『オペレーション 戦闘モード起動』
『よしきた。本命のスレッタはともかく、前座で消耗したくはないな……』
『だからってお前、普通同時に相手するなんて言うか?』
『三下の貧乏人どもに時間を割くだけ有情と言え。さっさと終わらせて我が友を迎えたいのだ。』
コンテナをこじ開けるように爆発的な加速で飛び出す。
その動きは普段の鈍重な砲撃機とはまるで違った。
かつての乱闘……ホルダーだったグエル・ジェタークに二度目の敗北を喫した神威が作成した機体。
格闘戦を得意とするグエルに敢えて肉薄する為の高機動仕様である。
高機動ながら、その装甲は壱号機となんら遜色は無い。
重砲撃仕様でなく通常仕様がベースの為、装甲は三枚重ねとなっているが。
その分、武装を極限まで簡略化。
今回使用するのはヒート刃を伴う手斧が四振り、そして大破した伍号機から回収出来た一振りの太刀のみ。
「元より乱戦仕様、程良いか。」
紅く光るカメラを四方八方に動かし、動作を確かめる。
継いでマニュピレーターを開き、閉じて、腕を振るう。
「悪くない……AR-02-P。機動兵器試作弐号、荒坂神威。出るぞ。」
『即席のチームとはいえ、作戦は分かっているな?』
『了解了解、タンクのアンタが盾になってる間に格闘機三機で足止め。そんで後方から__』
『……あ!?は、はい!私がアンテナを狙撃します!』
『おいおい、大丈夫かよ?』
『もう始まっているんだぞ、戦いに集中。』
全く、これだからグラスレー寮の生徒は……
とはいえ、五対一。元ホルダーであるグエル・ジェタークならともかく、相手はそれに勝てなかった男である。
本来ならホルダーのスレッタ・マーキュリーと戦いたかったが……俺たちは足切りという事だ。
しかしここで勝てば嫌でも認めさせる事が出来るだろう。
『レーダー反応有り。まだ距離はあります。』
『此方も確認した、間もなく視認するぞ。』
一度レーダーから目を離し、モニターを確認。
外部を鮮明に映すカメラが一瞬、影に包まれる。
違和感を感じつつも目線を再度レーダーへ。
敵性反応を示す赤点が、既に後方に移動していた。
『……運用試験にもならないのは勘弁して貰いたいのだがな。』
振り向いて、轟音。時、既に遅く。
狙撃機の残骸を払い除け深紅の機兵が振り向く。
重MSの質量と速度。
単純明快なパワーで叩き潰した。
そう断じて、主砲を一発。
鈍く光る瞳が我々を品定めする、大きな隙だ。
弾着まで0.34秒。確実に命中する。
弾頭が頭部を捉える刹那、膝から崩れ落ちるように奴は倒れた。
体落下と同時に前方に加速。自由落下の初速で踏み込み、反応を遅れた一機の頭部を切り落とす。
二振りの斧が振るわれるまでの間、僅か5秒。
たった5秒の間に二機の僚機を失ったのだった。
「MSの動きではない……」
あれではまるで生身の人間である。
単純な加速力はさることながら、反応速度がMSの常識を逸脱している。
否、或いは生身だとしても、あのように回避と攻撃を両立させるのは困難だろう。
ともかく、分かったのはいつもの砲撃仕様では無い事。
格闘戦に特化した特殊な機体であるという事である。
最初こそ呆気に取られたが、残る僚機も既に体制を整えている。
狙撃機の役割をタンクが担い、作戦はそのまま……!
意思疎通を済ませた二機が襲いかかる。
どちらも決闘に於けるランクは圏外だが、複数回の経験がある腕利き。
直線的、単調な攻撃ではなく様々な角度、タイミングで攻撃を重ねる。
だが、神威は冷静だった。相手の行動を見てからでも十分対応は間に合う。
武道、武術に於ける『後の先』。
後手なれど、無駄さえ省けば先手を上回る。
ならば、対応する後手こそ有利。
二機に攻め立てられて尚、神威は僅かずつ押してすらいた。
こうなれば必然、盤面を変えるには第三者の介入が必要。
『早く撃ってくれ!』
『やかましい!こっちもやってる!やっているが……!』
射線が開かないのだ。
攻防は激しく、高速での移動を伴いながら常に変動している。
その為、弾速が遅くFCSがパッシブロックしかしない主砲を直撃させるのは難しい。
何より、誤射すれば確実に僚機が吹き飛ぶ。
それでも僅かな死角からようやく射線を通した瞬間僚機を間に挟まれる。
決闘仕様の弱点、コクピットをロック出来ず__照準も合わない__と合わさり、捉える事はほぼ不可能。
あの者は確か、グエル・ジェタークより決闘の総数は多い。
場数の多さはそのまま経験になる。
模擬の戦争ではなく、決闘という括りに誰よりも順応している。
対複数戦さえ何度が経験しているに違いない。
そんな中、突然神威は手に持つ二振りの斧を投擲。
交錯しながら赤熱する刃が飛来し、タンクは咄嗟に砲の一門を犠牲に軌道を逸らした。
即座に予備の斧を再度両手に持ち、拮抗状態を維持する。
断ち切られた方の砲がまだ動く事を確認し、再度狙う。
タンクは前線から300m程離れて俯瞰していた。
だから気付いた、後方のタンクだけが。
『……!?避けろ二人ともッ!!!』
『なんだ!?こっちは手一杯で__
投擲した斧がさながらブーメランの如く戻り、二機の頭部を引き裂いた。
そのまま回転する斧を掴み取った赤い機体が此方を見やる。
「近過ぎる……!」声に出たか出ないか。
瞬き一つの間に距離を詰められ、気が付けば既に眼前。
右上段からの袈裟斬りをギリギリの旋回で躱す。
とはいえ、今のはまぐれだ。潰されんとする蝿が偶然避けられたのと変わらない。
だが、それでも。ここまで有利な条件で何も出来ず負けるワケにはいかない。
両手の斧を振り上げ、叩きつけてくる敵機に、両腕を噛ませる。
武器腕は両方破損したが、腕諸共武器を食い込ませた。
そしてこの近間。
断ち切られたキャノンが丁度撃てるギリギリの距離。
『ファイア!』
肩のキャノンが敵に放たれる、その瞬間。
左右から交錯するように頭部を切り落とされた。
カメラを失い、暗転する視界の縁に決闘の敗北を告げる文字だけが浮かんでいた。
当然ながら無傷で勝利を修めたワケだが。
あの戦車乗りは中々良い動きをしていた。
「だがまぁ、奥の手とは隠しておくモノだ。」
Infighting Assist SubArm Unit……長いので単にサブアームと呼ぶが。
このサブアームを展開することで一時的に四刀、いや四斧流を扱う事が出来る。
シンプルだがそれ故に奇襲性能は高い。
尤も擬似的とはいえ腕が四本ある感覚を持って操作しなければならない事。
また、この弐号機がパイロットの脳波を検知して通常の操縦以上に人に近く、
迅速な反応と行動を可能にしているという事。
その脳波を検出出来る者が限られていると考えれば量産には向かない。
限られている……というよりごく稀。非常に少ないのだそもそも。
異常な程敵意、殺意を敏感に感じ取れる才能と言うべきか。
ファラクトの残骸を回収した
パーメットを身体に通して機体とパイロットを一体化させるようなモノだ。
その反動は想像に難くない、事実捕らえた実験体の殆どが発狂死したと聞く。
そんなものを俺の身体に通すわけにはいかず……代替としてこの形式を取っているワケだな。
「そんな事より次だ次!スレッタと決闘するぞ。」
『えっと……申し訳ないけど止めて貰えるかな……』
『何故だ……』
『ほら、二人が戦うと毎回何処か壊すでしょ?』
『……………………否定し難い正論は酷いぞニカ。了解、帰投する……』
無念だ……しかし、嘆いている場合ではない。
ふざけた事にこの後は如何にも退屈そうな会議に参加しなければならない。
時間が無かったのも事実ではある、決闘を理由に不参加にしようと思ってたが。
手早く支度を済ませる。
自室に戻り、まずサウナを1時間。
水風呂を10分に、外気浴が20分。
整髪と着替えを5分で済ませ、俺は1時間遅れで到着したのだった。
「……遅い!」
「何を言うか、寧ろ頭を垂れ、わざわざ訪問した俺に感涙し子孫代々語り継ぐ詩とすべきだろう。」
「どうして貴方はいつも尊大なのかしら。」
「偉大なる初代アラサカ、ならば祖の血を引く俺が偉大なのも当然だろう。
俺の居ない間に内容は纏まったか?此方としてはさっさと切り上げたいのだがな。」
「ああ、グループの総意として、プラント・クレタを襲った謎のテロリストは許せない。
グループを挙げて地球へ捜索、追討部隊を送らせて貰うよ。」
「テロリストを許し難いというのには同意だ。
だがな、ウチの領域に土足で踏み入るのはなぁ……」
「別に貴方の星というワケでは無いでしょうに。」
「御明答だご婦人。しかし、しかしだな。俺は荒坂だぞ。
かつてのドローン戦争で荒廃したとはいえ、残ったインフラ地区の殆どを管轄しているのはウチだ。事実上地球殆どは領土と言える。」
「そもそも、君たちの立場を分かっているのかい?」
「今回の犯行の裏に俺たちが噛んでいると考えているならば作家の才がある、誇ると良い。
かように遠回しで、姑息な手段は取らぬさ。俺なら正面から力ずくで奪い取る。」
偉丈夫が獅子面で睨み付ける。
そういう事をするのは寧ろ貴様だろう、そう返す。
「本気かい?」
「当たり前だ……そうやってお前は、何もかも計算ずくでモノを言う。」
つまらんな。
「前にも言ったが、貴様は王の素質が無い。熱に浮かされるような夢が、大望がない。」
王とは、君臨する者。
実現の為の過程、計算などは下の者にさせれば良い。
必要なのは魅せること。
自らの身命を賭すに値すると思わせることだ。
「つまらん男よ。そんなだから、惚れた女子一人救えぬのだ。貴様は。」
「それとなんの関係も無いだろう。」
「それよ。せめて激昂の一つもすれば良いというのに。知的に、人を見下すように動く。
その姿の何処に人は惹かれる?何故忠誠を尽くせる?兵にも、将にもなれど、貴様は王には向かぬな。」
口角を吊り上げ、男は獰猛に嗤う。
社長は王である。つまり舐められたら終わりなのだ。
「まぁその点、ミオリネ・レンブランは素晴らしい。」
更に爆弾を投下する。
「知っているかシャディク、あの女はこれまで如何にも親の七光りのように振る舞い、無能そのものであったが……蓋を開けてみれば成程。社長業に於けるありとあらゆる重責を乗り越え、不要な仕事は余すことなく俺に押し付けてくる!信じられん暴虐、有り得ない。そうは思わないか?」
「………さぁ、何の話だが。」
「
王の中の王たるこの俺を小間使いにするのだぞ……最高ではないか。
アレこそ王の素質、いずれ貴様らは一様に平伏すだろうな。」
「ホルダーに興味が無かった君がそこまで言うとはね。」
「勘違いしてないか?別に伴侶として求めているワケではない。
というか、アレの全ては王としての理想なのであって、妻にも母にも向かぬだろう。
正直、こぞって奪い合う貴様らは滑稽としか言えんな。」
その場に居る全員を嘲り、神威は立ち上がる。
「アーシアンの問題は、アーシアンで解決する。だが、部隊を送るのも止めやしない。
もし見かけたら躊躇いなく撃つよう俺は部下に伝えるがな。」
振り向いた背後に突き刺さる数多の視線を無視しながら俺はその場を後にした。
「……ああ、それと。俺は尻派だ、尚更興味が無いから安心しろよ。」
オープンキャンパスねぇ……
ヘッドハンティングの好機といえばそうだが、青田買いはどうもリスキーだ。
実際入学してもらうまでその能力を測るのは難しいものがある。
個人的にはやはりランブルリングを心待ちにしているがね。
「なぁスレッタ・マーキュリー。」
「ふぁい?」
「口の中を飲み込んでから返事をするのだ、まぁ良い。
この、お前の妹を名乗る不審人物どもはなんだ?」
食い方が汚い……!いや本当に凄まじいな。
茶髪の方は教養が云々の領域を逸脱している。蛮族の略奪跡と言った貪り方だ。
一方で緑髪の方はまぁ次第点だろうか。良くはないがわざわざ指摘する程でもない。
とはいえ随分と食が細い。
「体験入学のアーシアン二人、食い足らないなら好きに頼むが良い。
将来の後輩の為に、会計はこの荒坂神威が受け負おうじゃないか。」
「ありがとお兄ちゃん!私パフェ!一番大きいの!」
「あ、私も食べたいです!」
実に平和でよろしい。
年頃の子供なんてこんなので良いのだがな。
「お前はそもそも足りるのか?」
「放っておいて下さい。」
何とも辛辣な奴である。
『どうする兄ちゃん?処す?処す?』
彼女らと同年代である三番目の妹が脳内で語りかけてくる。
……相手は子供だ、ムキになっても仕方ない。
『注文良いだろうか。』
『あ、はーい。注文どうぞー。』
『メニューの甘味を端から端まで、全部持ってきてくれ。』
『へ?』
『支払いはカードで頼む。』
巨大なトレー二つ分の甘味。ご機嫌なデザートだ。
「ほら、選べ。あーっと……名前が分からん!」
「うるさいですよ……」
「名を名乗れという事だ、それくらい出来るだろう。」
まぁ覚えられるかは別だが。
「……ノレア。ノレア・デュレク」
「ふむ、ノレア……ノーレアか。グノーシス主義に於けるアダムとイヴの仔の一人。
「由来なんて関係ありませんよ。」
「何故だ?良き名だ、名付け親には感謝するべきだと、俺は思うがな。
まぁ良い。ノレア・デュレク。好きなのを選べ。」
「だから要らないと……」
「位高ければ徳高きを要する、だ。俺には貴様らへ施す権利と義務がある。
貴様ら貧乏人には施しを受ける義務だけがあるのだ。黙って受け取れ。」
膠着状態が続く中、根負けしたようにノレアが選んだのはコーヒーゼリー。
「またカロリーの低そうな……食が細いと後々困るぞ。」
「放っておいて下さい。」
「しかしなぁ、お前らくらいの年齢だとまだ身長も伸びる。
ましてや女子は将来的に不妊なんかのリスクも高まるのが通説だろうに……」
「……普通に考えてセクハラにならないか、とか気にしないんですか?」
行ってしまった。
理由はどうあれ、子供の食が細いと心配になるんだがな。
俺なんか一日10万kcalを割る事はそうそう無いというのに。
さてと、乱闘に向けて機体の整備でもしに行こうか。
そろそろホルダーにも勝ってやらねばな。
神威……食が細い子が気になる兄貴肌。
巨体故にビスケット・オリバ並の健啖家である。
ノレア……唐突にセクハラをされた、可哀想。
ラウダ……神威の傍若無人さに初めて触れた、胃が痛い。
シャディク……追加で脳を破壊された、哀れ。
にしても水星の魔女、二期で締められるかちょっと不安。