【完結】剣姫と恋仲になりたいんですけど、もう一周してもいいですか。   作:ねをんゆう

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43.一筋の○

結局、そうしてノアがアイズを見つけたのは、その直ぐ下の10階層に来たところだった。何かを悩んでいるような顔をしてポツンとそこに佇み、ジッと虚空の1点を見つめている彼女。そんな珍しく不思議な様子をした、妙に神妙なアイズの姿。

 

「アイズさん」

 

「!……ノア」

 

「お疲れ様です。彼は無事でしたよ、ありがとうございました」

 

「ううん……そっか、急いでたみたいだから」

 

「アイズさんに感謝を伝えて欲しいと、そう言われています」

 

「……うん、ありがとう」

 

「いえ、それより……」

 

ノアを見つけると同時に小走りで走り寄って来た彼女は、なんとなく申し訳なさそうで、けれどなんとなく心配そうな顔をして、モジモジとしながら彼の話を聞く。

もちろんそんな彼女の様子に気付かないノアでもなく、ノアは俯く彼女に目線を合わせるように少し姿勢を屈ませながら、話を聞く姿勢を作った。

 

「なんでも話して下さい。私は何があってもアイズさんを助けますよ」

 

「!……ありがとう、すごく嬉しい」

 

「約束ですから、大切な」

 

さて、今回はどんな厄介ごとに彼女は巻き込まれてしまったのか。しかしそれがどのような内容であったとしても、ノアがそれを断る筈がない。彼女を助け、彼女の側にいると誓ったのだから。彼女が求めることなら、嫌な顔ひとつせず受け入れる。そして着いていくとも。そのためにつけた力だ。

 

「あの、ね……」

 

そしてアイズは話し始めた。

この階層に現れた不審な人物、そして頼まれた24階層で発生したモンスターの大量発生の鎮圧の依頼。この依頼が以前にリヴィラの街に現れた赤髪の調教師や、宝玉に関係している可能性が高いということ。……そんなことを聞かされてしまったら、アイズに断ることなど絶対に出来ないということまで。

 

「分かりました、私も行きましょう」

 

「ありがとう……その、ノアも来てくれるって、勝手に伝言もしちゃったから……」

 

「私のことを信じてくれたんですね」

 

「……うん、ありがとう」

 

「いえ、むしろ私の方こそ嬉しいんです。アイズさんが信じてくれたのが」

 

人によっては傲慢とも言うかもしれないが、ノアなら絶対に着いてきてくれるという確信を持ってくれているというのは、ノアにとっては何より嬉しいアイズの変化だろう。

それに、そうしてノアが言葉を返すと、アイズは嬉しげに笑顔を見せて、彼の手を取る。こうして自然と彼の手を取ることが出来るようになったのも、ある意味で彼に甘えて、それを当然のことではないと自分を戒めるようになったのも、間違いのない彼女の成長である。

 

「……ねえノア、どんなお礼が欲しい?」

 

「へ?」

 

「今回のお礼」

 

「い、いえ!そんなお礼なんて……」

 

「貰って」

 

「っ……そ、そういうことであれば」

 

「何が欲しい?」

 

「そ、そう言われるとその……う〜ん、私も困ってしまうといいますか……」

 

「…………」

 

 

 

 

「………キス、する?」

 

 

 

「ぶふっ」

 

 

「頬に、とか……」

 

「そ、そそ、そうですよね!そうですけど……いや!それでも十分に嬉しいんですけど!!」

 

「じゃあ、これが終わったら……約束」

 

「は、はい………あ、あの。ありがとう、ございます」

 

「ふふ、お礼なのに」

 

「そ、そそ、そうかもしれませんけど……!」

 

そうであったとしても。

いや、だって、ほら。まさかそんな、ここまで来ることが出来ていたなんて。あのアイズ・ヴァレンシュタインが、たとえ頬にであったとしても、他人にキスをしようとしているのだから。これがどれほどの偉業か分かるか、これがどれほど大きな変化であるのか分かるか。彼女が自分のキスが相手のご褒美になると認識しているのだ、もうこれだけでウダイオスを倒すよりよっぽど凄い。

 

(ああ、これ今日でわたし死んだりしませんよね……)

 

ただまあ、ノアがそういうことを思うのはあまりにも縁起が悪い。

 

 

 

ノアとアイズがそうして24階層に向かおうとしている頃、本拠地ではロキとリヴェリアが話し合っていた。話題はそう、ロキがノアの部屋から持ってきていた"とあるノート"について。

 

「こ、れは……」

 

「せや、ノアがメモしとった未来の出来事についてや」

 

「……これは、本当に3年程度の代物なのか?あまりに劣化が酷い気がするが」

 

「ま、なるべく自然に情報消すにはこうするしかないやろうしな。内容的にもこれ2冊目か3冊目やろ」

 

「……これを知っても、問題はないのか?」

 

「それが怖かったから、ノアは何も言わんかったんやと思うで。……自分も一回怖い目見たんやろ。誰にも自分からは言わんかったんやから、それこそレフィーヤにもリヴェリアにも」

 

「………」

 

本来知るべきではない、存在しないはずの記憶。多少の物理法則を捻じ曲げてまでも異様な劣化をさせるほどに、この世界が存在を抹消しようとしている情報。

……その情報の根源とも言える彼は、果たしてどのような体験をしたのだろう。今目の前にあるこれを読むことにすらも抵抗があるリヴェリアは、それを想像することすらも恐ろしい。

 

「せやけど、ノアを救う手段があるとしたらここしかない」

 

「!」

 

「そもそも、このノートをノアから奪うことがウチのそもそもの目的やったんや。……世界による修正。その対象が前のノアの意識や記憶やとしたら、それを維持しとるのは間違いなくコレやからな」

 

「……だがそれは」

 

「ああ。ここの内容を知ったら、巻き添え食らう可能性はあるかもしれん。……せやから、こうする」

 

「?」

 

ロキはペンを取り出すと、その劣化したノートの何も書かれていない表題のところに何かを書き始めた。いきなり始まったロキの奇行にリヴェリアは眉を顰めるが、しかしここでふざけるほどロキも常識が無いわけではない。

 

「妄想ノート……?」

 

「あんな、必要なのは結局のところ建前や。これを単なる妄想を綴ったノートってことにしとけば、修正力は弱まる」

 

「……ふざけて、いないのだな?」

 

「当然、こんなもんで全部どうにかなるほど生優しいもんやない。せやけど、状態をちっとばかし維持する程度ならこれだけで十分やろ。実際、妄想の可能性も無いこともないしな」

 

「……だが、ノアの行動も以前とは違っているのだろう?そこに私達までこれを見たら、建前はどうあれ、どうやったって未来は変わってしまうと思うのだが」

 

「過去に遡った時点と、概ね同じなら問題ないねん。……つまり、最終的に生きとる人間と死んどる人間が同じようになるくらいの調整がされる。そこに至るまでの過程はどうでもええんや、着地点が同じならな」

 

「正直、そこがあまり理解出来ない」

 

「ま、こればっかりは時の女神共が自分等の仕事減らすために作った仕組みやろうからな。簡単に、時間を遡っても着地点は殆ど何も変わらないって思えばええ。そら1度目と2度目でより将来的な未来は変わるかもしれんけど、それはまだ誰にも観測されとらんからな。ぶっちゃけ時の管理上はどうでもいい。観測されとらんから、どうとでも言い訳が出来る」

 

「……であるならば、やはりノアの死を回避する方法は無いのではないのか?ノアが死んだ後の私達の未来は変わるかもしれないが」

 

「……さっき言うたやろ?建前が必要やって」

 

「!」

 

「着地点に戻って来た時に表向きは死んどっても、『実はこういう理由があって生きてました』って後から納得出来るような形にすれば問題ないと思うんよ。……これはあくまでウチの予想やけどな」

 

「……問題は人の生き死にではなく、その時点の状況に矛盾がないかどうか。ということか?」

 

「そうやといいな、って。まだ思っとる程度や」

 

恐らく運命という名の感情はあるとは言え、過程はある程度どうにでもなる。どうにもならないのは最後の着地点だけ。だが表面上だけでも結論を再現すれば、それで時の神々を納得させることは出来るのではないか。……実際にノアが死んでいなくとも、全ての者がノアが死んだと思い込んでいれば、世界を騙すことは出来るのではないか?

ロキはそう考えたのだ。

それは時の権能など持ってもいないロキの願望も伴った予想ではあったけれど、他にどれだけ考えてもこれ以外にノアを生かす方法が無かった。もし実際に人間の生き死にがカウントされるような仕様があったのなら、これからロキがしようとしていることは完全に無駄になる。それを確信する方策はない。オラリオに居る時の女神達も、それだけは教えてはくれないだろう。……つまり、これは大きな賭けになる。

 

「せやからリヴェリア、これを見るのはウチだけや」

 

「っ!?どういうことだ!!」

 

「この中身を見るのはウチだけや。リヴェリアには、ウチがこれを読んだってことだけ知っといて欲しい」

 

「……つまり、これから先のお前の行動に理解を示せと。そういうことか?」

 

「ま、こればっかりはな。神がやった方がええやろ」

 

「分かっているのか?お前にもしものことがあれば……」

 

「そうならんようには意識するつもりや。……せやけどな、リヴェリア」

 

「?」

 

「……仮にこのままノアを死なせたら、遅かれ早かれファミリアは止まるで」

 

「っ!?」

 

それは神ロキとしての勘。

そして今日まで自分のファミリアを見てきたからこそ、多くの抗争を体験してきたからこそ、経験と知識も含めてその結論を出した。これから起こり得る何かを含めて、予測した。

 

「アイズもレフィーヤも、機能せんくなる。アイズは時間を掛ければ立て直せるかもしれんけど、レフィーヤは絶対無理や。……これから先のことを考えると、2人の存在は間違いなく必要不可欠になる」

 

「………それは」

 

「ま、その辺もこれを読めば分かるんやろうけどな……はぁ、こんな嫌なドキドキ久しぶりやわ」

 

そうして、早速ロキはそのノートを開いて読み始めた。リヴェリアはただその様子を見守るだけ。何か起きても困る、しかし起きたとして何も出来る気がしない。そんな複雑な気持ちで座っているしか出来ない自分が、なんとももどかしくて……

 

 

 

「…………………………………ぁぁぁぁぁぁあああ」

 

 

「ど、どうした?まだ読み始めたばかりだろう」

 

「……すまんリヴェリア、これウチ後で読むわ」

 

「な、何があった?」

 

「……心がキツすぎる」

 

「あぁ……」

 

その一言だけで、リヴェリアもなんとなく察した。それはまあ、本当にそこにただ情報だけが書いてあるなんて思っていなかったけれど。

……ロキの想像が本当なら、もう2冊目か3冊目のそれ。書き直して、書き直して、ふと気付けば自分の記憶からも消えていることが多くて。だからこそ覚えているうちに全てを書こうと、そう思ったであろう。

分かるだろう。

いくら未来のことをメモするためとは言え、それだけのためにこんなノート一冊を丸々と使うほどに書くことがあるか。何かが起きる、程度の内容ではない。……全て、全てが記録してあるのだ。当時の彼の気持ち、それを思い出している彼の気持ち、それを踏まえてこれからどうすべきかという自身への反省と叱咤。

 

「……こないなもん、読ませられるか」

 

ロキは心から称賛した。この全てを自分だけで完結させることにした、数分前の自分の英断を。

 

 

 

 

 

 

ノアのノート(一部抜粋)

 

日付:覚えていない(遠征の日、怪物祭より後)

場所:ダンジョン上層

内容:ベル・クラネルがLv.1でミノタウロスを倒す。Lv.2になった直接の偉業。

詳細:彼については以前から聞いていたし、アイズさんに助けて貰ったとか、アイズさんが稽古を付けていたとか、アイズさんが何処かで膝枕をしていたとか、そういう話も聞いていた。しかしそれまでは何処か『所詮は新人冒険者』という油断が心の中にあった。実際に彼の戦う姿を目の前で見て、能力値オールSという異常を見せつけられ、そんな彼の背中に手を伸ばすアイズさんを見て、漸くその時になって悟った。彼こそが自分にとって最大の難敵なのだと。……それとこの時に僕のLv.2への最短記録も消滅した。僕の打ち立てた唯一と言ってもいい他の人より優れた偉業は、彼によって塗り潰された。

僕の特別は無くなった。

僕が誰かに誇れる物はなくなった。

……最初から彼は特別で、僕は特別では無かったけれど。

 

日付:この時の遠征

場所:ダンジョン50階層

内容:フィン団長達がボロボロになって帰って来た

詳細:59階層に仕掛けたアイズさん達が、何かとんでもないものと遭遇したらしい(精霊?って言っていたような)。いつも通り僕は50階層で留守番、2軍とは言え末端のLv.3なので仕方がない。……仕方がないが、やはりLv.4にならなければ認められないし、彼女の隣にも立てないのかもしれない。ステイタス的には十分、あとは偉業だけだった。

なので今回は絶対に最低でもLv.4以上にはならなければならない、レフィーヤさんのように魔法の才能が無いのであれば絶対だ。剣の才能も魔法の才能もない僕は、とにかくステイタスを上げる以外に伸び幅がない。大丈夫、レベルを上げることは比較的得意な筈だ。今回は不死のスキルだってある。ベル・クラネルのことを考えると、そしてアイズさんと対等になることを考えると、Lv.5でも物足りない。足りないものはとにかく時間を掛けて埋めるしかない。痛くて苦しい思いをするだけで、あの人に追い付けるというのなら。きっと才能のない僕にとっては、それはあまりにも安いものだから。次こそはこの遠征の時に、僕もアイズさんの隣に居られるように。

 

日付:(ページ全体にバツ印が書かれている)

場所:

内容:

詳細:才能がない。才能がない。才能がない。才能がない。才能がない。才能がない。才能がない。才能がない。才能がない。才能がない。才能がない。ステイタスの伸びが悪過ぎる、あと2ヶ月以内にLv.3にならないといけないのに。こんな物を書いている場合でもない、地上に戻っていられる暇もない、店探しや容姿の勉強をしていられる時間もない。これだけ戦闘を重ねているのに自分が成長している気が全くしない。ベル・クラネルのように自分より格上の存在に勝てる気が全くしない。剣も魔法もスキルも何もかもが自分の才能のなさを自覚させに来る。ベル・クラネルが特殊なスキルでレベルを上げていると前の時にリヴェリアさんが予想していたのを聞いたことがあるが、それでもステイタスだけでミノタウロスに勝てる訳がない。単純な剣技で僕はあの時の彼に勝てる気がしない。時間がない、時間がない、時間がない。どうして僕には、私には、こんなにも何もないのか。そもそもこれはこんなことを書くためのノートではないのに。

 

日付:遠征より後

場所:ダンジョンではない地下迷宮

内容:何かに襲われて、死んだ。

何に襲われたのかはもう覚えていないが、ダンジョン以外の地下迷宮がこのオラリオにはある。私はそこで調査中に殺された。確かリーネさんは助けることが出来たと思う、正直記憶も薄いどころか、意識も殆どなかったので覚えていないことの方が多い。ただ闇派閥の残党が関係しているのは覚えている。何人があの時の調査で亡くなったのか、あの後のロキ・ファミリアはどうなったのか。……私の死で、誰かは悲しんでくれたのだろうか。団員の一員としても認められていなかった未熟者だ、そこまで求めるのは烏滸がましいにも程があるのかもしれない。だから今回は、ロキ様に『将来性を見込んで合格』なんて言われないように努力をしないと。大丈夫。Lv.6になることが出来たら、きっと受け入れて貰える筈だから。容姿も、心も、しっかりと綺麗に直して。今度こそ、ちゃんとファミリアの一員になりたい。

 

 

目標

・Lv.6になる。

・ロキ・ファミリアに入る。

・リヴェリアさんの信頼を得る。

・ロキ様に団員の1人として認めて貰う。

・容姿を改善する。

・もっと綺麗な心になる。

・アイズさんと対等になる。

・アイズさんに認められる。

・アイズさんと恋仲になる。

 

 

 

 

 

早く楽になりたい

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