パーティから数日。城内は学期始めの賑わいを取り戻していた。
通年であれば、学期末試験に向けて皆が寝不足の目を擦り、怪しげな呪文を呟いている時期だが、それも無いのは先日のパーティで学期末試験が免除になった事がダンブルドア校長によって知らされたからだ。
じきに夏休みだと、浮かれ気味の生徒達が目の前を通っていくのを眺めつつ、私は北棟のとある階段の近くで目的の人物が現れるのを待っていた。
グリフィンドール寮に程近いこの場所。
行き交うグリフィンドール生にジロジロと無遠慮に見られるのに多少慣れてきた頃、階段の上に見知った赤毛が見えた。
「ベス? こんな所で何してるんだ?」
「珍しいな。ベスが研究室から出て来てるぜ」
ウィーズリーの双子だ。
階段の手すりを文字通り、滑って降りてきた双子に囲まれる。
双子の背のデカさも相まって、何だか私がすっぽりと隠れてしまった。
だが、内緒話にはちょうどいい。
私は双子に少しだけ屈むように頼むと、踵をあげ、双子に耳打ちする。
「ねぇ、ちょっと相談があるんだけど――」
「それ、マジか?」
「ベスもやるねぇ」
「マジ。どう? 乗る?」
双子は二人で顔を見合わせるとニヤリと笑い、差し出した私の右手をがっしりと取った。
グリフィンドールの寮旗が掲げられた大広間は、これから始まる夏休みに浮かれた生徒でいっぱいだ。
廊下にも漏れ聞こえてくる声は、旅行の計画や、遊びに行く約束など楽しげなものばかり。ひと月前までのピリピリした空気など、皆どこかに忘れてしまったかのようだ。
何よりグリフィンドール生は、2年連続で寮杯を手にしてご機嫌なのだろう。
大広間の外に居ても聞こえてくる笑い声の6割がグリフィンドールのテーブルからで、残りの3割がレイブンクローと、ハッフルパフ。
スリザリンのテーブルに笑い声はほとんど無く、2年連続でグリフィンドールに負けたことにより、誰もが悔しそうにしていた。
マルフォイはその最たるもので、今にも呪いをかけてやらんとばかりにグリフィンドールの席と言うよりは、ポッターを睨んでいる。
「や、マルフォイ。そんなに睨んで疲れない?」
「ふん。来年こそはスリザリンが寮杯もクィディッチ優勝カップも取ってやると意気込んでただけさ」
遅れて大広間に入ってきた私がマルフォイの隣の席に腰掛けると、マルフォイは鼻息荒く腕組みした。
「クィディッチだって、途中で中止にならなければスリザリンが勝っていたはずさ」
「そうなの?」
「ああ! レイブンクロー戦での僕の活躍を見たか? 追ってくるブラッジャーを横にローリングして躱わして……どうした? セネット。
杖でも忘れたか? なら早く取りに行ったほうが良い。じきに始まるぞ」
「や、何でもないよ。大丈夫」
私がそわそわしていたのを何と勘違いしたのか、マルフォイがコソリと伝えて来るが、そちらが理由ではない。
再度、グリフィンドールのテーブルを見渡すが、彼らの姿は未だ見えなかった。
打ち合わせた時間はとっくに過ぎているというのに。
何かアクシデントでもあっただろうか?
私は逸る気持ちを抑えて椅子に深く座り直した。
パーティが始まるまで後幾分もない。
「うぉっほん。おほん。……皆の者、また1年が過ぎた――」
咳払い一つ。
壇上中央の演説台に立ったダンブルドア校長は、再度咳払いをすると、お決まりの挨拶から演説を始めた。
同時に大広間の小扉が目立たないように開き、滑り込むようにして入って来たウィーズリーの双子。
私に目配せしてきた双子から小さく、グッドサイン。
意味は『準備に問題なし』。
私も小さくうなずき返すと、目線を校長に戻した。
「――さて。皆も知っての通り、今年はとある事件のため、クィディッチは中止となった。
故に、残念ながらクィディッチの優勝カップはお預けじゃ。
今年はグリフィンドール、スリザリンの優勝争いに、ハッフルパフ、レイブンクローとそれを追いかける形じゃ。
どのチームも、これからの展開次第では優勝の狙える、実に白熱した戦いじゃった。
選手たちには実に良いプレーを見せてもらった。
この場を借りて各寮の選手に拍手を送ろう」
校長がパチパチと上品に手を叩き始めると、すぐに教師達、生徒の皆があとに続く。
「来年もまた、各寮のチーム一丸となって取り組むように。
今年以上の素晴らしいプレーを見せてくれると信じておる。
そして、寮対抗杯。
首位は、……グリフィンドールじゃ」
グリフィンドールの席から歓声が上がった。
校長が大きく拍手すると、教師、レイブンクロー、ハッフルパフがそれに続く。
反対にスリザリンは憎々しげにグリフィンドールを見つめるものや、下を向く者。嫌々ながらに拍手を贈る者など様々だ。
私は顰めっ面でグリフィンドールを睨んでいたマルフォイの足を軽く蹴飛ばすと、校長の方を小さく指差した。
「何するんだ。セネット」
「いいから」
グリフィンドール生の帽子が空を舞う中、校長が腕を軽く上げて生徒たちに鎮まるように促した。
「――よしよし。よくやった、グリフィンドール。
さて、わしの長話は、これでお終いじゃ。
これ以上皆の腹の虫を待たせるのも忍びないからの。
さっそく学年末パーティを始めることにしよう。
皆、グラスの準備は良いかね?」
校長は皆がグラスを掲げているのを見渡すと、満足そうに頷いた。
「よろしい。では、皆の今年一年の頑張りを祝って。乾杯!」
「「乾杯!」」
皆が校長に続いて唱和した後、掲げたグラスに口をつける。
そして、ポンッと白煙が壇上の演説台を包んだ。
続いて職員テーブルで連続して起こる軽やかな爆発音に壇上を覆い隠すほどの白煙。
生徒達が静まり返った。
誰もが何が起こったんだ。と言う表情で壇上を見つめる中、風吹き荒れ、パッと煙が晴れた。
マグゴナガル教授が杖を掲げて無言呪文を放ったのだ。
「何だったんだ?」
「さぁ? 何かの演出かしら?」
大広間全体をざわめきが支配する中、初めに気づいたのは、壇上に近い1年生達だ。
「あれ? 校長先生の帽子、無くなって……ぇえ?」
「おい、アレ……」
「ねぇ、見間違いじゃないよね?」
「――おい、ダンブルドア校長の頭見ろよ」
「何だよ――はっ? えっ? 耳? えっ、生えてるのか? 猫耳が?」
「マジか。猫耳……。あの校長に猫耳って……あっ、アハッ、ハッ、クックックッ――」
一人が笑い出したらもう止まらなかった。
彼らから伝播するように、事態に気付いた人が次々と吹き出し、咽せる程笑ってはテーブルをドンドンと叩く。
大広間に笑いが溢れるまで時間は掛からなかった。
「おい! 先生達もだ!」
誰かが発したその声に、ハッとした何人かの教職員達が頭を隠すも、時すでに遅し。
大広間が爆発したように笑いが起こった。
呆然としたように固まっている校長。
むすっとした表情で静かに青筋を浮かべている魔法薬学の教授。
両手で猫耳を押さえる先生。
恐る恐る、猫耳を触ろうとする森番。
杖を掲げた姿勢で目を丸くしている変身術の教授。
その全員にぴょこんと生えた猫耳が、存在を主張するかのようにぴこぴこと動く。
また生徒たちに笑いの波が押し寄せた。
止まらない笑い声の中、マグゴナガル教授が怒りを露わにして席を立つと、足早に演説台へと向かう。
そして杖を掲げると無言で何発か花火を打ち上げた。
ドンッ、ドンッと、響く音の大きさは教授の怒りの大きさを表しているようで、腹の底まで響いてくる。
大広間が一気に静まり返った。
誰もがマグゴナガル教授の怒りを感じ取り、無謀にも教師たちの帽子を
そして、マグゴナガル教授は
「
再び起こった大広間に起こった笑いの渦の中、グリフィンドールの双子と目配せしあった私は、目元に浮かぶ涙を拭った。