悔いは無い。
人によっては主人公イライラするかもだからごめんね。
《目標ロックオン》
《背部WRマイクロミサイル斉射》
《肩部ガトリングスマッシャーユニット射撃開始》
《対MS用キャノン__《目標沈黙》
『何ィ!?もう少し歯応えが無ければ困るぞ!新製品のお披露目すら出来ないではないか!』
《射撃管制オールグリーン、未使用兵装3》
『ええい、ジェタークの跡取りは居ないのか!あのレベルで無くばそもそも弾幕を掻い潜れないぞ!』
《情報を検索……ジェターク・グエルは現在婚約者の農園に向かって歩行中》
『なんという事だ……この放送を見た顧客になんと言えば良いのだ!?』
決闘の場に於いて、異様に重厚なMSに乗るパイロットは嘆く。
新製品のプレゼンをする為に態々特にメリットもない決闘を承諾したのだ。
だと言うのにこうも歯応えがないとそれすら出来ない。
全く役に立たない雑魚であった。
「待った!」
む?
《機体から熱源反応、再起動しています》
おかしいな、アンテナはさっき砕いたのだが……
「まだだ!まだ終わっちゃいない!あんなモノ認められるか!」
まぁ、確かに、中々残念な落ち方だった。彼は何を賭けたんだったか……
《記録を再生、地球寮所属『ニカ・ナナウラへの接近禁止』》
ああそうだった……何故だ?というか何故我との決闘で賭けたのだ?
この大舞台であんな小っ恥ずかしい負け方でよく大口を叩けたモノだ。
距離は100mと少し。
元々接近戦向けの機体では無い此方に対して彼処は明らかに高機動型。
なるほどこの距離なら向こうの方が有利だろう。
とはいえ一度は決着が付いた以上、ルールはルールである。
向こうに守る気は無さそうだが。
……丁度良い、再度起き上がってくれたのならそれなりの返礼で返そう。マイクを繋いでくれ。
《了解、兵装リンク全て正常、いつでも》
『__決闘をご覧の皆様方!毎度お世話になっております。アラサカ重工、アラサカ・カムイでございます。』
放送が、始まる。
誰もが知っている事だ、彼がプレゼンを始めるのは勝利を確信した時。
敵の生殺与奪を握り、劇的に、最大限目立つように撃破するのだ。
「オオ、ウオオオオオオアアァ!!!」
激高したスペーシアン、地球寮の生徒に横恋慕していた彼は雄叫びを挙げながら突撃する。
あまりに単純、あまりに愚直。しかしそれ故に効果的でもある。
鈍重な重MSを駆るカムイに避ける術は、無い。
避けるつもりならば。
突き出した右腕から何かが飛び出す。
半個体のそれを食らったMSはだんだんと動きが遅く、やがて完全に静止した。
『……フハハハハハ、かかったなアホめェ!此方が当社の新商品!『トリモチランチャー』!』
『当社自慢の大火力シリーズ、残念ながら実弾故に当てるのが難しいと!その声にお応えしまして!』
『腕部ユニットから粘着性、帯電性の物体を射出!電子的物理的双方で敵機を停止!』
『二の矢で放たれる当社の火砲は敵MSを木っ端微塵に、完膚なきまでに粉砕するでしょう!』
芝居がかった動きでMSを動かし、大衆に兵装の有用性を煽る。
__間違いない、これは売れる。
確信があった、故に最早決闘に拘る理由さえ無かったのだが。
《報告、敵機僅かながら作動。トリモチ持続時間半分です》
恍惚とした表情で想定される需要と必要な生産ラインを計算しているとAIから告げられる。
驚いたな……作動時間の半分で動くとは、中々の胆力じゃないか。
見直そう、決闘の規則を破った愚か者とはいえ。
せめて全力で葬ってやろうか。
背部WRからヒートナイフを引き抜き、敵MSに突き刺して切る。
赤熱した刀身が四角く胸部を切り裂いてコクピットを抉り抜く。
それを潰れない程度に放り投げて男は再度放送の電源を入れた。
『さて、では実演の方。させて頂きます!』
『ご協力して頂くのは……ダレダッケ……まぁ良いか!ご覧下さい当社の破壊力!』
WRに吊るしたチェーンマインを巻き付け全武装を射撃待機にする。
「止めろ!止めてくれ!」
《全武装再装填完了。射撃、いつでも》
『ガハハハハハハハ!今更命乞いなど!先に規則を破ったのは其方だろうに!』
『せいぜい見ていろ!戦い方を教えてやる!』
《ガトリングユニットフルファイア、腰部グレネード全弾射出》
肩部のガトリングの斉射と六連装グレネードがボロボロの機体を更に削り砕いていく。
《二十連マイクロミサイルオープン》
そしてある程度、チェーンマインの爆風が届かなくなる距離になってからミサイルを展開。
《120mmキャノン徹甲弾、準備完了》
『我を倒したくば御三家のパイロットを連れてくるのだな、この程度では我には、
背部から包み込むようにミサイルによる飽和攻撃、同時に放った徹甲弾がMSを貫き__チェーンマインが起爆した。
跡には残骸一つ残らず、一機の重MSだけが残る。
『ご満足頂けましたでしょうか!ご注文、お問い合わせは当社HPより承っております!』
MSで器用に一礼した男はあくまで自社のPRを優先する。
正直、勝敗よりも優先されるのだ。
勝った方がアピールになるし性格上も宜しいだけで。
『ああそれと__ニカ・ナナウラは既に我のモノ故な、容易くくれてやる気は無い。』
《……パイロットに報告》
『どうした、コールセンターから喜びの悲鳴が挙がったか?』
《それもありますが……放送、継続中》
『……まぁ良いだろ、これにて当社の放送を終了致します!』
「ガハハ、勝ったぞ。スペーシアンといえど我が社の敵では無い。」
「お疲れ様。大丈夫だと思うけど機体はハンガーに入れておいてね。」
「流石だ我がメカニックよ、お前に任せるなら心配はない。」
ニカ・ナナウラは俺が最も信を置くメカニックだ。
そして未来の我が社員でもある。
尤も、地球寮の在校生は全員我が社に入れるつもりだが。
そしてその後ろから近付いてきてるのはチュアチェリー・パンランチ。
パイロット科一年……俺の後輩だな。勿論未来の社員である。
「どうしたチュアチェリー、わざわざレンチなんか持っ」
「一回死んどけ!」
肩掛けで持つサイズのモンキーレンチ。アーシアンのパワー。
それらが合わさった全力の一撃が脳を震わせた。
「あ"〜……俺じゃなきゃ死んでると思うぞ、チュアチェリー。前科持ちになるなよ。」
「そこは普通に死んどけよお前よ!」
「ガハハ、選ばれし王の玉体である。そんな工具程度では傷一つ付かぬわ。」
パワーこそあれ此方は場数が違う。
宇宙一の軍事企業の跡取りが生身で弱いわけにはいかないからな。
「そんなことよりお前進路希望は出したのか?そろそろ一回目の時期だろう。ほら用紙だ。」
「あ?……志望欄に『アラサカ重工』って印刷してあるんだけど?」
「安心するが良い、第三希望までしっかり記入済だ。」
爽やかな笑顔でサムズアップする男。
その顔に拳が突き刺さるのは当然の結果と言えた。
「はい、件の決闘の映像。」
「前が見えねぇ。」
「自業自得じゃないかなぁ。というかホントにどういう身体してるの?」
「案ずるな、その内……よし戻った。」
ようやく視界が開けてくる。
凶暴な女子である、とはいえクセの強い社員を使いこなしてこそ。
少なくともパイロットとしての将来性は期待出来る。
さてと、未だに俺は信じ難いぞ。
ジェタークの跡取りが俺以外に負けるモンか?
シールドドローン……いや、シールドビットか?
成程、変形して攻守に併用出来る兵装と。
対ビーム力場を精製しているように見える。
そうでも無ければ軽装であの防御力は考えにくい。
しかし……うーむ……
わ か ら ん
ビーム関連の技術はウチの会社ホントに遅れてるからな。
対ビームコーティングでギリギリ他社の二歩先ってところだ……
だがまぁ、対ビームに特化した兵装に見えるな、成程。
そしてディランザとはいえグエル・ジェタークを落とした実力。
「ニカ、お前このパイロットの……名前は……名前……」
「スレッタ・マーキュリー。人の名前覚えるのホントに苦手なのね……」
「ええい、貧乏人の名前なぞ一々覚えて居られるか。マーキュリー、水星とは。
出生地そのままの名前とは中々キナ臭いが……今話すことじゃないな。」
「決闘委員会に連絡しろ、次は俺が戦る。当人にも伝えてやれ。」
勝てば良し、少なくとも戦えれば良い。
新たなホルダー、全力で見極めてやる。
「はぁ……一回負けてみた方が良いと思うよ、私はね。」
「なんだニカ、もしかして怒ってるのか?カルシウムをしっかり取るが良い。」
社員の体調管理も優秀な長の仕事であるからな。
「もしかして本当になんで怒ってるのか分かってない?」
「皆目見当も付かんな!ガハハ!」
「本当に負けてくれないかなぁ……」
メカニックを怒らせると実戦で
とはいえ何故怒っているのか分からないのでどうしようも無いのだが。
「うむ、美味いな!」
まぁ当然なのだが。
地球産の食材をこの俺が手づから調理したのだ。不味い要素がない。
やはりローストビーフサンドはシンプルな味付けが至高だ。
それはさておき。
「………」
なんだこの貧乏人は。
俺が気付いてないと思ってるのかずっと此方を見ている。
というか、サンドイッチを見てるなこれは。
「………」
「……おい、そこの貧乏人。」
「ヒイィィィ!?スイマセンスイマセン!」
「喧しい奴だ。ほれ、欲しいならくれてやろう。」
「はぇ!?い、い、良いんですか!?」
「位高ければ徳高きを要す、というやつだ。黙って受け取るが良い。」
上位者の勤めである。
ガハハ、良い食いっぷりじゃないか。
卑しい?否、それで良いのだ。
……実家の犬を思い出してきたな。
「一つじゃ足らんだろう。全部食うが良い。」
「え、えっ、ででも貴方の分は……」
「あぁ?遠慮する気か?良い身分じゃないか。良いか?俺たち金持ちはお前ら貧乏人に富を分け与える権利と義務がある。お前達貧乏人にはそれを甘受する義務
うむ、それで良い。好きなだけ食え。
そして子孫代々この恩を語り継ぐが良い。
「お昼一緒に食べるんじゃ無かったの?」
なんだニカか。
仕方あるまい、貧乏人に全てくれてやったのだ。
犬みたいで案外愛らしい__なんだその目は。
何?コイツがジェタークの跡取りを倒した件の……えーと……
「おい、貧乏人。名を名乗れ、俺が許す。」
「ヒェッ……ええと、あの、スレッタ・マーキュリー、です。」
ほう、なるほど。話が早いじゃあないか。
「俺はカムイ・アラサカ。お前に決闘を挑む者だ。」
「……へ?」
「決闘委員会の承認が出次第通達が来るだろう……それと。」
カバンの中から数十枚の紙束を取り出す。
「俺はお前の決闘を見て、研究した……だがお前は俺を知らない。公平さに欠けるだろう?
コイツは俺の機体のデータだ、そこに居るニカでも、お前の花嫁でも、読める奴に渡すが良い。」
あくまでフェアに。ある種ハンデとも言えるが。
「改めてマーキュリー。スレッタ・マーキュリー、お前に決闘を申し込む。
俺が勝ったらアラサカ重工の社員になってもらうぞ。其方の要求は好きにしろ。」
「え。」
アラサカ重工
地球最大規模の軍事産業を担う企業。
地球に於ける兵器のシェア率は七割(MSを除く)を占める他、宇宙でも広く普及している。
雨天や水中など、地球の様々な環境で性能の劣化を余儀なくされるビーム兵器と違い、あらゆる環境下で一定の性能を発揮可能な金属と火薬の兵器は信頼性が高い。
MS部門は結成から僅か3年で試作段階のMSをロールアウトするなど、技術力は御三家にも劣らない。