【完結】剣姫と恋仲になりたいんですけど、もう一周してもいいですか。   作:ねをんゆう

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18.始まる○○

あれから1週間、遂に遠征の日がやって来た。

今日までにノアはアイズの手伝いの元、なんとか身体の調子をある程度まで戻すことに成功し、万全の状態で今日この日に臨むことが出来ている。レベル6になった身体の動きにも慣れて、十分に動くことも出来るようになった。

もちろん、確かにレベル6になったことでファミリア内でも幹部3人に次ぐ実力の持ち主になったとは言え、基本は戦闘には参加しないという条件になってしまったが……それでもいい。それでも、今回は参加出来るだけでいいのだ。それこそが目的であるのだから。これ以上を求めることはしないし、それはノアにとっても有難い。別にノアは戦闘をしたい訳ではないのだから。

 

 

 

……さて、それよりも。

 

 

 

「さ、ノアさん?今日は私と同じ部隊ですし、手を繋いで行きましょうね♪」

 

「え?あ……え?は、はい……?」

 

「むぅぅぅうう……!!」

 

「実は今日はお弁当を作って来たんです。18階層に着いたら一緒に食べてくれませんか?食べてくれますよね?」

 

「は、はい……それはその、もちろん……」

 

「それは良かった♪」

 

「〜〜〜〜〜!!!」

 

部隊の先頭近くを歩くアイズ。

その少し後ろの方で、そんな会話を繰り広げるノアとレフィーヤ。

……端的に言えばリヴェリアとフィンが率いるこの第一班は地獄であった。ピリピリとヒリ付く空気、明らかにアイズは不機嫌である。

何故なら遠征前に一緒にダンジョンに潜っている時、ノアの隣に居たのは自分であり。彼が倒れて眠っていた時、ノアの手を握っていたのは自分である。今は正にそのポジションを両方ともレフィーヤに奪われてしまっているのだ。非常に非常に気に食わない。

しかもそれだけでは飽き足らず、レフィーヤは彼のためにお弁当まで作って来たという。対して自分はお弁当どころか、彼のために何かを持って来たり準備をしてきたりなどということは、全くと言っていいほどにしていないのだ。それもまた差を見せつけられているようで、頬の膨らみは増していく。

 

……実のところ、ここ1週間はアイズは只管にノアと仲良さげに話すレフィーヤを見せ付けられていた。

2人が単に話しているだけならばまだしも、その度にレフィーヤは狙っているかのようにノアの手を握っているし。アイズがノアの部屋に入ると大抵の場合に既にレフィーヤが部屋の中に居て、入れ違いになって出て行く。

 

少しずつ、少しずつレフィーヤがアイズの場所を侵食して来ている。むしろ乗っ取ろうとしている。勿論その度にノアに自分のことが好きかと聞くアイズであるが、しかしそれも聞くだけ聞いた後だ。それだけではアイズの心は落ち着かない。

 

(い、意外とノリノリね、レフィーヤ……)

 

そんな姿を見て、アキとリヴェリアも正直少し呆気に取られているところがあった。

少し前はアイズに嫌われるのが怖いと言っていたのに、一度腹を括ったらここまでしっかりやれるのかと。実際、周りの団員達もレフィーヤのその姿には驚いている。一体彼女に何があったのだろうかと。

 

「はぁ……アイズ、あまりそう睨むな。他の団員が萎縮する」

 

「……ねえリヴェリア」

 

「な、なんだ?」

 

「レフィーヤは、ノアのことが好きなの……?」

 

「……そこは私の言及するところではないな」

 

「なんか最近、ずっとノアと一緒に居る……」

 

「ふむ……」

 

レフィーヤがノアと居る時間が長いというのは、取り敢えず事実である。お前もしかして本気でノアのことを落としに行っていないか?と言いたくなるくらいには、最近のレフィーヤはノアとよく話している。

しかし2人のそんな様子を知っているということは、逆に言えばアイズがそれだけノアのことを見ているということだ。それは単純に良い傾向と言えるだろう。ここまで悔しがっているのも、結果が出ているということ。となるとリヴェリアの仕事は……

 

「アイズ、お前はどうしたいんだ?」

 

「どう、したい……?」

 

「18階層まではそれほど難はない、なんなら隊列を少し変えてやってもいい。……だが変えたとして、お前はどうする?ただ近くで睨みに行くだけなら、別にここに居ても大して変わらないだろう」

 

「…………」

 

「お前はどうしたい?」

 

ぶっちゃけ、この作戦はレフィーヤのためにアイズが身を引いてしまうという最悪の可能性も秘めている。故にその辺りを上手いことコントロールすることこそが、アキとリヴェリアの役割である。……だが勿論、それだけでは話は進まないので、こうしてアイズに自分が何をどうしたいのかを、しっかりと口で言わせようとリヴェリアは考えた。意志を口に出させること、これはとても重要だ。

 

「……どうしたら、いいんだろう」

 

「………」

 

「色々、考えてるけど……分からなくて」

 

「……そうか」

 

「ノアは、隣に居てくれるって言ってくれた。……でも、もしかしたら。私は、隣に居てくれるなら誰でもいいんじゃないかって、思って……」

 

「……似たようなことを言うだけの奴なら、確かに他にも居るだろう。だが真にお前の隣に立つために努力が出来る人間はそうは居ない」

 

「リヴェリア……」

 

「だからお前は、ノアの言葉を信用したんだろう。誰でもいいというのは、流石に違うと思うが」

 

「……そうかも」

 

つまりは、やはりアイズの中でもノアに対する執着は、自分の孤独に由来するものであり、恋愛とは繋がっていないという認識らしい。

ノアが本気で努力していて、本当に自分の隣にいるために頑張っていることは分かっている。だからノアのことを信用している。ノアはこれから先も自分の隣に居てくれると。

だからこそ、そのノアの隣を陣取ろうとしているレフィーヤに警戒心を抱いている。その場所を取らないで欲しいと、そう思っている。概ねは想定通りだ。

 

「ならばお前は、ノアに対して何を与えてやるんだ?」

 

「え?」

 

「仮にそれがノアの意思であり願いであったとしても、お前はその献身に対して『自分の隣に居させてやる』などという少々傲慢な言葉をかけたりするのか?」

 

「そ、そんなことしない」

 

「聞くに最近、お前はノアの気持ちを根掘り葉掘りと聞いているようだな。それだけ聞いて、お前は何かお返しをしたのか?その度にノアは恥ずかしい思いをしたと思うが」

 

「う……」

 

「で?どうする?」

 

「うぅ……」

 

このまま向かわせても、どうせまたノアの手を握りに行くのが精々だ。しかしそれだけでは物足りないだろう。そんな何度も同じことを繰り返していては、物事は進まない。だからリヴェリアは一度攻めてみる。もう一歩くらい先に動いてみるように。

 

「えと、その、手を……」

 

「レフィーヤは既に握っているし、その上でノアのために弁当まで作って来たらしいが。その程度ではレフィーヤの方がよっぽど献身的だな」

 

「ぐむぅっ」

 

「お前とてもう無知ではないだろう。色々な本を読んで勉強したんだろう?少しくらい思い付くものはないのか?」

 

「………う、うん」

 

「なら行って来い」

 

「わ、分かった……」

 

最早隊列などあったものではないが、その様子を察したアキは一応体裁を保つために、自分の場所をアイズと代わるように入れ替わる。まあ実際、こういう時のことを考えてリヴェリアはアキをレフィーヤとノアの前に配置していた。

……さて、アイズはどうするのか。

 

「……………」

 

「ア、アイズさん……」

 

「……………」

 

「あの、アイズさん?……あの〜?」

 

「……ノア、力抜いて」

 

「は、はい?」

 

「レフィーヤも、手を放して」

 

「え、あ……はい……」

 

なんだか妙な雰囲気を出しているアイズ。

その様子にノアもレフィーヤも少し押され気味になりながら、若干冷静では無さそうなアイズの言われた通りにする。レフィーヤとは反対側を歩き、妙に真剣な顔をしている彼女のその様子に、リヴェリアは何となく嫌な予感がした。

 

「いくね」

 

「へ?……わっ!わわっ!?」

 

「暴れないで」

 

「いや、でも、これは…………逆では!?」

 

「?」

 

「えぇ……」

 

所謂お姫様抱っこを、むしろノアの方を抱き上げるアイズ。彼女はそのまま何事もないかのように歩いていくし、リヴェリアとアキ、そして事情を知っている団員達は揃って頭を抱えた。

違うだろう、そうじゃないだろう。

何故そうなった。

何故それをしようと思った。

もう全部が全部間違っている。

 

ノアはもう恥ずかしさのあまり顔を赤くして隠しているし、レフィーヤは心から可哀想な目を彼に向けていた。しかし当の本人は自信満々だ。正にやり切ったとでも言っているような顔で。誇らしげに知識だけでしか知らない、どころか意味すら理解出来ていない知識を実践している。

 

「……え!?これ私18階層までこのままなんですか!?」

 

18階層までこのままだった。

 

 

 

 

 

「すまないノア、私も自分の娘がまさかあそこまで気が利かない奴だとは思わなかった……」

 

「いえ、その……まあ、いえ……」

 

「げ、元気出してくださいノアさん」

 

「レフィーヤさん……ありがとうございます。それにこのお弁当、すごく美味しいです」

 

「そ、そうですか?えへへ、それなら頑張った甲斐がありました♪」

 

「………」

 

18階層。

アイズを無理矢理フィンに呼び出させて、アキ、リヴェリア、レフィーヤとノアは昼食を取りつつも作戦会議を行う。

ただアキが気になってしまうのは、やはりレフィーヤのノアに対する距離感の近さ。計画には無かったお弁当まで作って来て、今もこうして彼の直ぐ隣に座って、ニコニコと笑いかけている。

……一体この1週間で彼女に何があったのか。それも直接聞いてみたいのだが、流石にそれをノアの居るところで聞く訳にはいかない。しかしそれにしても、ボディタッチをしたり、目と目を合わせて話をしたり、もうその頼もしさと言えば少し過剰なのではないか?と思ってしまうくらいだ。もちろん、それは良いことなのでアキは何も言わないが。

 

「ただそれにしても……アイズが想像以上にポンコツだったのはキツいわね」

 

「ぽ、ぽんこつ……」

 

「いやノア、庇う必要はない。私の娘はどうしようもないポンコツだ」

 

「あ、あはは……」

 

「多分さっきのも物語の中で読んだものなんでしょうけど、女性が男性にするのはちょっと違うのよねぇ……」

 

「知識として頭に取り入れても、それをどう理解するかはまた別の話だ。知識だけでは意味がない。……それについて解説する機会を設けるべきだったか」

 

最早言い逃れは出来ないし、フォローも出来ない。アイズ・ヴァレンシュタインはポンコツである。自分で考えろ的な方法は通用しない。少なくとも、こと恋愛に関しては絶対に。

しかしまあ、それも仕方ないと言えば仕方ない。少し前までは頭の中はダンジョンばかり、強くなることばかりを考えて来た。急に人間関係や恋愛について考えろと言われても、それは難しいことだろう。むしろそこまでこちらで想像しておくべきだった。

 

「ただ、その……やっぱりアイズさんの中には、ノアさんへの恋心はまだ無さそうですね……」

 

「……?どうしてそう思うの?レフィーヤ」

 

「え?いえ、その……やっぱりこう、好きな相手の人には触れたくなるじゃないですか?でもさっきの感じだと、あんまりそういう意思は無さそうだったというか」

 

「あぁ……私がなんとなく思っていた、アイズさんから恋愛感情を感じない理由。正にそれかもしれません。レフィーヤさんに言葉にして貰うまでは、よく分からなかったんですけど」

 

「えっと……?」

 

ノアとレフィーヤには分かるのであろう、その感覚。

しかしリヴェリア達にはあまり言っている意味が掴めない。

 

「たとえばですね。さっきみたいに抱き上げたとしても、もしその人が好きな人なら、もう少しこう、密着して深めにすると思うんですよ。でもアイズさんは見様見真似で、ただそうすればいいっていう感じで……ノアさんに自分から触れたいって意思は、それほど強くなさそうだったんです」

 

「……なるほどな」

 

「言われてみたら確かに、見様見真似で変な持ち方をしてたとは言え、自分の身体から離して持ってたものね。嫌ってることは無いとして、けど好きな相手ならもっとしっかりと持つか……」

 

「……改めて実感すると、ちょっと悲しいですね」

 

「だ、大丈夫ですよ!ノアさんには私がついていますから……!」

 

「……ありがとうございます、レフィーヤさん」

 

 

「…………」

 

な〜んでレフィーヤさんはそんなに突然恋愛に関して詳しくなったんですかね。……と、然りげなくノアの腕に手を絡めているレフィーヤを見ながらアキは思う。

ノアもなんとなく顔を赤らめているが、しかしそれよりも感謝の気持ちの方が強いのだろう。ノアからしてみればレフィーヤは、自分の恋のために立場や周りの視線を気にせず積極的に協力をしてくれる優しい人なのだから。もちろん実際にそうなのだけれども。

特に今回の遠征ではレフィーヤとノアを基本的にペアとして運用することを決めている。レフィーヤはどんどんノアの意識に潜り込んでいくだろう。なんかもう、ちょっと怖いくらい順調に。

 

「まあとにかく、流石に19階層以降はさっきまでみたいに気を抜くことは出来ないから。ここからは遠征に集中よ」

 

「そうだな、アキの言う通りだ。一先ずは50階層の休息階層に着くまでは切り替えて貰いたい。特にレフィーヤは後衛の要として、ノアは後衛陣の防御役として必要だからな。頼んだぞ」

 

「「はい」」

 

そうして4人が話し終えた頃、アイズは漸くこちらに戻って来た。そして再びノアの腕に抱き付いているような姿勢のレフィーヤを見て、対抗するように反対側に座る。けれど腕に抱き付くことはせず、いつものようにその手を握るだけ。

側から見ればノアが2人に囲われているようにも見えるが、実際のところはもう少し複雑な様相を呈しているのだから困る。

 

‥‥既に遠征は始まってしまった。

アイズがベル・クラネルと出会ってしまうまで、時間はあと僅かしかない。

 

 

 

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