位高ければ徳高きを要す   作:CATARINA

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「」はその場の会話
『』は無線とか機械を通した言葉
前もって書いときゃ良かった……


死の商人

「立食パーティーにしては料理人の腕も案外悪かない……ほらスレッタ(我が友)よ、口を開けるが良い。」

「ありがほおごはいまふ」

 

ベネリットグループ主催のパーティー。

そんな中、グループ外の男が一人。

 

「なぁシャディク。やはりというべきか、俺は注目の的という事か?」

「君はベネリットグループに所属していないから仕方ないだろう。」

「この身から溢れる高貴さが惹き付けるのだろう、許せよ。」

「皆が皆君みたいな考えなら楽しいだろうな……」

 

とはいえ、これでも大口株主なのだ。

ぞんざいには扱えまい。

これ幸いとウチの工作員も何人か入り込めたしな、情報を抜きとるには最適だ。

 

《集音デバイスオンライン》

『最近ウチの娘が……』『地球の戦争屋風情が何故……』

『漸く新兵器のテストが終わりましてな』

『__気に食わなくてもグループの5%の株主だぞ』

『ミオリネ様の付き人には勿体無い器量良しじゃないか__』

 

ふうむ。

 

……本当に嫌われてるのだな。

差別は根強い、大人になり自ら会社を率いる立場となって尚。

幼少から刷り込まれた地球差別は変わらない。

 

いっその事、この場で宣戦布告でもしてくれようか。

尤もそれに利は無い。益も無い。

アラサカ重工、傘下含め数千万人の長としてその引鉄を落とすことは無くとも。

その気になれば御三家はともかく、その他企業全てを相手取って尚全て再起不能にする。

現実にそう難しい事では無いだろう。

それが可能な軍事力こそが我が社の根底ならば。

 

理性で抑え込む狂気は血の成すモノ。

地球を捨て、宇宙へ登った上流階級たち。

それを恨み、荒廃した世界で敵対する企業を叩き潰し。

たった一代で成り上がった初代アラサカとその盟友。

故、ただ人を殺したいと願う鬼をその身に宿しているのだ。

 

「うーむ……お手洗いはどこだろうか。」

「そこの非常口から出ると近いよ。」

「感謝する、少し頭を冷やして来た方が良さそうでな……」

 

 

 

『状況を報告せよ。』

『ペイル社、ジェダーク社、グラスレー社。それぞれある程度の情報は入手。

しかしそれ程目立った成果は挙げられていないようですね。』

『MS開発は袋小路になりつつあるか。宇宙に囚われているのだ、仕方あるまい。』

 

地球環境下という制限こそあれ、二ヶ月に一機のMSを新造している我が社が異様なのだ。

技術革新などそうそう起こるものでもない、大規模な戦乱でも無ければな。

だからこそあのエアリアル……GUND-FORMATは枯れきったMS開発を潤す湧水という訳だ。

 

『我が社はあの技術を欲しないと?』

『そうとは言ってない。有益なのは間違いないが、ウチの技術と相性が悪いだろう。』

 

あのドローン兵器が有用なのは単騎で敵性存在にオールレンジ攻撃ができる事。

そして飽和攻撃の最中本体は自由に動く事が出来る事。

強みはこの二つだが、その為にはドローンを軽くしなければならない。

 

『成程、弾薬を格納するスペースが無いと。』

『ましてやウチの兵器だぞ?子機一つ一つが肥大化しては容易く破壊されるのがオチだ。』

『それは……そうですね……』

 

アラサカ重工は地球最大の軍事企業。

なればこそ、お抱えの技術者は天才揃い__揃いなのだが。

 

《ご覧下さい、新兵器の高圧プラズマキャノンです!》

《社長、戦艦使いたいです戦艦。陸空は勿論宇宙でも使える先々代のアレ。》

《分離兵器って良いよね……》

 

『宇宙戦艦を勝手に使うのは正直気でも狂ったのかと。

当然却下するつもりだったがまさか既に完成したものを事後報告するとは思わなかった……』

 

巨大な眼球を思わせる球体のプラズマキャノン。

高い踏破性を持つ多脚の基部。

そして緊急時には最重要部のプラズマキャノンが独立飛行するという超兵器である。

 

『何でしたっけ名前?ソルディオス__』

『オービットだ。ソルディオス・オービット。

あんなものを浮かせて喜ぶか……面妖な変態技術者どもめ……』

 

名前も設計もご先祖さまの時代に実在した兵器から転用したらしいのだが。

それにしても……それにしてもである……む。

 

『どうやら客人の様だ。後でかけ直す。』

『客__なるほど。承知。』

 

手洗い所の鏡でネクタイを直す男を瞬く間に銃を持った影が囲う。

 

『穏やかじゃないな……どうかしたか貧乏人共、親の仇でも見つけたか?』

 

軽口を遮るように一発の弾丸が大腿に食い込む。

不本意ながら衝撃で膝を付かざるを得なかった。

 

「待て、まだ殺すんじゃない。」

『……ガハハ、まさか私を殺せると思っているのか。』

「殺すさ、ただ殺すんじゃない。お前も、お前の一族も皆首を並べて晒してやる……!」

 

なるほど、コイツだけ実戦経験があるな。後は全員素人だ。

とはいえ憎悪で冷静さを欠いているのは間違いない。

 

「俺の妻子は戦争に巻き込まれて死んだ。」

『それはお気の毒だな。ご愁傷さま。』

「……俺だけじゃない、この場に居る者の殆どは、お前の作った兵器で家族を奪われた。」

『運が悪かったんだな。』

 

銃床で横っ面を殴り飛ばされる。

そもそもよく見たらウチの銃じゃないか。

やはり素晴らしい出来栄えだ。設計も非の打ち所がない。

 

「何も、思わないのか?自分達がどれほどの人を殺しているのか、理解しているのか?」

『当然だろう、そんなに褒めるでないわ。』

 

『そもそも、どれほどの__とは不思議な事だ。

お前達は今まで何粒の米を食らって来たのか覚えているというのか?』

 

嘲るように吠えるその声は、消音された無数の銃声によって掻き消された。

 

 

 

 

 

 

 

「殺しては、意味が無いだろう。」

「世に平穏のあらん事を」

「またそれか。」

 

平穏は全てに勝る。

平和は守らねばならない。

アラサカは平穏を、平和を破壊する悪だ。

その悪を滅する為なら、武力行使も厭わない。

 

《世に平穏のあらんことを》

この言葉を唱えると誇り高い気持ちになる。

大義のためにただ戦う働き蜂の気分で、勇気が湧く。

 

「脅迫なら首でも落として晒せば良いだろう。」

皆がぎょっとした目で此方を見る。

素人め、所詮は志無き烏合の衆に過ぎんか。

もういい、自分がやる。

 

無駄に大きな骸を踏みにじり、ナイフを抜く。

無辜の人々を殺して肥えた忌々しい身体だ。

さぁ、目を潰し、鼻を削ぎ、首を落とそうか。

正義の前に倒れた巨悪を晒すのだ。

 

「待て、何故血が出ていない?」

「やかましいぞ。」

 

首筋に狙いを定め__ナイフを取り落とす。

 

?何故落とした。

なんだその顔は、笑っているのか?ズレた顔で。

くそ、地面が上がって?たてない。

 

血が、ち?なに?

 

そうだ、ないふひろう、ちが、こぼれ、ないぞう。

 

 

唐竹割りされた屍が自らの血と腸の海に沈む。

ただでさえ殺人という非日常、それが二度。

ましてや後者は惨殺と呼ぶしかないほど凄惨に絶命したのだ。

元々寄せ集めの素人である彼らにはあまりに苦しかった。

 

吐き出す者、錯乱する者、逃げ出そうとする者。

再び金切り音が響き、逃げようとした者の脚が切り落とされる。

ともあれ骸の片方が起き上がった。

 

『脆いモノですね、訓練されていない兵というのは。

計画性の無い突発的な犯行と分かったのは収穫でしたが……』

 

膝から射出されたブレードを戻しながら首を鳴らす。

 

『主犯が働き蜂(ワーカー)である時点で期待はしていませんでしたけども。

後は恐慌状態の覚悟もない素人だけと。降参する気はありませんか?

神威様を狙った罪、万死に値しますが生体研究ラボが検体を求めていまして……』

 

その言葉を遮るように銃撃が飛ぶ。

およそ2mの距離、どう考えても回避不能。

溜息を一つ吐き、瞬き一つ。

あまりに遅い。

世界の流れは、あまりにも。

 

万に一つ跳弾する可能性を無くすべく弾丸を摘みとり、入口の方へと回り込む。

途中二人ほど轢いてしまい血霧に変えてしまったが誤差だろう。

 

『ありがとうございます、抵抗してくれて。これで躊躇いなく貴方達を殺せます。』

 

腕の一振りで一人が臓物混ざりの血溜まりに変わった。

必死に横を通り過ぎようとした者は肘から伸びるブレードに両断される。

一人、また一人と惨殺されていく同胞に、唯一実戦経験のある元軍人の男が組み付く。

そして気付くのは、異様な感触。

「化け物が……」

『褒め言葉と受け取っておきましょう。』

 

そのまま身体で叩き潰され、全身の骨を粉々に砕かれて命を落とした。

八人全滅__否、身体を両断された働き蜂が僅かに動いている。

 

『信じられない、この状態で生きてるなんて……』

「相当な薬物を入れてるなこれは……無様なモノだ。」

 

そう言いながら個室から出てくる神威本人。

なんのことは無い、最初から最後までずっと居たのだ。

トイレに入室して情報共有をしていた所を襲撃され__向こうが間違えただけに過ぎない。

 

「にしてもまた凄惨にやったな神威(カモイ)。マンティスブレード、気に入ったのか?」

『射程距離が数倍に向上します。実用性重視とは聞いていましたが、素晴らしい。』

「まぁ、良い。掃除屋に連絡しておけ……それとその辛うじて生きてる奴はラボ送りだ。

しぶとさは十分、案外喜ばれるかも知れぬぞ?」

『委細承知。』

「相変わらず、固い奴だ。にしても所詮下賎の者共か、この俺を判別出来ぬとは。」

『我々、顔も身体も同じですが?』

「この身から漏れ出る高貴さというか……そういうモノ、あるだろう。」

『わかりません。』

 

露骨に肩を落とすカムイ。

実際彼らが入れ替わっても友人はおろか親族でさえ判別は付かないだろう。

身長から指紋、歩幅に至るまであらゆる要素が等しい故に。

 

「我が影としてどうなのだそれは……あぁ、姿は戻しておけよ。」

『私はあまり好きじゃないのですが。』

「俺が命ず、そのままの顔と身体で出たら俺が二人居て混乱されるだろう。」

『ううむ。』

 

影武者は僅かに唸り、抵抗するが主の命には逆らえぬ。

諦めたように首元を弄り、その姿形を変えていく。

形状記憶ナノマシン。

あらゆる姿形に変形し、戦闘ならばあらゆる衝撃に一瞬で硬化する。

本来、故障した兵器の修復などを目的として制作された技術である。

しかしこの影は自らの身を捧げる事で影武者としての役割を一層向上させたのだった。

 

カムイが熊や獅子のような益荒男だと言うなら、影は豹の如き端正な顔立ちと姿であった。

何処と無く似てはいて、圧倒的に違うといえば違う。

正反対ながら絶妙なバランスで似ているといえた。

 

「ガハハ、それで良い。相変わらず古代の絵画のような美しさよな。」

『私は好きじゃありませんがね。』

「そう言うな、俺は好ましく思うぞ。我らは表裏一体、光影よ。

む……そろそろ戻らねば不味いか、我が友を待たせるのは心苦しい。」

礼服を汚さぬように巨体に似合わぬ軽やかさで血溜まりを回避するカムイ。

『随分、お気に入りなのですね。』

「無知ではあるが、無垢であり、強く礼節を持った人物だ。」

『……』

「どうした____まさかお前、嫉妬してるのか?」

『いえ、まさか。』

 

珍しく取り繕うような返答。

疑念を確信へと変えたカムイはニヤニヤしながら自らの影の背を力強く叩く。

「案ずるな、俺の為に死ねと命ずるのはお前だけだ。」

『痛いです。』

ガハハと笑い飛ばしながら手洗い場を去り、友の元へと向かう。

 

 

 

『……貴方に褒められるのは、嫌いではありませんが。』

影は呟く。

主に届かぬと知るが故に。

 

 

 

 

「GUND-ARM社を設立します!!!」

 

「戻ったぞ__これはどうなってるんだ?」

何故ミオリネとスレッタが大上段に居るのだ。

ペイル社のタ〇モトピアノ共はなんなのだアレは。

 

シャディクは……見当たらん、ニカもいないではないか。

仕方ない、流石に誰か見張って居ただろう。

 

『会場に待機していた者、顛末を余すこと無く話すのだ。』

『カクカクシカジカシカクイムーヴ』

『なるほど、把握した。』

 

とはいえ。とはいえだ。

会社の設立……それは悪手なんじゃないか、ミオリネ・レンブラン。

もしこの場に居るのが俺のように外様の、ベネリットグループと直接関係の薄い会社揃いならば。

まだ希望はあったかも知れぬが、ここでお前達に出資するのは総帥を敵に回すと宣言するようなモノだぞ?

それも回収出来るかも定かでは無い投資でだ。

余程のお人好しか、狂人くらいだ、それは。

 

「………!カムイさん!」

 

遠目に俺を発見したであろうスレッタの声。

その声に反応して一同が俺の方へと振り向く。

むぅ、これは話さねばならぬか。気は進まないが。

 

ステージに向け歩く途中、司会席からマイクをひったくる。

 

「どうした我が友よ。出資の話だと言うならば、今の所俺は否定的だ。」

「そんな……」

「………」

 

「どうやら、ミオリネの方がそこは理解しているようだな。宜しい。

今この場に居るのは俺を除いて言わば総帥のシンパだ、分かるな?

その総帥が否と言った技術に投資するのはあまりにリスクが大きいのだ。

正直なところ、スレッタ・マーキュリー。そしてミオリネ・レンブラン。

お前達の友人としての俺は金を出しても良いと考えている。いるが……」

 

悪いな、友よ。俺も、そう簡単に動けやしないのだ。

 

「俺は、今この場に来ている俺は()()()()()()()()()荒坂神威として此処に居る。

この重責は自ら望んだモノであり、義務であり権利なのだ。

長として、数千万人の社員とその家族の人生を守る社長として、このままでは協力は出来ぬな。」

 

そう、このままでは協力出来ないのだ、俺も。

だから、気付け。ミオリネ。

誇り高くある事は素晴らしい。だが、余計なプライド等捨ててしまえ。

お前も社員の人生を背負う覚悟があるなら。

 

 

 

社長として、若くからその責務を担う先人としての無言のアドバイス。

僅かに時間を空けてそれは確かに届いた。

 

 

 

 

『貴方に出資して欲しい!』

 

 

 

 

 

__良いぞ。

 

「ミオリネ……否、レンブラン社長。質問良いかな。」

「何かしら。」

「GUND-ARM社の出資ってのは個人で買う上限等あるのか?」

「……そんな余裕は無いわ。」

 

なるほど。

 

『じゃあ残りの72%はアラサカが買おう、皆まだ懐疑的だろうからな。』

 

《有望な総帥お墨付きの新企業、出資しなくて良いの?じゃあウチが買うよ?》

言外に脅迫する言葉。

この場に居るのは皆歴戦の商人達である、その競争心を煽られては目標金額の達成はあまりに容易く。

GUND-ARM社の設立によって辛くもエアリアルとスレッタは守られたのだった。

 

 

 


 

「あの狸ババア……否、蛇というべきか。母親としてどうなんだアレは。」

「誰しもアンタみたいに親子関係が良好なワケじゃ無いのよ。」

「ガハハ、お前が言うか社長。」

「そんな事より__ありがとうね。お陰で一つ前に進めた。」

「子孫代々末代に至るまで感謝を伝え、讃えるが良い。進めば二つ、だろう?」

 

その言葉は今この場に居らず、二人が共通で気にかける大切な友人の志。

余計な言葉は不要である。

 

「さて、我らが友を拾いに行くか。帰りに飯を奢ってやろう。」

「貴方の行きつけの店は独特な料理が多いのよ。」

「なんだと、なら今度はジロー系をだな……!」

 

 

 

 

 

 

 




『神威様に連絡。』
『ああ、お前か。首尾はどうだ?』
『買い占めは27%といった所で完売してしまいました。』
『十分だ、株主としては最大だろう。』

友も救う、会社も盛り立たせる。両方やらなくちゃならん身分は辛いモノだ。
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