誤字報告ホント助かります……
さて、エラン・ケレスよ。
俺は今、猛烈に機嫌が悪い。
具体的にはついうっかりペイル社への武力介入を命じてしまいそうなくらいだ。
それをしないのは流石に死人が出過ぎるから__何より俺より怒る男が居る故な。
ここはお前に譲ろう、グエル・ジェターク。
「言われなくともだ。」
帰るぞスレッタ。
男同士の決闘に口を挟むのも無粋だろう?
「……どうせ君も何も出来ないだろうに。」
去りゆく背中にエランが呟く。
聞こえたか聞こえないかの距離、しかししっかりとその音を捉えていた。
そのまま数秒立ち止まり、何かを思いついたように歩みだすと地雷原エリアで静止。
おもむろに危険区域の標識を掴むとそのまま引き千切った。
「言っただろう?わざわざ口を挟むほど無粋ではない、と。だが同時に、俺は友の涙を見過ごす程寛大ではない。」
「勝てよジェタークの倅、もしお前とスレッタが負けたら俺は本気になりかねん。」
「とはいえ、決闘を見届けられるとは限らないワケだ。」
漸く壱号機が直ったそうだ。AIユニットの中枢を頭部に置いたのは失敗だったか。
修理期間の八割はその修復作業に費やしたとの事。
ペイル社の新作を見逃してまで、受け取りに来たのには理由がある。
近頃最寄りのアラサカ支社から学園までの航路で強盗が多発しているからだ。
勿論我が社の輸送機に武装が積んでないワケも無いのだが、空間戦のテストに丁度良い。
という事でこの俺自ら警備を買って出たんだが……
『出るのが早くないか?』
『宙賊に限らず、賊というのはいつの世も減らないモノですからね。』
まぁ、良いさ。
無法者ならばこそ、此方も躊躇いなく撃てる。
「コイツはまだ軍用規格しか作ってないからな……データを取らせて貰うぞ。」
とにかく強力に、とにかくコスパ良く。
軍用規格で作るのは容易いが、それを学園での決闘レベルに落とすとなると……
何が過剰で、何が不要か?その答えは実戦の中にしかあるまい。
正直、空間戦に於いて実弾兵装は光学兵装に劣る。
それは覆りようの無い事実だ。
元々我が社の兵器は重力下、地球上で戦う事を想定している故、仕方ないのだが。
そもそもAMBACだったか?を理解してるパイロットが母しか居ない。
だが、本当に宇宙空間で実弾は無力なのか?
否!否!否否!
火力はあらゆる問題を解決する。
火薬と金属が全ての障害を打ち砕くのだ。
『敵性存在、目視距離まで接近。警告を無視、出撃願います。』
異形と呼ぶのに相応しい機体だった。
辛うじて人型と呼べる範囲でこそあれ、腕すら無い。
本来の腕があった場所にはガトリングを二門装備し、制圧力を向上。
大国主命から継承した肩部ユニットには更にガトリングを二門。
背部WRは追加装備を無くし余剰スペースには限界まで追加の弾薬を。
腰部グレネードはミサイルに換装してあった。
『了解。機動兵器試作参号。出るぞ。』
戦場で死ぬ覚悟は出来ているだろう?傭兵ども。
『だ、駄目だ避け切れない!援護を
《R-06 signal lost》
『また一機落とされた!クソッ!妙に金払いが良いと思ったらこれだぜ!』
当たり前だろう。
異様に高額な報酬、それも先払い。曖昧な標的……
データが取れれば良し、奪取出来れば最上。
もし失敗しても死ぬのは雇われた傭兵どもだけ。
よく出来てやがるな。
『ぁ__』
《R-05 signal lost》
__凄まじい弾幕だな。
空間戦に於いて実弾は脆弱。そんな通説を嘲笑うような重武装。
宇宙用MSは元より対実弾の補強より対ビー厶を重視する、それが仇となったか。
弾切れを待つか?否、此方を殲滅して尚余りある弾薬を抱えているのだろう。
何より向こうは母艦が近い、消耗戦で勝てるとは思わない。
『……撤退しろ、雛鳥ども。生き残れば残る、生きれば次に繋げる。』
言うまでもなく各々散っていく。生命あっての傭兵稼業だからな。
正直言って俺も逃げたいが、受けた依頼は断らないんでな。
「ガハハ、どうだ120mmガトリングの威力は。対実弾を軽視した軟弱者め。」
《修正を推奨、解析の結果撃墜数の半分はミサイルによるモノ》
「うーむ……やはりある程度練度のある相手にただの弾幕は効果が薄いか。」
《胸部オートターレット撃墜1 ガトリング撃墜3 ミサイル撃墜4……パイロットに警告》
「む?」
《高速で接近する敵性反応1、ガトリングの弾幕を突破してきます》
「カメラ拡大__スポットしろ。」
《マーカーを設置》
動きが良いのが居るな、相当な腕利きとみた。
「ミサイルは?」
《記録を確認、弾頭部のみを切り落として不発に抑えている模様》
本当に良い腕をしてやがる。
広域通信を繋げ、話が通じればだが。
『聞こえるか傭兵、此方はアラサカ重工、オモイカネだ。』
『……聞こえている、社長自ら出陣とは剛気だな。』
『ガハハ、社長業にも色々あるのだ。それはそうと強きパイロットよ、我が社に入社する気は……』
『残念だが他を当たってくれ、それに一度引き受けた依頼は断らない事にしている。』
《胸部ターレット射程圏内、捕捉》
《ビームライフルによる反撃を確認、防御体勢を》
もう取っている、この距離では取り回しの悪い腕部ガトリングは扱いにくいか……
飛来するビームライフルに対して右手の砲身を叩きつけるように押し留める。
ガトリング砲は瞬く間に溶解していくが、ビームの残滓をも掻き消した。
《命中確認》
「良い狙いだ、故にこそ読み易い。対艦ライフル弾が直撃したなら少なくとも戦闘不能だろう。」
『帰投準備だ、ハッチを開けてくれ。』
砲身がドロドロだ……高くついたなこりゃ……
それにまだまだ改良の余地がある、作り直しも検討せねば……
『若!後ろを!』
背後から振りかぶられたビーム刃を、咄嗟に突き出した左手の砲身で受け止める。
溶け落ちていく砲身を、力任せに。
機体の出力差が勝敗を分けた。
砲身で殴りつけられた敵MSはサーベルを失い、武装を全て喪失して沈黙した。
尤も此方も此方で両腕が使い物にならなくなってしまったのだが。
『……驚いたぞ傭兵。どうやってターレットを避けた?』
『ハッ、熱探知とは古風だが、ネタが割れりゃそう難しかないさ。』
ビームライフルでの射撃後、即座にそれを投げ捨てたのだ。
ターレットの射撃は全自動、射程内で最も高い温度の標的を狙う。
故に射撃直後のライフルに反応、撃ち抜いて爆発。
『もう一度問おうか、我が社に来る気は無いか?望むなら役員ポジションを約束しよう。』
『興味はあるが、生憎と俺は傭兵なんでね。』
惜しいな。実に惜しい。
とはいえ本人の気持ちが向かないなら仕方あるまい。
『さっさとやれ。』
『潔きかな、見事也。』
脚部に装備したヒート刃が一閃。
傭兵のMSを溶断した。
酷い目にあった。
『若!ご無事で!?』
『当たり前だろう、俺を誰だと思っている。』
とはいえ、参号は中破、当面使い物にならないだろう。
『高くつくなぁこれは……積んである壱号と伍号は無事か?』
『はい、若旦那の奮闘により輸送艦に近付く機体すらありませんで。』
ならまぁ、良しとするか。
『重ね重ね苦労をかけるが参号を折り返しで整備工場に運んでおいてくれ。』
『勿論、整備士どもに暇させるのも可哀想ですから。』
『素晴らしい!それでこそ我が社の社員だ。賞与は俺の権限で弾んでおこうではないか。』
『助かります。』
「__という事があったのだミオリ……ミオミオ。」
「無理して呼ばなくて良いしその呼び方がそもそも嫌なんだけど!?」
なんと、そうだったのか。
「アンタ今変なルビついてなかった?」
ルビとは一体なんの事だ……
「なんでちょっとロックなのよ、ほらアンタ無駄に大きいんだからそっち詰めて。」
「そもそも何故俺たちは薮に隠れてスレッタを監視しているのだ?
こう見えて俺は忙しい故、お前の趣味に付き合わせないで欲しいのだが……」
「一度本気で殴って良いかしら?」
「ミオリネよ、そういうのは殴る前に言うものだ。前が見えん……」
腰より僅かに高いほどの薮に男女二人、何も起こらないハズはなく。
か細い白腕から繰り出されたとは思えない程鋭い拳が大男の顔面に突き刺さる。
「だから理由を述べろと言っておるのだ!」
「そのまま喋るんじゃないわよ、不気味だから。」
「顧問弁護士に連絡して良いか?勝てるだろうこれは。」
エラン・ケレスを打ち破ったスレッタ……我が友ならば当然だな。
スレッタはどうやらデートを申し込んだと、そういう認識で良さそうだな。
「しかし、不思議だ。スレッタはお前の花婿ではないのか?」
「私は理解のある花嫁なのよ。」
ううむ、俺の物差しで推し測るのは狭量というもの、か?
一夫多妻や愛人、妾を囲うなど今更の話ではあるが……
「俺には分からぬ世界だ。」
「アンタの親父さんにはそういうの無いの?」
「冗談でも笑えんぞ……母一人で父は死にそうなんだ。考えるだけでも恐ろしい……」
今度十六人目の妹が産まれる長男、カムイは一人戦慄した。
「全く来ないが、本当に約束しているのか?」
「もう四時間は待っているわよ……」
不義理な奴め……仕方あるまい。
「おーい、
「おい、水星女。いつまで待って……」
「「……」」
「ジェタークの倅じゃないか。寮を勘当されたと聞いていたが……
まさか我が友に付き纏うまで落ちぶれたとは、見損なったぞ。」
「喧しい、俺はこの辺に住んでるんだよ。嫌でも目に付く。」
「ホームレスかよその歳で。可哀想なグエル……ひとえにお前が弱いせいだが……」
「あぁ!?」
売り言葉に買い言葉、大人気ない二人の大男に挟まれスレッタは震えた。
「よそうグエトラマン。」
「誰がグエトラマンだ。」
「スレッタがぷるぷるしている、地元の山で見たタヌキのようだ。」
ホームレスのグエル。
困惑するミオリネ。
またしても何も知らないスレッタ。
ふむ……
「取り敢えず、飯行くか、飯。奢ってやるからよ。俺が誘致した寿司屋があってな。」
「ちょっと待て!行くとは言ってないだろうが!?スシって確か生の魚を……」
「食った事無いやつは皆そういうんだよな、まぁ拒否権は無いのだが。」
そう言うと男はグエルを右肩に担ぎ、スレッタを小脇に抱えた。
「何をする!下ろせクソ!」
「わわ、力持ちですね。」
「ガハハ、お前らが軽過ぎるのだ。食が細いのではないか?」
「でも私、エランさんを待って……」
「来ない者が悪いのだ。なぁに、次に会った時に『お前だけ美味い物食えなかったな!』と笑ってやるが良い。」
「おいミオリネ、来ないのか?それともお前も担いで行って欲しいなら構わんが。」
全く、我が友を待たせるとは。
位高ければ徳高きを要す、これは俺の権利であり義務なのだ。
主→グエ……自分より優秀なパイロットとしてある程度認めている。
総合的に未熟なのでまだ同格であるとは思っていない。
主→ミオ……土壇場での行動力を評価している。
世間知らずのお嬢様なのでもっと挫折した方が良いと思っている。
主→たぬ……我が友。パイロット能力で自分より遥か上。
でも貧乏人ではあるからご飯食べさせたい。
たぬきへの好感度が高過ぎる
Over The Top(色々な意味があるけど塹壕を超えて)→弾幕の中へ。
名も無き傭兵くんの為のタイトルでした。