【完結】剣姫と恋仲になりたいんですけど、もう一周してもいいですか。   作:ねをんゆう

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39.見えて来た○○○

「一つ聞いてもいいか、ノア」

 

「はい?」

 

「どうしてお前達は、当たり前のように階層主のウダイオスに単独で挑もうとするんだ……?」

 

「……1番手っ取り早くて、分かり易いので」

 

「いや、だからと言ってだな……」

 

 

 

「本当に倒す奴があるか」

 

 

まあ実際のところ、それは死闘であったのだけれども。

リヴェリアの膝の上で眠るアイズは、それはもう頑張った。それは単純に戦闘に関してだけではなくて、戦闘に向けての準備についても。本当によく頑張った。だからこそリヴェリアも認めたし、今日はこうして大人しく見守っていた。ノアもまた、手を出すことなくハラハラとしながらも最後まで信じて見つめていた。

 

……ウダイオスに単独で挑んだ者というのは、実はそれほど多くはない。ゼウスとヘラのファミリアに関してはさておき、近年では恐らくノアくらいしか居ないだろう。猛者オッタルが挑むのはもう少し先の話だ。しかしだからこそ、今回のアイズの挑戦には、そのノアの助言が非常に効果的だったと言える。

 

「それにしても、ウダイオスがあのような剣を持ち出すとは……」

 

「恐らく単独で挑んだ時にのみ起きる現象だと思われます。集団で挑むより難易度的には上がっているかと。……悲しいことに、私は一撃で気を失ってしまったので」

 

「当然と言えば当然か、事前情報が無ければあんなもの避けられないだろう」

 

「というか、アイズさんくらい速度があっても余波を受けてしまうくらいですし。大半の人間が即死すると思います。そうでなくともウダイオス自体の戦闘力も跳ね上がっているので」

 

「……取り敢えず、予め口の中に回復薬を含んだり仕込んでおくのは考え直せ。いや、有用ではあったんだが」

 

「飲んでよし、吹きかけてよし。手も使わないですし、手軽で、即効性もある。苦しくて吐き出してしまっても身体には掛かってくれるので、絶対無駄にならないんです。含んでいる時は詠唱出来ないことだけが残念なんですけど」

 

「考え直せ」

 

「はい」

 

まあそんな感じで、今回ノアはアイズによるウダイオス単独挑戦を前に、彼女と色々な策を練った。それまで培って来たソロ戦闘での知識と経験を元に、可能な限りアイズが勝てるように、2人で一緒になって頭を回した。

その結果、アイズは回復薬の劣化を早めてしまうが故に滅多に使われることのない鋼製の容器に入れた回復薬をたくさん持ち。魔法を詠唱する度にそれを口に含みながら、頬をパンパンにさせてウダイオスに挑むという少し間抜けな姿になってしまったけれど。しかし結果的にはそれでエアリアルの高速移動による身体の負荷が軽減され、痛みを堪えながらも最後まで大きな怪我もなく戦い抜けたのだから、十分な成果と言えるだろう。

 

「だがまあ何と言うか……娘の成長している姿というのは、なんとも言えない嬉しさがあるな」

 

「……?」

 

「いやな。以前のアイズであれば、こういう話を事前に相談することは無かっただろうからな。少なくとも赤髪の調教師に関する話など、自分の中に溜め込んで話してはくれなかったろう」

 

「そう、かもしれませんね……」

 

「正直に言えば、まあ割と私達ロキ・ファミリアは、お前という存在に相当に振り回されてはきたのだが」

 

「う"」

 

「しかしそれも、結果的には良い影響になって来ているのかもしれない。紆余曲折はあったが、少なくともアイズは成長している」

 

「……それなら、良かったです」

 

「お前達の仲も、よっぽどのことがなければこれから良好に進んでいくだろう。今日のアイズを見て、私はそう感じた」

 

「!」

 

「だからまあ、あとはこれから先のことだけだな」

 

「う"っ」

 

「あとはこれから先のことだけだな」

 

「な、なぜ2回も……」

 

まあ、当然と言えば当然というか。

今はともかく、これから先のことを考えると、本当にどうしてくれるんだと言うか。少なくともロキ・ファミリア的には、魂が半壊していようがなんだろうが、お前ほんと長生きしろよバカヤローくらいは言わざるを得ないというか。

 

「最悪の場合、お前を24時間体制でアミッドの元にぶち込むからな」

 

「24時間!?」

 

「それとレフィーヤのことも結論をどうするかはともかく、ちゃんと最後まで責任を持て。1番お前に振り回されて尽くして来たんだ、当然だな」

 

「う"ぐっ」

 

「さあ、まだまだお前には取るべき責任が山程ある。10年や20年で死ねると思うな、分かったな?」

 

「は、はいぃ……が、頑張りますぅ……」

 

「お前も良い加減に変な拘りは捨てて、泥水を啜れるようになれ。成長だ。言っておくが、お前が誰より精神的に成長していないからな。努力しろよ」

 

「うぅ……分かりました……」

 

とは言え、初めて会ったときと比べれば、それこそこのファミリアに来たばかりの頃と比べれば、最近は随分と狂気も抜けて人間らしくなって来たが。

それこそ段々と仮面が取れて、彼の素らしきものが出て来たというか。蘇って来たというか。恐らくこの弱々しい感じが生来の精神性だったのではないかというか。

 

……まあ、まだ油断出来ることはそれほど多くはないのだけれど。兎にも角にも、リヴェリアとしては悪い状況ではなかった。まあレフィーヤを最初にけしかけたのは自分達ではあるので、自分達にも取るべき責任というものは大いにあるのだが。そこはまあ当然、出来ることはするとも。リヴェリアも変な拘りは捨てて、可能な限り幸福な結論に導くように。努力くらいは続けていく。

 

 

 

……アイズがそうして偉業を果たした一方で、しかし多くの不審な出来事による将来への闇というものは、着実にその色を増している。

例えば彼らが18階層で蔓のようなモンスターに襲われていた一方で、ロキとベートもまたオラリオの地下水路で同様のモンスター達に襲われていた。そしてその後、男神デュオニュソスとその眷属フィルヴィスに出会い、そのモンスターが関連する一連の事件に何らかの神が関わっているということまで判明した。

 

「ってな訳でここに来たんやけど……ぶっちゃけ、あの食人花のモンスター。ギルドは関係しとるんか?」

 

「していない」

 

「ま、せやろな。正直そこは別に疑っとらんかったわ。仮に必要があって持ち込むにしても、あんな量を地下水路に持ってくる意味がないしな」

 

「要件を話せ」

 

「………」

 

「お前がここに来た主題はそれではない筈だ、ロキ。余計な建前は必要ない」

 

「……全部お見通しっちゅう訳か」

 

男神デュオニュソスから、食人花についてはギルドと創設神ウラノスが怪しいと聞かされていたロキ。故に一度探りを入れて来て欲しいとは言われていたが、実際のところ、ロキにとっては別にそれはそこまで重要なことではなかった。

何故なら既にノアの件で、ウラノスがこの都市の防衛に重きを置いていることには確信があったから。あのような危険なモンスターを地上に呼び込むようなイメージが、ロキの中ではどうしてもウラノスに対して重ね合わせることが出来なかった。何かしら必要な理由があったとしても、もう少し上手くやるだろう。どちらにしても怪物祭の日に暴れさせる必要など何処にもない。

……だから今日ここに来たのは、それを口実にした別件。ロキが多くを知るに連れて溜め込んでいた疑問を、疑惑の、答え合わせをするため。

 

「ほんなら、ノアの元主神様がこの食人花の騒動に関係しとる可能性は?未来で失敗した策をやり直すために時間を戻した可能性や」

 

「……それは無いと考えている」

 

「なんで言い切れる?」

 

「お前達の報告がその通りであるのなら、今日より3年も前に戻す必要性がない」

 

「そんなもん分からんやろ、そもそも……」

 

「ノア・ユニセラフの救済と食人花によるリヴィラの街への襲撃は、相反する事象だ」

 

「………」

 

「お前とて勘は働いているだろう」

 

「……確定させたかっただけや、この勘をな」

 

分かるとも。

ロキの中で浮かび上がっているその神は、どう足掻いてもノアのことしか考えていない。若しくはノアのことを大切に思っている人間くらいしか目に入っていない。フレイヤでもあるまいし、試練を与えるためなどと言ってノアに危険を差し向けるようなことをする様なイメージもない。……もちろん現状を見るに、ちょくちょく気になるところもあるが。

 

「それなら次や。これを見て、なんか分かるか?」

 

「これは……」

 

「うちのアキが持っとった、レフィーヤもこれと同じ神の力が宿っとる髪飾りを持っとった。ヘルメスに見せたら、間違いなく同郷の誰かや言うとったわ」

 

「……間違いない、テテュスの子か」

 

「なっ!誰か分かるんか!?」

 

「テテュスとオケアノスの子だ」

 

「だから!その誰やって話や!」

 

「テテュスとオケアノスの子は3000柱以上居る」

 

「全然アカンやんけ!!どんだけ子沢山やねん!!」

 

「そもそも我々の認識から消されている時点で、分かるはずもないことだ。……だが、情報は増えた」

 

「?」

 

「オケアノスの子は、その全てが水のニュンペー。下級の女神だ」

 

「……!花の女神やなくて、水の女神ってことか!?」

 

「花を探したところで見つからない訳だな」

 

つまりその女神が潜伏しているのは、水のある場所。恐らくは水の加護を受けて、その身を潜めていると考えられる。見つからないのも当然だ。大地と海洋、ある意味では相反した存在をその身に宿しているということなのだから。神々の世界でもそれほど多いことではない。

 

「それともう1つ……フレイヤから忠告を受けた。あの子の魂が今も何かの影響に晒されとるってな」

 

「………」

 

「何かわからんか?ウラノス」

 

「………」

 

……ああ分かるとも、その反応だけで。

確実にこの男神がそれについて何かを知っているということなど、容易く予想できる。むしろ彼自身も、それについては特に隠すつもりもないようで。だからロキは目を細める。……もしかすればこの男はそれを知っていながら、今日まで黙っていたのではないかと。そう思えてしまって。ロキの雰囲気は深く鋭く研ぎ澄まされる。

 

「話せや、全部」

 

「………」

 

「話せ」

 

「…………ロキ、お前は時間超越についてどこまで知っている」

 

「あん?……一般的なところまでや。全知言うても時の女神でもあるまいし、割とブラックボックスみたいなところあるしな。そもそも一回通したら権能の無いウチ等じゃ感知も出来ん」

 

「そうだ。出来るとするならば、それこそ時を管轄する神々くらいだろう」

 

「それで?それがどないしたんや」

 

神にも管轄というものがある。全知と言えど、知られては困ることもある。故に神が神に対し秘匿することは多く、時間に関することもその一部だ。時の仕組みは世界の秩序を保つためには容易く明かすことは出来ない。特に天界にいた時のロキのような神には、その情報の断片すらも与えたくないと言うのが当然の判断。

 

「前提として……仮に時間超越が生じたとしても、時を管轄する神々は動かない」

 

「!!」

 

「監視し、必要があれば対処する。故に今回も、天界からの干渉はなかった」

 

「…………なんで、そうなるんや」

 

「…………」

 

「おかしいやろ、仮にも管理者やろ!時間改変が起きて、黙って見とるだけが許されるはずない!!」

 

 

「…………」

 

 

 

 

「仮に時を巻き戻したとして、行き着く結果は変わらない」

 

 

 

「……!!」

 

 

それが結論だった。

 

 

「過程は変わる。微小な変化は当然にある。だがその終着点が大きく変わることはない」

 

「なん、で……」

 

「そうならないために、世界は自己修復的に変化を行うからだ。別時間からの干渉に対して世界そのものを変化させ、ズレを可能な限り修正する。世界そのものに備わっている、自己保全能力とでも言うべきか」

 

「まさか……まさか、それが……」

 

「そうだ。それこそが……"運命"と呼ばれているものだ」

 

故に、時の神々は動かない。

そもそも動く必要がないから。

動く必要がないように出来ているのだから。

そうして結局、どうせ変わらないのだから。

だからその情報を秘匿しておく意味がある。

 

「んな、アホなこと!!」

 

仮に時を巻き戻しても、その事実を知らなければ、単なる力の無駄遣いにしかならない。何も変えることも出来ずに終わってしまう。

そもそも時間への干渉など、時の女神でもない限り大量の力を消費する必要がある。しかし実際に運命を変えるには、時を巻き戻してから更にもう一度大量の神の力を消費して、今度は何らかの方法で運命そのものを変える必要がある。そしてその方法を考えた時に、ようやく時の神々は動き始めるのだ。普通に考えてもそれを実現するのは現実的ではなく、元より不可能だとすら言う言葉は何も間違っていない。

 

「だとしたら……だとしたら……!!」

 

「ノア・ユニセラフの死は避けられない」

 

「ふっざけんな!」

 

「世界は概ね元の状態に戻る。過程の変化はあれど、個人の心情の変化はあれど、死した子供は死に、生き残るべき者は生き残る。起きるべき争いは起き、生まれるべき英雄は生まれる……当初は別に計画がある可能性を警戒していたが。現状を見る限り、相手は本当にその事実を知らなかったと見るのが妥当だ」

 

「……っ!!」

 

「ノア・ユニセラフは死ぬ。だが魂は下界の範囲外の話だ、砕け散ることを避けることも出来ない。……あくまで修正されるのは、時間改変が行われた時点までの下界のみ。未来での転生は考慮されない」

 

ロキは下唇を噛みながら、キッと目の前の老神を睨み付ける。ウラノスに当たってどうこう出来る問題でもない。そんなことは知っている。だが淡々とそう話す目の前の老神が、今は気に食わなくて仕方がない。

 

……だってそれでは。

 

そもそもノアは、最初からチャンスなど与えられていなかったということになる。

 

与えられた3年間はアイズの隣に立つための準備期間ではなく、彼の人生の延長戦だったということだ。巻き戻っているのだから、延長戦とすらも言えないかもしれない。

……だとしたら、だとしたら彼は何のために、今日まで努力して来たというのか。決して叶わない願いのために、今日まで彼は苦しみに耐えながら生きて来たとでもいうのか。ようやく報われて来た最近も、仮初のものでしかないとでもいうのか。

 

「……可能性は、ほんまにないんか」

 

「……本来、子供達には運命を打破る可能性がある。そうして切り開かれた未来であれば、我々も容易く修正することはしない」

 

「そんなら……!!」

 

「だが、ノア・ユニセラフにその素質はない」

 

「っ」

 

「力不足だ」

 

彼にその素質はない。

運命を打破るには、意志だけでは決して足りない。生まれ持っての素質が必要だ。そうでなければ奇跡はあちこちで起きていることだろう。それが起きないからこそ、奇跡と呼ばれるのだ。世界の修復力を打破る、それは決して容易いことではない。そんな素質があるような人間は、それこそ英雄と呼ばれるべき存在であって。

 

「そんなら……あの子の魂が受けとる影響ってのは」

 

「世界の修正力、運命によるもの」

 

「……他の子供なら、どうにか出来るんやないんか」

 

「可能性は否定しない。だが、どのような奇跡を起こせば魂そのものを解放出来る。この世界において、ノア・ユニセラフの魂だけが未来の物だ。故により強い修正を受け続けている。それをどうにかする術が、本当にあるのか?」

 

「…………」

 

「仮にそれをどうにかしたところで、別の要因によって彼は命を落とす可能性が高い。……死の運命を覆すというのは、それほどに難しい」

 

その時、ロキは悟った。

ウラノスの考えは間違いであり、実際にはその黒幕の女神は最初からこのことを知っていたのではないかと。だからこそ、彼の恩恵には"不死"という異様なスキルが浮かび上がったのではないかと。

たとえどんな理不尽があろうとも、アイズのことを想う限りは死ぬことはない。その状態で3年、もしくはそれ以上、少なくとも運命の日まで生き延びていれば、計画は完成していたのではないかと。……だがその計画を台無しにしてしまったのは、他でもない。

 

「既に時間改変を行った神に手が無いと分かった以上、この件に関して私から干渉することはない。世界はただ元の姿へと戻る」

 

「………」

 

「観測しない限り、未来は確定しない。だが確定してしまった未来を変えることは不可能に近い。諦めろ、ロキ」

 

「………喧しいわ、クソジジイ」

 

今の今までそんなことを黙っていた老神にも、それを話せるような神ではなかった自分にも、どちらにだって腹が立つ。ヘルメスはこのことを知っていたのだろうか、それともヘルメスにすらも話してはいなかったのだろうか。……そのどちらにしても。

 

(究極、うちがこの場で死ねば多少なりとも未来は変わる。未来を変えること自体は出来るはずなんや。……せやけど、そのためには未来に関する情報が足りん。何をどうやって変えたらええんか、どういう方法で変える必要があるのか、そこから考える必要がある)

 

ノアが死ぬ未来は確定している。

ならばそれをどうしたらズラすことが出来るのか。修正にかこつけて魂を締め付けるという方法で殺そうとしてきている状況に対し、どのような方法で打破すればいいというのか。……少なくとも最低条件として、未来から来たノアの魂を修正しようとする力を止めなければならない。

 

そのためには……




これで全部です。
ちゃんと支払って貰います。
ずるいことをした代償は。

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