【完結】剣姫と恋仲になりたいんですけど、もう一周してもいいですか。   作:ねをんゆう

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20.○○からの

ノアとアイズがそうしてキャンプから少し離れた場所で話している頃、レフィーヤはティオナやティオネと共にテントを張りながら雑談を交わしていた。

ノアとアイズが居ないことに気付きつつも、なんとなくその意図を理解して、大人しくこうして自分の仕事をこなしている。もちろん、気にならないかと言われれば、当然に気になることではあるけれども。

 

「ねえねえレフィーヤ!ノアとはどういう関係なの!?」

 

「ぶふっ」

 

突然ブッ込まれた。

 

「そうよね、それ私も気になるわ。……まさかアンタがアイズに対抗するだなんて。ノアもアイズのことが好きだったんでしょ?その辺どうなってるのよ」

 

「ど、どど、どうなってるって……」

 

さて、何処まで話して良いものか。

というか、どう話せばいいものか。

あまり公には話せないこともあるし、しかし話しておかなければ不自然なこともある。その辺りの線引きは難しいところだ。あまり広めていいことでもないし、レフィーヤ個人としても広めたくはない。

 

「……確かに、ノアさんはアイズさんのことが好きです。でもアイズさんは、恋とかよく分からないみたいで」

 

「あ〜、それはまあねぇ」

 

「それで、私はノアさんのことが好きになりました。……は、はい。この話はこれでおしまいです」

 

「いや、そこ!そこが聞きたいんだって!」

 

「そうよ!いきなりどうしてそんなことになったの!詳しくしっかり教えなさい!!」

 

「え、えぇ〜!」

 

ちなみにであるが、この会話はアキも作業をしながら聞いていたりもする。というか彼女はここでレフィーヤの見張りをしていた。まさか無いとは思うが、レフィーヤがノアとアイズの時間に割り込んで行ってしまわないように。

しかしその心配は杞憂ではあったものの、これはこれで良い話を聞けそうではあった。全部本当のことは言わないにしても、それなりのことは聞けるのではないかと。

 

 

「……仕方ないじゃないですか。好きになっちゃったんですから」

 

 

「「「〜〜〜!!」」」

 

しかし、レフィーヤは可愛かった。

思っていた以上に、愛らしい恋する乙女の顔を見せた。

さしものアキも、これには面を食らってしまった。

 

「……別に、アイズさんの邪魔をするつもりはないんです。アイズさんがノアさんの気持ちに応えてくれるのなら、私は大人しく身を引くつもりです」

 

「え?そ、それでいいの……?」

 

「いいんです。でもその間も、私はノアさんに好きになって貰えるように頑張ります。……アイズさんがノアさんに振り向いてくれるか。ノアさんが私に振り向いてくれるか。私の目標はそのどちらかです」

 

「……でも、それだとアンタの気持ちはどうなるのよ。もしノアがアイズとくっ付いたら、それをずっと見せ付けられることになるのよ?」

 

「……別に、私は好きな人のことが欲しい訳じゃないですから。私はただ、私の好きになった人に……誰よりも、幸せになって欲しい」

 

「「おお……」」

 

なんならその一言は、誰よりもノアに聞かせてはならない言葉であったりもするけれども。しかしレフィーヤのその気持ちは、間違いなく本物だった。

……ノアに対する気持ちは、心からのものだった。

 

「ちょ、ちょっとちょっと!本当にどうしちゃったの!少し見ない間に急にしっかりしちゃって!」

 

「そ、そうでしょうか……?」

 

「そうだよ!今日だって途中から魔法の支援すごく上手だったし!リヴェリアも褒めてたじゃん!」

 

「そ、それはその、ノアさんが守ってくれたので……」

 

「は〜、やっぱり恋する乙女は強くなるのねぇ」

 

「ちぇ〜っ、いいなぁ。レフィーヤに先越された〜」

 

……などと話している3人であるが、実際のところ、それを後ろで聞いているアキの思考はそれほど可愛いものではない。

そもそもアキがレフィーヤを見張るように指示を受けた理由、リヴェリアがそれを指示した理由。それこそが今正にティオナの言っていた、49階層での活躍が原因だからだ。

 

確かに、今日の49階層でのレフィーヤの動きは見事だった。ノアに守られながらも後ろから魔法を放ち、リヴェリアの詠唱が完了するまでの時間稼ぎに見事貢献して見せた。これはフィンであっても手放しに誉めていたし、ファミリアとしても喜ばしいことであることに間違いない。

 

……だが、リヴェリアの認識は違った。

誰よりも魔導士としての経験のある、リヴェリアが見ていた光景は、それとは違う。それは本当に一流の魔導士であり、かつレフィーヤの師でもある彼女だからこそ気付けた、僅かな違い。

 

 

……レフィーヤは、『並行詠唱』を使用していた。

 

 

それは、それほど大きなものではない。

ほんの半歩、その程度のものだった。

しかしそれまでのレフィーヤは、自身の強大な魔力を暴発させてしまう危険性があった故に、常に安全を取り、僅か半歩であっても自分から並行詠唱を使用したりはしなかった。

だからこそ、それをあの瞬間に使用したことがあり得ない。その半歩を、見事に使い熟していたことがあり得ない。……そう、使い熟していたのだ。無意識にも、必死になって、癖すら付いていないはずの、その半歩を。

 

「あれ?レフィーヤ、そんな飾り物付けてたっけ?」

 

ティオナが話す。

 

「え?あ、これですか?……その、私もいつから持ってたか分からないんですけど。凄く大事な物な気がするので、ちゃんと持っていようかなって思って」

 

「へぇ、なかなか綺麗じゃない。……黄色の、何の花かしら?見たことないわね」

 

「うん、でもなんか私も好きだなぁ。なんかこう、元気を貰えるって感じがする」

 

「図鑑にも載ってなかったんです。……でも、私の大切な宝物です」

 

レフィーヤはその黄色の花が彫られた飾りを、大切そうに抱え込む。

少し特徴的な形をしたその花。アキはチラとそれに目を向けて、大まかな色と形をメモに取る。……もちろんアキとて、その花のことは知らない。それこそ初めて見たと言っても良いくらいに。

しかしアキは聞かされている。

恐らくノアの主神とも思われる神は、花に関係しているのだと。そして主にヘルメスが中心となって、その花についての情報を探していると。

レフィーヤがそれに何らかの影響を受けたというのも、決して考え過ぎということでもないだろう。このレフィーヤの成長がそれに関係していたとしても、それは決して不思議な話ではない。

 

 

「…………嫌な仕事。みんな願ってることは同じ筈なのに」

 

 

1人の人間を幸せにするということは、神の力まで使わなければ成し遂げられないのかと。きっとその"みんな"に含まれる誰もが思っている筈だ。

 

ノアとアイズはまだ帰って来ない。

けれどやっぱりアキには、2人が仲睦まじく帰ってくるような姿を想像することが出来なかった。

 

 

 

 

 

「……ノアさん」

 

「……レフィーヤさん」

 

「今、少しいいですか……?」

 

「……はい、大丈夫です」

 

フィンによる夜の確認を終えた後、ノアはテントに入ることもなくただ静かに椅子に座って眼を閉じていた。

明日は未到達階層の59階層を目指す前に、ディアンケヒト・ファミリアからの依頼をこなすため、51階層のカドモスの泉にて、泉水を採取しに行くらしい。しかしノアの役割はキャンプの防衛。アイズともレフィーヤとも一緒ではなく、特に危険もない。

そもそも、そんな精神状態ではない。そんなことは、その場にいた誰もが察している。

 

「……私と同じ感情を持てないって、言われちゃいました」

 

「っ」

 

「アイズさんも、努力してくれているんです。私の気持ちに応えようと、色々と考えていてくれている」

 

「……ノアさん」

 

「レフィーヤさんにも、お手伝いして貰ってるのに。リヴェリアさんやアキさんにも、ヘルメス様にだって、協力して貰ってるのに」

 

 

 

「………何が、足りないんだろう」

 

 

 

「足りない物が分かれば、努力するのに……」

 

 

 

弱音を漏らす。

レフィーヤから隠すように目元に手を置くけれど、しかし少し震えてしまっているその身体と声を見て、何も分からないほどレフィーヤは無知ではない。

 

「……今なら、誰も見ていませんから。私しか、居ませんから」

 

「……すみません」

 

「大丈夫です……大丈夫ですから」

 

ノアの隣に座って、その背中をさする。

……駄目だったのは、分かっていた。駄目になることすら、分かっていた。今これで済んでいるのは、まだ可能性がゼロにはなっていないからだ。

 

だが、ノアはもう何も分からない。

何をどうすればいいのか、自分は何を間違えたのか、どうしたらアイズの気持ちを惹くことが出来るのか。アイズ本人すら分からないそれを、ノアだって当然のように分からない。

やるべきことさえ分かれば、それまでのように走ることが出来るのに。それすら分からないから、途方に暮れる。最初の3年という猶予のうち、その大半を使い切ってしまった今になって、それまで以上にどうしようもない壁に突き当たってしまって、絶望している。

 

「ノアさんは、頑張っていますよ」

 

「…………」

 

「私は、ノアさんよりも頑張っている人を、他に見たことがありません」

 

「……でも、結果が出ません」

 

「結果はちゃんと出てますよ。……少なくとも私は、そんなノアさんの姿を見て、お手伝いをすることを決めました」

 

レフィーヤはぎゅっと、彼の背中を抱き締める。

男とか、女とか、エルフとか、しきたりとか。そういうものを全部投げ捨てて。ただ目の前の人のために、自分を捧げる。

 

「私の3年を、貴方にあげます」

 

「……え?」

 

そう、決めた。

彼に捧げると、そう決めた。

 

「これから3年間、私の人生は貴方の物です。私はこれから、貴方が幸せになれるための努力をしたいと思います」

 

「……どうして、そこまで」

 

「……私が、そうしたいと思ったから。ノアさんに、幸せになって欲しいって。そう思ったから」

 

なぜそう思ったのかと聞かれても、自分がそうしたいと思ったからという理由以外に他にない。でもこの人を絶対に見捨てたくないと思ったし、見捨てられないとも思った。見捨ててしまったら、自分の中の大切な何かまで消えてしまう確信がある。

 

「……夢を、見るんです」

 

「夢……?」

 

「夢の中の私は、何かに只管に後悔している。ただ無為に時間を消費して、一歩踏み出すだけで救えたかもしれないそれを、いつでも踏み出せたはずのその一歩を、何もしなかった自分を、ずっとずっと憎んでいる……」

 

「レフィーヤさん……」

 

「私はいつも誰かの後ろで、誰かに言われるがままで、自分で何かをしようともしなかった。何かをしようにも、他の人の力を、他の人の言葉を頼る。……自分には関係ないと、心のどこかでそう思っている。きっと夢の中のアレは、未来の自分なんだって思ったんです」

 

「未来の、自分……」

 

レフィーヤのその夢が、自分が時間を遡ってきたことに関係があるのか無いのか。ノアにはそれは分からない。ただレフィーヤはそう信じて疑わないし、このままではそうなってしまうという確信がどこかにあった。

 

「だから一先ず、私の3年間をノアさんにお渡しします。そこからの契約の継続については、またその時にって感じで」

 

「……その3年間、無駄になってしまうかもしれませんよ?」

 

「でもその3年間で、貴方を救えるかもしれない」

 

「………」

 

「エルフの寿命は長いんです。だからそんなに重く感じないでください。ただ私はノアさんが幸せになれるように、全力でお手伝いをする。それだけなんですから」

 

ノアは思い出す、前の世界のレフィーヤのことを。

彼女は1つ年下の自分のことを可愛がってくれて、世話を焼こうとして、度々失敗していた覚えがある。その度にリヴェリアに怒られて、自分がそれをフォローしに行く。記憶に残っている彼女との関係は、そんなものだ。

ベル・クラネルが現れた頃からは、ロキ・ファミリアはなにかと必死に忙しくて、レフィーヤも忙しくて、自分もそれどころではなくて。結局死んでしまうその時まで、彼女とはあまり関わることは出来なかったけれど。

 

「……その契約の代償は、なんですか?」

 

「え?」

 

「契約ですから、私も何かを差し出さないと。……私に差し出せるものなんて殆どないですけど、レフィーヤさんが欲しいものがあれば」

 

彼女は本当に、直向きな人だから。

彼女のことはきっと、信用しても後悔することはないだろうから。

だから。

 

「それなら……死なないで欲しいです」

 

「……!」

 

「もし、アイズさんとの恋が駄目になってしまっても……死んで欲しくないです。苦しくて、辛いかもしれないけど、生きていて欲しいです」

 

「それは……」

 

「そうなった時は!……私が、ノアさんのこと、幸せにしてみせますから」

 

レフィーヤは、叩き付ける。

感情を。想いを。

 

「だから、どうか……生きていて下さい」

 

「生き、て……」

 

「その時は、本当に……私の人生、全部。ノアさんに差し上げてもいいですから」

 

そう思ってもいいくらいに。

 

「私にとっては、大切な人ですから」

 

ずっとずっと、未来から。

彼はそれを、知らなかったかもしれないけど。


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