「うおおおお!?何だってミカエリスが……!?いや、パイロットの察しはつくが……」
『アラサカカムイィィ!!!』
「殺意がすげぇな!俺のNT的センサーがバチバチに反応してるぞ!」
不幸中の幸いというか殺意が剥き出しの攻撃なら躱すのはそう難しくない。
それはそれとして、だ。
『何をしたんだよお前……!俺とやり合った時以上の勢いだぞ……!?』
『知るか!身に覚えがねぇよ!』
ミカエリスのチャージをすんでの所で躱し、蹴り返す。
『今日はお前の出番は無いはずだろうに!何しに来たんだ本当によ!』
シャディク・ゼネリのしたことは、当然許されざる事であった。
数多の余罪を鑑みれば当然、即刻死刑は免れない。
然し__これに待ったをかけた者がいる。
それは失踪から復帰して間もない荒坂神威その人であった。
裁かれるべき罪人である事は疑いようがない、だが裁く場所がないだろう、と。
宇宙全域の秩序たる議会連合を跡形もなく粉砕した男は言う。
そして新たな秩序として、共栄圏の盟主として自らの裁量で裁く。そう決めたのだった。
シャディク・ゼネリの裁判は賄賂を受け取った弁護士、検事、裁判官によって滞りなく進み、
同じく十分な報酬を受け取った陪審員によって判決が確定した。
求刑、判決共に執行猶予無しで懲役十万年。
但し、荒坂重工管轄の闘技場にて勝利する度に百年の減刑。
当然、事実上の死刑に変わりは無いが……延命としてはこれ以上無い判決となった。
生涯の殆どを危険なアラサカ式決闘に費やす事となったものの、生き延びて神威やミオリネが創る新しい世界を見ることが出来るようになった、それは彼にとって何よりの救いである。
『……したな。荒坂神威。』
『ん?』
何やら無線がザリザリする、よく聞こえない。
『穢したな!ミオリネをッッッ!!!』
『………は!?!?!?』
公共の場で何を言ってるんだろうかコイツは?
禁錮、と言っても神威の手配によりある程度の自由が許されているシャディク。
そんな彼の一番の楽しみは文通である。
凶悪犯罪者であるにも関わらず検閲の一つも無く自由な交流が認められている。
特に忙しい中数ヶ月に一回程届くミオリネからの手紙は最早生き甲斐そのものだった。
「……何度見てもミオリネの筆跡は美しいな、いい匂いもする。」
「いい加減既婚者に欲情するの辞めて下さいよ気持ち悪い。」
今も見張りは看守一人だけ。
それも看守は本来、シャディクを脱獄させる為に潜入したスパイであった。
当人に脱獄の意思が無いことから手持ち無沙汰のまま働かされている。
救出前には「シャディク・ゼネリは革命に殉じた偉人」という思想を植え付けられていたが、
一年以上もこの気持ち悪い所作を見させられ続けては目も覚める。
ここ数ヶ月は最早敬語すら使わなくなっていたのだった。
「まぁ、この生活も案外悪くないさ。戦争シェアリングは無くならなかったが、それでも良い方に向かっている。なら無駄じゃなかった。そう思うしかないさ。」
荒坂神威という男個人の感情で言うならば、シャディクを速攻死刑にするのだろう。
昔の話とはいえ、妻である魔女らを捨て駒にしただけで万死に値する__
高専を襲撃した反荒坂テロリストの長をわざと生かしたという話もそうだが……
荒坂神威という男は想像以上に視野が広い。
我欲の塊のような人間性を装っているが、実際には極めて思慮深い。
『王』の素質とでも言うのだろうか。
ミオリネや、グエルにも少なからず存在するそれ。
生まれながら、支配者としての才覚を持ち合わせた鬼才。
それは底辺から這い上がった自分には無いものだった。
「結局、乱世を治めるには……………」
「どうしたんです、急に黙って。」
ピキーンと。
突如として脳内に浮かぶそのビジョン。
遙か彼方、地球で起きたその出来事の予感、というより確信。
『ミオリネが穢された気がするッッッ!!!!!』
そう叫ぶとシャディクは監獄の壁をぶち抜いて脱走。
収監されてる場合では無かった。
シャディクは激怒した。
必ずかの邪智暴虐なる王を除かねばならぬと決意した。
シャディクには荒坂神威が分からぬ。
シャディクは童貞である。
幼馴染を思い続け、青いトマトであった。
けれどもミオリネに対しては、人一倍に敏感であった。
『公の場で何を言ってんだお前は!?』
『うるさい!死ね!』
「ガキの癇癪みてえな語彙で殺されちゃ適わん……!」
シールドバッシュでよろめいたところをランスによる刺突。
装甲の表面を掠めつつ、零距離でグレネードを炸裂させ距離を取る。
『違うというなら証明してみろ!』
『悪魔の証明だろ!どうしろというんだよ!?』
三つ巴の状態、全員一度喚き散らして冷静になったからか戦況が硬直する。
冷静になったところで完全に俺は巻き込まれただけなのだが。
『……なんか逆に気になるな、実際のところどうなんだ?』
『グエル、お前そんなキャラだったか……?』
『とはいえ仕方ないだろ、きちんと答えないと止まりそうに無いぞ。』
それはそうである。
完全に我を忘れて暴走しているように見える。
ああいう人間を御するのは極めて難しい。
力づくで捩じ伏せるか心を折るかである。
『違うなら違うって言うだけだろ?』
『…………うむ。』
『歯切れ悪いな……』
『俺は、被害者だ……それだけは、はっきりさせておきたい……』
『……大変だな、お前も。』
くそ、他人事だからって雑な同情をしやがって。
俺が悪くないとまでは言わないが、不可抗力の部分が大きいと思うのだ。
陪審員制度を取るなら10人中3人くらいは俺の味方をしてくれるはず。
正直未だに解決したわけじゃないのだ。
問題から目を逸らして先送りにしてるだけである。
MSに乗ることは、楽しい。
憂鬱な日々に抱える悩みをほんのひと時忘れる程に。
だから、急に思い出させないで欲しい。
『どうすんだアイツ、止まらないぞ。』
『ボコって黙らせる、それが結局一番確実だ。』
『まぁ仕方ない……ん?待てよ?』
『なんだ、何時また突撃してくるか分からんぞ。手短にな。』
『……ミオリネとお前が
『…………俺は被害者だ。』
『お前……!?マジかお前!?』
クソ、勘の良いヤツめ。ニュータイプか?
『見境とか無いのか!?いくら被害者って弁明にも限度があるだろ!』
『うるせー!俺だって嘘であって欲しかったわ!お前には分かるまい!』
政治的な関係を狙ったハニートラップならまだ分かる、理解は出来る。
単純に俺の種だけを狙ってるヤツが多いのだ、寧ろこっちの方が多い。
最近どーも俺は強化素材か何かだと思われているようで辛い。
『カムイィ!』
『説明しろ!カムイ!』
何もかも嫌になってきた。
俺が何をしたというのだろうか。
どうして俺がこんな目に会わなくてはならないのか。
涙が出る、子供たちに癒して欲しい。
同時に、腹が立ってきた。
どうして俺がこんな目に会わなきゃならねぇんだ?
俺が何をしたというんだ。
『『カムイ!』』
『う る せ え !!!』
両手に構えたバズーカで殴りつけながら発砲。
零距離で爆風を食らった三機の内、軽い二機が派手に吹っ飛ぶ。
『黙って聞いてりゃグチグチネチネチチピチピチャパチャパと……』
『ちょっと神威!?ドゥビドゥビダバダバしてるよ!?』
『元はと言えばお前らのせいだろうがソフィ!』
全てに腹が立ってきた。
俺はただ真っ当に生きたいだけなのだ。
武人として友と競い合い、社長として会社を導き、時に技術者として兵器を開発すれば、一人の兵士としてその兵器で虐殺し、帰れば父として夫として家族を眺めていたいのだ。
ただそれだけのささやかな願いである。
『大体しつこいんだよお前らは……!』
『何が言いたい!?』
『女々しいんだわ!初恋拗らして未だに燻ってる
いい加減!前に進むか!さっさと振られて!先を見やがれ馬鹿野郎!』
起き上がったシャディクを膝蹴りで押し倒し、マウントポジションを取って殴る。
実際のところ、彼女たちはずっと未来を見ている。
進めば二つ、その言葉を信じているが故に。
停滞しているのは俺たちなのだ。
これ以上足を引っ張るわけはいかないのだ。
馬鹿みたいな因果をここで断ち切る。
一度離れて起き上がるところにストンプ。
寸前で躱され、反撃のライフルを被弾しながら弾き飛ばす。
組み合った状態。質量と推力で勝っているのは此方。
武器を構えるスペースもない近間なら、単純な馬力の勝負だ。
左腕を犠牲にしてランスを押し留め、ミカエリスを岩に叩き付ける。
アラサカ製MSのウェイトが150tを切ることはない。
『そこで頭ァ冷やしてろ!!!』
重量のまま岩肌を削り砕き、行動不能の機体を河に投げ捨てる。
破損しているとはいえスペーシアンの機体だ。気密性に問題はあるまい。
融解した腕を根元からパージし、右腕だけを掲げて問う。
『次!』
『そのままやる気か?破損した機体で。』
『丁度良いハンデだろ、今日の俺ァ負けねぇよ。』
背部のミサイルラックや肩のキャノン、その他装備を外す。
この状況ではどうせ奴に当たらん。
他で牽制するからこそ活きるのだ。
軽量化した機体で、ヒートサーベルを抜き正眼に構える。
『……ッ!!』
鍔迫り合いから一歩下がりながら屈んで足払い、体勢を崩したところに刺突。
ギリギリの所でビットに阻まれ、残り3つで反撃してくる。
立ち位置は上々、ここからあまり動く訳にはいかない。
これは避けられん……確信した俺は可能な限り被弾面積を削る。
本体の剣だけで俺を上回っている、その上4つのビット。
実際相対するとこうも厄介か……
AI制御というのもバカに出来ない、一切パイロット側に負荷を要求しないのだから。
肩部と腹部の装甲を幾らか持っていかれたが、戦闘続行に支障はない。
『続けるか?』
『何を言うか、辞める理由がない。逆転の前振りはもう十分だろ?』
『そうかよ……!』
満身の力を込めてダリルバルデが突撃してくる。
此方も最大出力で迎撃、一太刀さえ止めれば良い。
辛うじて受け止め、肩と肩で押し合う格好。
しかし向こうにはソードビットがある。
重心操作で僅かに空いた隙間にビットが滑り込む。
グエルは先程で理解した。
ビット一つではあの機体を切断出来ない。
ダリルバルデのAIもそれを理解し、二機ずつの剣がクロスするように脚部を切りつけた。
硬く、太い脚を両断するにはそれでも足りなかったが、姿勢安定機能を損ない崩壊。
両脚がへし折れる格好で崩れ落ちるイザナギの頭部を本体の剣で穿とうとする。
『____そこまでは、読めてる!!!』
落下する上体に全力で回転をかける。
残った全霊を右腕に込めてサーベルを投擲。
一か八かの奇襲。
かつてスレッタ・マーキュリーと対峙した時に用いたのと同じ一撃。
それは奇しくも同様に直前に察知した相手によりすんでのところで避けられた。
ダリルバルデの肩と頭部の一部を切り落とし、刃は虚しく飛んでいく。
掲げられる剣に誰もが神威の敗北を確信した。
『流石だグエル・ジェターク。お前は本当に強いさ、俺よりもな。
だが、俺は言ったぞ。
刃を避けるその位置。
その位置に誘導したかった。
一拍遅れて射撃音、彼方から飛来する榴弾にダリルバルデの頭部は跡形もなく吹き飛んだ。
予想だにしない幕切れに会場から音が消える。
『お前らのようなエースに直接砲を当てるのは難しい、それは事実だ。
だがやりようは幾らでもある、そして当たりさえすればジェタークMSすら沈む。』
アラサカの砲は宇宙一。
つまり荒坂神威の考えるべき事は一つ。
如何にしてその砲を当てるか?その一点で事足りるのだ。
無造作に落とされたように見える砲で、狙った一点に誘いさえすれば。
沈黙したダリルバルデを押し退け、ボロボロの機体で高く拳を掲げれば遠く会場から歓声が聞こえるような気さえした。勝鬨をあげる余裕はあまりないが。
「今日の戦いは嫁が見てた、情けない姿は晒せない。」
精一杯の虚勢と意地、強い自分を見せたいという気持ち。
誰から見られても自慢に思って貰えるような、そんな男でありたい。
「そして、何処かで子供らも見てる。超えるべき姿を見せねばならない。」
まだ幼いとはいえ、子にとって父は最初の壁なのだ。
いずれ乗り越えるその日まで、俺は一層強くあらねばならない。
「何より、友が見ている。死んでも負けられんよ俺は。」
今の自分を一番見て欲しい相手。
言葉でなく、行動で示したかった。
『お前の好敵手はこんなに強く、勇ましいぞ』と。
来るか分からぬその日まで、神威は負けるわけにいかなかった。
会場に繋がるマイクをONにして、口上を述べる。
『荒坂神威、無事に100勝を達成した。しかし、未だ満足には程遠い!
……五年先か、十年先か、或いは百年か。それは分からぬ、分からぬが良い!
来たれ強者よ!この荒坂神威、いつまでも頂にてお前の挑戦を待っているぞ!!!』
アリーナの常連ならば、聞きなれた文句。
その言葉が誰に向けたモノなのか、それを知らぬ者以外には。
「……だから、早く治せよスレッタ。今度こそ本当のお前と勝敗を付けたいからな。」
社長……人類の強化素材。真っ当に妻子を愛しているのにどうして……
天パの遠隔バズに似たことが出来る。完熟トマト。
グエル……精神的動揺などのデバフが敗因。冷静なら勝てた可能性のが高い。
立ち回り的に割と可愛そうな青いトマト。
シャディク……シャアの気持ち悪いところを抽出したとか言われるだけはある。
誇張表現により本当に気持ち悪くなってしまった青いトマト。
看守くん……想像よりずっと駄目なシャディクを見てドン引きした。