【完結】剣姫と恋仲になりたいんですけど、もう一周してもいいですか。   作:ねをんゆう

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26.○○なズレ

ノア・ユニセラフの件について、詳細を知っている人間や神々はそう多くない。主にはロキ・ファミリアとヘルメス・ファミリア、ウラノスの一派と、彼が倒れた際にロキが相談した一部の善良な神々だけである。

 

……しかしそこに、1人例外がいる。

 

彼女は確かに先程挙げた一派の中には属していたが、あくまで末端の人間。それでも彼女が彼のことについて知っているのは、単に最初に担当した時以来ずっと彼に関する案件を取り扱うことになってしまって、その繋がりでリヴェリアからもそれとなく情報を与えられていたからである。

 

「え〜?なになにベル君?もしかしてベル君も彼女のことを好きになっちゃったの〜?」

 

「えへへ、その……はい」

 

「ふ〜ん、そっかそっかぁ」

 

 

 

 

(………どうするかな、これ)

 

 

ほんと、どうすればいいのだろう、これ。

エイナ・チュールは表に対しては普段通りの笑みを作りながらも、心の中で冷汗をかく。

 

最近新しく自分の担当になった冒険者:ベル・クラネル。彼はソロの冒険者であり、その兎のような小さく可愛らしい容姿から分かるように、決して突出した戦闘力を持っている訳でもない。元気で真面目で純粋なところはあるが、言いつけを破って予定より深い層まで行ってしまったり、そのせいで今日もミノタウロスに襲われて殺されかけてしまったりする、困った子だ。

年相応にダンジョンに夢を見てしまっている少年であり、まるで弟を見ているみたいで、エイナもそれなりに気にかけていた。

 

……さて、そんな少年がだ。

どうやらあのアイズ・ヴァレンシュタインに恋をしてしまったらしい。そのミノタウロスから助けてもらった際に。

 

いや本当に、どんな偶然なのか。

例の彼と同じ年齢である少年が、同じ女性を好きになってしまった。剣姫には何かそういう特殊能力でもあるのだろうか?年下の男の子を惹きつけるフェロモンでも出しているのだろうか?

 

最近になって、漸くあの少年が本気でアイズ・ヴァレンシュタインの隣に立つためだけに3年間でレベル6まで到達したのだという事実を飲み込めて来たというのに。

流石に目の前のベルがそこまでするとは思えないが、しかし前例がある以上は警戒してしまっても仕方のないこと。同じように無茶をして、この子の場合はそのまま死んでしまうかもしれない。それにエイナとしても、余計な藪は突きたくない。いくらなんでもノアというあの少年の藪は大き過ぎる。この間まで半年も眠っていたとか言っていたし。色々な意味でおかしな子なのだ。今のところは健全で少年らしい少年であるベルを彼に近付けるのは、その彼の想う剣姫に近付けるのは、なかなか簡単に踏み切れることではない。

 

「あー、えっとねベル君。君は冒険者になったんだから、もっと気にしないといけないことが沢山あるでしょう?」

 

「うっ」

 

「それに君はもう自分の神様から恩恵を授かったんだから、ロキ・ファミリアで幹部を務める彼女とお近付きになるのは私は難しいと思う」

 

「ううっ」

 

「思いを諦めろとは言わないけど、現実は見据えていないと。じゃないとベル君のためにもならないから」

 

「はいぃ……」

 

……言い過ぎてしまっただろうか?言い過ぎてしまったよね?言い過ぎてしまったんだろうなぁ。

けれどその全部が本当のことだ。ベルにはまだそんなことが考えられるような余裕はない。あの彼だって最初の数年はヘルメス・ファミリアで下積みを積ん……積んだか?いや、積んでいないな?主神と契約して好き勝手やっていたな?

駄目だ、彼は冒険者としては全然模範的じゃない。良い前例にはなってくれない。他を探さないと。

 

「そ、それにね。彼女はやっぱり人気があるから、競争だって大変だよ?」

 

「そ、そうなんですか?……そういえば、さっき『ベル君も』って」

 

「うん、前にも居たからね。ベル君と同い年の子なんだけど。その子は3年間ものすごく頑張って、今はロキ・ファミリアに居るよ」

 

「僕と、同い年……」

 

(……ん?)

 

エイナは言ってから気付く。

あれ?これもしかしてベル君の背中を押してしまっているのではないか?と。この言い方ではまるで、君も頑張れば彼のようになれる!と言っているようなものだ。

 

……いや、無理無理無理無理!!

そんなの絶対無理だから!!

ダンジョンで物々交換しながらミノタウロスを倒して帰って来たような人間なんて、何の参考にもならないから!!そんなのを真似したら100人中100人が死ぬ!むしろどうして彼が未だに生きているのかは誰にも分からない謎だ!!ギルドですらそれを表向きには公表していない。真似されたら困る。

あれは例外中の例外、絶対に見習わせてはならない。

 

「と、とにかくね。そんな凄い人が君のライバルになる訳なの。なかなか大変な道のりになると思うよ?」

 

「が、頑張ります……」

 

「う〜ん」

 

そっかぁ、頑張っちゃうのかぁ。

 

ここで諦めてくれたならもう少し話は簡単だった……い、いや、もちろんベル君の恋を無碍にしたりはしないけど。

 

さあ、恋というのは大変なものである。

そのためなら本当に男の子は命だって掛けてしまうんだもの。……いや、それはあの子だけか?しかし冒険者が好きな女性の代わりとなって死ぬことは割とよくあって。

 

段々とエイナの中であの少年によって価値観を破壊されているところが見えて来る。それくらいにあの少年はおかしなことをやっている。容姿とかも今では街を歩くだけで(主に男性の)目を惹き付けるくらいになっているし。あれを同じ生き物だと思ってはいけない。

 

「ま、まあ、今は1つずつ地道にやっていこう。冒険者が強くなるコツは、絶対に死なないことだからね。これさえ守れば、君も少しずつカッコいい男の子になれるはずだよ」

 

「は、はい……!ありがとうございます!」

 

この子は普通の冒険者として、普通に育てるんだ。Lv.1でミノタウロスに挑んだり、階層主をたった1人で討伐しに行くような、イカれたことは絶対にさせないんだ。

エイナはそう心に強く誓った。

なお、当然ながらその誓いは容易く破られることになるが?

 

 

 

 

遠征から帰って来た冒険者には、やらなければならないことが沢山ある。

例えば依頼の報告、ドロップ品の売却、装備品の補充や整備などがそれに当たるだろう。それは勿論大手のファミリアとなれば団員達がそれぞれを受け持って行い、そのついでに個人の用事を済ますのが通常である。ロキ・ファミリアとて変わらない。持ち帰る量が量だけに団員総出で街に繰り出し、その日は街もよく賑わうというもの。

 

「なあに?また壊したの?うちの商品は確かに消耗品だけれど、貴方に魔剣を売ったことはないはずよ?」

 

「申し訳ありません」

 

「……もう、ただの意地悪なんだからそんなに湿っぽくしないの。ほら、こっちに来なさい。いつもの一式揃えてあるから」

 

「ありがとうございます」

 

アイズやティオナはゴブニュ・ファミリアで自身の剣を造り管理してもらっているが、ノアは違う。彼は装備を本当に消費する。だからこうしてファミリアの規模で数と一定の質を保証してくれる、ヘファイストス・ファミリアを頼っていた。

滅茶苦茶なレベル上げをしていた時は当然、それが落ち着いた今でさえも防具はともかく、剣の消耗がとにかく早い。才能がない故に剣の扱いが下手なのもあるが、何より彼の魔法がそれを加速させていると言っても良い。

 

「でも懐かしいわね。毎週のように剣と防具を買いに来る変な子供が居るって聞いた時は、正直こんなにも長い付き合いになるとは思わなかったわ」

 

「普通なら死んでいますから、そう思われるのも当然です」

 

「それにしても予備の剣まで無くすなんて、今回はそんなに大変だったの?」

 

「非常に強い腐食液を吐くモンスターが現れまして、不壊属性以外の装備が意味を成しませんでした。恐らく他の団員の方々も後ほど雪崩れ込んでくると思います」

 

「えぇ、なによそれ。どうやって倒したの?」

 

「腕をこう……」

 

「ああ、うん、もういいわ。大体分かったから」

 

相変わらずの彼の様子に呆れる彼女、そういうところは数年前から少しも変わっていない。実は女神ヘファイストスとは、それなりに長い付き合いになる。

きっかけはノアがまだヘルメス・ファミリアに居た頃、ヘファイストス・ファミリアの団員から滅茶苦茶な頻度で装備を買いに来る子供が居ると聞いた彼女が、なんとなく気になって見に来たのが最初だった。当時はまだ『そういえば少し前の神会で見たような……』くらいの認識であったが、しかし1年も経てばその異常さにヘファイストスは気が付く。

 

ヘファイストスが知っているのは、彼が擬似的な不死のスキルを持っているというところまで。それ故に魂が一度は砕けたというところまで。勿論彼がアイズのためにこんなことをしているということも知っているが、それは彼女がノアから直接聞き出したことだ。そこだけは他のノアが倒れた際にロキが相談した善良な神々とは違う。

 

「はい、いつもの装備ね。ちょっと色々工夫はしてるみたいだけど、大まかには変わっていない筈よ。代金もいつも通り」

 

「ありがとうございます」

 

「……いつも思うけど、もう少し良い装備にしないの?貴方の稼ぎなら不壊属性の武器だって作れるんじゃない?ローンなら受け付けるし」

 

「……正直、憧れはあります。ですが私の魔法を考えると、普通の武器の方がいいんです」

 

「それなら拳や脚に付ける武器とかはどう?"凶狼"みたいなの」

 

「……やめておきます」

 

「……本当にいいの?」

 

「……その、上手く理由が説明出来ないんですけど。最近、ちょっと変な感じで。装備とか持ち物とか、変えようとするのが怖いんです。今と違うものにするのに、抵抗感があるというか」

 

「……貴方」

 

「ダンジョン以外のことにも考えることがたくさんあって、少し頭が疲れているので、そのせいかもしれませんね。変なことを言ってしまって申し訳ありません。……ヘファイストス様の仰る通り、装備を見直す必要があるのは間違いないです」

 

ヘファイストスは目を細める。

彼のその様子に、今日会った時からなんとなく感じていた覇気のなさに、違和感を感じた。

 

「……ちょっと来なさい」

 

「?は、はい……」

 

ノアに渡す筈だった装備を適当に箱に仕舞い込んで、ヘファイストスは彼を自分の自室に招き入れる。彼女も主神、このようなことは滅多にしない。ノアとてヘファイストスの部屋に入ることなど、これが初めてだった。

しかしヘファイストスは彼を椅子に座らせると、温かい飲み物を淹れて対面に座る。別のファミリアの、少し付き合いのある程度の冒険者。しかし善神であるヘファイストスにとっては、善良な子供達は皆愛すべき子供である。本当に困っているのなら、その背中に刻まれた恩恵は関係ない。

 

「最近よく眠れてる?食欲はある?」

 

「え?えっと……確かに、あまり眠れてないかもしれません。食事も取るようにはしていますが、食欲自体はあまり……」

 

「身体の調子は?」

 

「身体の調子……」

 

「疲れやすいとか、変に怠いとか、痛みがあるとか」

 

「疲れやすいのは、そうですね。怠さもまあ、それなりに……」

 

「……………」

 

ヘファイストスは別に医療に関して特別に詳しい訳ではない。しかし大手のファミリアを持っている以上は、その辺りはしっかりと気を配っているつもりだ。こういう職業的な仕事をしていれば、自分の世界に閉じこもって心を病んでしまう団員もそれなりに出て来る。だからこういう反応をする子供を見るのも、一度や二度の話ではない。

 

……軽度の精神疾患の傾向がある。

 

あくまで症状だけであるが、間違いなく精神的に弱っていることは確かだ。だが実際のところ、これはロキと話していた際にも予想出来ていたことではある。

魂とはその人間の核と言っても間違いなく、いくら後付けで補修したとしても、一度砕けて何の問題もなく元通りになるものではない。徐々にその歪みは大きくなり、いずれ他の場所にも影響するであろうことは危惧されていた。それがここに来て漸く姿を現し始めたということだろう。

……ただ。

 

(予想していたより、進行が早いわね……)

 

何が原因かは分からないが、ここまで早く精神にまで影響が出て来るとは思わなかった。それとも魂とは関係のない部分で、つまりは元の精神の状態で弱っているのか。

……しかしそうだとしても当然か。あれほどの無茶をして来た人間が、健常な精神でいられることが普通ではないのだ。

 

つまりはこれは魂の崩壊とは別に彼本人の精神が、彼本人の環境によって崩壊し始めていると取るべきなのかもしれない。

……それはそれで救いがないが、しかしもしそれだけならまだなんとかなる。魂の崩壊が起因であるなら、それは不可逆の衰弱だ。彼本人が問題なら、手の施しようはまだある。

 

「そうね、貴方の装備はうちの団員に運ばせておくから。貴方はこれからディアンケヒト・ファミリアに行きなさい?手紙も書いてあげる」

 

「それは、その、嬉しいのですが……やはり何かの病気なのでしょうか?」

 

「ちょっと精神的に疲れているだけよ。でもその感じだと、戦闘中に集中力が途切れてしまうかもしれないでしょう?精神の疲れは早めに治しておくに限るのよ」

 

「なる、ほど………分かりました、ありがとうございます。申し訳ありません、お手数をおかけししてしまって」

 

「気にしないで、大事なお得意様だもの」

 

それから彼は出されたものを飲み干すと、再度ヘファイストスにお礼を言ってディアンケヒト・ファミリアの方向へと歩いて行った。

……それを見送ったヘファイストスは、直ぐ様に自室に戻ると、ロキに向けた手紙を書き、ノアの装備と一緒に団員の1人に使いを出す。ヘファイストスの考えでは本人が起因の精神疲労だと予想しているが、万が一ということもある。これをロキに伝えるのは必要だろう。ロキ・ファミリア内で何が起きているのかはヘファイストスには分からないが、少なくとも彼は精神的に弱ってしまうような状況に居るということなのだから。

 

「……ほんと、完全に狂ってしまえれば少しは楽だったのに」

 

それが出来ないからこそ。それをしなかったからこそ、余計に苦しむことになる。様々な選択肢の中で、最も険しい道を歩くことになる。

ヘファイストスは思うのだ。

結局彼のような人間こそ、生きるのが下手だと言われるのだと。けれど、だからこそ愛おしくもある。人間特有のその愚かしさは、知れば知るほどに味が出る。

 

好ましいとも。

同時にとても痛ましいけれど。

 

 

 

 

 

 

 

生きている、生き延びている。

今でもそれが信じられない、信じたくない。

受け入れたくない。

 

私は幸福だ。

私は幸福だ。

私は幸福でなくてはいけない。

私が幸福でなければ、彼はどうだと言うのだ。

 

好きになった人と、こうして今を生きて歩いていける。これ以上の幸福が何処にあるのだと、私は今一度思い知らされている。

 

私の目の前で殺された少年が居た。

私を守るために犠牲になった少年が居た。

自分よりも年下で、自分よりも小さくて、自分よりもその人生を必死に生きていて、自分よりも皆に愛されていた。自分よりもよっぽど生きていなければならない優しい子だった。

 

そんな少年が自分なんかの犠牲になった。

だったら自分が誰より幸せでなくてはならない。彼の分まで幸せに生きなければならない。貴方が守ってくれたおかげで、自分はこんなにもたくさんの人を救うことが出来て、こんなにも意味のあることが出来て。だから、貴方の死と頑張りは、決して無駄なことではなかったのだと、証明し続けなければならない。それが生き残ってしまった自分の役割だと、思う。

 

あの日からファミリアには何処か暗い空気が漂っている。

それは多くの団員が亡くなってしまったから、というのもあるけれど。何より自分達の中で1番の歳下である彼を守ること出来なかったから、という理由が一番大きいんだと思う。

生き残ることの出来る状況では無かった、単に運が悪かった、けれどそんな言葉で誤魔化すことなんて出来ない。一番若く、一番純粋で、一番守らなければならない大切な末っ子を死なせてしまった。それもあんなにも酷い最期で。それは団長も含めた団員全員に深い傷跡を残してしまって。

だからレフィーヤがあんな風に取り乱して、普段見ないくらいに当たり散らして引き篭もってしまった時も、むしろそれにみんなは救われていたんだと思う。そうして怒って、そうして責めて貰って、そうしてくれる人が必要だったんだ。だからレフィーヤは何も悪くない。悪いのは自分だ。未だに何も成すことの出来ていない、何も変わることの出来ていない自分だ。

 

……どうして、自分は彼と同じことが出来なかったんだろう。

レベルが彼より低かったから?

回復役で戦闘なんか出来なかったから?

背中にルーニーを背負っていたから?

 

違う。

そんなのは言い訳だ。

それは目の前で腸を抉り出される少年を前にしても言葉にすることの出来る理由にはならない。私は単に怖かっただけだ。逃げ出しただけだ。彼を見捨てただけだ。

 

私なんかよりも、彼が生き残るべきだった。

 

彼よりも、私の方が犠牲になるべきだった。

 

それが年上としての、年長者としての役割だった。

 

 

 

……あれから毎日、彼の墓石の前で祈っている。

でも彼の墓石の前には人が居ることが多くて、私はその人が祈り終わるまで待ってから祈ることにしている。

 

レフィーヤは毎朝、早朝から起きて朝食も食べることなく墓石の前に立ち、延々と何かを話しかけているし。

アキさんは暇な時間が出来ると、花束と少しのお菓子を持ってお供えをしている。

アイズさんは夕方頃にダンジョンから帰ると、何かを話して、最後には『ごめんね』と締めくくり去っていく。

 

ロキも、リヴェリア様も、団長も時々来て、みんな何かを謝っている。そしてそれを見る度に、それを毎日見続けるほどに、やっぱり死ぬべきだったのは自分だったのだと理解してしまう。彼が生き残るべきだったのだと、思わされてしまう。

 

ああ、ごめんなさい。

ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。

 

私が全てを壊してしまった。

全部私のせいだ。

誰にも言われないけれど、きっとみんなそう思っている。

 

 

やり直させて。

 

もう一度だけ、やり直させて。

 

そうしたら、今度こそは私が死ぬから。

 

今度こそちゃんと、私が死ぬから。

 

今度こそ私が、彼の代わりになるから。

 

 

レフィーヤが今でも夜中に泣いているのを知っている。

アキさんが時々寂しそうに何かを見つめているのを知っている。

アイズさんがより力に固執してしまったのを知っている。

ロキが、団長が、リヴェリア様が、ガレスさんが、表面上はいつも通りに振る舞っていても、彼を死なせてしまった責任を今でも重く抱えているのを知っている。

 

お願い、お願い、お願い。

死なせて、死なせて、死なせて。

彼の代わりに死なせて。

もう幸福なんていいから、もう我儘言わないから、もう全部諦めるから、お願いだから彼を返して。私が壊してしまったものを、全部元に戻して。

 

……お願い。

 

お願い、お願いだから………

 

 

私なんかのことを、慰めないで……

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