ゲーム「仁王2」の二次創作小説です。
短編1話完結。

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平安京討魔伝「大内裏地獄変」で合流する前の源頼光と安倍晴明です。


いまだ雷光を求めてる

 大内裏は広い。

 安倍晴明と源頼光は、崩れた外壁の奥に進み、庭園に出た。優雅な草花は見る影もない。霊石がそこかしこに現れ、不気味に光る。視界をさえぎるほどの妖気。頼光は奥歯を噛みしめた。

 討魔衆に加え、知己のある仲間も集めた。手分けして入り込んでいる。いずれも頼りになる妖怪退治の手練。大内裏にはびこるあやかしを次々と討ち取る。しかしその数は一向に減ろうとしない。

 庭園の妖怪を蹴散らす。造作もない。源頼光が振るう光の剣、ソハヤマルが、鳳凰と並び翔ける。安倍晴明は呪符から爆炎を放った。霊石だけが庭園に残る。晴明は通占の陰陽術で感覚を鋭敏化した。

「あやかししか見当たりません」

 周辺を探知する。大内裏の地下深くには、退魔の結界を生み出す霊石が眠っていた。外法により妖力の源となり、隆起して大内裏を破壊する。地形を変動させるほどの霊石が、荒魂を集め、妖怪を生み出す。

「より多くの鬼がいる方向は?」

 頼光が晴明に聞く。妖怪の集まる方に進んできた。霊石を支配する外法を追う。妖怪は足止め。その先にある外法が動き出そうとしている。ならば、あやかしを斬り続ければ近付ける。

 雷雲を思わせる、黒い風が吹き抜けた。晴明は術を解く。ひときわ強い妖気を帯びて、立ち並ぶ霊石を通り、庭園に姿を現した。寸前まで感じ取れなかった大きな気配。

「見つけました。いえ、私達が見つけられたのでしょうか」

「待ちわびた、ぞ」

 蘆屋道満。かつて平安京を去り、行方は知られていない。羅生門に火の手を上げて舞い戻る。霊石の力で大内裏を支配した。平安京一帯に動乱が広がる、その元凶。外法の陰陽師。

 

 ソハヤマルを握り直す。頼光ならば一息で届く間合い。道満を斬れば災厄は終息する。抜き身の殺意と輝く刀身。道満は頼光を見た。焼けただれた顔と、全身の傷跡が、歪んだ陰陽術を物語る。

「再会する日が来るとは思っていました」

 晴明が口を開く。

「ならば……この場も必然と言えます。しかし道満。貴方はなんのために、平安京を荒魂で満たそうとしているのです」

「もうすぐ完成する。大内裏の霊石は知っていよう。余が霊石を使い、現世と常世をつなげる。大内裏は黄泉への入口となる。とくと見るがよいわ」

「外法の極みになにがあるというのか。貴方の陰陽術が追い求めた先は、あまりにも混沌、そして空虚だ」

「陰陽に終わりはない。永遠に混ざり合う陰と陽。混沌こそが陰陽術の極地よ」

「もうよい、黙れ!」

 頼光が叫んだ。ソハヤマルが光る。踏み出そうとした瞬間、晴明は頼光に向けて手を開き、制する。

「陰陽の果てを垣間見たのですね。同じ道を歩く陰陽師だからこそ、終わらない混沌から貴方を解き放てる。いかがでしょう。私と再び術勝負をしませんか」

「晴明?」

 頼光だけでなく、道満も驚く。晴明と道満は平安京で術比べの試合をしている。閉じた箱を見通す通占。衆目の中、晴明が勝利した。その後しばらくして道満は姿を消す。

「あの時の術比べでは不足でしょう。互いの持つ術のすべてを出し切ります。私が負けたなら、討魔衆は大内裏から引き上げる。貴方が負けた時は、討魔衆に加わり仲間となってもらいます」

「貴様は殺す。討魔衆も皆殺しよ。なにを言い出す?」

「その約束での術比べでした。一方が他方の弟子になる。貴方も負けを認めました。なぜ京を去ったのです。私は貴方を生まれついての悪人とは思っていません」

「晴明、無駄だ。その男はお前を憎んでいる。あの時も逃げたのだ。仲間になるわけがない。私も認めんぞ」

 頼光の顔が曇る。道満と晴明は、競い合いながら、ともに陰陽術を追求する同志だった。違えた道は、惜しんでも戻れない。

「私達陰陽師は、外法に身を落としてはなりません。身を滅ぼすから。そして、術が研ぎ澄まされないから。心を失った者に、これほどの陰陽術は修められません」

「夜伽話にでものぼせたか。余を討魔衆に、だと。笑いも出ないわ」

「改めて、私が貴方を弟子とすればよいでしょう」

 晴明は術比べのあとも道満を認めていた。二人なら陰陽術の深奥にたどり着けると信じていた。再会した今の道満は、何者かに取り憑かれたかのように感じる。

「貴方は、本当に道満なのですか?」

「その身に刻んでくれる。余の術と、積み重ね、練り上げた、怨念を。頼光、見届けろ!」

「待て、私は許さん。見届けろとはなんだ。立会人をさせるつもりか。背を向けたら斬るぞ」

「お前にも見せる。……俺を、見ろ。晴明。始める、ぞ」

 討魔頭として認められない。晴明が道満に遅れを取るとは思わないが、大内裏から撤収するわけにはいかない。ましてや道満を迎え入れるなど。意味のない果たし合いだった。

 晴明と道満が呪符を取り出した。陰陽師の戦い。二人は頼光を見る。それぞれの思いが交錯する庭園。頼光は小さく息を吐いた。ソハヤマルを地面に突き立て、腕を組む。

 

 晴明の頭上に光が瞬く。叩き落される雷光。収まったあとには式神の札だけが残されていた。晴明は二歩下がった位置に立ち、呪符を構える。火炎弾を発射した。

 高速で放たれた火球は道満を貫く。崩れ倒れる姿が、焼け焦げた札に変わる。左右に分身する道満。雷を従えて同時に襲いかかる。晴明は呪符を地面に叩きつけた。竜巻が発生して、道満を弾き飛ばす。

 二人の道満はすぐに消えた。背後に妖気を感じる。振り向くより早く電撃を叩き込まれた。晴明は吹き飛び、倒れ、消える。地に落ちている式神の札。

 陰陽術で式神を作り出す。式神もまた陰陽術を使い、さらには術者の身代わりとなる。本来ならば奥義にも近い、高位の陰陽術。晴明と道満はこともなげに使いこなす。

 道満の周囲に無数の間欠泉が噴き上がる。晴明の術。あやかしを狩る水の牙。道満は陰陽術の障壁で身を守った。水流が消えてから、一直線に雷撃を放つ。晴明は禁雷の術を両腕に流し、交錯して防いだ。

 頼光は立ちつくすしかなかった。隙を見て道満を斬ろうにも、式神との見分けがつかない。

「オンッ!」

 ひときわ響く声で道満が唱える。一面に落雷が降りそそいだ。式神を作ろうともまとめて打ち砕く。雷霆に満ちた庭園。晴明は大きく離れた位置に退避していた。風の矢を作り道満を射る。

 道満は呪符で矢を弾く。瞬時に眼前に現れた晴明は、式神かそれとも。呪符を握り込み、拳に術を集める。道満は雷。晴明は炎。互いに叩きつける。拳法ですらない殴り合い。

 高名な陰陽師が二人。喧嘩している。拳に乗せる思いは遠い日の記憶。打ち響く炎と雷は、それぞれに追い求めた陰陽。やがて息が上がる。道満は晴明を見ると、薄く笑った。

「楽しい。楽しいな、晴明よ」

「……否定はしません」

 晴明は陰陽術を深く知るために、あらゆる術を学び修めた。道満は、神仏の力とされる雷に、陰陽術の真髄があると考え、御する術を研究した。

 年月をかけた修行の極意。使う機会などあるはずもない。学べば学ぶほど、探究心の中に蓄積される思い。存分に振るう時が来た。追い求め、極めつくした術が激突する。なおも戦いは続く。

「やはり。決着はこれしか、ない」

 道満が呪符を取り出す。術により札が輝き、その光は刃となった。晴明も呪符を手にする。少しの迷い。道満と同じ光の刃を作り出した。剣客が立ち合うかのような光景に、頼光はうろたえる。

「これは、なんだ。ど、どうして二人は、同じ術を使える?」

「光刃符は私達が協力して生み出した術。頼光の剣と同じ力を陰陽術で作ろうとしました。完成には至りませんでしたが、道満。怠らず磨き上げてきたようですね」

「晴明。頼光。見るがいい。陰陽の果てに、たどり着いた、俺の刃を!」

 静寂。ゆるやかに道満が動く。光刃符の間合いを詰めていく。待ち受ける晴明。微動だにしない。道満は一転して加速。横一閃に光刃符を斬る。頭上に現れる晴明。見ずとも読めていた。手首を返し上空を刺す。

 道満の刃に、式神の札が残る。足元に倒れている晴明が札に戻らない。斬りつけた晴明。宙から襲う晴明。虚と実が陰陽となり混ざり合う。深手を負いながらも、晴明は立ち上がり、道満を光刃符で貫いた。

 呪符から光が消える。道満は血を吐きながら倒れた。全身が崩れ、泥のように流れる。妖気が立ち昇る。式神とはまた異なる、偽りの命。源のアムリタだけが落ちていた。

 頼光がアムリタに手をあてた。残留思念を読み取る。大内裏の奥底で外法を完成させつつある蘆屋道満。その声が聴こえる。

「白虎楼に来るがよい。もうすぐ黄泉の入口が開かれる」

 アムリタ思念は宙に浮かび上がり、消えた。

 

 傷を治癒する。数枚の護符を消費した。

「式神を斬った。と思わせたか。らしくもない捨て身。よく生きていたな」

「道満も式神のつもりで斬ったのでしょう。まともに受ければ命はない術です。警戒した分だけ踏み込みが浅くなりました」

 陰陽術の駆け引きでは晴明が勝利した。しかし道満は庭園におらず、術勝負そのものが足止めだった。戦局は依然として支配されている。大内裏の一角、白虎楼。庭園からは遠くない。

「とんだ時間稼ぎをされた。見つけてすぐ斬っていれば」

「討たねばなりません。わかってはいます。それでも思ってしまうのです。私と道満は、なぜ陰と陽になれなかったのか」

「まだ言っているのか」

 過日を思う晴明に、頼光がいら立つ。術比べの時から知っていた。晴明と道満は相容れない。頼光がいる限り。

「……道満から私に文が届いた。術比べの前日だ」

「は?」

 顔をそむける。切り離していた遠い日。源頼光には陰陽術の心得がない。安倍晴明と蘆屋道満は、どちらも頼りになる仲間だった。不意に知らされた道満の胸中。同時に気付く、頼光自身の思い。

「今、なんと言いました。文が?」

「早く準備しろ。置いていくぞ。白虎楼に急げ!」

 陰陽は万物の真理。誰もが誰かの、陰になり、陽になる。己が心の中に陰と陽が棲む。陰陽のわずかな歪みは、やがて大きな災厄となる。人は陰陽の中にいる。陰陽は人の中にある。

 鳳凰が舞う。つがいで飛ぶ霊鳥。




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