【完結】剣姫と恋仲になりたいんですけど、もう一周してもいいですか。   作:ねをんゆう

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37.○○の足音

「ごほっ、こほっ……」

 

フィリア祭が終わった次の日、ある程度改善した身体を慣らすために、ノアはファミリアの中庭で身体を動かしていた。フィリア祭で襲われたあの時、ノアはここ数日で自分の動きがかなり悪くなっていることを理解した。これは不味いと、流石に焦ってしまった訳である。

元々才能なんてないので今更剣を振ったところで大して上手くはならないかもしれないが、しかしこうして身体のキレを戻すためには素振りというものは丁度いい。……そもそも、素振り自体も果たして何年振りにしていることか。こんなことしている暇があるならダンジョンへ、を繰り返していた身としては、自分の素振りがそもそもうまく出来ているのかどうかも分からない。

 

「お疲れ様です。ノアさん、アイズさん」

 

「ありがとうございます、レフィーヤさん」

 

「うん……やっぱり、鈍ってるのかな。あんまり調子良くないね」

 

「そう、ですね……たった数日動かないだけでここまでとなると、正直少し落ち込みます」

 

身体の慣らしに付き合ってくれたアイズの指摘を受けて、改めて落ち込む。彼女は一枚の落ちる葉を一瞬で粉々に切り刻むような見事な剣技を見せてくれるが、しかし自分はそんな器用なことは出来ない。どころか今では真っ二つに斬ることすらも精一杯で、明らかにキレが落ちている。これは不味い。

 

「……ふぅ」

 

レフィーヤに貰った水に口を付け、息を吐く。やはりそろそろ一度ダンジョンに潜りたい。可能ならば以前のように長い期間を使ってステイタスも伸ばしたいが、今はそれより重要なことがある。しかし次の遠征はもう少し先になるだろうし、かと言ってこのまま弱くなっていくだけの姿勢をアイズに見せ続けるにもいかない。本当にこの体調が恨めしいと思ってしまう。自分がもう少し管理出来ていれば、もっと上手いこと出来ていただろうに。

 

「精が出るな、お前達」

 

「!リヴェリアさん」

 

「リヴェリア様」

 

そんなことをノアが考えていると、声をかけに来たのはリヴェリアだった。もしかしたら彼女としてもアイズの変化を嬉しく思っているのか、なんだか少し上機嫌そうな様子で3人を見つめてやって来る。

 

「どうしたの……?また何か起きた?」

 

「いや、少し提案にな」

 

「提案?」

 

「アイズ、お前はゴブニュ・ファミリアに借りた剣を壊したらしいな」

 

「うっ」

 

「ノア、お前はどうやら身体が鈍っているらしい」

 

「はい……」

 

「レフィーヤ、お前も並行詠唱の練習をしたいだろう。私にも見てもらいたくないか?」

 

「そ、その通りです」

 

「まあ、つまりだな。皆でダンジョンに行かないか?という提案だ」

 

「「「!!」」」

 

それはその場の誰にとっても願ってもない提案だった。

別にこの3人でダンジョンに潜っても良いが、リヴェリアと一緒であれば階層も深い場所まで行けるし、それこそ数日をまたいで潜っても問題ない。心配をかけない。何より安全性が保証される。リヴェリアがついて来てくれるというだけで、3人の願いが一挙に叶う。

 

「まあ、最初の提案はティオナとティオネだったのだがな。フィンも久々に着いてくるそうだ」

 

「団長も……!」

 

「それで、どうだ?行くか?」

 

「「「行きます(行く)!」」」

 

断る理由など何処にもなかった。

 

 

 

 

「ふっ!」

 

『プギッ!?』

 

ゴッ、と襲い掛かってきたミノタウロスの身体を叩き切る。冒険者になったばかりの頃が嘘のように、簡単に倒せるようになった強敵。それでもやはりアイズのような綺麗な斬り口を作ることは出来ないが、しかしいい加減にミノタウロスとの戦闘は手慣れたもの。もう何百回も殺し合った仲だ、ノアには初動を見ただけで次の行動が手に取るように分かる。

 

「えっと、こんな感じでどうですか?」

 

「いいと思うよ、なんだ習えば出来るじゃないか。誰かに教えを受けたりはしなかったのかい?」

 

「そうですね、ここ数年はありませんでした。ずっと一人で潜っていたので」

 

「……なるほど。我流もそこまで来るといっそ清々しいかな」

 

「正直、対人戦闘で誰かに勝てる気はしないですね。モンスター相手ならそこそこ融通は効くんですけど」

 

ダンジョンを潜るその最中、良い機会だからとノアはフィンに剣の使い方を教えて貰っていた。

前回の人生ではまだしも、今回の生ではノアは誰かに戦い方を教わったことなど一度もない。もちろん基礎にあるのは前回教わったものであるが、しかし既に単純な戦闘数だけで言えば前回の時の何倍もこなしている。不死のスキルもあり、ノアの戦闘技術というのは、如何に耐えて耐えて待ち続け、最終的にどんな手段でも敵を殺せればいいというところに尽きてしまう。剣の才能が無いのはともかく、しかしほとんど全てが子供の我流になっているのも、ノアの剣技が拙い理由の1つである。こうして年長者に教わる機会さえあれば、少しとは言えマシになるのだ。マシには。

 

「アルクス・レイ!!」

 

「っ」

 

そうしてノアが剣技を教わっている横で、レフィーヤはリヴェリアに並行詠唱を見て貰っている。ノアとは違い殆ど完全と言って良いほどに身に付いているそれは、リヴェリアから見ても指摘するところは少ししかない。これならばむしろ、並行詠唱の応用についても教えてもいいかもしれない。それくらいにレフィーヤは成長していたし、精神的にも強くなっていた。リヴェリアも自分の後釜として本格的に先が見えて来たように感じて、なんだか嬉しくなる。

 

「ほんと、急に頼もしくなっちゃって」

 

「確かに、レフィーヤなんだかカッコよくなったよね〜。並行詠唱もいつの間に覚えたんだろ?」

 

「……レフィーヤは、凄いから」

 

「……なんだかアイズも、ちょっと変わったかしら?」

 

「?」

 

「ちょっと自信が付いたっていうか、自主性が付いたっていうか」

 

「じしゅ……?」

 

「自分の考えが強くなったってことよ」

 

「………!」

 

「良い傾向なんじゃない?レフィーヤもだけど、ちょっと寂しいくらい。……なんだかみんな、いつの間にか大人になっちゃって」

 

「………うん」

 

そう見えているのなら嬉しいくらいだと。リヴェリアに何かを教わりながら歩いているレフィーヤを見て、アイズは思う。

レフィーヤのすごさは、アイズだって良く分かっている。誰かを支えるということの難しさを知って、それを十分に成している彼女のことを、アイズは憧れてさえいる。少なくとも彼女くらいにならないと、英雄になってくれる彼の横に立つ資格はないと。その目安にさえしているくらいだ。いつかは超えたいと思っているが、その壁の高さはアイズが知れば知るほど高くなる。

 

「……やっぱりさ、ノアの影響なの?」

 

「っ!?っ!?」

 

「いや、それくらい誰でも分かるでしょ。あんた達がノアの影響受けてるなんてバリバリ分かることだっての」

 

「そ、そうかな……」

 

「アイズもノアのこと好きなの?」

 

「ぶふっ」

 

「アイズが吹き出した!?」

 

「めちゃくちゃ意識してんじゃない!」

 

いや、だって……正にそれに悩んでいるところだから。

その話題はいけない、今のアイズにとてもよく効く。影響を受けていることは否定しないけれど。出来ないけれど。彼のおかげで自分も色々考えるようになったから、そこも特に何かを言うこともないのだけど。

 

「どうされましたか、アイズさん」

 

「っ!?!?な、なんでもない……!ノ、ノアはもういいの!?」

 

「ええ、もうすぐ17階層ですから。指導はここまでということで」

 

「そ、そうなんだ……」

 

「あー!ねえねえノア!!アイズのことなんだけどさ〜!!」

 

「〜〜〜〜〜!!!!!!!!」

 

「うわわわわわ!!!?」

 

「あ、アイズさ〜ん!?」

 

アイズはティオナを担いで走り去っていく。

アイズにだって知られたくないことはあるし、なぜそれを知られたくないかの理由は上手く説明出来なくても、それを恥ずかしいと思えるくらいの可愛げが身に付いても来ているのだ。

……それをもっと上手く使って相手にアピールするとか、そこまでは流石に出来はしないけれど。それはちゃんと彼のことが好きになれてから。少しずつ、少しずつ。

 

 

 

 

さて、話は変わるが、意外な繋がりというのは何処にでもあるものである。しかしその理由をよくよく聞いてみれば、まあそうなるだろうと理解出来てしまうこともあるのだから面白い。

例えばそれは、この18階層のリヴィラの街において。

 

「ん?……おお!"迷異姫"じゃねぇか!なんだなんだ!お前もここに来てたのか!!」

 

「ええ、こんなお忙しい時に申し訳ありません。ボールスさん」

 

「まあ構わねぇよ、手伝ってくれんならな。面倒臭ぇのには違わねぇが、天下のロキ・ファミリア様に手伝って貰えるってんなら百人力だ」

 

リヴィラの街のまとめ役であるボールス・エルダー、彼はノア・ユニセラフとはそれなりに見知った仲であった。それは言うまでもなくノアが彼の店の常連どころかヘビーユーザーであり、ここ数年でアホみたいな稼ぎを彼に齎してくれたからである。

 

ヘルメス・ファミリア時代はリヴェリアとの食事の際にくらいしか地上に戻っていなかった彼は、主な生活用品は全てこのリヴィラの街で揃えていた。特に最初に何の気なしに利用したボールスの店は、身体を洗い流すために水を無料で分けてくれたという本当にそれだけの理由で好んで利用し続けていた訳である。

大量の魔石を持って半分裸のような血塗れで来店し、通常の5割増しの値段で吹っ掛けても気にすることなく交換していく。しかもその頻度も相当なもので、ボールスは荷物を載せての地上との往復という重労働を、普段の何倍もすることにはなった。……だがしかしその一方で、その程度の労力では本来得ることの出来ない途方もない稼ぎを得られ、彼の懐は大いに潤ったのだ。

 

そうこうしていると彼のランクアップの報告を何度も受けて、まあそりゃそうだろうなと納得しながら。しかし変わらず利益を齎してくれる彼は、正に金の成る木。ロキ・ファミリアに移ったあたりからダンジョンに潜る頻度がめっきり減ったようではあったが、しかしそれはボールスも予想していたことだった。商売の関係が薄くなったとは言え、莫大な利益を齎してくれた相手。特に最近はLv.6にもなったというのだから、仲良くしておいて損はない。

 

「それにしても……っ、やっぱり人の死体というのは何度見ても慣れないというか」

 

「そんなに見たことがあるんですか……?」

 

「ダンジョンにずっと潜っていた時に、何度か持ち帰ったことがあります。身元不明の腕とか、モンスターが咥えてたりしますから。……最初の頃はすごくショックだったんですけど、中層辺りを彷徨いていると割とよくあって」

 

「ああ、そんなこともあったな。何度か死体袋も用意してやったか。死体の処理を要求された時は、遂にやりやがったか……と思ったもんだが」

 

「そんなことは一度もしたことありませんからね……?」

 

「冗談だよ、分かってらぁ」

 

そんな冗談を交わしつつ、ボールスは手下達に持って来させた開錠薬(ステイタス・シーフ)を目の前の男性の死体に使うように指示を出す。

 

……簡単に状況説明をするのであれば。宿を取るために訪れた18階層リヴィラの街にて、珍しく街中で殺人事件が起きたという話を聞いたロキ・ファミリア一向。いつものように首を突っ込み、最終的に殺人現場であるヴィリーの宿屋にまで来てしまったという訳である。

倒れているのは屈強な男性。頭部が完全に破壊されており、部屋の中にも暴れたような痕跡は一切ない。単なる殺人とは思えない、不思議な光景だ。

 

「……………」

 

「ノア?どうかしたの……?」

 

「え?あ、いえ……何かをこう、忘れているような気がして」

 

「?……大丈夫?」

 

「最近、定期的にこういう感覚があるんですけど……まあ特に今のところは何もないので、大丈夫だとは思います」

 

「……困ったら相談してね」

 

「ええ、ありがとうございます」

 

そんなことを話しているうちに、事態はより深刻な方へと進んでいく。

殺された男性がガネーシャ・ファミリアのLv.4であるハシャーナ・ドルリアであることが判明したり、それ故にロキ・ファミリアの女性陣が疑われてしまったり、そうして自分の身体を値踏みされたティオネが激怒してボールズ達が震え上がったりと。まあ後半はともかく、Lv.4を一方的に殺すことが出来る存在というのは、素直にリヴィラの街に住む者達を真っ青にするくらいの相手である。この小さな街にそんな恐ろしい存在が未だに潜んでいるというのが、フィンの予想で。そんなことを聞かされてしまえば、もう安易に夜に眠ることも出来やしない。

 

「ノア、君はどう思う?」

 

「え?」

 

そうして事件解決のためにボールスが街の人間を集めるために奔走している間に、フィンはそれとなくノアに話を振ってみた。

それは以前の際に彼がここに来ていたかどうかは分からなくとも、少なからず関連した情報を持っていると思ったからだ。もしかすればその犯人すらも、彼は知っているかもしれないと。だって彼は未来を知っている筈なのだから。もしものことを考えると一つでも情報は欲しい。

 

……しかし。

 

「えっと?そう、ですね……う、ううん?その、私もフィンさんの推察に特に穴はないんじゃないかなぁと思うんですけど……」

 

「……?」

 

「わ、私もそこまで頭がいい方ではありませんので。あまり期待されても困ってしまうと言いますか……」

 

「……この事件の犯人に心当たりとかは、流石にないのかな」

 

「ま、まさかそんな。ありませんよ。……もしかして、わたし疑われていますか?わ、わたし本当に何も知りませんよ!?」

 

「………………………いや、疑ってはいないよ。ダンジョンに長く潜っていた君なら、素性を隠した実力者を知らないかと思ってね」

 

「な、なるほど……ごめんなさい、本当に心当たりはないんです」

 

フィンがいくつも予想していた彼の反応のどれにも、その反応は当て嵌まらない。それがもし本当に明かせないことである場合、しかしそういった際の反応もフィンは予測していた。しかしそれとも違っている。だからフィンも酷く困惑しているし、誤魔化しに走った。

なぜなら、強いていうならばそれは……本当に何も知らないという時の反応。どころか何の予想も、何の情報すら無いとでもいうような、そんな反応。

 

「ノア……」

 

「はい?」

 

「もし僕がその気になれば未来すら見通せると言ったら、君は笑うかな」

 

「???……いえ、笑いはしませんけど」

 

ああ、確定した。

 

フィンは目を閉じて、理解した。

 

理由などどうでもいい。

 

過程などどうでもいい。

 

それでも確かなのは。

 

彼はもうそもそも、未来に関する知識がない。

 

自分が未来を知っていることすら。知っていたこそすらも、認識していない。認識することが、出来なくなっている。

 

(あぁ……ロキ、リヴェリア。この件は2人に任せていたけれど、もしかしたら君達が思っている以上に状況は悪くなっているのかもしれない)

 

皮肉にも。その変化に最初に気が付いたのは彼の隣に居た誰でもなく、偶然にそれを見つけてしまったフィンであった。

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