位高ければ徳高きを要す   作:CATARINA

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新機体ー


堅忍不抜

『つまりだ、お前の方から歩みよる他になかろう?』

『私だって忙しいのよ……!』

『言い訳に過ぎぬとしか思わぬが、お前らは夫婦であろう。

お互いの価値観も、志も食い違うは自然の成り行きよ。血を分けた血族で無い故にな。

だからこそ、ぶつかり合い、傷つけ合って夫婦となるモノでは無いのか?』

 

『それは……』

『お前が決める事だ。よく考えるのだな。

一つの社の長とはその大きさに関わらず楽では無いが、だからこそよ。』

『……そういうアンタは、スレッタと一緒じゃないの?』

『俺も俺でやる事ずくめでな、久しく地球に帰っているのだ。』

 

スレッタ・マーキュリーの宿泊から、三日。

カムイは約半年ぶりに地球に帰還したのだった。

目的は勿論、自前のMSの改良、スレッタに勝てる機体を。

 

既に初期設計案__素直に装甲の改良などを行う分は図面を送り、作業も始まっている。

 

決闘は実戦に限りなく近いテストが出来る。

そこまで食らわず、例え被弾しても稼働に支障が少ない部分。

関節部周辺などだな、元々旋回性能や移動速度を犠牲にしていたのだ。

不要な部分を五重装甲から三重に減らし、ある程度機動力を確保。

更に肩部、胸部、脚部を新設計の装甲に置換。

強度、耐久性はそのまま7%軽量化。

装甲調整と合わせて15%程も軽くなった。

この部分は被弾時に戦闘能力が大きく低下する他、胸部はコクピットがある。

そして同じく被弾の多い頭部。エアリアルに破壊されたのは記憶に新しい。

 

カメラがある以上、簡単な強化は難しい。

装甲を新設する為に展開型のバイザーを装備。

実弾、ビーム問わず耐久性は向上させつつカメラ性能も僅かに向上。

 

ここまでが現状の改良案。機体の基本性能だな。

外付けの特殊武装は海外の工場で幾つか造らせているが間に合うかは怪しい。

 

『装甲など色々、簡単なモノは既に改良が始まっている。だが、武装がな……』

『考えてないなんて珍しいのね。』

『逆だ逆!乗せたい物が多過ぎて決まらぬのだ!』

 

15%分自由に遊べると言ってるようなモノである。

特殊武装はそれぞれ独立している為、重量に加算されない。

だから何でも出来るのだ、出来るのだが……

 

『ままならぬものだ。』

『思ったより気楽そうじゃない……』

『当然だ、楽しんでやる苦労は苦痛を癒すものだ(The labor we delight in cures pain.) というだろう?』

『いや、初めて聞いたけど……』

『シェイクスピア作品をご存知でない!?マクベスの一幕だぞ。』

『……なんか凄いイラッときたわ。』

『何故だ!?』

『いやその……アンタにシェイクスピアとか語られるのがなんか……』

 

理不尽極まりないと思うのだが。

『社長、その図体でシェイクスピア語るのすんごい気持ち悪いですよ。』

カモイ、お前もか……

 

「良いだろ別に!ザ〇ギエフだってインテリゴリラだろう!?」

 

何故俺は駄目なのだ……ううむ。

 

『実際、商談ではお互い知識マウントの取り合いは日常茶飯事ぞ?』

『人間の醜いところね……』

 

『だから俺カムイ・アラサカが粛清しようと言うのだ。』

『エゴよそれは。』

「有料化の波が来ているな、マイバッグを持つと良かろう。」

『エコですそれは。』

「エゥーゴの奴はなんで皆袖が無いんだ?」

「エマっすねそれ。」

「東京の旧称であり、1603年から1868年まで続いた。」

「江戸でさぁ大将。」

『三つの宗教跡が同じ場所に残る事は実に稀で貴重だ。』

『それはエローラ石窟群……もう関係無いじゃない!」

おお。

 

「電話越しでこれほどまでのツッコミを……」

やはり全員ウチの社に入るべきなのでは?

 


 

制作七日目____

 

「神威くん、進捗どう?」

「それを言ったら戦争だろうッ……!」

 

フレーム強化、装甲置換、その他基本的な強化は終了している。

肝心の武装は……とりあえず全て注文して本社に送らせた。

丁度今日届くはずなのだが。

 

「お前らこそなんの用でわざわざ地球まで来たのだ?」

「その……ミオリネさんが様子見に行って欲しいってね……」

 

まぁ、理由は分かる。

社長であるミオリネが外回りの為に長期不在。

多くの役職を兼任する俺も自社に戻って不在。

 

「つまるところ、会社が傾きかねないといったところか。」マイネェェェーム……!

「そういうことになるね。」ギョウブマサタカ……!

「しかしだな、二人いないだけで運営が『オニワァァァァ!!!』うるさいな!」

ええい、わざわざ人の家に来てゲームをしてるんじゃあない!

割と大切な話だろう今してるのは!

 

「『暇。』」

 

カモイ、お前までチュアチェリーと一緒にサボったら終いなのだ。

 

「とりあえず……緊急の仕事は受け取って置こう。明日までに確認する故、実家の方に泊まっていけ。

にしてもだ、俺とミオリネにマンパワーが偏り過ぎだと思わないか?」

「それはホントにそうだと思うよ。」

「そもそも、チュアチェリーじゃなくスレッタを連れてくれば良かったろう。」

「あぁん!?私じゃ嫌だってのかよ!?」

「分かってるなら良いのだがな。」

 

 

 

 

 

武装が届かないんだが?

『飛べる!踊れる!エアリアル!飛べる!踊れる!エアリアル!』

む、電話か。

 

……搬入口が封鎖されてる?どういう事だ……?

『活動家じゃないですか?そろそろ時期ですし。』

「そうか……もうそんな時期か……」

「活動家……時期……?」

 

過ごしやすくて座り込みが楽な時期になると、よく分からん活動家が増えるんだよ。

 

「カモイ、今までウチに来た連中の主張覚えてるか?」

『アラサカ本社データベースを参照……検索中……』

 

『24%……57%……84%……96%…………』

「こういうロードって96%で止まるよな、なんか。」

「あー分かる、暫く止まって急に100%になるよな。」

 

『アラサカの工場による占有反対!』

『アラサカの警備隊が武器を持ったまま巡回していた!市民の生活を侵している!』

『アラサカ社の採用にはLGBTの特別枠が設けられていない!差別主義め!』

『世に平穏のあらんことを』

 

「懐かしいな……差別主義か。」

ウチほど平等な成果主義企業も無いと思うんだが。

武装してるのは当たり前、お前らみたいのが居るからだよ。

工場の占有は雇用機会を産出してると言うべきだし。

 

「変なの混ざってない?」

「ソイツらはいつも来てるからな……何人始末したか分からん。」

 

 

『座り込みの群衆のみならず、武装した者も居ます!』

『だったら全員撃って構わんだろう……何か障害が?』

『MSです!何処から仕入れたのか……ジェタークの型落ちが三機。』

 

それはもう我が社への宣戦布告に等しいのでは無いだろうか。

ここまで直接的な行動に出るんじゃ並の活動家ではあるまい。

 

「所詮奴らはウチから金なりなんなりせしめるのが目的だ、それがMS。」

『裏に何か居ますね、わざわざジェターク社製品というのも。』

 

ウチの破壊を目論むテロリスト、利権確保に躍起な中小企業。

それか或いはグループの誰か……恐らくは御三家の。

わざわざ俺がいるタイミングというのも怪しいモノだ。

何処からか新機体の話を聞いて邪魔を、あわよくば奪取しようって魂胆か?

 

「よし、俺が出撃()る。」

『やめてください。』

「武装積んでないっすよ、足手まといなんじゃ。」

「若、流石にそのままというのは……」

 

ええい、問題無い。

ともすれば実戦テストの機会が向こうから来たやも知れぬのだ!

この機を逃すようでは社長は務まらぬわ。

 

止めに入る部下たちを振り解き、MSに搭乗する。

基本的な操作感などは変わっていない為、起動は容易い。

機体を固定するハンガーのロックを剥がし、巨大なゲートから飛び出す。

向上したエンジン出力と、装甲の軽量化。

ましてや武装の一つも積まれていない今の機体は元の半分程の質量だろう。

 

機体が軽い。

スラスター最高速での巡航、オフにして急制動しながら上体を反転。

手を付きながらの側転、空中で二回転して頭からの落下を五点着地でダメージを分散。

もちろん格闘戦前提の、ジェタークのMSなどはこの程度容易く出来るだろうが。

我にとってこの機動性は中々に例えようもない程の美味である。

 

走っていると遠方に通用口である裏門が。

不審者の侵入を防ぐべくそびえ立つ5mの外壁と検問所を容易く上回る巨体が見える。

まさか本当にMSを持ち出してくるとは……一体誰の指図だ?

 

近寄れば下では活動家らと思しき集団と警備員が揉み合っているように見えた。

携帯端末を検問所のマイクスピーカーに接続すればその喧騒が鮮明に聞こえてくる。

 

「これは不当な排除だ!DSの尖兵たるアラサカめ!」

「開場しています!」「閉場しています!」

「若い女の子に触らないで!セクハラだよ!」

 

なんというか酷いな、主張もバラバラだし……やはりカモフラージュの類いか。

 

『アラサカ社警備部隊、総員撤収せよ。繰り返す、総員撤収せよ。後は我が引き継ぐ。』

 

社長の鶴の一声。

先程まで揉み合っていた警備隊は蜘蛛の子を散らすように撤収していった。

 

神威がMSに乗ってくるというのは、もう()()()()()()なのだ。

警備隊はだからこそ迅速に退避した。

社のために命を懸ける彼らでも、巻き添えで無駄死にするつもりはない。

 

状況が分かっていないのは活動家らの方。

よく分からないが警備隊は撤収し、敵方の長を引き摺り出した。

真実はわざわざ出向いてやっただけに過ぎないが、ともかく。

小さな勝利に酔いしれるように各々の主張を喚き出す。

やれ障害者雇用をしろ、やれジェンダー配慮をしろ……

 

神威は大きく欠伸をした。

彼は人の顔を覚えるのも、名前を覚えるのも得意では無い。

何故なら、覚える価値もない者は記憶に留まらないからだ。

彼にとって今、下に犇めく者共の悉くがくだらぬ些事である。

 

思う事は、今この場に居らぬ好敵手。

「スレッタ。我が友よ、お前は今何をしている?お前は何を感じている?お前は──」

言葉が不意に漏れた。

 

どんな武装が良いか?

どんな武装なら勝てるか?

それでもお前は超えていくだろうが……

 

ガハハ。寝ても醒めても、というやつか。

 

尤も、色恋などとくだらぬ勘違いはせぬがな。

これはもっと根底の……本能と言うべきものだ。

尽きせぬ戦いへの欲求が、この身に巣食う狂奔を刺激する。

 

少し後方にトラックの車列。あれが武装だろう。

足元に未だ喧しい活動家が複数。

眼前に迫るビームサーベル。

前に踏み込み、避ける。

 

咄嗟のことで対応が遅れた。

塀を踏み砕き、勢いのままその先に居た者共を地面の染みに変える。

しまった。

事故とはいえ塀を壊したのは後でどやされるなこれ。

 

崩れた体勢から一度手を付き、再度サーベルが振られる前に懐に。

『どすこいッ!』

それはかつてこの地域で国技とされていた格闘技によく似ていた。

装甲と質量の増した肩を起点としたタックルが敵機の姿勢を崩し、膝を付かせる。

無論その隙を見逃すほどカムイは甘いパイロットではない。

 

「結局弱いのは、コクピット(ここ)だろう?」

『な、ぐっぇ──!?あ──』

 

言葉を遮る。肩を掴み、動きを封じてから胸部への殴打。

何度も何度も、ハッチが変形しても繰り返して。

もがく様に腕を引き剥がそうとするが、アームパワーからしてまるで違う。

ハッチが大破し、ひしゃげたコクピットから赤黒い液体が染み出した頃にはそれも止んだ。

 

流石はジェターク社のMS。

「旧型機でさえ中々な堅牢さ……やはり無手で戦うモノではないな。」

マニュピレーターが痛みかねん。

となれば、やはり。

 

ブースターを全力で吹かし、トラックの元へと急行。

どの車両にどの武装が積まれているかは分からないが、丸腰よかマシだろう。

一番近い車への経路にはマシンガンを装備した機体。

此方には街や会社を守る義務があるが、向こうには無い。

ハンデは十分。

 

頭部の展開バイザーを降ろし、カメラ周りを保護。

僅かな後に、掃射を浴びる。

胸部被弾、V傾斜装甲にて跳弾。

脚部被弾、装甲貫通弾は0。

頭部被弾、バイザー防御異常無し。

 

鎧を纏う巨体は止まらない。

それを確認した敵機は後退しながらマウントグレネードを放つ。

回避することなく直撃、爆風が瞬く間に機体を覆った。

 

巨大な重装甲のMS。

機動力は例え武装を外したとしてもたかが知れている。

回避不可能な軌道で爆発物を叩き込めば問題ない。

 

判断は正しい。

判断は早く、的確に榴弾を叩き込む事が出来た。

敵に武器は無い。

距離を取れば何も出来ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

爆発の煙を浴びながらマシンガンを再装填。

次また敵MSが出てこないとも限らないのだから。

お手本のような対MS戦闘の手順。

尤もそれは普通の相手ならば、であるが。

 

煙を切り裂き、何かが飛んでくる。

凄まじい速度ながら正確にカメラを捉えて。

両手が塞がっていたから。

パシャリ。

軽い音と共にそれは爆ぜ、視界を奪われる。

どう動かしても映るのは鮮明な赤と艶やかな臓物。

 

「正気かコイツ……!?」

 

体積の半分以上が水分。

その上、その殆どが赤く染まっている。

サイズは成熟した個体で1.4m〜1.8m。

MSが投擲するには程よい大きさであった。

その上多くの脂肪を含み、その体液は落としにくい。

 

慌てる敵機に正面から組み付き、スラスターで空へ。

改良の結果、僅かな時間ならば飛べるようになったのだ。

これにより射線の開拓などが一段とやりやすくなったのだが……

 

或いは、重力を武器に出来るということだ。

 

飛び上がりながら空中できりもみ回転。

相手の頭を股で挟み、逃れられなくして脳天直下で叩き付ける。

スクリューパイルドライバーの異名を持つ、人間には不可能なフィニッシュ・ホールド。

MSならば、可能だ。

 

勢いのままに叩きつけられた敵機は衝撃によりコクピット含む上部のほぼ全てを失い沈黙した。

 

『正気か、だと?ガハハ、およそ貧乏人らしい貧しい発想よな。

正気に捕らわれていては何も生まれぬ、何も変わらぬ。不変なぞ最も憎むべき愚行よ。』

 

最後の一機はショットガンを装備していた。

構えて撃つ、構えて撃つ。

撃てども撃てども、当然効きはしない。

 

グレネードやマシンガンの効かない相手に有効打を与えられるハズも無かった。

 

『散弾ではなぁ!』

 

車両の荷台に腕を突っ込み、格納された武装を無理やり装備する。

MS用重機関銃を両腕に。

通常の機体なら一本で限界の火器さえ容易く扱う機体出力がある。

 

一発一発が盾もろとも機体を貫く威力。

二本同時に食らえば当然機体が削れていくのだ。

それぞれから百発ほど撃ったところで手足や頭部が千切れ、機体の原型すら砕ける。

 

見上げれば、MSを輸送してきたであろう大型艇が急いで逃げようとしていた。

機関銃を置き、隣の車両に手を突っ込む。

金属のコンテナを薄紙のように剥がし、出てきたのは巨大なバズーカ。

装填数は心もとないが、その分凄まじい威力を誇る巨砲である。

弾速は遅くとも、的はあまりに大きかった。

 

機首に直撃した弾頭が爆ぜれば、爆炎が跡形もなく大型艇を焼いた。

 

「ガハハ、たわいも無い。」

 

そもそも、正気など。

俺は荒坂()ぞ。

民の羨望を一身に受け、その姿で魅せる者こそ王。ならば狂気こそ必要。

我は神威()ぞ。

誰しもが讃え崇める絶対の存在。なれば理性など不要。

 

正気じゃないなどと……150年ほど言うのが遅いわ。




社長……この後技師たちにしこたま怒られた。

チュチュ……まぼろしお蝶が倒せそうにない。

影……トロコンまでやり込む派

ニカ……割とヒヤリハット

強化フォーム初登場は勝ちイベってそれ。
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