリア達だって、何をどうしたらいいのか実際のところは全く分からない。正直に言えば、ここまで難航することになるとは思いもしていなかった。

もちろんあのアイズに恋愛を、といった時点で嫌な予感はしていたが、ここまで困難な道のりとは予測していなかった。それは彼等2人のことを見ている周りの者達だって同じだ。

当初はそうした状況に居るノアのことを睨み付けていたベートでさえ、最近は何処か可哀想な目で見ている。同じようにアイズに対して気持ちを抱いてる彼にとっては、他人事ではないのだろう。多少青い顔をしているのも当然だ。一歩間違えればあそこに居たのは自分だったのだから。

 

「……やっぱり、穏便にはいかないんでしょうか」

 

「な、何を言ってるのノア……?」

 

「やっぱりその、何か劇的な出来事が必要なのかなと……危ないところを助けたり、庇ったりとか……」

 

「そ、そんなことはしなくて良い!!あまり早まったことを考えるな!大丈夫だ!」

 

「そ、そうよ!私達が何か考えてあげるから!い、今は少し休みなさい?ね?」

 

「はい……」

 

さて、どうしたものか。

本当にどうしたものか。

ここまで叩いてみて駄目なら、ノアがそういう思考に陥ってしまっても仕方ないし、正直リヴェリア達もそういうことがないと駄目なのか?と思ったりもしている。

だが今のノアでは一歩間違えれば本当に死ぬ。次こそ完全に魂が砕け散ってしまう。何処が最後の引鉄になってしまうか分からない以上は、出来るだけ危険な状況には巻き込みたくない。

 

(だが他に相談出来る人間は……)

 

彼のこの件について知っているのは、ファミリア内でもロキと幹部3人、そしてアキとレフィーヤだけだ。特にレフィーヤにはノアが神の力で過去に戻って来ている可能性についても伝えていない。ベートが知っているのはノアが不死というところまで。それ故に魂が砕け散りそうになっているということまでは教えていない。しかし半年も眠っていたことから、彼もなんとなくの想像は付いているだろう。

もちろんその中の誰にも恋愛相談が出来るような経験はない。この件について頼りになる人間など、当ファミリアには存在しないのだ。そこまで恋愛経験豊富な人間など、ロキ・ファミリアには存在しない。

 

 

 

「……ということで貴方をお呼びした次第だ、神ヘルメス」

 

「……正直に言おう。一応はイケてる系男神としてやってきた俺ではあるが、本気の本気で恋愛相談をされたことなんて、これが初めてだぜ。九魔姫」

 

ということで、男神ヘルメスをお呼びした。

ノアの件で諸々のことを他の団員に丸投げせざるを得ず、今現在そうしたツケをバッチリ支払いながら遠い目をしている男神ヘルメス様である。普段はちゃらんぽらんな彼であるが、こういう話であれば間違いない。

彼の後ろでは苦笑いをしながら目を背けているアスフィがおり、その目の前では明らかに落ち込んでいるノアが居る。

2人もノアが意識を失ってからは起こす方法を模索していたし、彼が起きた時も一度は顔を合わせて声を掛けていた。レフィーヤの活躍もあり何とか立ち直れた彼を見てその時は安堵していたが、まさかこうなっていたとは予想していなかったらしい。……まさかここまで剣姫という壁は高かったのかと。ヘルメスでさえも苦笑う。

 

「そうだな、1つ方法がないことはない」

 

「っ!本当か神ヘルメス!?」

 

「だが死ぬほどゲスい方法だ」

 

「「「…………」」」

 

「ま、まあ聞くだけ聞こう……」

 

ノア以外の3人から冷ややかな目を向けられながらも、ヘルメスはそのゲスい方法を話す。特に味方であるはずのアスフィからの目線が特に痛い。ノアも思うところはあるようだが、しかし特に何も言うことなく話を聞く。

 

「恋愛なんてのは感情の暴走だと俺は思ってる。最初のキッカケはなんでもいい、だがそのキッカケがないと始まらない」

 

「そのキッカケは、どうすれば……?」

 

「方法はいくつかあるが、例えば孤独だ。このオラリオにも恋人達の聖地と呼ばれる場所はいくつかあるが、君達も知っているかな?」

 

「……まあ、多少は」

 

「そこに剣姫を呼び出して、長時間放置する」

 

「「「「え」」」」

 

「暫く1人にした後、時期を見計らってノアを向かわせるんだ。これだけで剣姫の考え方は僅かでも変わるだろう。これだけで剣姫には『自分にはノアが居る』と思わせることが出来る。……どうだい?簡単だろう?」

 

「「「「…………」」」」

 

このヘルメスの提案に対して、返ってくる返答は当然のものだ。

 

「げっす……」

 

「…………」

 

「やっぱり地が最低ですね、ヘルメス様」

 

「ヘルメス様、あの……流石にアイズさんを悲しませるようなことはあまり……」

 

まあ想像していたほどではないとは言え、それなりに適度なゲス。そこまで酷くはないからこそ、なんというか生々しさがある。この男は実際に似た様なことを何度かやっているのではないかと、そう勘繰りたくなるような提案。……しかしリヴェリアの考えは違った。

 

「……一度試してみるか」

 

「リヴェリア様!?」

 

「おっ、意外だな九魔姫。ぶっちゃけ君に一番に反対されるかと思っていたが」

 

「いや、確かにゲスい提案ではあったが……過激な提案になるくらいなら、これくらいが丁度良いだろう。それに理由故にし辛かったアイズへのお灸にしても丁度いい」

 

「それは、まあ……確かに……」

 

下手にダンジョンに潜る必要もなく、荒事にもならない。アイズが辛い想いをするとは言え、別にそれもそれほどキツイものでもない。ここまでノアを困らせたのだから、アイズとて多少は困ってみるべきだろう。

リヴェリアとしては良いラインの提案だと思う。

 

「ただ、この作戦には欠点がある」

 

「欠点?」

 

「ノアより先に他の男性が声を掛けた場合、最悪の事態になりかねない」

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

「………ひんっ」

 

瞬間、ノアの脳裏に過ぎった可能性の光景。

彼女に会いに行こうとして歩みを始めた直後、何故か突然現れたベル・クラネルが彼女に話しかけ、妙に良い雰囲気になってしまって出るに出られない状況になってしまう光景だ。そこから勇気を持って彼女を引き剥がしても、2人はそんな出会い方をしてしまったものだから、むしろ以前にも増して良い感じに……

 

「あ、あのあのあのあのあの……ほ、ほほ、他の方法は、なかったり、しないでしょうか……?」

 

「す、すまないノア!そうだな!別の提案にしよう!」

 

「悪かった!そこまで思い至らなかった!別の方法を考えよう!!」

 

これが普通の男性相手ならばまだいい。

しかしリヴェリア達は既に推測している。ノアが恐れている相手はアイズにとっての運命の相手であると。つまりはたとえそれが普通に考えたら低い可能性の話であっても、実際にそうなってしまうということがあり得る。

……いやまあ、そんなことを言い出したら、こうして離れている間にも2人が出会ってしまっている可能性はあるけれども。そういう可能性があるからこそ、ベル・クラネルが(恐らく)街に来た時期辺りからノアが神経質になってしまっているのだけれども。

今こうしている間にもノアの心はゴリゴリ削られている。怖くて怖くて仕方がない。

 

「そ、それならこうしよう!逆にノアのことが好きな誰かを仕立て上げるんだ!好きと言ってくれる相手が他の誰かに奪われそうになれば!きっと剣姫の独占欲も強くなる!」

 

「よ、よくもまあそんなゲスい発想がスラスラと……」

 

「い、いいんでしょうか……そんな他の人を巻き込むみたいな……」

 

お前は散々人を巻き込んでおいて今更何を……とは言わない。

ただし。

 

「「それだ」」

 

「えぇ!?」

 

リヴェリアとアキはそれを強く肯定した。

 

「ほ、本気ですか九魔姫!?」

 

「ああ、本気だ。と言うかこれに関しては前例がある」

 

「前例……?」

 

「確かノアが目覚めた直後だったかしら。アイズがノアに会いに行った時に、ノアの手を握っていたレフィーヤを見て、アイズが急に怒り出したって話を聞いたのよ」

 

「それは……確かに……」

 

「なるほど、な。つまりこの作戦は剣姫に有効であるということが、既に実証されているということか……」

 

「そういうことです」

 

「……なんというか、意外です。あれで意外と独占欲強いんですね」

 

「ああ、少なくともレフィーヤはあんなアイズの姿は初めて見たと言っていた。好きという気持ちはまだなくとも、何処かにノアは自分のものだという認識はあるということだ」

 

 

 

「……………タチ悪いなぁ」

 

 

「い、言ってくれるな……一応当人に悪気はない……」

 

「悪気があったら尚更ですよ……」

 

アキのその言葉には、リヴェリアも返せる言葉が見つからない。しかしだが、これならまあ何とかなるだろう。少なくとも自分達の中で完結出来る話になる。それに今のアイズには危機感がない、故にこうして根掘り葉掘りとノアに聞いてくるのだ。それを防ぐためには、それをする余裕を失わせるのが一番手っ取り早い。

 

「となると、その相手が必要になる訳ですが。どうするのですか?」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

「えぇぇぇええ!?!?わ、私がノアさんの、こ、ここ、恋人役ぅう!?!?」

 

 

「いやレフィーヤ、そこまでは言ってないから」

 

 

レフィーヤはまた巻き込まれた。

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