就職したらマジで時間無くてつらい。
『レディーーースゥエェンドジェントルメェン!!!』
『もとい、初めての方は決闘場、【アリーナ】にようこそ!!!』
「凄い活気です……!」
「外観は随分と古風な見た目なのに中は結構近代化されてるのね。」
クワイエット・ゼロ事件の後、生還した神威が建設させた巨大なドーム。
およそ二十万人を収容可能な大規模な観戦施設であり、その他公演などにも用いる事が可能。
安全とスペースの都合、あくまで実際の戦闘は別の場所で行われるが撮影した映像をリアルタイムで受信、最新のホログラム映像として会場中央に転写する。
これにより観客は普段なら不可能な至近距離でMS同士の激闘を楽しめる、というもの。
『本当に儲かってる。闘争心とギャンブルは相性が良いな。』
「まーたあくどい商法を……よし、倍率高いのに賭けるか。」
『ギャンブラーの鑑よな、手堅く俺に賭ければ良いものを。』
「荒坂 神威、1.3倍……ジェターク仮面、1.8倍。これは……Mr.プリンス?変な名前……」
『ああ、俺やグ……マスクド・ジェターク・ルチャドール辺りが手堅いラインだな。』
「なんでメキシコの風を感じる名前になってるのよ……」
『俺は既に待機中だから見れないが、そろそろ実況たちが騒ぎ出す頃か?』
スレッタは考えていた。
実況席に陣取る二人、何処かで見た事があるような……
朧気な記憶を辿り、朧気過ぎて霧散した辺りで答えは外から出た。
「ありゃチュチュに殴られた奴らじゃねぇか?こんなとこに居たのか。」
『ああ、ウチで雇用してる……まぁ、色々あってな。今では名物の一つだ。』ホワンホワンホワン……
「あ、回想入るんですね。なんか分かってきました。」
「おいばかやめろ」
卒業後、暴力沙汰を起こした二人は途方に暮れていた。
素行不良__つまり、身から出た錆である。
何とかお情けで卒業こそさせて貰えたものの、就活は全滅。
そもそも悪行が知れ渡ってしまっている故、殆どが書類落ちである。
実家にも見限られ、ヤケクソになった二人。
そしてどちらからか、衝撃的な奇策を思い付く。
『そうだ、どっかの金持ちに愛人として囲って貰おう。』
馬鹿であった。
そもそも馬鹿でなければこんな目には逢うことは無いのだが。
よりにもよって行動力のある馬鹿であった。
彼女らは早速卒業生の中でも有数の出世株、エラン零号の元へと赴き、門前払いをされる。
その後何度か危険な目に会いながら失敗を重ね、グエル・ジェタークの所に流れ着いた。
当然、ハニートラップ自体はまるで効果が無かったのだが……
もしかしたら話を聞いてくれるかもしれない、そう考えて神威の元へと連れてきた。
神威は当然困惑したが、そのバイタリティを気に入り今の仕事を任せたのだった。
尚、グエルが神威の元へ二人を連れてきた理由は神威が重婚をしていたからである。
好色というレッテルを貼られた神威はグエルのアバラを叩き折り、しばらく落ち込んだ。
『……忌憚のない意見を聞きたいのだが、俺が好色家なイメージってお前らにもあるのか?』
「うん。」
「ロリコン。」
「逆に無いと思ってたのかお前。」
「まぁ……そうね……」
つらい。
何故だ……
『俺は真っ当に嫁を愛しているし気持ちが浮ついた事も無いのだが。』
「でも重婚してるよね?」
『やめてくれニカ、それは俺に効く。凄く刺さる。』
言葉の暴力である。
あらゆる物理的ダメージを跳ね除ける剛体があっても精神は別だ。
『愛しいと思った相手がたまたま歳下だっただけだし、それが偶然複数人だっただけだ。
俺は別にロリコンでも無いしイカレ好色家でも無い………』
「でも何人も手出してるよね?」
『お前暫く黙ってろ!』
何故どいつもこいつも俺が悪いという事になるのだろうか。
最低限の人権すら保証されていない現状を嘆きたくなる。
神威は密かに泣いた。
『ああ〜っと惜しい!ジョン・ヴァン・シモンズ選手、今回勝てれば昇格でしたが……』
『堅実な戦い方に定評はありますがやや決め手に欠ける、とは常々言われていましたからね。』
『切り替えの為十分のインターバル後、本日のメーンイベントへと移りたいと思います。』
『その前に本日のゲスト兼解説を!ソフィさんお願いします!』
『はーい!皆ただいま〜!』
スクリーンにソフィの姿が映ると会場が沸騰したようにざわめく。
この場からは見えていないが配信の映像も凄まじい反応を示していた。
『この度無事に産休から復帰致しました。』
『おめでとうございます!いや、本当にめでたい。』
『まぁもう三回目だからね、大丈夫大丈夫。』
『そういえば性別はどちらでしたっけ。』
『今回も三人皆女の子だよ、そろそろ男の子も欲しいかな……』
『……………』
『どうしたの黙っちゃって。』
『最近、同窓生の結婚報告とかが重なってつらい……』
『……それはそう。あれ?でも貴女彼氏居なかった?』
____浮気されてた……というか私がキープされてる方だった……
『oh…………それは、なんというか……』
『本当に男見る目ないわね………何回目?』
「まだ二回目だから!人聞きの悪い!」
『学生時代から通算ね。』
『…………五回。』
『ひどい。』
『本社勤務って言ってたから真面目だと思ったのに。』
『いや、神威の話聞いてると本社勤務って寧ろ……』
荒坂重工本社勤務。
それは一種の名誉であり、隔離でもある。
高い能力を持つ代わりにある程度タガが外れている……
本社勤務とは人格や素行に問題のある社員を纏めて監視する為だ。
『ああでも、そっか。神威がキレ散らかしながら書類作ってたね。』
『はい……相手も本命ちゃんも纏めて左遷されたとは聞きました。』
『確か南米支社だっけ?……当分帰ってはこれなそうだね。』
『いや、浮気した彼はラボ送りだそうです。』
『あー………ならまぁ、大丈夫なんじゃない?』
少なくとも生きたまま出てくる事は無いだろうし。
ソフィはその言葉をそっと呑み込んだ。
ノレアのように経営に携わる訳でこそないが、その意味くらいは分かる。
多分相当色々な余罪が見つかったのだろう。
『あー!高身長高収入のイケメンが私に一目惚れしないかな!』
『メンタルが二人でホームレスしてた頃に戻ってるよ。』
『ウチの旦那貸そうか?』
『…………………いや、人間が良いかな……』
『結構考えたね、一応高身長だし高収入だよ。イケメンかは人によるけど……』
『
【茶番は良いからそろそろ始めろ】との事です、ノリが悪い……』
辺りが急に暗くなりだす。
ドーム状の闘技場は最新の天候管理システムを採用している。
天候も季節も、昼夜さえ思うがままに変えられるのだ。
『まずは挑戦者!ここアリーナでは五度目の出場!
初登場では我らが王と引き分ける大健闘を見せました。
その後瞬く間に三連勝した襲撃者が再び玉座に手を伸ばします。』
スラスターを吹かし、ダリルバルデが闘技場に現れる。
既に何度か参加しているからか、その動きに迷いは無い。
切り替わったカメラがコクピット内を移すと仮面の男が操縦桿を睨んでいた。
カメラが外部と繋がった事に気付くと、軽く手を掲げて会釈。
それだけで会場は沸き立つ。
『白虎の方角!猛る若獅子、マスクゥド・ジェターァァク!!!』
「「「「「CEO!!!CEO!!!」」」」」
「凄い熱気です……!」
『ジェターク社員の皆様の応援もそろそろ恒例ですね。
会社の威信を背負う謎の男、マスクド・ジェターク。
機体はダリルバルデ。アリーナ戦績3勝1分。本日のオッズは1.4倍。』
「グエル社長ー!勝ってくれよ!!!」
「……隠す気あるのかしら?」
何が謎の男なのだろうか。
何処からどう見てもアレはグエル・ジェタークである。
そういうリングパフォーマンスなのかもしれないが、余りに酷い。
覆面レスラーの正体はタブーとか、それ以前の問題である。
『対するは当然この人!アリーナ戦績は99勝1分!』
『今日の彼は一味違う、前人未到の100勝に向け、再調整を重ねた機体で挑みます。』
轟音と共に闘技場の床が開き、巨大な金属の塊が迫り上がる。
それはまさに巨塊としか言いようが無かった。
ベースはかつて開発したイザナギ、それを実戦向きにアップデート。
全ての武装を外付けのオプションにする事で汎用性を向上。
グループ解散により流出した企業の貴重なデータを惜しみなく注ぎ込んだ新鋭機。
それを駆るのは同じく巨体の男。
この闘技場の長にして最強の名を欲しいがままにするパイロット。
『青龍の方角!魔王、アラサカァ〜カムイィ!!!』
「「「「「「「アラサカ!!!アラサカ!!!」」」」」」」
ジェターク社員の応援も勿論、凄まじい熱量ではあった。
しかし、ここは彼の國なのだ。
ならばこそ、王に敗北は有り得ない。
『いよォし!記念すべき俺の百勝目に良くぞ集まった!
そして良く来たなジェターク仮面!逃げずに姿を表した事褒めてやろう!』
『……お前が呼んだんだろうが!』
『ガハハ、まぁそう怒るな。お前と引き分けた時から決めていたのだ。
百勝目はお前に勝って俺の最強を皆に証明してみせるとな。』
コクピットの中で拳を握り、額の上で掲げる。
荒坂重工の威信、威光を一身に集める七代目。
2.5mを超える体躯とそれに伴う26mの機体。
その全てが彼に与えられたモノ。
『さて、前置きはこのくらいにして、さっさと戦ろうか。グエル。』
『名前言ってんじゃねえか。』
『皆分かった上で乗ってるのだ、今更だろう……お前と決着を付けたかったのは、本当だ。』
『ルールを再確認します。決闘方法は1対1の個人戦』
『勝敗はアラサカアリーナ公式ルール、つまり
『それでは。両者、向顔。』
「荒っぽいわね……」
決闘興行が始まってから、何度か映像を見たミオリネはこのルールを知っている。
決闘レギュレーションを外し、装備は実戦仕様に。
ブレードアンテナの破壊では無くどうやってでも戦闘不能にした方が勝ち、という過激なルール。
学生時代の決闘に比べ、遥かに危険度は高く、死者も少なからず発生する。
だが、その分市民のガス抜きという側面では非常に有用だった。
当然、反発も大きかったが……その僅かな声は熱狂に呑まれ、消えていった。
過激で楽しいアリーナに民の目が行ってる間に多くの法案を無理に通し、都合の良い隠れ蓑とする。
事実、地球圏の犯罪率はここ3年間で低下し続けているのだ。
やはり政治的な手腕、という意味で共栄圏に神威の経験値は必要不可欠である。
だからこそ、もしも。
もし彼が居なかったなら、どうなっていたのだろうか?
私の頭にはずっとそれが引っかかっている。
数日前、温泉の中で見せた荒坂神威という男の本音。
奇跡のような確率で、今がある。ならば。
もし、ボタン一つ掛け違えたなら____
「ん!?」
「なんだなんだ!?」
物思いに耽るところ、周りがにわかに騒ぎ出す。
目を開き、試合場を再び眺めると何故か映るミカエリス。
「待って、あれ、もしかして、シャディク!?」
混沌とした舞台に、私の思案はどこかへ行ってしまうのだった。
チュチュと殴り合った二人……作者は凄い好きなキャラ。
格闘技経験者が監修したとしか思えない謎の殴り合いは本当に笑った。
シモンズくん……昇格したら再度レネちゃんにアタックするつもりだった。
マスクド・ジェターク……ジェターク社CEOとは何の関係もない。
社長……風評被害が著しい、可哀想。