ただ、あなたを愛している

1 / 1
堕天日和

 あなたの手を取り、私は踊る。

 

 今この時だけが私の全て。

 

 あなたの他には何もいらないわ。

 

 絢爛豪華な宮殿も、

 

 瀟洒なドレスの数々も、

 

 この身を彩る宝石も、

 

 すべてすべて捨てられるの。

 

 ……あぁ、ちがう。

 

 ちがうのよ。ごめんなさい。

 

 決して誤解をされないで。

 

 それらの価値は知ってるわ。

 

 けれど、けれどもそれでもね。

 

 この日この時この場所で

 

 あなたと過ごす、そのためならば、

 

 それら全てを捨てられる。

 

 ただそれだけの話なの。

 

 民の噂のそのとおり。

 

 私は憐れな物知らず。

 

 愚かでつまらぬ女でしょう。

 

 けれど、けれども例えばね。

 

 この身を固めるこのドレス、

 

 きめ細やかな肌触り、

 

 煌めく月と星々を、

 

 全て織り込むその縫製、

 

 それでも、果たしてどうかしら。

 

 どこまで着ていられるかしら。

 

 いつかは脱ぐ時が来るわ。

 

 その程度のことならば、

 

 えぇ、いやというほど知ってるの。

 

 この世に永遠なんて何一つ、

 

 決してありはしないのだから。

 

 

 

 

 あなたの手を取り、私は踊る。

 

 どんなに素敵な宮殿も、

 

 父も、母も、兄弟も、

 

 忠実な家臣も、

 

 愛すべき国民も、

 

 全て、全て、その一切合切が。

 

 なにもかもが失われても。

 

 それら全てはここにいるわ。

 

 いつも、いつでも、どこだって。

 

 私の胸の中にあるの。

 

 ねぇ、あなた。

 

 世界で一番愛するあなた。

 

 私は綺麗になったかしら。

 

 失うたびに研ぎ澄まされて。

 

 残されたものを身にまとい。

 

 無数の命に包まれて。

 

 夥しい死に囲まれて。

 

 私は綺麗になれたのかしら。

 

 

 

 

 そして今。

 

 その全てを脱ぎ捨てようとする今の私は。

 

 あなたの目にはどう映るのかしら。

 

 踊る、踊るわ、どこまでも。

 

 紅煉のカーテン揺らめく中で。

 

 あなたと二人、どこまでも。

 

 今、墜ちることで私は生まれるの。

 

 ねぇ、目を逸らさないで。

 

 私の愛するあなた。

 

 あなたとのこの時のためならば、

 

 私は全てを捧げられるわ。

 

 与えられたその全て。

 

 私にまつわるあらゆる全て。

 

 むせ返るほどの生と死を。

 

 響き渡る歌声も、

 

 駆け寄ってくる靴音も。

 

 全て、全てを捧げるわ。

 

 ……だから。

 

 だから、ねぇ、あなた。

 

 決して目を逸らさないでね。

 

 最後まで手を離さないでね。

 

 

 

 

 

 

 

 あなたと一緒なら、私、何処までも堕ちていけるわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、とある国の最後の女王が炎上する城と運命をともにした。

 

 あらゆる圧政、苛政を極めたとされる暴君の最期に人々は多くの想像を掻き立てた。

 

 されど積もった灰燼は何も語ることはない。

 

 父も母も兄弟も、家臣すらも失いなお君臨し続けた孤高の女王。

 

 その最期をともにしたのは一人の名もなき馬丁の少年だったという。

 

 それが果たして真実だったのか、そうあれかしと救いを求められた虚像だったのか。

 

 もはや語るに値しないこと。

 

 悪の女王は堕ち、そして新しい日がのぼる。

 

 人々が正しいと信じる、新しい時代がはじまる。

 

 夥しいほどの屍を積み重ねて生まれた新しい時代が。

 

 

 

 

 ……またいずれ、墜ちる時が訪れるその日まで。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。