位高ければ徳高きを要す   作:CATARINA

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ルビコンから戻ったので投げられます。

ちゃんと完結させるので生暖かい目で見守ってください。


位高ければ……

三ヶ月。

 

荒坂神威がMIA(行方不明)になってから三ヶ月が経過した。

彼は行方不明になる直前、音声記録を送信していた。

僅か数分に彼の……否、彼らの計画を詰め込んで。

 

《まず、これから48時間以内に、宇宙議会連合を強襲する事。

ミオリネは納得が行っていないようだったが……革命とは血が流れるモノだ。

抵抗は気にするな、荒坂の武を舐めた愚か者共にツケを払わせてやれ。

攻撃前に必ず声明を出すんだぞ?『これは治安維持の為の正当な粛清である!』とな。》

 

 

 

『敵艦隊を補足……30艦はいます……!』

『降伏勧告を出せ、此方はその10倍いる、とな。目的はあくまで首の挿げ替えだ。

揚陸部隊がそろそろ隠れ潜むネズミ共を発見しているところだろうさ。』

 

『……タテナシ1-1。此方ウスカネ2-3、議場で議員の一団を発見。対応願う。』

『タテナシ1-1了解……発砲許可。オレタチノ社長二楯突イタ莫迦ドモダ。殺セ。』

『了解。』

 


 

《次に、グループ解体で宙ぶらりんになった企業の買収だ。

不要なモノは後で仕分けば良い、ウチのやり方で全てを手中に納めろ。》

 

 

 

『確かにグループの後ろ盾は失ったが、アーシアンに従うなど……』

『別に我々は交渉に来たんじゃ無いんですよ。しかし、立場は明確にして頂きたいのですよ……あまり大きな声では言えませんが、いずれ我が社長が大事を起こします。もしその時、此方側に着いていないのなら……』

『最後通告、ということかね?』

『いえいえ!そんな大層なモノではありませんよ、ただの世間話……そうでしょう?

まぁよくお考えになって頂きたい、またいずれお話に伺いますので。』

『………待ってくれ!』

 


 

《それから……そうだな……死ぬ気は無いが、死ぬかもしれない。だからこそ伝えておく。

荒坂重工七代目、荒坂神威として。荒坂の名に恥じぬ働きを皆に期待すると。》

《位高ければ徳高きを要す……か。ガハハ、まったく祖は良き言葉を残した。 須らくを奪い、悉くを壊す。一切合切を守り、何もかも創る。その全てを負う権利こそが、王たる身にあるのだと。》

 

《そろそろ時間になるか……じゃ、後は頼んだぞ。》

 

 


 

 

 

 

 

 

 

機体の残骸は幾らか見つかったものの、本人の姿を残す物は一つとして見付からず。

行方不明扱いだった荒坂神威は、改めて死亡したとされた。

但し、多くのスペーシアン企業を吸収し、新たな秩序を担う第一人者となる荒坂の長が死亡したという事実を明らかにする事は出来なかった。

未だ燻る火種は多く、一先ずの平定すら見えぬ状況。

荒坂が頭を失った龍であると知られては不味い。

 

一般には公表せず、弔問客も殆どが親類。

僅かな部外者として数人の同窓生のみが呼ばれ、葬儀はひっそりと開かれた。

当然ながら棺の中に遺体は無い。僅かに詰められた遺品が尚更に空虚さを強調する。

 

未だに身体が完治していないスレッタを車椅子で押し、付き添いとしてミオリネ。

その他地球寮の面々も揃っており、彼の良き戦友だったグエルも弔問に訪れていた。

 

神威の家が風格を重視する名家であった為、式自体は厳かに執り行われ、残すは弔辞……

指名されたのはニカ・ナナウラ。

学友として最も交友が深く、お前が相応しいだろうと押し付けられたカタチだった。

 

冗談めかして言ってはいたが、二人としても内心はいっぱいいっぱいなのだ。

実際、彼は誰からも愛される性格だったように思う。

当然ながらその行いは善なるモノとは言い難く、恨みを持つ者も多いだろう。

それでも、彼と関わった誰もが彼を愛さずにはいられない。

天性の人たらし、当人の言い方を借りるなら王の素質。

だからこそ、あまりに惜しい。

 

『続いて弔辞に移らせていただきます。友人代表、ニカ・ナナウラさん。』

「はい。」

 

壇上に上がる。

少し高みから見通す葬儀場はやはり寂しく思えた。

 

『……神威くん。結局別れも言えず、改まった返事も出来なくてごめんなさい。

私も、貴方が死ぬ筈が無いと何処か楽観的に考えていたのかもしれませんね。

私たちが初めて出会ったのは入学当日、メカニック科のホームスクールが終わった直後に貴方が乗り込んで来た事でした。明らかに世界観の違う大男が入ってきた事で軽くパニックになった事を覚えています。びっくりする余り、硬直している私の前で貴方は「地球寮生でメカニック科の者は居るか?」と良く通る声で言いましたね。

ようやく我に返った私がゆっくりと手を上げると、貴方はガハハと笑いながら手を取り、「よしお前。俺のモノになれ!ゆくゆくは我が社の専属として……」と有無を言わさずに私の進路を決めました。今だから言いますが、あのやり方は直した方が良いと思います。』

 

葬式の場でありながら、クスクスと僅かに笑い声があがる。

そうだ、これで良い。

きっと彼は湿っぽい別れなど、望まないから。

 


 

『結局それが告白まで織り込んだ凄まじい言葉だと知ったのは丸々一年半後でしたが……貴方の喧しくも力強い笑い声や頼りになる姿を見れないのは、とても寂しいです。学生と社長業の二足の草鞋、それに伴う無理な過労できっとくたびれたと思います。どうか、安らかに。ゆっくり休んで下さい。そしてありがとう、貴方が守ってくれた未来を私たち全員で守っていきたいと思います。さようなら。』

 

読み終えて一礼、壇上を去ろうとする。

 

『ニカ・ナナウラさん、ありがとうございました。続きまして__「荒坂神威殿。」……?』

 

司会の声を遮り、会場に野太い声が響く。

 

「改めてお手紙を書く事は初めてですね。貴方は地球随一の大企業、荒坂重工の社長となる運命の元に生まれ、その生涯を職務に捧げましたね。荒坂の永き歴史の中でも不世出の逸物、まさに王の中の王。貴方を失った事は社のみならず世界の損失です。」

 

マイクを通さなくてもよく通る声。

姿は見えなくとも本人の我の強さを表すような力強い足音。

不意の乱入者に会場はザワつく。

 

「……貴方が居なくとも荒坂の成長は止まらず、何も変わること無く世界の混沌と火種を牛耳る事でしょう。中略!」

 

弔文を略すなんて聞いたことも無い。

だが、まぁ、彼ならそういう事をしてもおかしくは無い。

 

「どうか安らかにお眠り下さい。喪主の荒坂神威でした……さて、次は?」

 

大男は惚けた様に首を傾げた。

一拍置いて二つの影が襲いかかる。

片方はその胸に、片方は頭に。

 

「………!………………!!!」

 

バシバシとタップの構えを取った後、傷付けないギリギリで引き剥がそうとする。

数回トライして諦めた様に肩を竦めると、そのまま語りかけた。

 

「ただいま、にしてもお前達少し太__」

「誰のせいだと思ってるんです!?」

「ぐぉあ!?!?」

 

顔にしがみついた格好のままノレアが強烈な膝蹴りを叩き込む。

それはいつかの様に顔面を陥没させ、その上同時にソフィが鳩尾に良い一撃を見舞ったらしい。

神威はマエガミエネェマエガミエネェと喚きながら転げ回っていた。

自らの巨体で二人を潰さないように器用な事である。

 

ある程度落ち着いたようでよろよろと立ち上がる神威。

 

「……そういや、俺の葬式なのに来てるのは親父殿だけなのか?」

「『私の息子が死ぬわけ無いだろ……』という事で今日は中途採用のスペーシアンを可愛がりに行ったぞ。その点は同意だったが、流石に両親不在はまずかろう?」

「親父はそういう所で母上に弱いよなホントに……」

「人体をさけるチーズのように引き裂く嫁に逆らえるなら大した度胸よ。お前や母と違って父は在野の超人なのだ。人間の臨界を極めた域に居れど、生き物の枠は超えていない。」

 

「なんで誰も突っ込まないの!?」

当然その身体には二匹のフェイスハガーが張り付いたままである。

しかしこの場に参加出来るクラスの社員には見慣れた光景。

高専の同窓生だけが困惑していた。

イカれた世界である。

 

「……まぁ、慣れだ慣れ。見えなくともまぁまぁ見えるモンだ。それはそれとして流石に離れてくれ。」

 

ギリギリと音を立てながら二人をひっぺがす。

頭から顔にかけて、そして仕立てられたスーツは涙と鼻水でぐしょぐしょ。

本当にエイリアンに襲われたと言っても信憑性があるだろう。

 

「うお……一応火星の最高級品だったんだが……」

「……火星?」

「ああ、コクピットごと弾き飛ばされた結果、偶然火星に墜落、それも生活プラントの近くでな。二週間かけて傷を癒し、旅費を稼ぐ為に起業してここまで来たわけだ。途中から楽しくなってしまって気付けば火星の経済圏を牛耳っていたが……将来の販路確保と考えれば無駄にはならないだろ。」

「剛腕過ぎない?というか良く二週間で治ったね……」

「全部じゃないがな、パーメット流入の後遺症はどうも治らん。」

 

言われて見れば確かに、神威は左目を覆うように眼帯をしている。

あまりに馴染んでいて違和感が喪失していたのだが。

 

「完全に駄目になっちまったらしい。失明だ、治りようがない……

おっと見ない方が良い。見て楽しいモンでも無いからな。」

「神威さん……」

「おお、我が友。後遺症が随分と重いとは聞いたが、結構大丈夫そうだな?

これについては結果がどうあれ、俺が自ら選んだ事。何ら後悔は無い。

……偶然にもここには世界有数の義肢技術を持つ企業が揃ってるワケだろう?」

「いや、義眼なんて作った事ねえぞ……?」

「期限は問わぬさ、金も俺の方で出す。せっかくだから肉眼より便利にしてくれ。」

「厚かましい……!」

「そりゃ、厚かましくもある。俺を誰だと思ってるのだ?」

 

売り言葉に買い言葉。

やいのやいのと騒がしい地球寮の日常が戻ってきたようだった。

 

 


 

「あ"あ"〜三ヶ月分の仕事……考えたくもないな……」

「背負うモノが多いと大変だね……」

「だからこそ楽しくも、誇らしくもある故にな。」

 

一度落ち着いて、それぞれ学園への帰還など各々のすべき事を確認する最中。

当人達が示し合わせたワケでは無かったが、神威とニカの二人きりになっていた。

 

「まぁー大方、首謀者はリリッケ辺りだろ。」

「変な気を使わなくても良いのにねぇ。」

「全くだ、それともっと上手く隠れたらどうなんだお前達は。」

 

首を振りながら神威は傍らの薮を睨みつける。

とてつもなく分かりやすくガサガサと揺れる枝葉。

 

「……に、にゃぁお。」

「もっと他に無かったのか?誤魔化すにしてもだな……そもそも、お前達の心音が聞こえてるんだ俺は。」

「今更、本当に今更なんだけど本当に人間なの?」

 

系譜から考えてみると……親父殿はまぁ、超人だがヒトではある。

母上は……母上……人間……?

人間どころか生物の範疇ではないと思うんだがな。

生身で戦車を殴り潰し、対艦ミサイルの直撃に耐え、MSを破壊する存在。

……区分としては戦略兵器の類いだろう。

 

「……自信が無くなってきたな。ニカ、俺は人間なのか?」

「多分人間じゃないと思うけどね。」

「そうだったのか……」

 

たわいも無い話をしながら薮に目配せをする。

気を使ってるんだが野次馬がしたいんだか分からん奴らだ……

 

「で、随分と遠回しになったワケだが。どうするんだ?お前は。」

「……自首するよ。ちゃんと罪を償って皆と向き合いたいから。」

「そうか、お前の意思なら止めやしないさ。」

 

人並みに寂しいという気持ちも、残念だという気持ちもある。

だが、それはそれ。

思うがままに生きること全てを肯定する、それこそ荒坂神威の基本思想である。

 

「それとその……あの返事なんだけど……」

「なんの事だ?」

「それはその……ね?分かるでしょ?」

「…………あー分かった分かった、完全に思い出した。」

「嘘でしょ!?ホントに忘れてる!?」

「……冗談だ。流石にそこまでお粗末な頭ではない。別にいつでも良いと言ったろう。」

 

まぁ人の顔は全く覚えられないんだが。

約束事などを忘れるようでは商売人として論外だ。

友人との事ならば、尚更。

 

「でも、私前科持ちになるし……」

「おいおい、捕まってないだけの犯罪者が目の前に居るぞ。

一々裁いてたら裁判だけで裁判官が寿命で死んでしまうだろう。

いつでも、と言ったが別にそんな重要でもないワケだしな。」

「へ?」

「欲しいモノは万難を排してでも手中に収めるのが俺だぞ。俺との付き合いで何を見てきたのだ。」

 

(別に何と答えようとも欲しいものは絶対に手中に収めるだけなので)『返事はいつでも良い』

 

「あー……そっかー……」

「そういう事だ。諦めろ。」

「…………えへへ。」

「どうした急に寄りかかって、体調でも悪いのか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方の薮陰。

 

「オロロロロロロロロロロロロ………」

「チュチュさんが砂糖を吐き出すマシーンになってます!」

「ダメージを食らいすぎてやがる……甘過ぎたんだ……」

 

口から滝のように砂糖を吐き出すチュチュ。

オチは読めていただろうに学習能力が皆無であった。

 

「誰か!コーヒーを!コーヒーを投与するんだ!」

「エスプレッソで良いか?」

「なんでテメェが話に入ってくるんだよ!」

 

ざわめく地球寮生に、薮を掻き分けていつの間に煎れたコーヒーを携えた神威。

混沌と糖度と狂乱の中、限界を迎えたチュチュの脳は拳を選択した。

 

「理不尽__ゴベァ!?」

 

惨劇でこそあれ、そこに軋轢はない。

いつものように時は過ぎていくのだった。

 

 

 




社長……やっぱり生きてた。パーメット流入により左眼を失明したがそれ以外問題無し。
約三ヶ月で火星の経済圏を乗っ取った。

このままエピローグ……の前に多分ifのお話挟みます。
第一クール終了時にあった初期案の話。
本編終了した後に投げるべきだとは思うんだけど……
大団円で締めたいから先に出すと思います。
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