森羅万象破壊勇者ちゃん@魔王討伐RTAクリア後攻略   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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シスター・ライク・ウィッチ

 

 センリ・センフは()()()()していた。

 

 人界大陸東部トリーニ領のさらに山奥の里が退屈で飛び出した時もそうだった。

 初めて大きな街に足を踏み入れたり、全く食べたことない食べ物や、見たことのない景色を知る時も、王都の闘技場でチャンピオンと戦った時も、魔族と遭遇して死にかけた時も。

 いつだってセンリは楽しんでいた。

 スパイラルホーンバッファロー3体に囲まれたのも楽しかったは楽しかったが、流石に戦えない民間人を守り切れないのは申し訳なかったけれど。

 そして今、

 センリのワクワクは過去最高だった。

 勇者ロータス・ストラトスフィア。 

 ピンと伸びた背筋。金砂のような長髪。ほとんど男装ながらも美女と美少女の中間で完成された美貌。

 センリの趣味を言うならもう少し肉付きが良い方が好みだが、それでも彼の知る誰よりも美しく愛らしい。

 おまけに尋常ではなく強い。

 その仲間であるユーマ。

 黒白の斑髪に眼帯の少年。彼もまたただの子供に見えて只者ではない……気がする。

 

 そう、あくまで予感だ。

 

 壊れた馬車を直し、態々近くの村まで半日かけて人々を送り、さらにもう半日かけて教会に向かう二人についていきながらセンリは感じていた。

 

 ――――きっと、おもしろいことが起きる。

 

 

 

 

 

 

 

「おお、見えたぞ二人とも。あれが件の教会だ!」

 

 丘を越えた先、見えたのはさほど大きくない円形の建物だ。

 ラサーサン教の教会は大小の違いはあれど、どれも円形、あるいは円柱の形で建造されている。

 石壁に囲まれているとはいえ、草原の真ん中にぽつんと教会があるのはなんとも奇妙な光景だとユーマは思った。

 

「領の境界……というには何もないんだ」

 

「田舎はこんなもんだぞ。もう少し中央にいけば柵や目印が分かりやすいところもあるが。結局の所、教会に寄らないと困るのは通行証がない輩だからな」

 

「でも、今はその通行証ももらえない」

 

「うむ、みんな困るわけだ」

 

「……」

 

 みんな、という言葉にロータスは反応しなかった。

 ただ視線の先の境界を見つめているだけ。

 それをシュリの背中の上で横目にしつつユーマは首を傾げた。

 

「ぱっと見、特に何もなさそうだね。お姉ちゃん、何か解る?」

 

「何も」

 

 ぴんっ、と背筋が伸びている。

 表情に色はなかった。

 ただ、妙な―――そう、妙な真剣さがそこにはあった。

 

「でも、嫌な感じはするな」

 

「……なるほど」

 

 勇者の直観。

 無視することもできないだろう。

 3人と1匹はゆっくりと教会に近づいていく。

 石壁が開いた教会の正面。

 

 ―――――そこに、魔女が待っていた。

 

「こんにちは」

 

 ロータスが声をかけたのは小柄な少女だった。

 一見、修道女には見えなかった。

 カソックは着ているがフードはない。

 全身を含め短いマントのようなインバネスコートは漆黒。

 艶のある濡れ羽色の髪は右側だけ細い三つ編み。

 肌はぞっとするほど白く、唇に塗られた紅は鮮烈に。

 顔の造形は整っているが目は鋭く、表情は無に近い。

 アーモンドの形の目の奥にはほとんど黒に近い紫の瞳。

 

 不吉、という言葉がユーマの脳裏に過った。

 

 モノクロ、という点ではユーマと同じだがどこか無機質な彼とは明確に違う。

 視界に入れるだけで不安に胸を掻きむしりたくなるような、そんな雰囲気があった。

 

「―――」

 

 彼女はすぐに返事はしなかった。

 ロータス、ユーマ、センリを順番に()()()と目線を動かし、そしてロータスに戻る。

 

「ロータス・ストラトスフィア」

 

 女性にしては低い、けれどはっきりとしたよく通る声だった。

 そこから感じる感情は無く、表情も動かない。

 

「はい。シニカ・ハートモアさん」

 

「驚いた。私をこんなド田舎に左遷させる原因とここで出会うことになるとは」

 

「……」

 

 困ったようにロータスは首を傾げた。

 

「私のおじ、オーネスト・ハートモアに関して言うことはある?」

 

「いいえ。私は私のすべきことをしました。それに関して貴方に言えることはありません」

 

 少し考え、

 

「……家族がいるならフォローをしておくべきでしたね」

 

「―――ひっ」

 

 引きつったような声。

 シリカの口端がひん曲がった。

 どうやら、笑っていた、らしい。

 

「重畳。アレに関して謝られていたら口からナメクジ吐き出す呪いをかけていたところだわ」

 

「謝らなくて良かったですね」

 

「ひっひひひっ……」

 

 何かツボに嵌ったのか、引きつった笑みが続いた。

 笑っているのだろうが、しかし魔女が獲物を前に舌なめずりしているようにしか見えなかったけれど。

 

「な? 魔女だろう、少年」

 

「……」

 

「そこのでくの坊は前も来たわね。何もできないと言ったはずだけれど、記憶力がミリもないかしら。それとも可愛い顔の女に罵倒される趣味があるの?」

 

「ふむ、美女に罵倒されるのは悪いものではないが……そうだろう?」

 

「同意を求められても困るな。……そういうものなの?」

 

「うむ。世の男はみんなそうだ」

 

「センリさん、余計なことを吹き込まないでください。ユーマも信じないように」

 

「余計かなぁ」

 

「うん、わかったよお姉ちゃん」

 

「…………コントなら別の場所でしてほしいわね」

 

「失礼しました、シリカさん」

 

 ロータスは改めて背筋を伸ばし、シニカに向き直る。

 

「教会を封鎖していると聞きました、理由を伺っても?」

 

「いいわ」

 

「そうそう、ダメなんだよな―――えぇ!?」

 

 センリが仰け反って驚いた。

 リアクションが大きいなぁとぼんやりユーマは思う。

 

「ちょっと待ってくれ。俺の時はあれこれ暴言を吐いて追い返したじゃないか。なぜ彼女にはそんなあっさり?」

 

「彼女は勇者だから」

 

「………………そっかぁ」

 

 ぐうの音も出ない、あまりにもシンプルな答えだ。

 

「勇者ロータス・ストラトスフィア」

 

 暗いアメジストの目が空色の瞳を射抜くように見つめる。

 端から見れば射殺さんばかりだ。

 

「この中に、十二天魔将ヤヌマ・エマ・シャーマが封印されている」

 

「!」

 

 驚きは流石に三つとも。

 ロータスは目を細め、ユーマは目を見開き―――センリは笑っていた。

 

「なんとなんと……驚いたな。あの噂の十二天魔将、どういう理屈だ?」

 

「この教会の神父……アデム・ウィークは私の師匠だった」

 

 シリカは僅かに目を伏せる。

 

「そして私の叔父なんかよりもずっと凄い術師だった。勿論十二天魔将を倒せるほどではなかったけれど……」

 

 彼女はロータスを見る。

 

「おそらくヤマヌは貴女から逃げていた」

 

「……」

 

「力を隠し、身をひそめていた。ヤマヌは人の精神に乗り移り、夢から人を殺す寄生虫のような惨めな魔族。その気になれば国一つ、国民全員を眠る間に殺すことも操り人形にすることも容易い。だけど、力を抑えていた故に教会に通行証を取りに来た人に取り憑いていたことに気づき封印をしたのよ」

 

「それは……見事ですね」

 

「えぇ。私が心から尊敬する唯一のお方よ」

 

 彼女の頬が引きつる。

 

「少年……あれは笑っているのか……?」

 

「お兄さん。僕らは黙っていたほうがいいと思うよ?」

 

「そうか? ならそうしよう」

 

「そちらの少年はそれなりに思考が回っているようね」

 

「おっ、褒められたぞ、良かったな」

 

「………………」

 

 ギロリとセンリが睨まれたが、場違いな笑みを浮かべるままなのは変わらなかった。

 

「……師はヤマヌを封印した。けれど倒せるほどでもない。力を抑えていた隙をついて一時的に留めているだけよ。私はともかく、何の力もない者が教会に足を踏み入れればすぐさまヤマヌの力になり封印を解除される」

 

「だから、誰も近づけなかった……」

 

「えぇ。ありがたいことに私を魔女と呼んで気味悪がってくれた」

 

「うーん、だがなぜそれを言わなかったのだ?」

 

「愚かね。無駄に広めて不安を煽ってどうするの? 誰もが危険を楽しめるというわけではないわ」

 

「確かに。ふむ、ならばその毒舌やおっかない雰囲気もその為というわけか」

 

「これは素よ」

 

「うーん……むしろ興奮するかもしれんな……」

 

「……」

 

 睨みがより強くなった。

 

「センリさん。少し静かに」

 

「……了解した、勇者殿」

 

「シニカさん」

 

「なにかしら」

 

「アデム氏は?」

 

「解らない。けれどヤマヌを封印して二週間。師は最初から命と引き換えにと言った。期待はしていないわ。問題は、ヤマヌ自体をどうするか」

 

()()()()()

 

 応えは簡潔に。

 勇者が聖剣を抜く。

 一歩、前に出た。

 

「ユーマ、センリさん、シニカさん。ここにいてください。私が中に入ります。ここで待っていてください」

 

「勇者殿! 俺も行くぞぉ!」

 

「ダメです。怪我はユーマが塞いだだけでしょう。そうでなくても十二天魔将と戦う時、誰かと一緒に戦うつもりはありません。シニカさんもいいですか?」

 

「勿論。私ではどうしようもなかった。王都には伝令は出して応援待ちだったけど、()()()()が来るとは思っていなかったしね」

 

「光栄ですね。ユーマ」

 

「うん」

 

「シュリと離れていて? 万が一のために防御も。どう来るか分らないから、最悪一帯吹き飛ばす」

 

「分かったよ。気を付けて」

 

「うん、ありがとう」

 

 そして勇者は1人教会に足を踏み出していく。

 ユーマを、センリを、シニカを置いて。

 その辺に出かけるような足取りで、けれどその彼女の一歩分は他人の数十数百数千歩分だった。

 ただ1人、誰もついていけない。

 

「それじゃ、行こう」

 

「いいわ」

 

「うーん、残念」

 

「くるぅ」

 

 3人と1人が教会から離れていく。

 そして、

 

「―――――――!」

 

 甲高い割砕音。

 振り返れば、()()()()()()()()()()()()()()()()

 舞い散る虹色の粒。

 その中に佇む勇者。

 ほんの数秒だった。

 シニカの師、アデム・ウィークが命を懸けてやっと二週間封印し、シニカ自身が誰も近づけさせなくて被害を拡大しないのがやっとだったものを。

 彼女はほんの数秒で、何もかも破壊し、解決していた。

 

「ほうほう、あれが勇者か」

 

 センリは笑っている。

 顎に手を当て、何が面白いのか楽しそうに。

 

「――ひっ」

 

 シニカも笑っている。

 胸の前で手を組み、何も面白くなさそうに。

 

「流石お姉ちゃんだ」

 

 ユーマは笑っていなかった。

 小さく頷き、ただ光に包まれるロータスを見て思った。

 やっぱり綺麗だなぁと。

 

 




ロータス
全部ぶっこわす

ユーマ
綺麗だなぁ

センリ
ニヤニヤマン

シニカ
笑い方が怖いモノクロシスター

え? この4人がパーティーになるんですか!?


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