ううむ……
思いつかぬ……
どうやってもエアリアルに勝てるビジョンが、思いつかぬ……
決闘勝利によりGUND-ARM社はなんとか軌道に乗りそうだ。
幸い、大国主命はそのまま返還されたので一先ず俺は良し。
ただ俺は、致命的なスランプに陥っていた。
どんな武装、どんな機構を考えても__エアリアルに勝てる気がしなかった。
それだけスレッタ・マーキュリーの戦闘センスは逸脱しており、俺の腕は正直、今ひとつであった。
機体では負けようがないのだ、我が社の兵器は宇宙でも最強だと信仰している。
つまるところ、俺の腕が悪いのだが__それを補うなら武装しかない。
パイロットであり、技術者であるのが俺の強みである。
地球寮、大浴場。
その一角である蒸し風呂。
今いるのはもう一つのスチームサウナであった。
息苦しい程の湯気が、思考を深層へと導いていく。
思い浮かぶのは、原初の景色。
我が生家に今なお美しく輝く、超弩級
父に曰く、初代アラサカはこのMTを用いてありとあらゆる商売敵を粉砕したという。
百年以上古いモノだが、基本設計を弄ること無く更新され続けている。
象徴であるが、いつでも動かせるということ。
「……」
子供心に、夢を見たモノだ。
このMTならば、或いはスレッタ・マーキュリーでも。
無論、そのまま流用するのは難しい。
だが、その装甲、その火力をMSの形で実現出来たなら。
それは最早、あらゆる敵を打ち砕く最強のMSに違いないだろう。
「…………」
しかし、武装が重すぎる。
二足歩行を基本とするMSでの運用は厳しい……否、そもそも射撃時には静止するのだ。
ならばいっそ、汎用重装化した機体に、独立した武装ユニットを随伴させるというのはどうだ?
「………………」
未だ使い物にならない試作参号、オモイカネの背部弾倉。
両手をガトリングに換装しているが為、再装填は全て自動制御なのだ。
近くの補給船にシグナルを送り、予備弾倉ユニットを発射。
機械制御によりMSまで飛ばして連結する。
この都合、弾帯など全てが機体内に格納されるのも利点ではあるのだが。
武装自体を飛ばす。その考えは悪くない気がした。
「………………………きゅう。」
「
ええい、馬鹿め……スチームサウナは低温多湿故、脱水に気付かない事も多い。
よく考えれば、俺より先に入っていたではないか。
不覚、俺が気付くべきであったか……
急いで担ぎ上げ、脱衣場に駆け込む。
まずは経口補水液……スポーツドリンクしかないか、とにかくゆっくり飲ませる。
「ゆっくりだぞ、一本を十分くらいかけるイメージでゆっくり長く飲むのだ。」
「うう……」
その間に身体の水気は拭き取っておく。
体表の水分が蒸発する気化熱で体温を下げるモノだが、体表が濡れていると上手く発汗出来ないのだ。
額に手を当てて体温を測る……よし、まだ高いがそろそろ平気だろう。
今度は逆に逆に湯冷めしてしまう可能性が出てくる故、服を着ねばならないのだが……
動けないか……仕方あるまい。
「上体を起こすぞ、自分で支えられるな。」
「うい……」
「スレッタのやつ、一体どこに行ったんだ?」
「確かカムイくんを探してたような……この時間じゃ、ここかな?」
む、この声は……チュアチェリーとニカか。
これは僥倖、既に直視しているとはいえ流石にこの先をするのはスレッタの為にならぬ。
「お前ら、スレッタに服を……」
振り向いて、二人が凍りつく。
サウナから咄嗟に上がった俺はタオル一枚でギリギリカバーしている。
だが、服を着せるスレッタには当然、それすら無いわけであり__
数秒時間が止まって、雷光のようにチュアチェリーが駆け出す。
低い身長を縮ませ、しなやかな脚で蹴り出す。
「完璧な一撃だ、見事……」
言葉を言い切る前に頭を打ち抜かれる。
鈍い音がして首があらぬ方向に折れ曲がった。
「おい大丈夫かスレッタ!?」
そんなカムイを尻目にスレッタに駆け寄るチュチュ。
凄まじい一撃であり、最早致命傷であった。普通ならば。
「首の骨が折れ……折れてる、場合では、ない!!」
ぶらりと外れた頭部を持ち上げるようにして元の位置に戻す。
カムイも必死である、スレッタの状態は芳しくない故に。
「ええい!飲むのを止めさせるでない!脱水症の恐ろしさを知らぬのか!?」
お互い必死であった。
お互い必死だからこそ。
「離れろ変態!」
「言うに事欠いてそれか愚か者め!」
「止めなよ二人共……うわっ……!」
濡れた脱衣場で倒れるニカに気付けなかった。
咄嗟にタオルを掴まざるを得なかったのだ。
当然、人間一人支えるには心許なく。
それは人体の一部というにはあまりにも大きすぎた
大きく
分厚く
重く
そして大雑把すぎた
それはまさに大砲だった____
「うわあああああああああ!?!?!?」
「待て……待ってくれ!待つのだ、チュアチェリー!
偉大な俺の遺伝子をこの世から消してはならな__ミ"ッ"!?」
「確かに、俺も悪かったやも知れぬ。あまりに無頓着であったと、認めよう。
だが、だがな、流石にやり過ぎではないだろうか?俺、そんな悪い事したか?」
地球寮談話室。
上座に神妙な面立ちのカムイ。
その正面に、正座で項垂れる三人。
「いやほんとに……なんかごめんね?」
「足が痛ぇ……」
「痺れてきました……」
そこの二人は正座もロクに出来ぬのか……ううむ……
「にしても、ニカは正座に慣れているのだな……」
「あっ……ええっと。」
「よほど親御殿は良き教育をしたと見える。」
「おい、私たちの教養が無いって事かよ。」
「ガハハ、今更言う必要があったか?」
「まぁ、もう良い。崩せ、今回の件はお互い相互不注意という事だ。」
「スレッタ、自己管理が甘い。」
「すみません……」
「ニカ、注意力散漫。」
「ホントごめん……」
「チュアチェリー、お前直ぐ手が出るクセを直せ。」
「紛らわしい事するのが悪ぃだろ!?」
「だから相互不注意なのだ……」
「というかよ、カムイ。」
「なんだ、俺はこれより何かを訴えようとしているスレッタに構わねばならぬ。」
探していたとさっき言っていたしな。
位高ければ徳高きを要する、だ。
増して友の頼みとあらば断る理由が見当たらぬよ。
「こういうのもアレだけどよ、割と綺麗どころが揃ってるだろ?」
「まぁ世間一般の……学園内の話を聞く限りなら、そうだな。」
「それで全く反応しないって、もしかしてお前EDかなんかなのか。」
「ライン超えたなお前!
言ってはならん事を言ったな!
どう考えても世の男に言って良い言葉じゃない。
「きょうびそんな珍しくもないし……ちゃんと治療すれば……」
「冗談ではない!」
ニカ、お前もか。
そろそろ俺も本気で怒るぞ?俺、地球有数の大企業の社長でこの会社の株主で上役ぞ?
もう三割以上持ってるんだからな。
「全年齢じゃなきゃお前ら皆なんかもう凄い事になってるからな!?」
「お前程の男が、なんと度量の小さい……」
「堪忍袋の緒が持たん時が来ているのだ!」
(一体なんの話をしているんだろう?)
(スレッタ……お前はそのままで良いのだ)
(脳内に直接……!?)
(わざわざ俺を待っていたという事は、あまり楽しい話でも無いのだろう?
時間を空けておく故、夕食後辺りに俺の部屋を尋ねると良い)
(ちくわ大明神)
(ありがとうございます!)
(誰だ今の)
『あの……すいません……』
インターホンを押し、たじろぐスレッタ。
無理もない、地球寮はどの部屋もカムイの手により他寮よりかなり広く、新しくなってはいるが。
当然カムイ本人の部屋は一番広くなっている故、玄関からして雰囲気が違った。
『来たか、
『いらっしゃいませ、スレッタ様。』
「お、おじゃまします?」
開けられた扉を開いて、闇。
突き出した胸部が顔を覆い隠してしまったのだ。
「!?……カ、カムイさん、女の子に…!?」
「何を言っているのだお前は……一歩下がれば良かろう。」
下がって、見上げる。
大きい。
190cmは超えているであろう、長躯の美女であった。
『どうぞお入りください。』
「広い……」
スレッタがつい口にしてしまう程に広い。
他の部屋があくまで一部屋であったのと違い、間取りで言うなら3LDK。
寮内の部屋の例に漏れず床暖房とオートロックを完備してこれである。
「借りてきた猫、という奴か。」
『……借りてきた狸では?』
「まぁ、良い。好きなところに掛けると良い。」
「つまり、相談と言うのはアレか?夫婦間の軋轢とかそういう。」
「はい……私、ミオリネさんには必要無いのでしょうか……」
「ふむ……そうだな……とりあえず、何故俺に相談したのだ?」
「その、一番色んな経験を積んでそうですし……」
「否定はしない、しないがな。流石に俺も婚姻は未経験だ。
社員から跡継ぎを催促されてはいるが。」
うーむ、どうしたものか。
身近な夫婦といえば我が父と母だが、軋轢など生じようもないからな。
「スレッタよ、お前の父君と母君はどうなのだ?」
「あ、私、お父さんは居ないんです。」
「……不躾な問いであったやもしれぬ、すまぬな。」ガンガンッ!!
煩わしいな……ドアからか?
インターホンのカメラから外の様子を伺う。
『だから!スレッタが連れ込まれたんだよ!』
『でもそんな酷いことするとは思わないし……』
『地球のドラマみたいだね。』
『昼ドラじゃねえかよ!助けてやらないと!』ガンガンッ!
『閉まってるし無理だと思うよ。』
『たかが扉一枚!アーシアンのパワーでぶち抜いてやる!』
……何をしているのだ、奴らは。
対MSを想定した装甲を流用した扉だ、そうそう抜けはしない。
やれるものならやってみせろよチュアチェリー。
だがまぁ……ガンガンッ!やかましい事この上ないな。
一度大人しくなって貰おうか。
インターホンの画面をスワイプし、画面右上のマークをタップ。
取り敢えずこれか。
再びチュアチェリーが扉に蹴りを入れた瞬間、超高圧電流が流れる。
『なんとでもなる___アババババババ!?』
『電流!?』
骨が透過し、激しく痙攣した後倒れるチュアチェリー。
数秒後、起き上がるものの、その頭は見事なアフロヘアーになっていた。
『なんだこれェェエ!?』
暴徒鎮圧用に調整した電流装置だったか。
どういう仕組みか理解は出来ないが、人体にダメージを与えず、ただアフロにするそうだ。
「……暴徒をアフロにしてどうするつもりなのだ?」
「社長、ペイントボールって分かります?」
「防犯用に色を付けるアレか。」
「はい、この電源によるアフロは最大12時間継続します。
爆発的なアフロによる羞恥心で心を摘むという事です。」
「ゲ〇スルーではないか。」
「これにより逃亡したり群衆に紛れたとしても一目で分かります。
ペイントボールと違って服を変えようがアフロは目立ちますから。
それに黒焦げアフロには一般人もそうそう近寄りません、保護として一石二鳥。」
「確かに炎の匂いが染み付くようなアフロだ。」
「売上は……パーティグッズが5割、医療用が4割。防犯用が1割ですね。
医療でもレントゲンを使わなくても骨が透過出来るので便利だそうです。」
「ほんとにどういう仕組みなのだ……?」
使用して尚更理解出来なくなったが、否、理解したくもないな。
多少静かになったから良しとしよう。
「話を戻すか……とはいえ、俺が言えることは良く話す事としかな。」
「話す、とは。」
「確かに社長業とは楽ではない……なれど、身内を疎かにするのは愚かよ。
すれ違い、などと言い訳は容易いが。お互い気を使い過ぎなのだ。」
もっと腹を割って話機会があれば良いのだが……
『単純に、抱けば良いだけでは?』
「へぅ!?」
「攻めてきたな……まぁそれも一つの手か。」
『私が人間の生殖に言及するのも変な話ですが、
そうもモタモタしているとあの金髪褐色イケイケ風加湿器男に寝盗られかねせん。』
「可哀想なシャディク……ひとえにお前が進めなかったせいだが……」
『あんな男はコーンポタージュになってしまえば良いのです。』
「ともかく……次ミオリネにあったらスレッタとの時間を作るよう進言しよう。」
社長がやるべき業務はともかく、奴はそれ以外も自ら抱え込んでいたからな。
やるべき事が多い故、仕事の取捨選択もまた必要な能力なのだ。
話が弾んだからか、気付けばもうかなり遅い。
「今日もミオリネが外泊となると……お前一人か。せっかくだし泊まっていくと良い。」
「じゃあ、枕とか持ってきますね!」
そう言うとスレッタは部屋を飛び出して行った。
『絵面最悪過ぎません?』
「シャディクの部屋に泊まるよりはマシだろう。」
『百理ある正論やめてください。』
『飛べる!踊れる!エアリアル!飛べる!踊れる!エアリアル!』
「電話か。」
『その着信気に入ったんですか?』
「……ああそうか、ようやく終わったか。丁度良い、こちらも構想が完成した。」
「そうだ、今週中に図面を作る。組み込んで……三週間で仕上げろ。」
「無理だとか無駄だとかそういう意見は聞き飽きたのだ、頼むぞ。」
よし、完璧なタイミングだ。
『……全く無茶ぶりが過ぎる。』
「信頼といえ、優秀な我が社員を信じておるのだ。」
何より、嫌な予感がする。
どういうワケか俺の予感は悪い時だけよく当たる。
可能な限り備えるに越したことはない。
次の朝、社長はもちろんチュチュにボコられた__
アラサカ脅威の技術力……
アクティブカモやソルディオス、今回の電流デバイス等は全て本社勤務組の作成。
非常に優秀でアラサカへの忠誠心もあるのだが……憧れが止められない。
学業で社長が忙しいのを良いことに勝手に作り始める。
マトモな企画書でヤバい企画をサンドイッチして五徹目の社長に出して判子取る。
エロ本を買う中学生のような姑息な手を尽くしてくる。
一応全て利益を挙げているのが非常にタチが悪い。