でも一番やりたかったお話でもあるんだ。
対した期間を開けずに地球に帰ってきたワケだが。
「………!!!」
「はぁふぉふぃ(なぁソフィ)。」
「どうしたの?」
「はへほへははほへのふぁほひはひふひへるほだ?(何故ノレアは俺の顔に貼り付いているのだ。)」
地上に到着してすぐ飛び付いてきて、どうやれども剥がれ無いから諦めてそのまま本社まで来たが……
なんというか凄まじい目で見られていたぞ。
この間のお姫様抱っこの比にならないくらいの辱めになるのではないかこれ。
フェイスハガーだって写真撮られていたぞ。
(取り敢えず喋りにくいから口のところは開けてくれないか)
もごもごとつつきながら意志を伝える。
幸い上手いこと伝達が出来たようで口部を解放される。
「よし、何とか喋れるようになったぞ。それで何があったのだ。」
「怖い夢を見たらしいよ。」
「夢……それでこれか?どんな夢なのだ。」
「なんか、鬼を狩ってそうな声の雰囲気イケメンに必死に口説かれて
和解したところで溶けるチーズにされる夢を見たんだって」
「何と具体的な夢なのだ。そんな事あるか?」
まるで見てきたように言うではないか……
「あのなぁ、所詮夢だろう。実際にそのように死ぬわけでも無し……死なせる訳もない。
だから一度離れてはくれないか、ノレアよ。」
「…………」
「駄目みたいだね。」
「不便だが、仕方あるまい……取り急ぎ会議があるというのに。」
流石に身内では遅刻する訳にはいかない。
服装を整え、しっかりと準備をして会議室へと入った。
「社長!お待ちして……」
「………!?」
「 」
「…………………」
「ああ、待たせたな。ただいま諸事情で前が見えなくなっている故、一つ一つの内容をしっかりと発言して俺に聞かせてくれると助かるのだが。」
「……え、えぇ勿論。とにかく最初の議題に入ります……」
当然だが、社員らは皆驚愕した。
社長が当たり前のようにフェイスハガーを装着したまま入室したからだ。
「アフリカ支部で反乱の予兆アリ……彼処はずっと荒れているな……」
「不穏なスペーシアンの中途採用者や明らかな企業スパイの流刑地でもありますからね。」
「場合によっては八領を派遣する事も考える……欧州支部、この間の被害はどうだ?」
『はい、社長直々にお叱りを頂いたのが功を奏したようで……支部長と技師長で協力してなんとかなりそうな気も……なると良いですかね。はい。』
「ちくわ大明神。」
「宜しい。とんでもない問題児だがあの夫妻の力はこれからの荒坂にまだ必要だ……」
「誰です今の。」
まるで何も気にしていないように皆話している。
しかし実際、その内心はというと。
(誰か……誰か突っ込めよ……!)
(言い難い!言ったらマズイ気がする!)
(何故我々はよく分からないプレイを見せられているのだ……?)
(でも社長と奥様が仲良さそうで推せる……推せない?)
(異議なし)(推しの子がみたい)(暫く放置しておくか……)
水面下の駆け引きであった。
笑ってはいけない荒坂重工24時と化した会議は彼らを大いに苦しめたが、
何とか……本当に何とか前向きな結論で終えることが出来た。
神威の退室後、全員膝から崩れ落ちたのは言うまでもない。
そして昼食。
「なぁノレアよ、流石に食事が取れないのだが。」
「……」
それもそうか、と言わんばかりに不満気な表情で降りるノレア。
いつも通り大量の食事を平らげ、ノレアと共に歯磨きまで済ませた後……
よじよじと神威の身体に登頂したノレアは再び定位置に戻る。
「えぇ……」
「もうどうしようもないではないか。」
最早一生このまま過ごす気なのか?
前が見えない程度は問題では無いが、俺の身長だと一般的な扉などは頭がぶつかるし。
俺がぶつかると最初に衝突してしまうと思うのだが。
「こんな日中から乳繰り合うとは、随分と良い身分だな。我が愚息よ。 」
「母上!おられるなら伝えて頂ければ、何か用意をしたというのに……!」
「良いのさ、これから少しばかり反乱分子とやらの性根を叩き直してやろうと思ってね。」
「しかし、母上のお手を煩わせるわけには……」
ソフィは目を丸くした。
誰だこの男は。
尊大で自己愛の塊で、傲慢かつ慢心を旨とするあの男と目の前の姿がどうにも結び付かない。
いや、姿はどう見ても同じだろうし、同一人物なのだが……
「あ、お前たちもちゃんと礼を……!ノレア!頼む、頼むから一度離れてくれ……」
ぎちぎちと顔から音が響く勢いで剥がそうと藻掻くが微動だにせぬ。
この細身に一体どれほどの力が……!?
「女子の身体を手荒く扱うモノでは無いわ愚か者。お前が退けば良い。」
「グホエッ!?!?!?」
神威の身体に拳を当て、発勁一閃。
絶大な衝撃力によりノレアの拘束は無事に解け、神威は壁を十枚ほど突き破りビル上層から転落していったのだった。
「おっと、怪我は無いか。」
実子へのあまりに凄惨な扱いに対し、その妻であるノレアには恐怖を感じさせる程優しく。
見ていたソフィ、体験したノレア共々その場に平伏したのだった。
『この生き物を怒らせたら、殺される……!』
生物全てが持ち得る生存本能が警告を鳴らしている。
今すぐこの場から逃げ出したい。しかし。
明らかにもう間合いである。
今から逃走しても間に合わない。
「こ、このたびは、ふちちゅか者です、が!」
「ごしそく?さまと、結婚させて、させて……?えっと……」
心の中で泣いていた。
誰でも良いから助けて欲しかった。
「……母上!いくら母とはいえ、我が妻を脅迫するのは止めて貰いたいのだが!」
幸い、一番助けて欲しかった男が駆けつけてくれたが。
「なはははは!ウチの愚息には勿体無いほどの可愛らしい子たちじゃないか!なぁ!?」
「えぇ全くです……なのでそろそろ解放してあげては。」
「確かにこんな時間が経ってしまったな……仕方あるまい。」
もみくちゃにされた二人が漸く解放される。
遊びのつもりでも、獅子に甘噛みされた兎は容易く絶命するだろうと、想像させる状態。
「ははは!次会う時までに孫を仕込んでおくようにな!それでは!」
最後に凄まじい爆弾を投下し、母は去っていった。
「うにゅ……」「はにゃ……」
「……なんというか、その。本当にすまん……」
本当に嵐のような人である。
神威の特異体質の遺伝元であり、身体能力は常人の百倍を容易く超える__
18で神威を産んだこともあり、未だ35で若々しいのも脅威な母であった。
「言われたことはそんなに気にするな……お前たちの体格だとまだ危険だしな。」
「うん………」
「…………」
そのまま時間は流れ、その日の夜。
散々弄り回された疲労から二人はすぐに寝入ってしまった。
妻だなんだと扱われても、まだ子供と言って差し支えない年頃なら当然。
寧ろ様々な方面で無理をさせている自覚すらあった。
元々は、心安らかに眠ることも出来なかった。
娯楽はおろか、明日の食事も、命さえ保証されぬ。
そしてガンダムに乗り、戦いへ。
事実、そこまで追い込んだのは俺だ。
厳密に言うなら、俺の父や祖父。遡れば祖の代々全て、だが。
あの時、死にたくないと願っていた。
スペーシアンへの憎悪や、殺意も真実だろうが、それはそれとして。
その願いを見過ごせなかった。
だから救った、救ってしまった。
それまでは良かったのだがな。
優秀な社員を引き入れたつもりで……身内、と呼べる範囲に引き入れた。
そうだった。
幼い頃は人並みに、子供らしい夢を抱いていた。
誰も彼もを救い、幸せにしてやりたいなどと。
それは、無理だ。
どんなに力があっても、それは。
誰かを救うこと、誰かを守ることは、誰かを傷付けることであるから。
俺の恵まれた生活は、誰かから奪ったもので出来ている。
そういう一族で、そういう生き方だ。
その時点で、俺には資格が無かった。
俺には未来があった。
与えられていた、定められていた。
その罪を継ぐ必要があった。
投げ出すには会社は大きすぎた。
俺の無責任な行動が、一千万人を路頭に迷わせる。
選択肢は無かった。
覚悟をした。
誰も彼も救うことは無理だ。綺麗事を言うには遅過ぎる。
だけどせめて手の届く範囲なら、手の届く範囲では皆が幸せであって欲しい。
幾ら手を汚そうと構わぬ。
そして手を伸ばし続ける、その為にあらゆるモノを利用してだ。
だというのに。
今更__今更になって惜しい。
彼女らを利用したくないと、心から思う。
ついこの間までは、あらゆる脅威を跳ね除ける自信があったが、エアリアルを見て。
勝てない、と。
認めたくないが理解してしまった。
ああ、そうだ。俺は恐れている。
自分が死ぬ事は別にどうだって良い。
跡継ぎにこそ困れど、社が潰れることは無い。
それ以上に恐れてしまった。
あの二人を失うことを、俺の為に社員たちが命を投げ出すことを。
社長として王として、駒の役割を割り切った。などと言っておきながら。
事実として俺は切る事が出来ないだろう。
ああ愚かだ!なんという愚者だろうか!
荒坂神威としての俺よりも!ただの神威の感情を優先しようとしている!
初めてではないだろう。
チュアチェリーを庇った時、スレッタを守った時、遡ればカモイを救った時から。
俺はどうにも、甘さを捨てきれない。
実際戦いは好きだ、殺す事も大好きだ。
その度に心が軋む、ひび割れていく。
闘争と殺戮に最上の快楽と苦痛を感じている。
二律相反して我に有り。どちらも真実、どちらも本心。
神威。
MSという殻一つ通せば、何一つ問題ない。
「その中でなら
救いたい気持ちと殺したい気持ちを両立出来る。
王としての俺に許されないことさえ、神の身ならば行える。
何もかも解決出来る気がした。
今までもそうだった。
なら、今回もそのはずだ。
社長室の扉を閉める。
やるべき事は一つだろう。
戦わせたくないなら、俺が代わりに___
「全然出てこないね……」
「もう一週間は経つのに一体どうして。」
締め切られた社長室。
神威が閉じこもってから一度も扉が開いたことは無い。
一応仮眠室などは直通で備えられており、シャワーなども完備。
食事すら厨房からエレベーターで運搬出来るため、生活は出来なくもない。
事実、食事は取っている事が確認でき、業務も一日の分が一時間足らずで送られてくる。
しかしその中は誰にも分からない状態なのだった。
『元カラ、集中スルト閉ジコモルコトハソウ珍シクナイ。シカシ……』
ここまで長々と籠ることは初めてである。
神威の人柄こそを気に入って働く者の多さ故、心配の声は凄まじいモノとなっていた。
「どうにか、中に入れないでしょうか。」
『完全ナ密室ダカラナ。核シェルターニ等シイダロウ。』
「中に繋がってるのは……そうだ!ノレア!」
「何か思いついたんですか?」
「多分ね。でも私たちしか無理だと思う。」
『……話セタラ、ブン殴ッテヤリナ。アノ人ハ自分ヲ心配スル奴ノ多サヲ分カッテナイ。』
その言葉をしかと受け止め、ソフィとノレアは走るのだった。
『神威様。』
「………なんだ。」
『そろそろ夕食の時間でございまして……』
もうそんな時間だったか。
一日が24時間では短過ぎるな……
『おやすみにはなられているので?』
「……仕上がったら休む、案ずるな。」
冷蔵庫から缶のコーラを取り出し、糖分を補給する。
七日目。
七日の間手を尽くしても良い案は浮かばない。
没にした設計図は既に100を超えているだろう。
だが、勝てない。
勝てる未来が見えないのだ。
「過去最大の五徹を超え、六……今日で七か。流石にしんどいものがある……」
だがそれでも、止まる訳にはいかない。
何かある筈なのだ。何かが……エアリアルさえ打ち破る方法が。
誰も、何も失いたくない。
その為には俺が、強くあらねばならない。
だから……
「今だー!」
「なっ……!?」
疲労から、反応が遅れる。
首筋にチクリと痛みが走って世界が裏返り、視界が暗く落ちる。
そして気がつけば私室のベッドにいた。
「……一体、何が?」
「わわ、もう起きたの!?」
「一滴で象をひと月昏倒させる薬だそうですが……30分しか持ちませんか。」
薬……睡眠薬か麻酔薬か、よく分からんが。
「普段なら効かないハズ、なのだがな。」
「それだけ貴方は弱ってるんです。」
「そんなことは……ぐっ……」
「ほら、薬もまだ効いてるよね?私一人も跳ね除けられないでしょ。」
馬乗りにされても跳ね除けることが出来ない。
全く力が入らない。
一体どんな薬を盛ったのだ……くそ……
「このまま暫く休んで貰うからね。」
「そんな暇は、無い。俺には……やる事がある。」
「これがそのやる事ですか?」
ノレアの手には大量の紙束。
「部屋に散乱していたのを拾って来ました。設計図……それもMSの。」
「そうだ、エアリアルに対抗する為の、新たな機体だ。」
「……本当に命を削ってまでやる事ですか!?馬鹿なんじゃないですか貴方!」
「必要なのだ……!少しでも早く、完成させなければ……」
その姿はボロボロだ。
自壊しながら走り続けるマシーンでしかない。
「こんなモノが無くたって、私たちが貴方を守ります!
私たちだけじゃない!会社の人も、皆、皆で!」
ノレアは泣いていた。泣きながら、激昂していた。
それでも。
「お前たちは!何も、何も分かっちゃいない!ダメなんだよ!
勝てないんだ!ノレア、ソフィ。お前たちがどれだけ命を懸けようが!
俺がやらなくちゃならない!俺が守らなくちゃならないんだ!」
それが俺の存在意義だ。
俺の務めなんだ。
「どうして一人で抱え込むの!?どうして自分でやろうとするの!?
貴方を慕う人がこんなに居て、皆貴方を想うのになんで頼れないの!?」
ソフィも泣いている。
そんなハズじゃなかったのに。
もう泣かなくて済むようにしたかったのだが。
俺は。
「誰にも死んで欲しくないからだろ!皆が、皆莫迦だ!
どいつもこいつも、どいつもこいつも皆、俺の為なら死ねると言い出す!
俺は、皆の為になら死ねるのに。皆、俺さえ生き残ればそれで良いと思ってる!
ふざけるな!それで何の意味がある!?俺は何のために力を与えられた!?」
ああ、クソ。
言葉が纏まらない。取り繕う余裕もない。
涙がとめどなく溢れてくる。
理由さえ分からないが。
「このままじゃ、皆奴に、ガンダムに殺される!皆俺を生かそうとして殺されるんだよ!
俺は死なせたくない!会社の皆も!お前たちも!俺の身内は誰一人としてだ!
だから、お前たちには戦わないで欲しかったんだよ……!」
ただ叫ぶ事しか出来ない。
どうしようもない感情が溢れていた。
「だから俺が……!」
「うるさい!」
「うっ……」
搾り出した言葉を遮り、頬を殴られる。
「……ふざけないでよ、アンタが助けたんでしょう……!」
「そうですよ、貴方が私たちを生かしたんです。それなのに!
一人だけ楽になろうなんて、都合が良過ぎるでしょうがッ!」
「それは……」
「それは!?なんです?貴方のせいなんですよ!全部!!!」
「皆放っておけないからそう思うんでしょ!?」
ああ、駄目だ。
言葉にならない。
「恩だけ売って、返されるのはお断りなんて勝手は許さないからね。」
「……責任、取って下さい。ちゃんと道連れにしてください。」
莫迦め。
本当に愚か者ばかりだ。
まるでマトモな頭をしていない。
それが、こんなにも。
こんなにも有難い。
「……ったよ。分かったよ!とことん巻き込んでやるよ!!!
一緒に地獄まで行ってもらうからな馬鹿どもが!!!」
「最初からそのつもりだし……!」
「離れるつもりもありませんしね。」
満身の力で布団を跳ね除け、手頃なペンを走らす。
紙は適当な裏紙で良い。それより、今思いついた機体をどうしても形にしておきたかった。
5分ほどあれば問題無い。細かいところは後で修正すれば良い。
「よし!寝る!」
「あと喋り方、元に戻して欲しいなー」
「違和感が凄いんですよ。」
「無論だ!そして今日の事は他言無用!なぜなら俺は……」
「はいはい、お休みしようねー」
「最後まで言わせろ……!クソ、身体さえ動けば……」
わちゃわちゃしながら眠りにつく。
心の蟠りがほぐれたからか、心地好く眠れた。
ガンダムを恐れる気持ちは、最早無くなっていた。
神威……尊大!傲慢!不遜!有り余る才能と権力と財力を振りまく王の中の王!
しかし一皮剥いたらそこにいるのは、会社が積み重ねてきた罪と重圧を背負わされて大人になるしか無かった、しがらみだらけの17歳の青年でしかない。
本心では誰にも死んで欲しくないし、皆が幸せに生きて欲しい。
でもそうはいかないし、自分の会社は悪に染まり過ぎていた。悪でしか守れない人々を、自らのちっぽけな正義感で見捨てる事は出来なかった。
殺戮は殺戮で素で楽しめるタイプだが、無自覚にストレスが溜まる。
魔女s……責任取れ!地獄まで付き合ってやるから!
何となくで生かした彼女らがこんなに動くとは……
でも今更考えたら、直接の被害者である彼女らにしか救えなかった様にも思う。
救済というより『全員地獄まで道連れにしよう!』と唆しているが。
これは魔女、なんと恐ろしい……
社長のキャラがブレてる様にも見えるけど許して欲しい。
最初から挟むつもりはあった。
ただこう、たぬきとかと少年漫画っぽく殴り合う想定があったんだけど。
なんか生き残らせた魔女が良い仕事した。