位高ければ徳高きを要す   作:CATARINA

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怒涛の三連投稿!すげー頑張った!


死灰また燃ゆ

「あー!あたしのルブリス・ウルが!」

 

荒坂重工本社第一作業場。

専ら、神威が自らの試作機などを調整している場所である。

回収された試作弐号機と二機のガンダム、ウルとソーンは此処に運び込まれていた。

装甲部を全てパージしてしまった弐号は一先ず元々の姿に戻し、格納庫へ。

そしてガンダムは二機とも研究と解析の為に解体される最中であった。

 

「もう乗ることもあるまい、惜しむ事か?」

「それじゃあ私たちは……」

「どうやって戦えと……?」

「あのなぁ、操縦者を殺すようなあんな機体に乗せるわけが無いだろう。

自殺願望があるなら、話は別だがな。機体は俺が作る、最高のを仕上げてやろう。」

 

神威は快男児らしく胸を叩く。

恐らくはそこまで深く考えてはいない。

機体よりもパイロットを優先する思考故の発言だ。

しかしそれ、彼女たちにとって。

もうガンダムの呪いに苦しむ事は無い。

そう、言い聞かせてるのに他ならない。

 

「……えへへ。」

ソフィが前を歩く神威に飛びかかって抱きつく。

超人的な体幹によって体制は微動だにしないが。

「む、危ないぞ。」

「大丈夫だって。だからこのまま連れて行って?」

「落ちないように然と捕まるのだぞ。」

 

それがどれだけ彼女らの心を救ったか。

どれだけ心に響いたのか、当の本人は考えていない。

考えずとも最適解を導き出し、行動出来る才能。

 

暫くぶら下がるソフィと自分の手を見比べていたノレアも、意を決して神威の手を取る。

「それで隣の作業場には新たな機体のフレームが……どうした、何かあったのか?」

「いえ、別に……はぐれたら困るので。」

「なるほど。確かにここは広い故、誤って離れたら危険だ。

事実、社内で遭難した者が出た事すらあったからな……」

 

どう考えても建前なのだが。

荒坂神威は変なところで鈍い男であった。

 

「素直じゃないなぁ。」

「うるさい。」

「うむ、これは動きにくいな……重心を……そうか……」

「へ?」

 

掴んだ手を強く握り返される。

そのまま引かれ、崩れた身体を掬い上げるように抱えられ、抱きとめられた。

 

「わぁお。」

「やはりウェイトは前後左右で均等に分散させた方がバランスが取れるな。

機体に於いてもカウンターウェイトの重要性がよく分かる。」

「え?え?え?」

 

後ろにおぶったソフィと釣り合いを取るための抱き方。

そうは言うものの……それは所謂お姫様抱っこと呼ばれる格好である。

多くの女子の憧れの格好でありながら、抱える男の度量が伺える試金石でもあると。

相当な筋力とバランス能力が無いと腰などに非常に負荷がかかるのだ。

 

「一週間そこらで変わりようも無いが……相変わらず軽いな。

まさに羽もかくやと言ったところだぞ?もっとしっかり食うようにな。」

「は?へ?」

「ねぇねぇ、後であたしもやって!やって欲しい!」

「別にそれくらい幾らでもしてやるが……さてと、次はハンガーに行くぞ。

お前たちの新たな機体になる基礎フレームが既に完成している。」

 

このまま、移動!?

この格好で!?

 

ここでノレア、ようやく状況を理解する。

確かにお姫様抱っこは女子の憧れ。

世俗に疎い地球の魔女たちもそれくらいは知っており、当然仄かな憧れがあった。

しかし、実際にされてみて気が付くこともある。

そう、この格好。何故かやたらと恥ずかしいのである。

 

そしてこのままハンガーへ。つまり、多くの社員らに見られるということ。

 

「下ろして!下ろしてください!」

「おいおい暴れるな。落ちたらどうするのだ。」

「大丈夫大丈夫、ノレアも本心では嫌がってないからさ。」

 

じたばたとどうにか解放されようと藻掻く。

しかし自らを支える男の腕は傷つけぬようにと優しく、しかし決して落とさぬように力強い。

どう足掻いてもその拘束は解けそうになかった。

 

「わー!あー!」

最早恥も外聞もない。

そうしているうちにも眼前に開発エリアの自動ドア。

既に手遅れだった。

 

 

 

「これは社長!フレーム部の完成度は120%……」

嬉々として神威に話しかけた技師の一人が硬直する。

無理もない、敬愛する社長が何故か女子を侍らせて……

どころか、何故か片方はお姫様抱っこをされている。

末端の末端に至るまで彼が結婚した事は知れ渡っているが、それでも驚きはするのだ。

 

「どうした?急に固まって。何か変なモノでも見たか?」

貴方たちの事です、とは流石に言えぬ。

言えぬが、このまま何も言わないワケにもいかない。

技師は三十年余生きてきた経験と知識を総動員し、何とか言葉を絞り出す。

 

「あー……いや、どうやらご夫婦、仲がよろしいようで。我々も安心でございます。」

「そう見えるなら良かった。一応この機体に乗るパイロットでもある。」

「何と、奥様の機体でしたか!それは尚更入念に整備しなければなりませんなぁ。」

「奥っ……」

 

その言葉に嬉々として気を張る社員たち。

相反するようにノレアは顔を真っ赤に染め、恥ずかしさから神威の胸に顔を突っ込んでいた。

だがこれは彼女にとって恥辱の始まりに過ぎなかったのだが。

 

「まぁあくまでフレーム、武装や細かな調整は実際にお前たちの意見を聞きながら作るつもりだ。

それでは次の作業場へ向かうとするか。次はだな……」

「え?」

 

誤算であった。

神威に降ろすつもりは無い。

このまま社内を巡ればそれで良いだろうと極めて前向きに考えていた。

 

「時間も程良いし、社員食堂でも行ってみるか?」

「いいね!私甘いもの食べたい!」

「え、わ、あぅ。」

 

食堂なんて、どう考えても先程の作業場より遥かに多くの社員が集まっている。

そこにこの格好で連れ出されたら……

 

「あー!離せー!助けてー!!!」

 

無駄な抵抗と知りつつ、ノレアは断末魔を響かせた。

 

 

 

 

「若いなぁ……」

その背を見送る技師は新婚の頃のあの雰囲気を思い出す。

今日は妻と娘にケーキでも買って帰ろうか。

そう思い、作業する手に再び力を込めたのだった。

 

 


 

その後、神威は時折二人の位置を交代しながら数時間。

一度として地面に降ろすことなく。

時間はその日の夜へと移る。

 

「うぅ……」

ノレアは枕を抱き締め、同化していた。

さめざめと泣く声こそ聞こえるものの、最早人の姿ではない。

「そんな泣くことないじゃんかー、本当の本当に嫌だったワケじゃないでしょ?」

「それはッ!それは!そうだけど!違うでしょ!?」

 

枕越しにくぐもった声を荒らげる。

 

「『撮った!新婚夫婦は円満!?社長夫妻の一日に迫る!』だってさー。」

「うわぁぁぁ!!!」

 

それは社内報の見出し。

既に恥辱心の限界に達して赤化したノレアと背中でピースするソフィ。

爽やかな表情で被写体となる神威らの写真である。

 

昼間に取られた写真が既に社内報として夕方には刊行されている。

そしてこの社内報は全ての支部、末端工場にも掲示されるのだから堪らない。

結果的に見られた社員らだけでなく、全世界に自らの痴態を晒されてしまったのだった。

 

『記者が撮影した写真を見せられ、ライターの私は嫉妬に駆られた。どうしてその場に居れなかったのか……とはいえ、誰がどう見ても分かる通り神威社長は二人の妻を溺愛しているのは明白である。遠からぬウチに跡継ぎとなるご子息の誕生を報道出来るだろう幸福を我々は噛み締めて__』

「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!」

「ああ!まだ読んでたのに!」

 

ソフィの手から忌々しい紙をひったくると、満身の力を込めて引き裂いた。

尤も、数万部と刷られたうちの一部でしかないのだが。

 

「あの男は……!本当に……!ううううう!!!」

「はぁ……ねえノレア。」

「なんで……ッ!?」

 

枕と一体化した身体を無理やり引き剥がされる。

その顔は先程までのおちゃらけた雰囲気とは打って変わって真剣。

戦場で見せるような凛々しく、真面目な表情だった。

 

「甘え過ぎなんだよ、ノレア。」

「甘え過ぎ?私が?」

「うん、だって今日のアレも、急に蹴ったりするのも。許して貰えるって思ってるからやるんでしょ?」

「!!!」

 

一般には試し行為などと呼ばれる。

親や教師、或いは夫などの親しい他人に対し、相手を困らせるような言動を取る事。

許されるラインを模索する反射的な行為とされている。

しかし時に、それを繰り返してしまう者もいるのだ。

『きっと相手はこれを許してくれるだろう。』

「相手が困れば自分を見てくれるだろう。」

そういった打算から繰り返してしまう。

親などから十分な愛情を注がれなかった子ほど強く発露する傾向にある。

 

「確かに心は広いし、何でも許してくれるような人だけど、いつか急に嫌になったら?

ノレア、私たちには何も無いんだよ。本当に何も。もし飽きられて、捨てられたら、終わり。

今度こそ助からない、最後のチャンスなんだよ。分かってるでしょ?」

「そうだけど……でも……」

「まぁ、人それぞれ甘え方はあるし、否定出来ないけどさ。」

 

二人の年齢とは相反して、やはりこういったところではソフィの方が成熟していた。

合理的、打算的ではあるが、その方が得と理解して行動出来ている。

 

「すぐにってのは難しいかもだけど、ちゃんと伝えよう?」

「……うん。」

「ありがとう~って、大好き~ってさ。」

「うん……」

「想ってるだけじゃ伝わらないでしょ?言葉にしないと。」

 

彼女らを苦しめたのは確かに、彼の一族である。

それを補って尚余るほど、彼の器は大きかった。

だが、その一方で、ノレア自身の器があまりに小さかったのだ。

怨み辛みで幾ら取り繕うとも、彼から注がれる愛情ですぐに溢れてしまう。

どうしたら良いか分からなかった。

そこまでしっかりとした愛を他人から注がれた事など、無かったから。

 

「どうしよう……」

「思い立ったが吉日だよ!今すぐ伝えに行こう!」

「え!?ちょっと、心の準備が……!」

 

半ば引き摺られるように隣の部屋へと移動するのだった。

 

昼間の時間を二人の為に割いた神威は当然その反動__先延ばしにした業務に追われていた。

尤もそれだけなら徹夜レベルの仕事量にはならなかっただろうが。

学園に帰還するまでに二人の機体の設計から資材の発注、作業内容の提示までを済ませたい。

そう思えば、仕事量は遥かに増加することとなる。

いつもの様に私室で作業をすれば二人が眠る邪魔になるだろうと、隣にある通常の社長室にて仕事をしていた。

 

幸い、業務自体は終了している。後は今晩で設計は終わらせておきたい。

電子媒体では無く手書きで、握るペンの先が見えぬほどの速度で書き込む。

地球の魔女、その名を悲惨なモノでなく、地球を守る誇らしきモノに変える。

そう考えながら外見や機能を考えていく。

 

よく考えたら、我ながら随分とあの二人に時間を割いている。

どうやら自分でも思っていた以上に彼女らを気に入っていたようだ。

尤も、スレッタなどと違い、関係を結んだ事による情などが含まれるかもしれないが。

 

「……案外俺は単純なのかもしれんな。」

 

恐らく、この場に彼の影が居れば『今更ですか?』とヘラヘラしながら笑う独り言。

彼自身、それを想像して苦笑いした。

 

機能自体は後にあのフレームを利用して制作する予定の試作機をそのまま。

武装は二人の適正に合わせて……こればかりは実際に乗せてみるしかないか。

何よりツーマンセルの動きが非常に巧みである、二機同時運用でこそ輝く仕様にすべきだ。

 

部屋の外から足音がする。

二人、体重からして小柄な女性。

「開いている、入れ。」

それだけで来訪者の正体に勘づいた神威は扉がノックされる前に入室を促す。

当然、入ってきたのはソフィとノレアの二人だった。

 

「まだお仕事残ってるの?」

「いや、お前たちの機体を考えていただけだ。中々難航しているが……」

「別に、動くならどんな機体でも……」

「駄目だ。」

 

どんなに難航しようが、どんなに苦心しようがそれは譲れぬ。

生半可な機体に乗せるなど俺の誇りが許さぬ。

 

「お前たちをそこらの機体に乗せるわけなかろう。少なくとも、この機体が仕上がるまで当然だが出撃も禁止だ。大人しく母上にシゴかれたり父上からマナーや知識を学ぶと良いさ。」

「それでも、ここまで時間を削ってまで優先すべき事じゃないよ。」

 

文字通り寝る間を惜しんで命を削り、作っているようなものである。

五徹までは前哨戦などと言い出す様な、神威の耐久力を知らぬ彼女らからしたら心配なのも無理は無い。

だがしかし。

 

「お前たちを死なせたくない、というのは優先すべき事ではないのか?俺はそうは思わん。」

 

特に恥ずかしげもなくこういう事を言う男であった。

あらゆる動作、あらゆる行動、あらゆる発言が他人の脳を焼く。

そういう存在である。

 

 

 

 

「……無理して欲しくないから!もう寝よう!」

「データ取りなら私たちも手伝いますから、また明日にしましょう。」

「む……お前たちがそういうなら別に構わないが……」

 

だが二人はそれで屈しない精神力を持っていた。

ある意味、王の伴侶として求められる素質である。

何処まで行っても我が強い彼の手綱を握ることは大事だ。

 

「スーツに着替えなくて良い仕事というのは気が楽だな……そのまま寝られる。」

 

彼もまた完全に絆されていた。

だからこそ油断しきりなのだが。

 

「それでね、ノレアから言いたい事があるんだって。ほら、ちゃんと言う。」

「どうした?頼みとあらば如何様にでも聞くが?」

「えっと、その……なんと言いますか……」

 

唐突過ぎて言葉が出てこなかった。

それでも伝えねばならぬ、伝えたい。

その気持ちがどうにか声をカタチにした。

 

「……ありがとう、ございます。素直になれなくてごめんなさい。

怨んでいたのは本当だし、今も正直、それは変わらない。変わらないけど……

それ以上に、貴方が。貴方の事が、好き、です。」

そう言って限界を迎えたノレアは再び枕と同化した。

 

面食らったのは神威の方である。

彼女らを苦しませていたのは事実であり、怨まれ続けても仕方なく、それでも良かった。

自分のみならず、相手の心まで融解していたというのは、有難かった。

 

「えへへ、言えたじゃん!私も同じ気持ち!だから、ね?」

 

そう言ってソフィは横になった神威に抱きつく。

薄手の寝巻き越しに若さゆえの滑らかな肌の感触を感じ、驚いて振り向く。

 

「お前服はどうした!?」

「脱いじゃった♪それでやる事は、一つだよね?」

「アレは半ば事故のようなモノだろう!」

「でもほら、ノレアも……」

 

再度振り向けば、嫌に息の荒いノレア。

完全に包囲されていた。

 

「まさか、断りませんよね?」

「言ったもんね、私たちが欲しいモノは何でもくれるって。」

 

確かに言っていた。

自業自得である。

 

「……分かった、分かった。俺の負けだ、それを持ち出されるともう勝てぬ……」

 

 

 

神威は自らの浅はかさを呪う事となったのだが、それは別に後の話である。




神威……結構愛が重い男。好きになると全力になっちゃうタイプ。
人たらしの極みであり、サラッとああいうこと言い出す。

ソフィ……意外と達観してるタイプ。ミオリネがもっとも見習うべき人になってしまった。

ノレア……言えたじゃねぇか。怨みより感謝と好意が勝ってしまった。

技師……帰宅後、妻をお姫様抱っこしてみた。腰をやって有給を使う事となる。

このソフィみたいに歳下のが現実みてるみたいなシチュが嫌いな奴はいねぇからよ……
だから、止まるんじゃねぇぞ……
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