人によっては不快になるかもしれない描写があります。
「一つ疑問である。」
「何?遊んでる暇は無いのよ?」
「否、そもそもの話……何故俺がお前の社員になっているのだろうか、とな。」
勝手に登録されていた。
俺でも本人が本気で断るなら無理に入社はさせぬぞ。
「どうせ暇でしょ貴方。経験がありそうだから経営アドバイザーなんて役職を割り振ってあげたのに何が不満なのかしら?」
「問題外だ、社長業でただでさえ忙しいのだが……業務中の賭事は禁止にしよう。
男衆が先程企画構想をサボって決闘賭博に精を出していた。」
俺が出ている時に賭ければ幾らでも儲かるだろうに、倍率に目が眩む莫迦ばかりだ。
夏期休暇中に俺から借用した代金分働かされたことを忘れたのだろうか……
「それと社長。給料はホントにこんなに出せるのか?当社は今の所収入の一切がない状態だぞ。」
「もちろんどうにかするわ。」
「意気込みではなく具体案を聞いている。」
「……どうにかするわ!」
「今から株、売れるだろうか……」
俺の一存で相当買い込んだからな。
需要過多ならウチの経営が傾く事はまず無いが、説明する為わざわざ役員会に出る事になった。
別に反対者がいる訳でもないとはいえ。
大損にならない為にはこの会社をどうにか盛り立てねばならないという事だ。
《株式会社GUND-ARM 人事部長/営業部長/経営アドバイザー 荒坂 神威》
「酷い名刺だ。余白に対するDVで敗訴しそうだな。」
「そもそもそういう内勤の心得は皆無いのよ……」
「圧倒的人材不足だ、だがやるしかあるまい。」
『飛べる!踊れる!エアリアル!』
__にしてもこれは無いだろう。
カムイは内心で広報を監督しなかった事を悔いた。
「企画会議の時間だ、居ない者は挙手。」
「あの、ああの、その、居ない人は手、上げられないと思います。」
「……まぁ、良い。流石ホルダーは賢いな。本題に入ろうか。
とはいえ進む先は二つに一つという事になる。一つは
おっと、青ざめたな。
無理もない、温室育ちの学生達に人殺しの兵器作りは重たいか。
だが俺は言う、言ってしまう。
あくまでこの会社では一社員である俺のすべき事は共有と納得だ。
情報は仔細に綿密に、包み隠すこと無く話して選ばせるべきだ。
「そう固くなるでない。確かに突然兵器を作るのでは抵抗感もあるだろうが……特に暴力こそが無辜の民を護る唯一の手段となる事もある。地球の我が故郷で言うならば、武。矛を止めると書いて武とな。何より兵器ならばそのノウハウは他の追従を許さぬ、偶然にも俺は軍需産業を嗜んでいる故、コネクションも輸送も保障しようじゃないか……とはいえ、社長肝入りの案があるそうだ。謹んで拝聴せよ、そして社の方針は自ら決めるが良い。」
俺からは以上だ、話せミオリネ社長。
「私が提案するのはGUND-ARM本来の目的__つまるところ医療用途での活用よ。
ひとまず、これを見てくれるかしら。」
なるほど。
本来GUND技術は身体一致度の高い義肢などに使われる、と。
逆にMSに、エアリアルに用いられている技術は副産物という事か。
「質問良いだろうか。」
「ええ。」
「ガンド医療の利点__義肢の技術だけならそれこそ俺の会社にもある。
専門に研究する会社なら更に高度だろう。そこに参入する強み、売りはあるのか?」
「人体との親和性の高さ、つまり欠損以前と変わらない生活を送り易い。
その分人体が感じる生体部との不一致……違和感も少ない筈よ。」
「なぁ、不一致って具体的にどういうモンなんだ?」
「チュアチェリー、良い質問だ。代わりに俺が答えよう。」
背部のスクリーンにスライドを映し出す。
それは握り拳の様にも鉄塊にも見える奇妙な機械であった。
「我が社の義体技術は二通りある。一つは完全なサイボーグ化、こちらはまぁ戦闘用だ。画像はアームドアーマーと呼ばれる当社の主力商品。ヴァイブロ・ネイル型の__否、簡潔に済ませておこう、詳細が気になる者は各々調べるが良い。通常歩兵が携行しない大型兵器の運用や装甲と膂力を活かした強襲格闘戦等に使われている。さしずめ人間のMS化と言ったところだな。」
「人間、なんですか?」
「否、大抵は全身を義体化して人格をAIにコピーした奴だ。その理由でもあるんだが__人間というのは案外、我儘な生き物ということが分かったからでもある。」
__自死作用。
正式な名称は無く、今まで確認された者が皆最後に自殺した事から呼ばれている。
未だに研究は中途段階であり、完全に原因が判明したわけで無い。
今のところ有力な説では免疫の過剰反応、つまりは一種のアレルギー反応と。
身体を機械に変えたところで、人間は人間。
当然、身体を改造すればする程免疫反応は強くなる。
個人差は大きいが、大抵は置換が三割を超えた頃に発症する。
失った腕を鋼鉄の剛腕に。欠けた臓器を強靱な人工の臓器に。
さて皆も考えてみろ。
この身体は父と母から貰い受けた物。
しかしその身体がもし、機械に変わっていったら?
それは果たして人間なのか?
俺は哲学者では無い故、その答えは持たぬ。
少なくとも人の身体はそれを認めなかった。
自分は人間なのか?自分は機械なのか?
無限に等しい問答の末、自己矛盾を起こした精神は崩壊する。
大抵、機械化により強力になった力で見境なく殺し回り、果てに自死を選ぶ形でな。
ナノマシンを利用した人間の姿を大いに残した義体化。
その実験の果てに発見されたこの作用が、今の義体ビジネスの壁である。
故にサイボーグのように戦闘等に特化した改造なら脳を含めて全身を。
ナノマシンによる改造も精々が四肢や臓器一つが好ましいとされているのだ。
「だからこそ__GUND医療には未来がある。俺はそう考える故、社長の判断を尊重したい。」
その後、評決は満場一致で医療用ガンドの開発に。
それで良い。
「そういえば先程、置換する程発狂しやすくなる。と言ったが例外もまた存在する。
ソイツは全身をナノマシンと置換し、ナノマシン生命体と化した気狂いだ。
その恩恵としてあらゆる姿形になれる工作員となったがな。」
神威がそう語ったところで、その向かいに居たニカが動く。
両手をピースに、目は上下にズラして、舌を突き出し。
「アヘェ」
「何やってんだニカ姉ェェェ!?」
「まぁ、こんな風に尊厳破壊もお手の物な我が腹心だ。
案外お前達も俺と入れ替わった奴と会っているやも知れぬ故、紹介しておこうと思ってな。」
「その場の勢いでアヘ顔を晒したのは良いが……」
どう考えても発覚したら怒られるのは俺なのでは無いだろうか。
別に俺は指示を出したワケじゃないのだが……
まぁ、何とかなるだろう。
……それにしても流石に熱いな。
普通に、理性的に、論理的に考えたらこの行為が身体に良いワケ無い。
脱水症状ギリギリまで身体をイジメ抜き、果てに凍てつく冷水に入れて天日干しとは。
文字に起こすとおよそ地獄の刑罰としかいえぬ苦行ではないか……
まあ、人工気候装置による光を天日と呼ぶかは難しいところだが。
地球寮自慢の大浴場、そのサウナ。
この学園に入学した神威がまず嘆いたのは風呂。
共用なのはともかく、シャワーのみ。
地球において国家という形が形骸化する前、彼の故郷は日本と呼ばれていた。
その文化に於いては浴槽に湯を張り、入浴するのが必然__この生活は耐え難かった。
すぐさま神威は私財を投じ、寮生なら誰でも使える大浴場を。
それも二種のサウナと露天風呂まで完備したモノを建設させた。
許可を取るため、今は卒業した当時の決闘委員会上級生に決闘まで挑む大立ち回り。
尚、これが彼の初めての決闘である。
……そろそろ一度上がって水風呂に……否、まだいけるか?
ギリギリを攻めてこその蒸し風呂ではないか。
そう思った矢先、扉が開かれる。
100℃を超える灼熱が外気の冷涼さを取り込み、仄かに爽やかになった。
「わ、暑い……!ミオリネさん、すんごく暑いです!」
「……120℃って頭がおかしいんじゃないかしら!?」
「やっぱり普通の露天だけにしようぜ、暑……」
「そういえばこの時間って……」
なんと……騒々しくなったな……
女三人寄らば姦しいとは言うが、四人ならば尚更、か。
やいのやいのと騒いで数秒、サウナの奥で悶える俺に気付き、時が止まる。
なるほどなるほど、そういう事か。
「……サウナのマナーを教えてやろう、取り敢えず
「「うわぁぁぁああああぁぁ!?!?!?」」
刹那、視界が回転する。
最後に見えたのは確か、振りかぶるチュアチェリーとミオリネ……
「あのなぁ、普通首が180°回ったら即死してしまうのだぞ……」
ゴリゴリと音を鳴らしながら元の方向に直す。
案外解れたかもしれぬ。
「何で入ってるんだよ!」
「何故って、俺が作ったモノに入って何が悪い……」
スペースの問題で露天とサウナは共用なのだ。
流石に問題かと思ったがせざるを得なかった。
「案ずるな、そもそも局部等は見えては居らん。我が社の最新技術である。」
光の屈折、湯気の発生、滞在者の視線。
全てを制御して何故か見えないシステムだ。
「《不思議な湯気システム》だったか?だから問題はない。」
「問題しかねえよ!」
……まぁ、取り敢えず。
取り敢えず掛けるが良い。
三セットも挟めば冷静になるだろう。
「あ、あの。本、で読んだ話、だと、普通は男女一緒じゃ、駄目だった、ハズで。」
「何だそれは、水星はホントにお堅いのだな……地球の文化だぞ?
ミオリネよ、お前も聞いた事が無いか?地球の文化の《裸の付き合い》というのを。」
「地球の文化……!?」
「違ぇよ!」
騒がしいな本当に。
「サウナの中では静かにする、一つのマナーだぞ?」
「あはは……じゃあ私隣で良いかな?」
「無論だ。」
流石に慣れているなニカよ。
この三馬鹿トリオにも見習って欲しいモノだが……
「カムイ。」
「何だ。」
「その……こう……何か思うところとか、無いのかしら?」
「どういう事だ?」
「いや……男女なワケだし……その……」
「ハニートラップ程度なら幾度となく掛けられているこの俺に聞くか?
ガハハ、小娘の裸体などそもそも興味も無い__痛いな、なぜ殴るのだ。」
暴力でしかコミュニケーションの取れない野蛮人かお前らは。
「暑い……」
「……頃合だな、出て右側が水風呂だ。シャワーもあるから汗は流すんだぞ。」
「さぶぶぶぶぶ」
「スレッタがブレてる!」
「高周波スレッタ……まだ水風呂本番じゃないのだぞ。」
「嫌だ!死にたくない!シニタクナーイ!」
「大袈裟な奴らだ……ニカを見ろ、もう潜水までしているぞ。」
「絶対命に関わるわよ!?」
「……ペンギンという生き物を知っているか?」
「ペンギン」
「凍てつく海に飛び込む際、リスクを分散する為にお互い蹴落とし合うそうだ。
なぜなら最初の一匹はシャチ等の捕食者に襲われやすいからな……」
「何を言ってるんだ?」
「
「「「ぎゃあああああああああ!!!!!」」」
うむ、中々有意義な時間であった。
「ガハハ、牛乳をくれてやろう。チュアチェリーはイチゴで、ニカはコーヒーだったな。」
「ありがとうございます!」
「うい。」
「ありがとね。」
サウナ上がりの水分補給は本来スポーツドリンク辺りが望ましいのだが……
それを理解した上で牛乳に勝るモノは早々無いだろう。
ワイワイと談笑をする三人に牛乳を手渡し、少し離れたところで俯くミオリネにも手渡す。
「浮かない顔だな、逆上せたか?」
「違うわよ……こんなに遊んでる場合じゃないのよ私たち……」
それは違うな。
「?」
「社長という職業は言わば王だ。社員の人生を、命を預かる仕事だ。
ならば当然、意のままと行かぬ事もある。分かるな?」
「それはそうだけども……「だが!」!?」
「だが!それでも意のままを貫くのだ!欲望の限りを尽くすのだ!
よく笑いよく泣けば良い、その姿を魅せるのだ。その背を追う皆にな。
つまるところ、抜くところは抜く、締めるところは締める。理解したか?」
「まぁ良いわ……そういえばなんでガンド医療の資料なんか持っていたの?」
「む、ここまで小規模な会社で軍需産業を進めても赤字になるのは目に見えておるわ。
だからこそ、俺は皆に軍需産業の可能性を見せた。真っ当な医療は眩しく見えるだろうとな。
良いじゃないか、医療用途。学園も文句の付けようがあるまい。」
最初からこの場での軍事利用は考慮していない。
本気でやるならば少なくとも我が社の工場をまるまる一つは使わねばなるまい。
後で取り込んだ時に考えれば良い。
『飛べる!踊れる!エアリアル!飛べる!踊れる!エアリアル!』
「電話か……」
「待って、それ着信音なの!?」
「繰り返し聞けばより良い妙案が浮かぶと思ってな……」
『俺だ、どうしたカモイ。』
『社長ですか、良かった。直ぐに端末から校則の欄を確認して下さい!』
『落ちつけ、らしくもない……校則だな、一度切るぞ。』
校則を確認だと?
しかしGUND-ARM社は特に校則に抵触していなかったし、生徒の起業は問題無かったハズだが。
『生徒による新事業の立ち上げを禁ずる』
なるほど。
「我が友よ。」
「はい!?」
「事と場合によるが__荒事になるやもしれんな。」
ニカ……社長の奇行には慣れっこの同級生
社長……『飛べる!踊れる!殺せる!エアリアル!』……なんか違うな。
ミオリネ……カムイが味方してくれた事に割と驚いてる。
スレッタ……次は飲むヨーグルトを飲もうと決めた。