「あら、今日のフェスタはおしゃれさんね」
先生はいつも私の事をよく見ている。
だから、爪の変化にもすぐに気づいた。
「同級生から強引にされたんだ。
テストのヤマを当てた礼とか言ってな」
私は先生にアイツの話を始める。
何故かヘンなヤツに気に入られちまうアイツのことを。
※
「だから礼はいらねぇって」
ジョーダンのヤツがネイル道具を構えながら
しつこく迫りやがる。
「赤点回避できたの初めてだし!
なんかお返ししないとあたしの気がすまねーし!」
赤点回避できたの国語だけじゃねぇか。
そう口にしようとしたが、やたら張り切るアイツの前で
そんな事を指摘するのは面倒だった。
なら、さっさと気を済まさせてやればいい。
「仕方ないな……」
私は観念して手を差し伸べる。
くれるもんは病気と借金以外は貰っとけ
そんな、おふくろの精神が染みついてんのかもしれねぇ。
「やった!でさ、色はどーすん?」
「オマエに任せる」
「りょーかい」
ジョーダンは私の手を取り
よくわからない液体を爪に塗っていく。
おそらく下準備みたいなものだろう。
「念入りにするんだな」
「うん。これやっとかないと
ネイルが上手くのんねーし」
私の爪を染めているジョーダンの顔は
楽しげであると同時に何処か似ている。
私をヒリつかせてきた勝負師たちの姿と。
「オマエはネイルする時にも生きているんだな」
「どゆこと?」
「単なる独り言だ。
気にしないでくれ」
「そーなん」
ジョーダンはそのまま手早く
私のネイルを仕上げた。
「うし。けっこー上手くできたわ」
「よくわからんが、キレイに塗れてるな」
「伊達にギャルはやってねーし」
こういうモンは専門外ではるが
コイツの仕事がかなり丁寧なのは分かる。
ただ、一つだけ気になることがあった。
「ところで、なんでこの色にしたんだ?」
ジョーダンは私に薄紫色を選んでいた。
淡くも何処か力強さのある色合い。
私には似合わない筈の色。
「ナカヤマって
スミレの花すきじゃねーの?」
「花に拘りはないが」
「勝負服にデカデカとあるじゃん。
スミレの花が」
アレか。
上着の刺繍はなんでも良かったんだけどな。
デザイナーは私のイメージ的に虎や龍の模様を
勧めてきたし、それでも別によかった。
だが、いくつか出されたデザイン案の中で
私はなんとなく惹かれたんだ。
スミレの花に。
※
そんな話を先生にすると
静かに笑みを浮かべた。
「確かに。スミレはフェスタにピッタリね」
いや、どう考えても私には似合わないだろ。
むしろ、スミレの花に相応しいのは先生。
貴女だろう。
他人のガキの教育に本気になって
ソイツの無茶苦茶な夢物語を信じちまう。
誠実さと本当の強さを持つ。
そんな、スミレの花の様な貴女に私は救われたんだ。
「ありがとう。先生。
これをしたアイツも喜ぶだろう」
「どういたしまして。
そうだ。一つお願いしてもらってもいい?」
※
「はい。これで完成です。
どーですか……?」
「うん!すごくキレイ!
ありがとうね!」
「あーよかった!
ナカヤマの世話になった人だから
緊張したしー!」
先生はいつになくはしゃいでいる。
ジョーダンに染められた自身の爪を見ながら。
「これでフェスタとお揃いね」
私と先生は指を突き合わせる。
同じスミレの色に染まった爪が並んだ。