満足です
私は時々、嫌な夢を見てしまう。それは、指揮官が私の事を庇って死んでしまう。そんな夢だ。
もしこの夢が本当になってしまうと考えると、毎日の任務が怖くなっていく。指揮官が私のせいで死んでしまうのではないかと、不安に思う。
いつも通りの朝、私は制服に着替え、食堂に向かう。食堂にはいつものようにコーヒーを嗜んでいる指揮官の姿があった。
「おはよう、ポリ」
「おはようございますぅ、指揮官!」
あの夢を見た次の日は、必ず指揮官の元に向かう。指揮官が無事か心配になってしまうのだ。だから見つけた時には安心する。心、なんてものはないが、なぜだかそう思ってしまうのだ。
「おはようございます、指揮官」
同じ部隊に配属されているラピさんが、やって来た。相変わらず綺麗なニケだなと思う。私とは違って、背丈も高く、沢山のニケ達からしたわれているからだ。
「あぁ、おはようラピ、そういえば今日昼から地上に探索行くんだっけ?」
「はい、その予定です。」
「分かった、でも他のニケ達は...」
「他の方なら、別の任務を遂行していますので、今日ここにいるのは私とポリの2人だけです」
「分かった、かなり人数がいたはずだけど...最近は忙しくなってきたからな、会えなくなるのは少し寂しいな」
「そうですね...ですが仕方の無い事です、私達はニケ、任務を受けた場合、必ず遂行しなくてはなりませんので」
「そう言ってもさ...いつ皆が死んでしまうとか、考えただけで怖いんだよ、いつものように話していた人が突然いなくなるのと同じでさ、俺はお前達がいなくなると...なんて言うか...」
「大丈夫ですよぉ!指揮官には私達がいますから、そんな顔しないでくださいよぉ...」
「ポリの言う通りだな...すまん、弱音吐いてたよ」
「いえ、私としても、仲の良かった方がいなくなってしまうのは、悲しいですし...」
私は1度、ニケになってから同じニケの方がいなくなってしまったのを知っている。そして、そのニケを殺していたのは、指揮官本人だということも。
正直、指揮官がそんな事するはずないと思っていたが、後に聞いた話だと、その殺されたニケは暴走を起こしてしまったのだという。
確かその日の指揮官は、なぜが深く落ち込んでいた。だがその時の私はただ何も出来ずに、見ていただけだったのを今でも覚えている。
「そうだ、ポリ、後で指揮官室に来てくれるか?話があるんだが...」
「わ、わかりましたぁ」
そう言うと指揮官は立ち上がってどこかへ行ってしまった。
私も数分後に指揮官室に行くと、ドアの前で指揮官が立っていた。
「よ、ポリ」
「どうしたんですかぁ?急に呼び出すなんてぇ」
「まぁ、立ち話もなんだし先に入ろう」
指揮官室の中に誘われ、私は何も疑りもなく、ただ言うことに従った。
中は大きく、ゆったりと寝れるようなベッドや筋トレに使うような物まで置いてある。
「ポリ、今から言うことをよく聞いてくれ」
指揮官は真剣な眼差しで、私を見ていた。こんな指揮官は初めてだ。
「戦闘時、ポリは後衛を頼む」
「ですが、私はショットガンですよぉ?本領発揮出来なくなりますしぃ...」
「今回だけでいい、頼む」
指揮官の、命令なら仕方ない。断れば私はこの部隊から外されてしまう。そしたら指揮官の事を守れなくなってしまう。そんなのは嫌だ。
ただ私はコクリと頷いて、指揮官室を出て自室に戻った。そのまま昼の地上探索まで待っていた。
昼になり、指揮官は呼びに来た。
「そろそろ時間だ、行くぞ」
指揮官はいつになく真面目で、いかにも今日何かが起こる、そんな感じがしていた。
3人で地上に降り立ち、探索し始めた。前回の探索以来、ここに来る事はなかったが、異常なラプチャーを発見したとの報告があり、来る事になった。
だがそんなラプチャーは見つかることなく、ただ時間が過ぎていった。警戒をしつつも探しているが、一向に見つからない。指揮官は「気のせいだったんだろ」と警戒を解こうとしていた。
「そんなはずはないですよぉ!変なラプチャーがここの辺りに居たという目撃情報は結構ありましたしぃ...」
「そんな訳ないだろ...俺らが殲滅したはずだ」
「えぇ、確かに一匹残らず倒したはずですが...まさかいるはずが...」
その時だった。ものすごい勢いで近付いてくるラプチャーに反応が出来なかった私は、足を滑らせ、転けかけた。
「危ない!ラピ!足を撃て!」
「了解!」
指揮官の命令通り、ラピさんはラプチャーに弾を命中させると、動きが止まった。そのラプチャーは、どの出会ったラプチャーよりも禍々しく、そして、形状はとても......
「指揮官に...似ている...」
ラピさんの表情はどんどん暗くなっていった。私も不思議に思ってしまった。人がラプチャーになる事例など聞いた事がなかったのだ。
動き、体型、全てが人間そっくり、そしてその装備は指揮官そのものに見えた。
指揮官に常備されている自決用の拳銃は見えない、だがその分かなりの強さがありそうだった。
「...まずい、戻るぞ!」
指揮官がそう言った瞬間、ラプチャーはまた、勢い良く走り出した。そして狙っている標的、それは指揮官だった。
「指揮官!逃げてください!」
「まずい...!」
「指揮官!」
私は咄嗟に、指揮官を庇った。ラプチャーの放った蹴りは私の腹を貫通する程に、強烈だった。
目に映るのは指揮官の青ざめた顔だった。
「ぽ...ポリ!」
「指揮官!ここは退避しましょう!」
「でも...ポリが!」
「いいんです...指揮官...生きてくださいぃ...私は...大丈夫ですからぁ...」
正直な所、大丈夫ではなかった。貫通してしまった体は動けなくなり、擬似神経は壊れてしまっている。動く事さえまともに出来ない、ガラクタになってしまった。
まだ、指揮官とずっと居たかったが、私の役目もここで終わりみたいだ。
「...ラピ、援護頼む」
「指揮官!?」
誰かに抱き抱えられるような感覚がした。だけど目は開かない。開けたくても開けられなくなってしまった。
ニケは脳さえあれば何度でも復活が出来るが、脳さえ、つまり脳がなければもう二度と復活が出来ないと言うことだ。私は指揮官にとっては道具であるはずなのに、なぜか分からないけど、温もりを感じてしまった。
私はニケ、感情は持っていても、手に入れる事が出来ないものだってある。
神様というのは残酷みたいだ。
「俺がポリを連れて帰る!修理させてやるから!ラピ!早く行くぞ!」
「了解しました。指揮官!」
聴覚機能も無くなってきている。どんどん耳が聞こえなくなってきている。私は死んでしまうのか、唯一私にニケという選択肢を与えてくれた人にまだ恩返しすら出来ていないのに。
ごめんなさい、指揮官、私は約束を守れない子犬だったみたいです。本当にごめんなさい。
「機...正常、ポリ...動確認」
死んだはずなのに、また聞こえてくる、どんどんとその声は大きくなる。感じられる、温もり、そして何かの滴る感触。
私は目を開けた。
「ポリ!」
目の前に指揮官がいるのに気付いた瞬間、指揮官は思い切り私を抱きしめた。
指揮官の目は赤く腫れていて、まるで何日も泣いていたかのように思えた。
「良かった...良かった...!」
「そこまでしてニケを守りたいという精神、どこから来たんでしょうか」
「いいや、彼はただの異常者だよ、でもこういう奴は初めてだ」
傍から聞こえる2人の男女が言っている異常者、それはきっと指揮官の事だろう。ニケの事を大事に思う人間なんて私は存在しないと思っていた。私にとっての指揮官は、ただの洗脳道具のように見えた。なのにこの瞬間だけ指揮官はかっこよくて、でもちょっとカッコ悪い、そんな良い人に私の目は見えていた。
私も返事をするように優しく抱きしめ返すと、不思議と心地よく感じてしまった。
「ほらさっさと離れてくれないか?まだこのニケの修理は終わってないんだから」
「何を言ってるのだね助手君、彼はそれだけこのニケのことを愛しているのだろう?それに最後の修理は制服を着させるだけだ」
「だからって...ドクター...」
「私達は退散しよう、こんなアホみたいな所には長居してられない」
舌打ちの音がした後、2人の男女は部屋から出ていった。それにしてもここは見た事がある。どこだろう?
「指揮官...抱き締めすぎですよぉ...苦しいですぅ!」
「あぁ、すまん...!でも...嬉しかったんだ、ポリが生きていてくれて...本当に良かった...」
「指揮官は不思議ですね、私はニケなのに...もしかして指揮官、人が好きじゃない、ニケが好きな特殊なタイプの人間ですかぁ?」
「そういう事じゃ...いやそうかもな...今にとっちゃ...」
「どういう事ですかぁ!?」
また泣き始める指揮官に、私はただ、撫でてあげる事しか出来なかった。でも今の私にとっては、それがいま精一杯できることなのだろう。
数分ほど、指揮官は泣いていたが、私はそれをただ眺めていた。でもそんな指揮官を眺めるのは飽きなかった。不思議と嫌ではなかった。
「指揮官...どうして私の事を助けたんですかぁ?」
「どうしてって...そりゃお前が大事な奴だからに決まってんだろ!」
「ふぇっ!?」
「俺の部隊にいる限り、絶対に誰も死なせない、そしていつかは絶対に戦争がない世界を作りたいんだ」
「そしたらポリだって、いずれは好きな人が出来て、もしニケに人権が与えられるようになったら、結婚するかもしれないだろ?」
「指揮官って...」
私の指揮官はきっと、すごくいい人なのだ。でも、さすがにここまでやるのはみんなおかしいと思ってしまう。もちろん私もその1人だ。でも今日の指揮官はなぜだか、すごく.....
「おバカさんみたいですね...!」
「おバカって...そこまで言う必要は無いだろ!」
「ところで指揮官、私裸なんですけど、いつまでここにいるつもりですかぁ?」
「それはすまん!だって...ポリが凄く心配だったんだし...さ、いやでも流石に脳をスペアボディに移植するあたりはちょっとくるものがあったけど...」
「そこまで見なくていいんですよぉ!?」
「いやでも...本当にポリが生きててよかった...」
「どうして指揮官ってばそんなにぃ...」
「お前は知ってるだろうけど、1度だけ俺はニケを殺してしまっている。それは知ってるだろ?」
「あぁ...聞きましたねぇ」
「その時、俺はただ何も出来ず、拳銃をその人に撃ってしまった。その時からずっと後悔していたんだよ」
「こう...かい?」
「もっと考えていれば、その人を助けることだって出来たんじゃないかって...その人を助けられれば...良かったなってずっと思ってしまっていたんだよ」
「それで...私を?」
「あぁ、もう二度と大事な仲間を失いたくないし、それに...ポリは」
「私はぁ?」
「いや...なんでもない、じゃあ俺は先に戻ってるよ!じゃあな!」
そう言い残し、指揮官はダッシュで手術室から出ていった。私は台から降りて、用意してある制服に着替え、手術室から出た。入口にはラピさんが待っていた。
「手術お疲れ様です」
「ラピさん...ごめんなさい」
咄嗟に謝ってしまった。指揮官を心配させてしまったこと、早くに殺されかけ謝ってしまったことを1つの謝罪として。
「いいえ、貴方のした判断はとても良かったです、ですが、今後一切、指揮官を悲しませるようなことはしないように」
「...はい!わかりましたよん!」
「その感じだと...何も無かったみたいですね」
ラピさんの言い方に、少し違和感を覚えたが、気にせず私は、また指揮官室へ向かった。もう一度ちゃんとお礼をしたいからだ。
「彼女はいつになったら気付くのでしょうか...」
指揮官室に着くと、指揮官はまた、何日か前のようにドアの前に居た。
「よっ、ポリ」
「指揮官!聞いてください!」
「うぉっ...なんだ?」
私は指揮官に抱きつき、撫でて欲しさに上目遣いをした。するとそれが伝わったのか、指揮官は優しく撫でてくれた。今のうちだけは指揮官の子犬になれた気がする。
いつもなら怒ってしまうが、今回は別だ。
「指揮官、なんで私を後衛にしたんですかぁ?」
「そ、それは...だな」
「教えてくれないと私怒っちゃいますぅ!」
「夢を見たんだよ...その、ポリが俺を庇って死んでしまう夢...」
「私が...?」
「だから...後衛にしたら、俺だけが犠牲になるかもって...思ってさ、どちらにせよ地上には行かないと行けなかったわけだし」
「そんなのダメですぅ!指揮官は...私が...絶対に守らなきゃいけなかったのに...下手したら3人とも死んじゃってましたよぉ!」
「でもこうして、生きてるんだから良いだろ?ポリが死にかけたのは本当に危なかったけどさ」
「そ、それはそうですけどぉ...私の事置いていっても良かったのにぃ...」
「ダメだ、ポリがいないと...子犬ってからかえなくなっちゃうだろ?
「私をからかいたかったんですかぁ!?」
「いや...まぁ...それは...」
指揮官の顔は赤くなっていたが、それに気付いたのか、指揮官は後ろを向いてしまった。
「なんで後ろ向くんですかぁ!?」
「今俺の顔見られるのは困るから...」
「隠さないでくださいよぉ!気になって眠れなくなっちゃうじゃないですかぁ!」
指揮官が何を思っているのかは分からない。ただ私は好奇心で知りたくなってしまった。
「あー...分かったよ...今伝えるよ」
「つ...伝えるってぇ?」
「俺は...ポリが好きだ」
「ふぇあ!?」
「ポリの事が好きなんだよ!ポリが好きで助けた...いやでもちゃんと仲間としてもな?」
「でも、本気で助けなきゃって思ったんだよ、伝えられなくなるのは困るし」
「それで...あんなに泣いてたんですかぁ?」
「わ、悪いかよ...」
「...ふふっ、嬉しいですよぉ!もちろん!」
「でーもっ、まだ私はニケ...なので、ちゃんと人間として見られる事になったら、付き合ってあげてもいいですよん!」
「分かった、頑張るよ、いち早くポリと付き合う為にな!」
「ちょっとぉ!ちゃんと他のニケ達のことも考えてあげてくださいよぉ!私だけじゃだめですからねぇ?」
「分かってるさ、必ず、いや絶対に助けるよ、ポリ達を」
「はい!」
まさか告白されるとは思っていなかったのですが...でも、これもいいかもしれませんね。でも、あの夢が指揮官とほぼ同じだったとは思いもしませんでしたが......とりあえず、私は指揮官をちゃんと守ってあげなくてはいけませんね!
「これからも、よろしくお願い致しますよん!指揮官」