『決闘ルールは6対6の集団戦とする。』
「6対6って……!そんなにMSは無いよ!」
「俺、スレッタ、チュアチェリー……ガハハ、一人二機だろう?容易い事だ。」
「そちらの社長殿は随分な自信があるようだが?」
「然り、受けろよミオリネ。なんなら俺一人で全機薙ぎ倒してくれよう。
そもそも、何故グラスレー傘下に入らねばならぬのだ、少なくともウチの下だろう。」
何のために株を買い漁ったと思っているんだ。
「そうだ、カムイ。」
「なんだ、俺は忙しいのだ。貧乏人共を粉砕する為に早速武装を整備せねばならぬ。」
「君の機体__決闘規格を逸脱してる疑いがあってね、一時没収させて貰うよ。」
「くぁwせdrftgyふじこlp;@:「」」
「カムイさんが壊れました!」
「誠に不本意ながらアンタも頼りなんだからしっかりしなさい!」
「よしきた。」
「うわぁ!急に落ち着くな!」
「あの野郎、分かってやったな。俺が決闘規格を満たす為にどれほど苦労したと……」
「というかよ、アレで規格満たしてるのか?」
「無論、リミッターを外せばあの三倍は威力が出るわ……ううむ。」
機体は、ある。
一応持ち込みはしたが一度も決闘で乗っていない試作の五号機だが。
「そもそも機体が足りねえんじゃあねえか?」
「……何故俺の方を見る。我が社ではまだ量産機の作成には取りかかれてないのだ。
全て試作機であり、どれも俺専用に調整されておる。」
乗れるものなら乗ってみるが良い。
時代に逆行したウチのMSは基本的に全ての操作がマニュアル式。
少なくとも素人が乗るならデミトレーナーの方が遥かにマシだろう。
「代換MSは、ペイル社に用意させるのが丸かろう。」
「奇遇ね、私も同じ事を考えていたわ。」
「GUND産業に態々一枚噛ませてやったのだ、そのくらい協力して貰わねば困る。」
そうと決まればパイロットでない素人組を鍛えなければなるまい。
「パイロット未経験の者はこれから放課後に毎日訓練をして貰う。」
「マジかよ!?」
「当然、社の一大事とあればこれも業務だ。」
時間も、人も足りない。
だがやるしかあるまい。
「これで全滅ね……!」
想像以上に良い動きをしてきたものの、リリッケ・カドカ・リパティも、チュアチェリー・アバランチも沈黙した。ならば残存する敵機は他のメンバーが討ち取っている事だろう。念の為武器も破壊し、抵抗力を完全に削ぐ。
ただ、一つ気がかりなのは__
『シャディク?メイジー?誰でも良いから応答出来る?』
開始からずっとノイズしか聞こえない無線だ。
およそ100m前後の近接通信を除いてあらゆる通信に障害が発生している。
障害はレーダーにも及び、索敵範囲が大幅に狭まっているのも面倒だ。
後はせいぜいが音で方向を察知するくらいだが……
『ザザッザザザザ__救援をザザッザザザ』
無線が通じた。
つまり、何処かに友軍機が居ることになる。
救援要請、ということは最後の敵機も。
6機中2機撃破。
となれば自分に傅く男は更に増えるだろう。
方向は不明、しかしそんなに遠くは無い。
すぐに予想は確信へと代わり、見事に友軍のペギルペンデを発見した。
したのだが。
「なに、これ……?」
発見したのだ。ペギルペンデだったモノを。
凄惨な現場であった。
右腕、肘から先を斜めに断ち切られている。
左腕、配線が切れていることから、肩部から引き千切られたと推測。
脚部、両方共に膝上で切断。
恐らくは__相当抵抗したのであろう。
MSの残った腕部や頭部を叩きつけてもがいた痕跡が見られた。
もっとも、その頭部は踏み潰され、最早原型を留めてはいないのだが。
「一体どうなって……そうだ、無線は……」
この距離なら当然、近接通信が届く。
しかし、応答はない。
パイロットが意識を失っているのだろう。
コクピット周りを丁寧に避けて嬲られている辺り、最低限の分別はあるようだ。
腕も、脚も、滑らかな断面。
一般に広く使われるヒート刃や、ビーム刃ではこうはならない。
かといってジェターク社が好むような質量で叩き割る武器でも、こうはならない。
溶断でも、圧断でもない。
純粋な切れ味。
MSの頑強な巨体を、容易く断ち切る刀剣によるモノだ。
『なるほど、不用意には近付かないか。流石は腕利きと言うべきか?』
通信。
今届くとしたら近接通信、100m__
『そんなに怯えるでない、どの道お前はここで脱落するのだから__』
ガシュ。
排熱版が跳ね上がる音。
同時に虚空から輪郭が浮かび上がってくる。
太い。
一目見て、そう思う形状であった。
四肢の全てが非常に太く、それに見合うボディを使用しているから、尚更。
背部にも脚部にもスラスターは一切見当たらない。
だからこそ、のっぺりとした印象がいっそう機体を恐ろしく見せていた。
腕部グレネードのようなモノが両腕に取り付けられ、背部にはレドームの付属したアーム。
何より目を引くのは背負う巨大な太刀である。
機体のおよそ七割……10mを超える巨大な太刀を担いでいた。
つまり、切り刻んだ得物はアレと見て間違いないだろう。
機体の至る部分から排熱する故か、鈍く黒光りする機体は朱く照らされ。
グポーン、と。独特な音を響かせにモノアイが点灯する。
《……彼の砲撃は脅威だ、早々に排除出来て安心しているよ。》
《認識外からの一撃、それで決着。なんてのは御免だ。》
《だから、遊撃組は特に警戒して欲しい。例え主兵装を奪ったとしても__》
『ガハハ、名乗りを忘れていた。アラサカ……否、株式会社GUND-ARM社所属、カムイだ。
少なくとも三機は始末せねばならぬ故、口上は終いとする。取り繕いもせぬ、死ね。』
そう言うと、敵機は仄かにぼやけていく。
輪郭は曖昧に、いつの間にか閉じた放熱板も薄れていき。
やがて空気に溶け込むと、何事も無かったように静寂に包まれた。
……消えた?
いや、物理的に消滅する筈もない。
透明になった、と認識すべきだろう。
だが、聞いた事もない。
実体の姿を影も形も無く透明化させるMSなどは。
そもそも、そんな技術は何処にも存在しえない筈だ。
緊張から、背筋が恐ろしい程冷える。
本物の殺意が滲んでいるようだった。
シャディクは何と言っていたか。
そうだ、確か。
《彼は、強いよ。》
ザリッ。
微かに、僅かに小石を踏むような音。
それを聴き逃さず、咄嗟に盾を突き出す。
間に合う筈だ。
振るわれる不可視の刃。
堅牢なシールドはそれを確かに捉え__淡雪のように裂けた。
ズッ……
一切の手応えが無いかのように刃は盾を切り裂き、我が機体の腕をも半ばで断ち切る。
肘上で切り飛ばされた腕から、千切れた配線が火花を散らした。
[決闘記録 アラサカ・カムイ 64戦 61勝 3敗]
さてと。
レネ・コスタ……パイロット科の二年だったか。
『アクティブ・カモ、オフライン。排熱を開始します』
カモフラージュユニットの終了と同時に機体内部に溜まった熱を排出する。
この機体にはスラスターが無い。
熱探知でステルスを看過されてしまうからだ。
同様に、ヒート刃もビーム刃も、火砲の類も持てぬ。
……そも、ビーム兵器は扱えぬのだが。
故にこの機体に、武装は三つのみしか積んでおらぬ。
一つはチェーンマイン。汎用性の高さ故に。
二つ目、コールドクナイ。腕部ユニットに三発ずつ、高圧電流で敵機を数秒ショートさせる。
そして、対MS刀。銘を
もはや芸術品としての価値しか認められず、燻る刀鍛冶らを焚き付けた。
現代に於ける白兵戦、その可能性はMSにある__とな。
工房の職人が、総出で、寝食を惜しんで半年。
漸く鍛え上がった巨大な刀である。
その切れ味はありとあらゆる物体を滑らかに切り伏せる程。
熱源になり得ぬこの刀は、透明化する機体との相性が素晴らしく良かった。
故にこう名付けたのだ。
「
盾もろとも片腕を切り捨てて尚、闘志に陰りなき敵。
素晴らしきかな。
敵ながら見事也やと、素直に賞賛できる。
『アクティブ・カモ オンライン』
だがしかし、今日は生憎と__正々堂々とやるつもりはないのだ。
俺の機体を奪い、友を辱め、挙句に我を舐めた戦力の逐次投入とは。
一度離脱し、効果時間内に死角に入り込んで切りかかる。
僅かながら反応され、肩の僅かだけを切り裂くに留まったが。
『排熱開始。』
『流石、というべきか。レネ・コスタ、優秀だな。』
『アンタに褒められても嬉しかないわよ……ッ!』
『判断も、狙いも良い……どうだ、我が会社に来る気は無いか?』
返答は無く、代わりにライフルから閃光が迸る。
ビームライフルの最大の利点は何より弾速であろう。
短いバレルからでも殆ど偏差の発生しない光波を放てるのは便利だ。
とはいえ、操作するのが人間ならば銃口の向きを捉えれば数射躱すのは造作もない。
左腕を地に付けるように脚を薙ぐ一刀を跳んで回避される。
その勢いを殺すこと無く半回転しながら抜きはなったサーベルの唐竹割りを太刀の峰で止め、
数合打ち合った後に鍔迫り合いの構えとなった。
ビームサーベルはその仕様から、プラズマによる高い斥力を放っている。
通常、実体剣では受け太刀は不可能だが……同じく斥力を用いる事が出来れば良い。
機体腕部から高圧電流を流す事でこの刀はそれを可能としていた。
『パワーでは我が機体が上のようだが?』
『うるっ……さい!』
胴回し回転蹴り。
的確に頭部を捉えた蹴撃がフツヌシを大きくよろめかせる。
その隙に再度構え直したサーベルで刺突しようとして、カメラが途切れる__否。
「システムが……!?」
時間にして、精々が2,3秒。
カメラのみならず、ありとあらゆる操作系が停止し、膝を着いて沈黙。
コンマ数秒早く、フツヌシが体勢を立て直す。
卓越したパイロット同士の戦いに於いて、あまりに致命的な時間。
「舐めるなッ……!」
勘でしかない。
それでも。
ペギルベンデ、渾身の刺突。
それを踏み込んだ姿勢の紙一重で回避したフツヌシの刃が頭部を貫く。
メインカメラ破損、決闘のルール的にまだ動けるとはいえ、無力化したとみて良いだろう。
先程の回避は、半ば勘であった。
言葉にし難いが……なんというか……殺意と言うべきか。
決闘ルールで早々死ぬ事は無いだろうが、肌がひりつく感覚というべきか。
不可視の何かを感じ取った故、ギリギリのところで生き残った。
そして俺の仕事は、まだ残っている。
レネ・コスタの機体は蹴り飛ばして放置。
この戦場で唯一有効なレーダーを頼りに
四機に囲まれている友軍反応……間違いない。
スラスターの無いこの機体は、長距離移動さえ走る他ない。
その分走行は速いが__それでも時間はかかる。
凌ぐのだぞスレッタ・マーキュリー。
アクティブカモを切って走り、有視界域に入る直前で再度消える。
捉えた。
ジャミングによる情報断絶。
視界から消え去るアクティブ・カモ。
あらゆる熱源を感知させない特殊装甲。
だからこそこの距離でも気付かれない。
シャディクの駆るMSの背後を取る。
取り巻き連中は皆エアリアルをフォーカスし、俺の事など意にも介して無いようだ。
『アクティブ・カモ、残10秒です』
十二分よ、念の為二の矢を用意したとはいえ、不要だったか……む。
エアリアルが光っている。パーメットスコア5という奴か?
しかし、ビットをジャックする機能は今役立ちそうもないと思うが。
青く輝い__青だとッ!?
その光は不味い……!
青く輝くエアリアル。
パーメットスコア6、前人未到の領域である。
まさに偉業__その一方、焦る男が一人。
『アクティブ・カモ オフライン』
「ああクソ!間の悪い……!」
蒼光に照らされて、透明な黒鉄の機体が炙り出される。
アクティブカモユニットは元々、地球寮の混浴にも使われている光学技術。
通称、『不思議な湯気システム』と『謎の光システム』の改造である。
光を屈折させ、反射する方向などを矯正する事で見えなくするこのシステムは、
それでも尚、唯一の弱点をカバー出来ていなかった。
『何故、この欠点は直せないのだ!?』
『社長__
『お前は何を言っておるのだ……』
アラサカ本社付属、第二工場の技術の結晶。
『合法的に健全に混浴に混ざりたい』という俗に染まった思考。
カムイが気付いた時には既に完成していたそれを、どうにか軍事利用。
『実戦でそう都合よく青い光に照らされることなんでありませんよ。』
『……仕方ない、信じようではないか。』
「だが、この間合いなら関係あるまい!」
太刀を大上段、袈裟斬り。
確実な一手のハズだが、何故だ?
背中が張り付くような嫌な予感を拭い切れず。
首諸共断ち切って決闘の勝敗を決めんとする一撃は、僅かに外れて空を切った。
『アクティブ・カモデバイス破損、ダメージ甚大』
「何ッ……!?開発に数百億かかったのだぞ!」
サブカメラが被弾の瞬間を捉えていた。
遠方、ビームライフルの射程ギリギリ。
頭部を失ったMSであった。
その片腕は無く、代わりに切り落とされた盾で支えていた。
胸部は開かれ、パイロットの顔を確認するのは造作もなく。
『舐められっぱなしで、済むと思ってるのかしら。』
まさか、目視か。
コクピットを開き、肉眼でこの距離を狙撃したというのか。
刹那、上からの強襲。
ビームサーベルの一刀をムラクモにて受ける。
続いて背後、咄嗟に取り出したクナイを逆手持ちにして突き刺す。
正面からの刺突。両手は塞がっている。
脚で受け止めると、磔にされる。
『嗚呼。』
絶望的な状況下で、男は涙を流した。
悲観の類に非ず、それは感動故に。
絶体絶命から、まさかの逆転、そして仲間との連携で強敵を討ち取る。
絵物語のような、美しい展開の連続。
誰も彼も、1対1では我が足元にも及ばないだろう塵芥に過ぎない。
だというのに__その覚悟が、その執念が、自分を討ち取った。
各々が我が身を顧みず務めを果たし、不可能を可能にしたのだ。
『嗚呼、素敵だ、やはり人間は。人間は美しい。』
想いこそが、人間の強さ。人間の美しさ。
ならば。
孤高である
人と共にある
ピッピッピッピッ。
機械音が鳴り響く。
流石に気付くか。
ガハハ、逃がしはせぬぞ。
『ならば、我は__否、俺の責務を果たそう。』
チェーンマイン。
爆炎が四機を包み込み、吹き飛ばした。
僚機を纏めて喪ったシャディク。
仲間は大切だろう?お前の場合、こんなに部下に恵まれたなら、尚更な。
偶然ながら俺も、同じことを考えていたのだ。
……お前を信じるぞ、チュアチェリー。
間もなく、バコンッと良い音が響き、決闘終了のブザーが鳴る。
意識外からの二の矢。
エアリアルに集中する敵に対し、俺が大将を狙い、敵を引きつける。
単騎で孤立すれば、咄嗟に盾に入られるなどの事故も無くなる。
そして長物を装備した誰か__可能ならチュアチェリーが狙撃。
俺が仕留めても良かったとはいえ、ここまでがミオリネの計画。
社長を立ててやらなければ、な。
この俺を「兵」として、ただの手駒の一つとして扱うその不敬。
三重の罠を張り巡らせる策略。
ミオリネ・レンブランは「兵」の素養は全くない、然し。
「王」として、また「将」としての肝要なモノを備えておる。
ガハハ、だから負けたのだシャディク・ゼネリ。
お前は、知略に長けた「将」であり、武勇に優れた「兵」であろう。
しかし、人を束ねる「王」の器に非ず。
その素養無くば、如何に優秀な将兵を募れど勝ちは程遠いと。
古来より変わらぬ戦場の掟よ。
64戦……勝てる決闘しか受けないシャディク、そもそも決闘を積極的にやらないエラン、
ホルダーの立場から挑むハードルが高いグエルらと違い、来るもの拒まずなのが社長。
自社製品の宣伝に利用すべく有象無象を蹴散らしていった。
3敗の内訳はグエルに2敗、たぬきに1敗。
レネ……輝きラストシューティングというあまりに美味しい役回り。
ただこの後カムイからの勧誘が激化してしまう模様。
カムイ……MSに乗ると人格が変わる。具体的には傲慢から超傲慢な性格になる。
たぬき……エアリアル壊れッタ……(´・ω・`)
アクティブ・カモ……ブラックライダーのアレ。
なんて遠い回り道……サウナ回はこの為に……