メインストーリーVol.1 対策委員会編 2章最終話までとホシノの絆ストーリー第4話のネタバレ、それとちょっとの独自設定を含みます。
ミリタリーには明るくないんで、それ関係の描写は大分雰囲気です。
なにもわからない。わたしはふんいきでにじそうさくをかいている。
※この作品はpixivにも投稿しています。
「うへ〜、夜の街は冷えるねぇ⋯⋯」
アビドスの夜。それは一層の無法が蔓延る時間帯である。何の武装も伴わずに出歩けば、道行く不良たちの恰好の的となり、素寒貧に剥ぎ取られてしまうだろう。
無論、どこかしらの学園の生徒であれば、武器の携帯は基本。無武装で出歩くなど、自殺志願者でもない限り行う人物はいないだろうが、ただ街に住んでいるだけの住民の場合は話が別である。彼らの場合は外出を控える事がそのまま自衛となるが、中には止むに止まれぬ事情で外出するという人も少なくはない。
小鳥遊ホシノは、少しでもそういった住人の不良による被害が減るようにと、毎夜毎夜、街中の警邏を行なっている。それは住人の間で密かに噂として広まる程度には、功を奏していたのだった。
ちなみに他の対策委員には、この事は話してはいない。自分から話し出す事でもないし、普段からぐ〜たらな自分が、人に見られない場所ではシャキッとしてるなんて事実が知られるのも恥ずかしいからだ。先生からは、素直じゃない、と揶揄れたりもしたが。
「今日は、この辺りにしとくかー⋯⋯」
夜は更けて、いよいよ辺りには不良さえも見受けられなくなる時分。これ以上の警邏は不要であろうと判断して、帰路の途につく——。
——その間際であった。
ガシャガシャガシャガシャ⋯⋯。
「⋯⋯」
ホシノの耳に入ってきた、謎の駆動音、複数。ついでに肌で感じ取れるは、此方を刺すようなひりつく空気感⋯⋯ホシノはこの感覚に、身に覚えがあった。
それは、殺意。
「参ったなー、これから帰ってお布団にこもろうとしてたのに⋯⋯」
ホシノの正面、十数メートル先の曲がり角から姿を現したのは、カーキ色の迷彩を施した装甲服の部隊5人。背後からも同様に5人。装甲服とホシノの間の狭い道には、横道といえるものは無く、あるのは左右に聳り立つ塀のみ。すなわち挟撃の形である。盤面でいえば、既に不利を被った状態だ。
彼らの持つアサルトライフルの
そして、隊長格と思われる人物がホシノへとこう話しかけてきた。
「小鳥遊ホシノ、だな」
「そうだよー、おじさんに何の用かな?」
「我々の姿に、身に覚えはないか」
「⋯⋯無いわけないじゃん」
装甲服の胸元に記されているのは”PMC”の3文字。両肩にもきっちりと特徴的な三角形のロゴが刻みつけられている。
その文字、その図形だけは、ホシノが忘れる事はない。
「そうか。だったら話は早い。抵抗はするな。怪しい動きもだ。大人しく我々についてきてもらおうか」
「横暴だねー。そう言われて大人しくついていく人間がいると思う? 第一、こんな闇討ち紛いの事して、大丈夫なの? 先の事件で、肩身の狭い思いをしてるのは、そっちの方じゃなかったのかな?」
先の事件⋯⋯カイザーPMC理事による
この件を受けカイザーコーポレーションは、自分たちとは無関係だと主張するために、理事の即刻解雇処分を行い、トカゲの尻尾切りに尽力した。結果、理事の解雇だけに留まらず、PMC自体の規模縮小にまで影響は波及。同時にPMCは、世間からも冷ややかな目で迎えられるようになってしまった。
装甲服たちはわなわなと肩を震わせ、そして顔こそ伺う事が出来ないものの、隊長格の声音からは確かな怒りの感情を感じ取る事ができる。
「⋯⋯そうだ、そうだとも。お前たちのせいで我々は、
「えー⋯⋯先に罠に嵌めてきたのはそっちじゃん」
「我々はただ従っていただけだ! 上の思惑がどうこうなどとは知ったことではない! 忠実に任務を遂行していただけなのに、何故こんな仕打ちを受けなければならない!?」
「はぁ⋯⋯」
なるほど、とどのつまりはただの逆恨みか、とホシノは面倒臭そうにため息を吐く。
「というか、解雇されたならなんでPMCの装甲服なんて着用してるのさ」
「我々がただで転ぶ訳があるまい。これは会社から少し
「ふーん。この事がバレたら、連邦生徒会からだけじゃなく、当のPMC側からも追われることになりそうだけど」
「問題ない。事が表沙汰になる前に、この計画を成功させれば良いだけの話だからな」
装甲服たちの、構えている銃を持つ手に自然と力が入る。
同時に、場に張り詰めた緊張感の方も、じわじわと高まっていく。
「計画ねー⋯⋯どうせろくでもない計画なんだろうけど」
「小鳥遊ホシノ、お前はあの対策委員会の中でも委員長にあたる人物なんだろう? つまり、お前の身柄を取り押さえれば、委員会という組織自体も掌握出来た事に等しくなる訳だ。そしてそのお前達を取引材料として、そのままあのシャーレさえ我々の手中に収められれば⋯⋯もはや向かうところ敵なしだ」
「⋯⋯やっぱりね。そんな計画がうまくいくはずもない」
「どうかな? シャーレの先生は特段の生徒思いだという話は聞いているぞ? 痛めつけられ、ヘイローも破壊寸前のお前の姿を見れば、対策委員の連中もおいそれとは手出しが出来ず、先生であればそれは尚更の筈だ」
「はぁーっ⋯⋯」
2度目のため息。今度のものには呆れの念も多分に含まれている。
やっぱりこいつらは何も分かっていない。
「まぁ、色々言いたいことはあるけど⋯⋯」
愛銃、Eye of Horusを両手に構え、ホシノは戦闘態勢を整える。
その鋭き琥珀と蒼白の眼光から迸る戦意は、不撓不屈の気迫に満ち満ちていて。
「取り敢えず、この程度の人数で私に勝てると思ってるなら、その認識はかなり甘いよー」
小さな体躯より滲み出る威圧感は、さながら
勿論、それだけで怯むような彼らではない。彼女がどう気勢を張ろうと、数的かつ位置的な有利は変わらず、作戦は尚も変わらない。これは、勝てる戦いだ。
「⋯⋯降参の意志は無しか。分かってはいたがな」
隊長格が左手を持ち上げ、頭の上の方へ。
「⋯⋯」
「⋯⋯」
訪れる静寂。睨め付ける両者。緊張は最高潮。
やがて振り下ろされた左手と共に、静寂は打ち破られ。
「撃て」
戦いの火蓋は切って落とされた。
——ダダダダダダッ!!
——ダダダダダダッ!!
——ダダダダダダッ!!
折り重なる幾重もの銃声と、前方後方、両側よりホシノへと降り注ぐ銃弾の雨。その苛烈さは如何に頑丈なキヴォトス人であろうとも無策では気絶は必至の様相だ。
それに対してホシノは、ジグザグとした走法で、被弾を最小限に抑えつつ、前方にて立ち塞がる部隊の方へと肉薄していく。
まず真っ先にホシノが狙うは、この挟撃状態からの脱出。
(左右の塀を乗り越えて逃げ出しても良いけど、それだと近隣の住民を巻き込んでしまうかもしれないし、それに直感から言って何か
と、そんなホシノの目に飛び込んできたのは。
(シールドかぁ。まぁ何かしらで道を塞いでくるとは思ってたよ)
堅牢なる壁、PMC謹製防弾シールド。それを掲げて道を塞ぐ
この狭い道、それだけでホシノの進路を阻むには十分である。彼女の今の武装では、正面から打ち破るのも時間がかかる。かといって、シールドの撃破のみに固執していけば、今度は銃弾の雨が彼女の体力を蝕んでいくだろう。
1人の生徒に対する作戦としては、悪くはないモノだ。というより、むしろ過剰にも捉えられるかもしれない。並の生徒では、そう簡単には突破できない布陣である。
しかし、それでも——。
「よいしょっと」
ホシノを抑えるまでには至らない。
「!?」
装甲服たちの目の前から、ホシノの姿がかき消え、一瞬彼女を見失う。だが、すぐに居場所は判明した。
「シールドの上に——っ!」
急いで銃口を向け直し、シールドを振り払おうとするも、時は既に遅し。
——ドオゥン! ドオゥン!
「ぐぅぉっ」
放たれた2発の散弾が、シールド持ち2人の片方の頭に零距離にて直撃。くぐもった声をあげて沈みゆくその体を足場にして、ホシノは更に大跳躍を果たし、隊長格含む他の装甲服たちが放った弾丸はいずれも虚空を切ってしまう。
そうしてホシノが降り立った場所は、装甲服たちの背後。彼らが持っていた1つの有利は今、覆った。
「くそっ!」
「こいつ!」
すぐさま振り返って反撃へと打って出るその場の装甲服たちだったが、この動作にもまたコンマ秒ほどの遅れが出るのは避けられない。
まさにその束の間の隙を、ホシノは見逃さず。
——ドオゥン! ドオゥン! ドオゥン! ドオゥン! ドオゥン! ドオゥン!
これぞ電光石火。素早い身のこなしで縦横無尽に辺りを駆け巡りながら、6発の残弾を一気呵成に装甲服たちへと叩きつける!
これには彼らも対応すること能わず。あっという間に残りの4人も、その身を地に沈める結果となったのであった。
「さて隊長っぽいのも潰したし、残りは⋯⋯」
と、銃のリロードをしながら、もう一つの部隊の方を臨むホシノが目にしたのは、こちらに
「”RPG-7”ロケットランチャーが2つか⋯⋯うへ、鉄板だけど、味方も巻き込むこの状況でそれを使うとは、随分と無茶するというか⋯⋯」
あるいはそれだけ彼らも必死という事なのか。ホシノは辟易とした表情で頰を掻いた。
ともかく、既に弾頭はこちらを向いていて、発射が秒読み。回避行動を取るには、機を逸しすぎている。距離もあるので、発射の阻害も無理そう。となると、残された選択は⋯⋯。
——バシュッ!!
——バシュッ!!
遂に射出された2つの弾頭は、真っ直ぐにホシノが佇む場所へと飛来していき——。
——ドオオオォォォッンッ!!
着弾! 衝撃と煙が周囲を席巻する!
俄かに沸き出す、装甲服たち。
しかし、彼らは”それ”を目にする事になる。
——ォォォオオン⋯⋯。
燻り続ける煙の中から現るる、”IRON HORUS”の文字を。
「マジかよクソッタレ⋯⋯!」
「第二射を用意しろ! 今すぐにだ!」
悪態を吐きつつ、装甲服たちは急いでRPG-7の再装填に取りかかる。
一方でホシノは、そうはさせじと鞄から展開した盾をそのまま掲げながら、ぐんぐん彼らへと近づいていく。
対抗して、先程と同じく2人のシールド持ちがまず前線へ。牽制程度に銃弾をばら撒きながら、装填中の後衛に攻撃が当たらないよう、守りの態勢を固める。
「副隊長、装填完了しました!」
「よし! シールドの隙間から撃て! 爆風含めその他諸々はシールドでシャットアウトする! お前ら堪えろよ!」
もうすぐで部隊がホシノのショットガンの射程圏内に入ろうかという所での、装填完了の報せ。副隊長はすぐに部下へと発射の命令を下す。勿論、その近さからして、自爆なぞしては堪らないので、それへの対処も怠らずに。
副隊長の令に従い、隙間からニョキっとその身を生やした弾頭が、前進中のホシノの盾の足下を捉えた。その狙いは、爆圧で少しでも盾を引き剥がす確率を高めるためである。
そして、今まさに第二射を発射せん、と引き金を引く指に力を入れたその刹那。
「無駄だよ」
はっきりと、確信をもって発せられたホシノの一言。
それは、装甲服たちの耳にもしっかりと聞き取る事が出来——。
——ドオゥン!
——1秒ほど、意識が刈り取られた。
(ッ!? 今⋯⋯っ!?)
——ドオゥン! ドオゥン! ドオゥン!
「ぐえっ!」
「あぐっ!」
(何⋯⋯っだ、これ⋯⋯っは⋯⋯!?)
扇状に放たれるホシノの散弾1発1発が、異常なほどまでに
——ドオゥン!
最後の5発目の銃弾により、浮き沈みしていた装甲服たちの意識は完膚なきまでに奈落の底へと叩き落とされる。
かくして、”戦術的鎮圧”は完遂された。
「ぐ⋯⋯うぅ⋯⋯」
その肝心の1人。彼女は、ホシノが前進しながら、敢えて扇型の射程範囲内からは外した人物であった。おかげで致命的な最後の1発まで喰らう事はなく、辛うじて意識を繋ぎ止めている。
「残るは君だけだよ」
「⋯⋯!?」
「今からでも降参するなら、手荒な真似はしないであげるけど、どうかな?」
「⋯⋯ッ」
屈辱だった。周到な準備をして挑んだはずなのに結果はこのザマ。相手はかすり傷どころか、汗水一つすら垂らしてない。精々爆発の余波で多少は煤けさせたのが良いとこ。なのにこっちはほぼ壊滅状態。誰がどう見ても文句のつけようもない惨敗だ。それでいて、おまけに情けまでかけられている始末である。装甲服のプライドはバッキバキにへし折られた。
だからもう失う誇りなど何もない。それならば降伏を受け入れるよりもいっそ。
次の瞬間、装甲服が取った行動は。
——ダッ!
逃亡。脱兎という表現がそのまま当てはまる程の見事な逃げっぷりであった。ゴツゴツとした背中が見る見るうちに小さくなっていき、夜の闇に溶け込んでいく。
残されたホシノは。
「やっぱり逃げたか」
と、大して驚きもせず、装甲服が逃げた方向をじっと見つめる。少しして、ホシノは懐から端末を取り出すと、ある人物へと連絡を取り始めた。
——ピコン。
『ふぁぁ⋯⋯こんな時間にどうしたんですかホシノ先輩⋯⋯』
「夜更けにごめんねーアヤネちゃん。いやーちょっと今おじさん、PMCの奴らから襲撃を受けちゃってさー。それでお願いがあって連絡したんだけど——」
ホシノの長い夜は、まだ終わらないようである。
逃げる。逃げる。ひたすらに、逃げる。
時折、背後を確認したり、意味もない遠回りをしてみたり、点在する廃墟の中に身を隠してみたり。追いかけられてるような気配は感じ取れなかったが、一応追跡されていた時の為に、思いつく行動はひとしきり試しながら、装甲服は逃げ続けていた。
やがてついに装甲服は、逃亡の終着点へとたどり着く。そこはアビドス自治区郊外にある某廃工場。今回の襲撃計画に携わっている仲間の兵士たちが、アジトとして陣を構えている場所であった。
装甲服は見張りの兵士に迎えられ、工場内へと姿を消していく。
(あそこが奴らのアジトかぁ〜⋯⋯)
そして装甲服の健闘虚しく、しっかり後を尾いてきていた人物が1人。ホシノだった。彼女がわざわざ装甲服を逃したのも、コレが目論み。つまるところの、まだ隠れ潜んでいる他の仲間たちの発見が狙いであった。
登校前に見る朝のニュースでは、PMCのリストラは百数十人にも及ぶと報道していた。ならば疑問に思うのは、襲ってきた人員だけで仲間は全員なのかという点。ホシノにはとてもそうとは思えなかったので、モノは試しにと装甲服を泳がせてみたのだ。その結果、見事にドンピシャりである。
ホシノは暗がりの中に佇む眼前の廃工場に目を凝らす。廃棄されたのはよほど昔の事であるのか、工場は赤茶けた錆びが威容を誇り、周辺には資材等が丸ごとごろんと放置されたままになっている。この辺りには他に目立った建物も無く、人通りも皆無なので、なるほど身を隠すのにはまさにうってつけの立地なのだろうと、ホシノは1人得心がいった様子であった。
(さーてこれからどうするか⋯⋯)
工場内から漏れ出る光に映る人影や、聞こえてくる足音話し声から察するに、中にいる人数は20〜30くらい。バタバタと忙しない様子で「急げ」「早くしろ」などと声を荒げている事から、恐らく仲間の敗走を受けて急いでこの場所からの撤退の準備を進めているのだろう。
(うへー、早めに決着をつけないと、面倒くさい事になりそうだけど⋯⋯援軍はもう少し時間がかかりそうかな)
ホシノが先ほど連絡を取り合った人物。それは対策委員会書記担当オペレーター、奥空アヤネであった。ホシノは彼女に諸々の事情を話した後、対策委員会の緊急召集を要請。返り討ちにしたPMC連中の回収と、アジト追撃への援護を願い出た。かくして、ホシノのGPS信号を追って2人ほど、援軍が到着する手筈となっているのだが⋯⋯。
(ん〜、待ってらんない! もう攻めちゃおう!)
痺れを切らしたホシノは、単身工場内への突入を決意する。
(とはいえ、バカみたいに真っ正面から突っ込んで、ここぞとばかりに攻撃の的にされるのは流石に勘弁)
見張りに見つからないよう、工場の裏手の方に回り込み、内部への侵入経路を探す。
と、そこで見つけた物は。
(ん⋯⋯これは⋯⋯蓄電装置の一種、かな)
そこそこの大きさの箱型機械。側面には配線が多数接続されており、上部にはソーラーパネルのような黒い板状の物質が取り付けられている。
考えてみれば当たり前の話だ。ここは既に放棄された廃工場。電気など通ってるはずもない。そうなると、外部から持ち込んでくる必要がある。これは、そのための機械なのであろう。
(これは使えるね)
にしし、と悪巧みをする子供のような笑顔で、口を押さえるホシノ。
配線を辿っていけば、同時に工場内へと続く侵入口の方も確保できたので、早速ホシノは頭の中に浮かんだ奸計を実行に移す事とする。
(ぶちぶちっとな)
ホシノは、機械へと繋がっていた配線を次々と取り外していった。当然、工場内部の明かりは消え、兵士たちは俄かに騒然となる。
それを確認し次第、素早く内部へとホシノが侵入。暗闇の中で身を屈め、近くの物陰に身を潜めながら、兵士たちの様子を窺う。
「どういう事だ! なんで明かりが消えた!」
「誰か間違えて配線抜いちゃったんじゃないか!?」
「いや、もしかしてこれは敵襲なんじゃ⋯⋯!」
「落ち着け! 非常用の電源があった筈だ! ひとまずは手持ちのライトを使ってそれを見つけろ!」
そんな一際大きい兵士の声を境に、ちらほらとフラッシュライトの明かりが点いていく。
(よーし疲れた体に鞭打ちつつ、おじさんちょっと頑張っちゃうぞー)
ホシノは、何も知らずにこちらに近づいてくる1人の兵士に向けて、2戦目の開幕となる1発を放った。
——ドオゥン!
「ぐわぁっ!」
——ドサッ
俄かに響き渡る銃声、そして悲鳴、何か重量のある物が倒れる音。幾分か静まっていた兵士たちの間に、再び動揺が走る。
「なんだ今の銃声は!?」
「さっきそこの暗闇を、人みたいなのが通って⋯⋯!」
更に混乱を助長するため、ホシノは間髪入れず、また近くにいた兵士に向けて1発。
——ドオゥン!
「ぐぅっ!」
「まただ!」
「おいどうなってる! 暴発じゃないよな! 敵襲か!」
「あそこに誰かいるぞ!」
「どこだ!?」
銃声を頼りにか、ホシノの方向に向けられたライトは、しかしながらも彼女を一瞬だけしか捉える事が出来ず。
何故ならば、発砲した直後に彼女は、即座に次のターゲットがいる場所付近へと、移動を開始しているから。
——ダダダダダダッ!
「痛ッ!? おい、私は味方だっ!」
「なっ、だがさっき確かにっ!」
——ドオゥン!
「がはっ」
「何なんだ一体!?」
「分からないが、敵襲である事に変わりないだろ!?」
「とにかく怪しい奴は撃ちまくれ!」
「待て! 装備の中には爆発物も混じってるんだぞ! 下手な発砲はっ」
——ドオゥン!
「ゔっ」
「ちくしょう! どうなってんだ、ちくしょう!」
ヒットアンドアウェイ。暗闇の中、ライトの明かりや足音、気配、それと養ってきた勘を頼りにして、次々にホシノは兵士たちを闇討ちしていく。
その甲斐あって、もうアジト内はしっちゃかめっちゃかの大混乱。統制も何もあったものではない。動揺であちらこちらに向けられるフラッシュライト。誰に向けられているとも分からない怒声罵声。時折聞こえてくる銃声と悲鳴。それらが複雑に絡まり合い、更に混乱の様相を加速させる。まるでタチの悪いパニックホラー映画を彷彿とさせる状況であった。
——ドオゥン!
「うわぁ!」
「もうやだぁ! おうちかえるぅ!」
「落ち着けっ! こんなので錯乱してたらお前、生きて帰れは——」
——ドオゥン!
「あべしっ!」
「ぎゃあああっ!」
「もう駄目だろこれっ、出口はどこだ!」
「リーダー! リーダー! 何か指示をください、リーダー!?」
——ドオゥン!
「ぐわらばっ!」
「も、もう嫌だっ、誰か助けてくれぇっ!」
順調に兵士の数も減り、残りは10人もいかないぐらいとなった頃。ホシノが、もう闇討ちとかしなくても適当にやってりゃどうにかなるかな、などと思い始めた時である。
——ピッ、ピッ、ピッ。
——ピッ、ピッ、ピッ。
——ピッ、ピッ、ピッ。
(⋯⋯ん?)
ふと、どこからともなく聞こえて来る機械音が複数。なんだか胸騒ぎを覚えるホシノは、次に聞こえてくる兵士の言葉に、思わず顔を歪めた。
「こ、この音! 退去用爆弾の起動音じゃないか!?」
「えっ! でもそれの起爆スイッチってリーダーが持ってたはずじゃ⋯⋯!?」
「あの野郎、私たちを置き去りにして、自分だけここから逃げやがったんだ!」
「そんな!」
(うへぇ、これまたしち面倒くさい物を)
退去用の爆弾。それは立つ鳥跡を濁さずとばかりに、情報を隠滅する為に仕掛けられたモノなのだろう。威力も相応のものとなるはず。
「に、逃げろ!」
「いや駄目だ、もう間に合わ⋯⋯!」
——ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
——ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
——ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ!
とりわけ高い爆弾の起動音を最後に、ホシノと残された兵士たちの視界は、一転して白い光に包まれ——。
——ドッッカアァァァァンッッッ!!
「ふははは! やったぞ、爆発した!」
工場より少し離れた場所にて。
1人の兵士が、煙と炎に包まれる工場を眺めながら、飛び跳ねてその喜びを体現する。そう、彼女こそが小鳥遊ホシノ誘拐計画の立案者かつ、当該作戦のリーダーにあたる人物である。
「ははっ、ざまぁみろ! 馬鹿が! 調子乗って追撃なんてするからこんな目に遭うんだ!」
彼女はあの闇の中の騒動で、誰よりも冷静に状況を勘案。襲撃者が小鳥遊ホシノである事をいち早く察知し、1人アジトから早期に逃げ出す事に成功していた。おかげで工場を爆破出来るだけの距離も稼げた。
仲間が誰一人脱出できず、あの瓦礫の山の下に埋まってしまったのは痛恨の極みであるが、これも小鳥遊ホシノ足止めの為の犠牲として仕方がない事だ。さらば同志よ。君たちのことは永遠に忘れない。多分。
そうしてリーダーは翻って、その場を立ち去ろうとする。
だが。
「ちょっと、今の爆発はなに!?」
「ん、こっちの方から人の声が聞こえる」
そこに現れたのは対策委員会の書記、黒見セリカと同委員会の行動班長、砂狼シロコ。ホシノの要請した援軍が、ようやく到着した所であった。
思わぬ人物との邂逅に、リーダーの顔色が一変して青ざめる。
「何これ!? ちょっとそこのアンタ! アンタがコレやったの!?」
「他の対策委員会の連中かっ! くそっ! 想像以上に足が速い!」
だがっ! とリーダーはそこで強く逆説を言い放ち。
「一足遅かったようだな! お前たちの委員長、小鳥遊ホシノはあの爆発に巻き込まれ、今やあそこにある瓦礫の山の下敷きだっ!」
「えっ、ホシノ先輩が⋯⋯っ!」
「そうだとも! ほら、とっとと助けに行かないのか!? 私に構ってる暇など、お前たちにはないだろうっ!?」
「ッ!」
猫の如くセリカの総毛が逆立ち、彼女は憤怒の形相にてリーダーの挑発するかのような笑みを睨みつける——が、そこへ。
ちょんちょん。
「セリカ、セリカ」
「何よシロコ先輩ッ!! 今どうすれば秒でアイツをぶちのめせるか考えてっ——」
「あれ」
シロコが、指差した先。
そこに居た、ある人物の姿をセリカは明確に視界に捉える。
「⋯⋯」
すると彼女の様子が急変。先程までの怒気はどこへやら。いっそ安堵さえ感じさせる表情で、手を腰に当てつつ、何かを見つめ始めた。
困惑するリーダー。
「なんだ、急にどうした!? お前たち、一体どこを見て⋯⋯っ!」
つられて、リーダーも同じ場所に目を向ける。
果たしてそこには。
「ぺっぺっ、うへ〜、大した間をおかずに2回も爆発させられるなんて、今日のおじさんはついてないよー」
すっかり顔を黒くして、くの字目で口の中の砂利を吐き出しながら、瓦礫の山より這い出す小鳥遊ホシノの姿が。
普通にかなりピンピンしている。
「なっ⋯⋯えっ⋯⋯!?」
動揺を微塵も隠せないリーダーに、セリカがドヤ顔で講釈を垂れる。
「アンタ、私たちの委員長の頑強さ、舐めてたみたいね。生憎だけどアレぐらいで倒れるほど、ホシノ先輩は柔じゃないわ。伊達に私たちの先輩やってる訳じゃないのよ」
「さっきまでセリカも勢いに乗せられてた癖に」
「そっ、それはそれっ! 大丈夫と分かっててもやっぱり心配はするもんでしょっ!」
「まぁ、それは確かに」
リーダーの耳には、もう2人の話し声など入ってこない。この絶望的な状況、なんだかんだ頭の回転が早いリーダーは、逆転の一手を必死になって模索するが⋯⋯。
弾き出した回答。どうあがいても、無理。
「⋯⋯それで、アンタはこれからどうするのよ。見たところ、仲間はいないみたいだけど。私たちと戦るつもりなら、受けて立つわよ」
「ん。見敵必殺。かける慈悲は無い」
「すみませんもう勘弁してください何でもしますから!」
どざざーっと、スムーズな土下座からの降参宣言。
ここに、元PMC兵士による小鳥遊ホシノ誘拐連合は壊滅を見たのであった。
「ん⋯⋯あー、あれはシロコちゃんとセリカちゃんか。そんでもって、側にいるのが例のリーダー。援護は⋯⋯必要なさそうだね」
それにしても、と瓦礫の上で白けた空を見上げつつ、ホシノは憂う。
「結局夜は眠れなかったなー⋯⋯あぁ、お家の中のお布団が恋しいよー⋯⋯」
地平線より出づる朝日が、ホシノの顔をぼんやりと照らした。