【完結】剣姫と恋仲になりたいんですけど、もう一周してもいいですか。 作:ねをんゆう
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
すごい、なんだかすごい視線を感じている。
「……………」
これから1ヶ月、取り敢えずダンジョンに潜るのは禁止だと言われた。
それはダンジョンに行く癖を治すためだとか、一先ず苦痛に塗れた生活から抜け出すためだとか言われたけれど、やっぱり今の自分ではいくら約束しても一度ダンジョンに踏み入れば直ぐに焦りによって以前のような無茶をしてしまうと見抜かれていたからに違いない。
自分でもそう思うし、その姿が簡単に想像出来てしまったので、今は取り敢えず図書室の中で本を片っ端から読んでいた。
この図書室にある本は前の生の時からよく読んでいたけれど、記憶が薄くなった今では、改めて読み返しながら「ああ、こんな内容だったなぁ」と思い出すような形になっている。それに題名に関係なく中身を読んでみれば、とてもためになるものも沢山あって、暇な時間に対する焦りを誤魔化しながらも同時に楽しんでいる自分が居たことにも気付いた。これもまたリヴェリアさんの策なのだとしたら、拍手を送る以外に他にない。
(……いや、それより)
そう、それより。
それより大切なことが、今隣にある。
それより大切な人が、今隣にいる。
「あ、あの……?」
「?」
「その、そんなに見られてしまうと……私も少し気恥ずかしいと言いますか」
「駄目だった……?」
「いえ!そんなことは!?……もしよろしければ、少しお話ししませんか?」
「!……うん、したい」
………どうしよう。
泣きそうなくらい嬉しい。
アイズさんが積極的に話そうとしてくれる。
というか興味を持ってくれている。
果たしてこれ以上に嬉しいことが世の中にあるだろうか。
それになにより、今のアイズさんは自分のことを弟や妹のように見ていない。対等な目線で見て貰えている。それが何より嬉しい。自分の努力は身を結んだのだ。間違っていなかったのだ。
油断すれば涙が出そうになってしまうが、今はそれも努力して飲み込む。このくらいの努力なら容易いものだ。それまでのものに比べれば、何倍も。
「ええと、私の名前は分かりますか?」
「うん、ノアだよね」
「!そ、そうです。私もあなたのことは知っていますよ、アイズさん」
「そう、ありがとう」
「はい」
なんとなくぎこちない会話。
けれどアイズさんはきっと、何か私に聞きたいことがあるのだろう。そうでもなければ、あんなに露骨な目線を向けて来たりしない。だから私は待ってみる。話を聞く姿勢を見てわかるように作りながら。
「………あの、ね」
「はい、何でも聞いてください」
「……どうやってそんなに早く、強くなったの?」
「!」
なるほど、確かにアイズさんならそれを知りたがるだろう。あれだけ強くなろうと努力していた人だ。ここまで一気にレベルを上げた自分を見れば、その方法について聞きたがるのも無理はない。…‥しかし、流石にあの方法は話せない。普通に気持ち悪がられてしまうだろうから。となるとここは無難に。
「……必死にダンジョンに潜ってました。私がしたのはただそれだけです」
「それだけ……?」
「ええ、本当に。……毎日毎日潜ってました、寝泊まりすらして。その結果がこれです」
「寝泊まり……」
「ヘルメス様にも忠告を受けましたし、リヴェリアさんやロキ様にもたくさんお叱りを受けました。なので今は1ヶ月間、こうして謹慎を受けているんです」
嘘はついていない。
ただこのやり方をアイズさんにはして欲しくないという心配事はあるけれど。私はこのスキルがあったからこそ出来ただけだ、無かったらそんな無茶は出来なかった。最初にダンジョンに入った日の夜に死んでいた。ダンジョン内で単独で寝泊まりするというのは、それほどに危険なことなのだ。アイズさんには絶対にして欲しくない。
「……どうして?」
「え?」
「どうしてそんなに、強くなりたいの?……嫌いな人とか、モンスターとかが居るの?」
けれどどうやらアイズさんの興味は、そっちにあったらしい。強くなる方法ではなく、強くなりたい理由。……そんなのはただ1つ、僕はこのためだけに努力して来た。
「隣に立ちたい人が居るんです」
「隣に立ちたい、人?」
「はい、追い付きたい人が居るんです。助けてあげたい人が居るんです。……ずっと隣で歩いていきたい、そう思った人が居るんです」
「……そのために、そんなに頑張ったの?」
「はい、そのためだけに頑張りました」
「それって、誰のこと……?ロキ・ファミリアの中に居るんだよね。リヴェリア?それともフィン?」
「アイズさんです」
「え……」
「ちゃんと言葉にして言っておかないと、きっと変に誤解されてしまうと思うので最初に釘を刺しておきますけど。アイズさんです。私はアイズさんの隣に立つために努力してここまで来ました」
「…………………え」
驚いたように呆然とするアイズさん。
私だって表情には出していないけれど胸の内がバクバクと高鳴っている。
けれど知っているから。ここでちゃんと言っておかないと、アイズさんは私がリヴェリアさんのためにここに来たと勘違いしてしまうような人だ。なんだったら僕の性別を忘れてベートさんやフィンさんに恋をしてここに来たと思ってしまうくらいだ。
だからここは変に誤魔化すより、引かれてしまう可能性を込みにしても釘を刺しておかなければいけない。そうして意識して貰わなければならない。なにせ時間がないのだから、何より私のことを見て貰わないといけない。私のことを考えて貰わないといけない。
「その……ごめんね、少しびっくりしちゃった」
「いえ、当然の反応だと思います」
「私達、まだ3回くらいしか会ってないよね……?」
「そうですね、でもそれより昔に一度ダンジョンの中で助けて貰ったことがあるんですよ。多分アイズさんは覚えていないような話なんですけど」
「………うん。ごめん、覚えてない」
「ふふ、大丈夫ですよ。ただ、それからアイズさんに憧れて。まあその、その後も色々とあって……はい、アイズさんの隣に立てるようになりたいって思ったんです」
「……それだけ?それだけのために、こんなに頑張ったの?」
「色々とお話し出来ないこともありますし、多分アイズさんからしたら"それだけのために?"って思うかもしれないんですけど。私にとってはそれは、これだけの努力をする価値のあるものだったんです。だって凡人の私がアイズさんの隣に立つんですよ?そんなの、アイズさん以上に努力する以外にないじゃないですか」
「………」
多分、これが今彼女に明かせる全部だ。
私が本気でアイズさんを目的にしてここに来たことと、本気でアイズさんの隣に立ちたいと思っているという意思表示。これ以上は今は明かすべきではない。この情報からアイズさんが何処まで私のことを考えて理解してくれるかは分からないが、少しでも興味を惹ける存在として認知して欲しい。
「……私のことを、助けてくれるの?」
「もちろん、私の努力は全部そのためのものですから」
「でも私、何も返せないよ」
「私のことをアイズさんが受け入れてくれるだけで十分です。私が隣に立つことをアイズさんが許してくれれば、それだけで」
「………よく、分かんないかも」
「いいんです、今はただそれだけを覚えておいてください。そしてよければ私のこともたくさん知って欲しいです。……だから手始めに」
「?」
「お友達から始めませんか?」
これは断言してもいいことだけれど、間違いなくアイズさんは私のこの想いが恋であるとは気付いていない。想像してもその可能性を信じることはないだろうし、きっと私のことも所謂ファンの1人としか思っていないはずだ。
だからこそ、それがチャンスにもなる。結局は信頼し合える仲を築いて、そこから始めていかなければならないのだから。私は彼のように一目でアイズさんの目を惹けるような人間ではない。だからそれ以外のことで惹き続けなければならない。それ以外のことで、興味を持って貰わなければならない。
「………ノアは」
「はい?」
「男の人、なんだよね?」
「っ、そうですね。私は男性です」
「ノアは………私のこと、好きなの……?」
「…………」
……………。
……………?
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ごめん、ちょっと待って。
ちょっと待って。
ちょ、ちょっと待って。
ちょっと待って!?
聞いてない!
聞いてない聞いてない!
この展開は聞いてない!!
なんか、なんかアイズさんが!すごい察しがいい!!察しが良過ぎて事前に立ててた話の計画が全部破綻した!ここから少しずつ積み立てていくつもりだったのに、なんか一気に窮地に立たされた!?というかこれでもかなり迫った方なのに!アイズさんがそれを全部飛び超えて来た!?いや、アイズさんならここは「なんでだろう?」くらいの認識だと思ってたのに!?僕の考えが甘かったのか!?
お、落ち着こう。
し、深呼吸だ。
ここで一番不味いのは、その言葉を否定してしまった時。それは自分で自分の芽を抜く行為だ。ここは一時的に振られてしまう可能性を受け入れてでも素直な気持ちを伝える時。正直自分の精神がもつかは分からないが、しかし勇気を持ってやるしかない。
「……はい、私はアイズさんのことが好きです。アイズさんと共になら、どんな地獄にでもついて行けるくらいに」
「……ありがとう、嬉しい」
ゔっ(心肺停止)
その笑みを向けて貰えただけで、もう人生の半分くらいが報われた気がする。アンフィス・バエナのお腹の中で自分の身体の肉すら食い千切りながら発狂したりもしたけれど、5体のヘル・ハウンドに囲まれて全身の皮膚が爛れるくらいの火炎地獄に2日間囚われて全部裏返って憎悪に染まりそうにもなったりしたけれど、生きていて良かったと、頑張って良かったと、今なら心の底からそう思える。
「でも……ごめん、私そういうのよく分からなくて……」
「分からなくても大丈夫です。アイズさんに余裕が出来た時にでも考えて貰えれば。……だからまずは、友人として」
「………うん、それなら分かるかも」
「安心して下さい。アイズさんがたとえ何処まで遠くに行ってしまっても、私は死んでも追い付きますから。……まあ、死なないんですけど」
「?」
完璧に返すことが出来た。
よくやった自分。
そしてやっぱり生きていて良かった、最高だ。
それからは、2人で話をすることに集中した。
勉強なんかいつでも出来る。
というか、勉強なんかよりこっちの方が何百倍も何千倍も大切なことなのだから、そんなことは当然だ。
それに………楽しかった。
楽しかったなんて、本当に久しぶりに感じた感覚だった。嬉しい、幸せだなんて、本当に久しぶりに頭に浮かんだ言葉だった。
自分の心なんてとうの昔に疲弊して薄まってしまったのではないかと思っていたけれど、彼女とこうして話している間は本当に小さな子供みたいに一喜一憂していた。けれどそれがたまらなく楽しいのだ。
アイズさんと会話をして、アイズさんが笑ってくれて、アイズさんが私のことを見てくれる。ただそれだけなのに、世界の色まで変わったように見える。
……あと一年だ。
あと一年。
その間になんとしてでも、彼より、先に……
最近、アイズさんとすごく仲良くしている人がいる。
その人は私がこのファミリアに入って1年と少しが経った頃に急に入って来て、あのアイズ・ヴァレンシュタインさんと急に仲良くなった。
それだけならまだしも、あの人はリヴェリア様とも仲良さげに話していて、しかもたった1年半でレベル2からレベル5まで登り上げた驚異的な記録を持っている。しかもしかも男だ。
もう何処からどう見ても女性にしか見えないのに、あの人は男の人なんだとリヴェリア様は仰っていた。
……正直、すごく羨ましい。
私だってこれでも2年かけてレベル3まで上げて、成長はそこまで遅くはない方だ。けれど未だにアイズさんやリヴェリア様の背中はすごく遠くて、懸命に手を伸ばしても届かないというのに。彼は自分と同じか、それより短い期間でアイズさんの横にああして立てるまでになったのだ。そんなの羨ましいに決まっている。
最初の1ヶ月は謹慎を受けているとかで拠点に居た彼は、ちょっと怖くなってしまうくらいに拠点内にある全ての本を読み漁っていて、『もしかしたらすごく勉強熱心で効率的にレベルを上げてきたのかな』なんて思ってしまったが、その謹慎が解けた直後に彼は今度は毎日のようにダンジョンに潜りにいくという、これまた極端な行動を取り始めた。その頻度は普通にアイズさんよりも頻繁で、時々アイズさんと一緒に潜りに行くこともあったけれど、やはり1人で潜りに行くことの方が多かった。そしてリヴェリア様やロキはそんな彼が帰ってくると何やら怒ったような呆れたような顔をして、妙に何かを問い詰めているような姿を見せていた。
……正直よく分からない。
そんな生活をしているので彼と仲の良い団員はそれなりに限られていて、リヴェリア様やアイズさんはともかく、他には積極的なティオナさんや2軍メンバーとして交流のあるアキさんくらいじゃないかと思う。当然ながら私も彼とは挨拶くらいしかしたことがなかった。
それでも彼に対する評判は全然良くて、『本人はすごくいい子だけどアイズよりダンジョンに潜りたがる困った子』という感じ。
『駄目に決まっているだろう!!』
そして、リヴェリア様のそんな怒鳴り声が彼の部屋から聞こえて来たのは、彼がファミリアに入ってから大凡半年が経った頃のことだった。あまり良くない行為だと分かりつつも、そんな珍しいことに興味を抑え切れず扉に耳を近付けてしまった私であったが、正直それは仕方のないことだったと思う。
「ウダイオスを単独で倒しに行くなど……何を考えている!そういうことは今後絶対にしないと約束したはずだ!!」
(え……ウダイオスを、単独で……?)
「ですがレベル6への昇華ともなると、現状それくらいしか方法が見当たりません。自分でも無茶を言っているのは分かっているんですが、他に方法が思い付かないんです。……なので、リヴェリアさんやフィンさん達が昇華した際の経験なんか聞けないかなと思って相談させて貰ったんですけど」
「………………無理だ、私達の時のそれはダンジョンとは関係のない抗争によって齎されたものだ。お前の参考にはならない」
「そうですか………しかしそうなると、本当に大量のモンスターと戦い続けるくらいしか方法が無いんです。それならウダイオス討伐の方がまだ現実的で」
「それは駄目だ!!……敵は死霊系モンスターの最高峰だ。お前の戦法は死霊系のモンスターとは特に相性が悪いだろう」
「……それは否定しません、摩耗のないモンスターは苦手です」
正直に言うと、言っている内容はよく分からないことの方が多い。けれど彼が既にステータス的にはレベル6になるに十分なほどになっているということと、そしてレベル6になるために何らかの偉業を成し遂げたいと思っているということだけは分かる。
しかしそれにしても、ウダイオスの単独討伐なんて、リヴェリア様の言う通り正気の沙汰とは思えない。レベル4以上の冒険者が束になってかからないと倒せないような敵だ、今のロキ・ファミリアでも苦戦を強いられるような相手。いくらなんでもそんなのと一対一なんて、現実的なんかじゃない。死んで当然なくらいの話。
「そこで暫く止めておくのは駄目なのか?それが今でなくてはいけない理由があるのか?」
「……正直に言うと、ここまでステイタスが上げれましたから、これ以上ダンジョンに潜るつもりはありません。それは単なる無駄ですから、そんなことに使える時間もありません」
「ならば」
「ですが、同じステイタスでも、スキルと魔法の差でアイズさんの方が強いんです。……であれば私は、ステイタスだけでもアイズさんより高くなくてはいけません」
「っ」
「対等に見てもらうことが第一条件なんです。そこに一切の妥協もすることは出来ません。彼女にも、自分にも、ほんの僅かな言い訳をしたくない。そんな余地は残したくない」
(っ……)
それは、こうして話を盗み聞きしているだけの自分の背中すらもゾクリと撫でるような何かを持った言葉だった。これまで女性にしか見えて来なかった彼の男性が見えたというか、それ以上に鈍い何かがあったというか。……それでも何より印象的だったのが、彼のここまでの努力は全てアイズさんと対等にあるためにしているものだということ。彼のことを何も知らない自分にとっては、それはあまりにも驚くべきことだった。
「………はあ、分かった。だが少し待て。私からロキやフィンにも相談してみる、もしかすれば何かしら方策があるかもしれない。それまでは絶対に行動には移すな、いいな?」
「分かりました。暫くはアイズさんの鍛錬を手伝おうと思います」
「そうしてくれ、その方が私も安心出来る。……というか、そっちの方はどうなんだ?むしろそっちの方が本命だろう」
「…………………………………ガードが硬いとか以前に。どうしてその辺りの教育はしてくれていなかったんですか、リヴェリアさん……」
「わ、私とてお前の話を聞いてからそういう話を読ませたりしたんだ!だがその、全然興味を持ってくれなくてだな……」
「あの時のアイズさんの反応はリヴェリアさんの仕業ですか!!」
「な、何の話だ!?」
「ありがとうございました!!」
「何を怒っているんだ!?感謝しているんじゃないのか!?」
「感謝してるんですけど凄くびっくりしたんです!!」
「お前はアイズのことになると途端に人間味が出てくるな!!」
「だってだって!本当にびっくりしたんですもん!」
(……………)
やんややんやと言い合う2人を後にして、私はトボトボと自分の部屋へと戻る。
あの人は、アイズさんのことが好きなんだ。
そしてそれはリヴェリア様も知っていて、少なくともリヴェリア様も応援している。
……なんだか変な気持ちだった。
確かにアイズさんはすごい人だ。カッコいいし、憧れる。だからそんなアイズさんのことを好きになる人が居てもおかしくないし、当たり前のことだ。
けれどそんなアイズさんの隣に立つために本気で頑張っている人の姿を見て、知って、自分がどれだけ甘い気持ちで『追い付きたい』なんて口にしていたのかと嫌悪感を持ってしまう。
同じ2年という月日でも彼と自分では成果に差があった。しかしそれはあまりにも当然の話で、単純にその努力の密度が違った。
少なくとも私は彼のように毎日朝から晩までダンジョンになんて潜りたくない。いくらアイズさんに追い付きたいと思っていても、そこまでしようとは思わない。それが彼と自分の違いであり、それこそが彼の本気の気持ちを表している。リヴェリア様が認めるのも当然だ。彼はそれに相応しい努力をしているのだから。
「……私は、何がしたいんだろう」
自分には彼のように強い思いはない。憧れもあるし、役割もある、期待もされている。けれどそれは彼のように必死になってなりふり構わず努力が出来るほどの理由にはなってくれない。
嫉妬はあるし、憧れもあるし、羨ましくもある。
「あれ、レフィーヤ……?」
「あ、アイズさん……」
「どうしたの?暗い顔して、体調が悪いの……?」
そんな風に歩いていたからだろうか。暗い顔をしていた私を見かけて、アイズさんが声をかけに来てくれた。
……正直、今はなんとなくアイズさんの顔が見難い。どんな顔をして話せばいいのかが分からない。いや、別にこれといってやましいことがあるわけではないのだけれど。
「あの……聞いてもいいですか?」
「え?うん、大丈夫だけど……」
「ノアさんって、どういう人なんですか……?」
「ノア?」
それを聞いてみた。
アイズさんから見た彼は、いったいどういう人なのかを。それを聞いたところで何がどうなるのかという話も別にないのだけれど、それでも。
「…………あのね。ノア、私のこと好きなんだって」
「はい……?」
「そう言ってた。……でも、私はそういう気持ちとかよく分からなくて。ノアの言う好きが、多分私がリヴェリア達に思ってるのとは違うってのは分かるんだけど……レフィーヤはどう思う?」
「え」
いや、どう思うと言われましても。
というかノアさんはもうアイズさんに告白してたんですか!?そっちの方がビックリなんですが!?
あとこれ私は何をどう答えればいいんですか!?恋とか愛とか、私だってまだそんなの経験したことがないんですが!!?
でもアイズさん凄く期待した顔で私のこと見て来るし、私も分かりませんなんて言える雰囲気じゃないし、質問したのに質問返されちゃったし!と、とりあえず何か言わないと!アイズさんを失望させないような、な、なんかそれっぽい無難な答えを……!!
「えと……わ、私も全然詳しくはないんですけど、やっぱりこう、胸がキュンキュンしたりとかするんじゃないですかね?こう、見ているだけでドキドキするというか、目を離せなくなってしまうというか……」
「キュンキュン、ドキドキ……目が離せない……」
どうしよう、すごい適当なこと言っちゃった。これもしかしたら私の解答一つでノアさんが振られちゃう可能性も出てくるんじゃ。
ど、どうしよう。そう考えるともっと慎重に答えないといけない解答だったんじゃないかって思えてくる。その辺の適当な男の人ならまだしも、アイズさんの隣に立つためにあれだけ頑張ってるノアさんが相手となると、重圧も罪悪感もとんでもない。
「……どうしよう。私、ノアにそういうの感じたことないかも……」
「あ、あ、あー!!でも私も全然恋とかしたことないので!ほんと!全然信用しないで下さいね!ほら!エルフってみんなそういうのに疎いっていうか!!」
「あ、でも、一回だけドキドキしたことはあるかも」
「えっ!?あるんですか!?」
「うん。ノアがね、私のことを助けたいって、ずっと隣に居たいから努力するって言ってくれた時……すごく嬉しくて、ドキドキした」
「へ、へ〜。そ、そうなんですね……」
なんだこの惚気は。
邪魔をしたら邪魔をしたで罪悪感がすごいのに、惚気られるとそれはそれで嫉妬がすごい。
それに、ノアさんってあんな女性にしか見えないのに、やっぱり男性なんだなぁって思わされる。正直自分もいつかはカッコいい男の人にそんなこと言われてみたい。……というか、よくよく考えればノアさんはエルフの女性にとっての理想なのではないだろうか?男性味を感じない容姿をしていて、真面目で、一途で。
……いや、やめよう。
この思考は下手したらアイズさんにもノアさんにも嫉妬する最悪の女が出来上がってしまうルートに行き着いてしまう気がする。今ここで断ち切っておくのが一番だ。引き際大事、絶対。
「私は、ノアのことが好きなのかな……?」
「えと、そういう物語とかを読んでみるのはどうですか?私みたいな素人に聞くより、そっちの方が確実だと思いますし」
「……やっぱり、読んだ方がいいのかな」
「それか……あ、ティオネさんに聞いてみるとかどうでしょう!やっぱりこういうのは先駆者に聞くのが一番と言いますか!」
「……!それいいかも!行こう、レフィーヤ」
「はい!………って、えぇ!?私もですか!?」
そうして私は、アイズさんに連れられてティオネさんの元へと連れて行かれた。そしてそれから夕方頃まで延々とティオネさんによる恋愛講座をアイズさんと一緒に聞かされることになってしまった。
ちなみに正直に言ってしまうと大半が団長に関することだったので、全然役に立たない知識ばかりだった気もするけれど……アイズさんが満足したような顔をしていたので良かったのかもしれない。