ハリー・ポッターと王立国教騎士団   作:熊田ラナムカ27

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17 Even if it's just one person

 

 

 寮生が少しずつ寝室に行き、談話室は人気がなくなって来た。

 

 最後にリー・ジョーダンが談話室から出ていくのを見ると、僕とロンは急いで透明マントを取りに自室へ向かった。

 

「談話室でマントを着て見た方がいいんじゃないか?”2人”だからマントからはみ出さないだろうけど、途中でもし足がうっかりはみ出してるなんて事になったら笑い事じゃない」

 

 マントを取って談話室に戻る途中、ロンは気を紛らすようにそう言った。

 

 セラスとあの場で別れた後、ロンと合流して一緒にスネイプを追いかけたのだが、途中マクゴナガル先生に見つかって叱られてしまい、結局のところ怒られている間にスネイプは何処へ逃亡。

 

 その後何処を探してもスネイプは影も形も見えず、その代わりと言わんばかりに………魔法で眠らされて、起こそうにも起こすことが出来ないハーマイオニーを遅くに発見する始末だった。

 

「………セラスは何で、スネイプなんかを最後の最後まで信じて、友達だってあんなに言っていたハーマイオニーを眠らせるなんて事をしたんだろう?」

 

「………さぁ……さっぱり。マダム・ポンプリーの話じゃ掛けられた睡眠魔法は軽度の物だから、今晩のうちに目覚めるだろうって言ってたけど………まさか、いや…そんな事は……ないと思うけど………」

 

 今のハーマイオニーは自室にあるベッドで眠っており、僕達が4階の廊下の先に行くまでに目覚めるかは一向に分からない。

 

 皆は誰がこんな事をと首を傾げていたが、最後までハーマイオニーと一緒にいたセラスを犯人だと僕達は確信していた。

 

 更にそれを裏付けんとばかりに、セラスはスネイプ同様何処かに姿を眩ませており、いつもならば必ず現れるであろう、夕食の時間になってもその姿を一向に現さなかった。

 

 ………スネイプが犯人ではないとずっと支持し、突如ハーマイオニーを眠らせて、スネイプと共に姿を消したセラス。

 

 僕もロンも互いに口には出してないが……セラスが裏でスネイプと繋がって、僕達を裏切ったのではないかと内心疑っており、ハーマイオニーがこの場にいないのも相まって、僕達の不安は最高頂にまで煽られている。

 

「君達、やっぱりここに来たんだ。こんなところで、一体何をしてるの?」

 

 そんな不安に駆られ、マントを着るのに手間取っていた頃。

 

 ネビルが肘掛け椅子の影から現れ、手にヒキガエルのトレバーを掴みながら疑わし気にこちらを見ていた。

 

「なんでもないよ、ネビル。本当になんでもない」

 

「また外に出るんだろ?君達があの廊下に行くつもりなんだって、僕知ってる。君達なら絶対そうするって、セラスもそう言ってた」

 

 急いで僕は透明マントを後ろに隠すが、そんなもの信じないとばかりにネビルはこちらをジッと見つめる。

 

「なんだって?セラスが、僕達が必ずここに来るって、君、本当にそう聞いたの?」

 

「そうさ。君達が城中で何かを探し回ってる時に、梟小屋で手紙を出してた彼女に聞いたんだ。そしたら彼女、君達があれからずっと廊下の事を調べてて、今晩そこに乗り込むつもりなんだって、教えてくれたんだよ」

 

 ネビルの言葉に後ろめたさよりも驚愕が勝った僕は、ネビルの更なる言葉で愕然とした。

 

 ハーマイオニーを眠らせた時からまさかとは思ってたけど……本当に僕達を裏切っていただなんて!

 

 それも何も知らないネビルを使ってまで!僕達を止めに来るだなんて!!

 

「ネビル、セラスの言葉を信じちゃ駄目だ。彼女は僕達を裏切って、君を良いように利用してるだけなんだよ。彼女が今何処にいるか、君は知ってるのかい?」

 

「それは分からないよ。僕にこの事を話して、慌てた様子で寮を出て行って行ってから、それっきり」

 

「ハーマイオニーを眠らせたのは彼女なんだよ?君は彼女に騙されているんだ!」

 

「好き勝手やってる君達よりかは、セラスの方がよっぽど信用できる。それを言うなら君達こそ、これからやろうとしている事の意味、本当に分かってる?先生に見つかったら、またグリフィンドールの点数が減らされるんだよ?今度こそ本当に、グリフィンドールが大変な事になるんだ!」

 

 裏切られたショックで湧き出る怒りを抑えつつ、2人掛りでネビルを説得しようとするが、どうも上手くいかない。

 

 いつもならば引き下がるというのに、今日のネビルは決して譲ろうとしなかった。

 

「行かせるもんか。僕、僕、君達と戦うぞ!」

 

 遂にはネビルは出口の肖像画の前に立ちはだかり、両手を振るわながらも、こちらに立ち向かおうとまでしてきた。

 

「ネビル、そこをどけよ。馬鹿はよせ!」

 

「馬鹿呼ばわりするな!もうこれ以上規則を破ってはいけない!それに僕は凄い奴だって、セラスは前に言ってくれた!そんな彼女の頼みを、僕は無下にできない!」

 

「その頼まれた相手が、今一番信用しちゃいけない人間なんだよ!どうしてわからないんだ!?」

 

「うるさい!彼女を馬鹿にするな!やるならやってみろよ。殴ってみろよ!いつでもかかってこい!」

 

 これ以上は我慢し切れないとばかりにロンはいきり立ち、ネビルは一歩踏み出したロンにビビりながらも拳を振り上げてそう言う。

 

 手から可愛がっているトレバーが逃げ出しても気にせんとばかりで、こちらが掛かって来るなら直ぐにでも返り討ちにする気満々だ。

 

 ……セラスに操られているネビルを見てて少し気の毒になったが、これ以上時間を掛けてはいられない。

 

 若干の躊躇いがあるものの、ロンと僕は意を決して、ネビルと同様拳を構える。

 

「ほんとに、ほんとにごめんなさい、ネビル。……けど、彼女を1人で行かせて大丈夫なほど、私……人が出来てないの。ペトリフィカストタルス(石になれ)

 

 何処からか声が聞こえたと思うと、突然、ネビルの両腕が体の脇にピチッと貼りつき、両足がパチッと閉じた。

 

 体が硬くなったと思うと、その場でユラユラと揺れ、まるで一枚板かのようにうつ伏せでバッタリ倒れた。

 

「その声……もしかして、ハーマイオニー?良かった、ようやく目を覚ましたんだ!」

 

「ハリー、ロン。心配をかけてごめんなさい。ついさっきようやく起きたばかりで、話をそこの陰で聞いていたの。……『全身金縛り』を掛けさせてもらったわ。ネビル、本当にごめんなさい」

 

 呪文を発した声の主は、やはりというべきか起きたばかりのハーマイオニーであり、辛そうな表情でネビルをソファーの上に寝かせていた。

 

 ネビルは目だけ動かしており、恐怖の色を浮かべ僕達3人を見つめている。

 

「話をそこで聞いてたのなら話が早いけど、セラスが君のことを眠らせて、スネイプと一緒に何処かへ姿を消したんだ」

 

「それだけじゃない。セラスは、そこのネビルを唆して、僕達が廊下の先に行こうとするのを邪魔して来た。………セラスは、等の昔に僕達を裏切って、スネイプとずっと前から手を組んでたんだ。………起きたばかりの君には信じられないし………信じたくもないだろうけど」

 

 僕とロンが暗い表情で言葉を濁しつつ、眠らされて状況を完全に理解していないだろうハーマイオニーにこれまでの事を説明した。

 

 一番と言っていいほどの友達に裏切られてショックなのは間違いないが………事を全て理解してもらうには、こればかりはちゃんと説明しなくてはいけなかった。

 

 しかし、どういう訳かハーマイオニーはショックなど一欠けらも見せず、それどころか僕達の話した事を首を振って否定する。

 

「………ううん。セラスは、裏切ってなんかない。私がセラスに眠らされたのは………あの子の気持ちを、私がちゃんと理解してあげれてなかったから。ただ……ただ……本当に……自業自得なだけなの」

 

「あ、あんな事をされて、セラスが、まだ、裏切ってないだって?………君が信じたくないのは分かるけど………ネビルは、こうして───」

 

「彼女が2人を止めるよう、ネビルに頼んだのは事実かもしれない。けど、それはきっと2人を邪魔する為なんかじゃなく、2人を石を狙う犯人からあなた達を守る為にセラスがやった事。………あの子が、私達を、裏切る訳ない」

 

「裏切る訳がない?スネイプが犯人じゃないと散々言った挙句、別の犯人がいるって、何度も豪語したのに───」

 

「そうよ!そうだって言ってるじゃない!!まだ分からないの、あなた達!?」

 

 少し腹が立って強い言い方で言い寄ると、ハーマイオニーは僕の何倍以上の剣幕で僕に言い寄って来る。

 

「よくよく思い出してみて!?あの子はスネイプが犯人じゃないとは言ったけど、犯人が誰なのかは全く名前を言おうとしなかったわ!どうしてだかわかる?………犯人の正体を知って、私達が襲われる危険を避ける為だったからよ!」

 

「僕等が、襲われる危険を、避ける為だって?彼女は、スネイプと繋がって、石を奪おうと───」 

 

「スネイプと繋がって石を奪おうとしてるのなら、トロールの時にでも、森の時にでも、いつにだって私達を殺せたじゃない!一人で誰にも犯人の事を話せないまま……犯人にいつ襲われるかの恐怖をずっと我慢する必要なんて何処にもないわ!それが何より証拠よ!!………誰よりも私達の事を考えてたあの子が……私達を裏切るなんて事………ある訳がないじゃない………!!」

 

 最後の方に至っては、今にも泣きだしそうな表情でハーマイオニーはそう話し、聞いた内容に僕達はまたしても唖然となって黙るしかなかった。

 

 ついさっきまではあれ程頭の中が熱く煮えたぎっていたというのに、今となっては完全に頭が冷え切っている。

 

「………早く、セラスを追いかけなくっちゃ。……あの子の気持ちを考えずに、あんな事言っちゃたんだもの。今のまま、あの子を一人になんて、絶対にさせちゃいけない」

 

 目から少し零れた涙を拭い、ハーマイオニーは立ち上がる。

 

 つい先ほどまでの気弱な様子とは一転、その様子からは決意が身に溢れていた。

 

「行くって言ったって、一体どこに?僕とハリーが散々城中を探したってのに、今更を何処を探すんだよ」

 

「あなた達が唯一探してない場所があるじゃない。それも、あなた達が、ついさっきまで行こうとしていたところ」

 

「僕達が行こうとした場所って………まさか、あの廊下の先?」

 

 ハーマイオニーは決然と頷く。

 

「犯人をいくら探して見つからないっていうのなら、目当ての物がある場所で犯人を待ち構えるしかない。………セラスが犯人と本気で戦うつもりなら、きっとそうするはずよ」

 

 

  

 

  

 

  

 

 

 

 

        ◆◆◆◆                                      

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………やっと、マクゴナガル先生が何処かに行った。これでようやく、私もまた、動き出す事が出来ますね」

 

 4階の禁じられた廊下から一番近い空き教室の扉を開け、長い時間廊下の前で見張りをしていたマクゴナガル先生が何処かに行った事を改めて確認する。

 

 現在の時刻は調度月が上り始め、生徒達がボチボチと消灯の準備に入って行く時間。

 

 日中、寮で手紙を出してネビルにハリー達の足止めを頼んでから、私は長いことこの空き教室で身を潜めており、今の今まで見張りがいなくなるのを待ち続けていた。

 

 マクゴナガル先生の見張りによって、姿を何処かに晦ましている犯人とハリー達を含め、誰一人この先に進めていないのは既に確認済み。

 

 私以外誰もいない今、これで心置きなく行動できるというもの。

 

「スネイプ先生の情報のおかげでHELLSINGへの手紙は難なく出す事が出来ましたが……いくら梟が急いだところで、手紙が届くのは早くても今日の真夜中。悠長に待っているだけでは……石が盗まれてしまう。なら、犯人が石に辿り着く前に先回りをして身を隠し、不意打ちで、犯人を倒す。………さもなくば、師匠(マスター)が来るまでの間、どうにかそれまで犯人を足止めする。………この方法でしか、犯人を止める手段は、他にはない」

 

 そう改めて自分に言い聞かせつつ、震える手で例の部屋のドアノブに触れる。

 

 ……この作戦において私の生存率はゼロに等しいものであり、持てる魔力と魔法、持てる化物(フリークス)の力を全て使ったとしても………その数字が1になることは決してない。

 

 何せ、相手は不死者(死にぞこない)の魔法使いであり、魔力の量も魔法の腕も、化物(フリークス)としての力にしても………何もかもが、私を大きく上回っている。

 

「けど、いくら勝ち目がなかろうと………いくら、嫌われる事になたったとしても………ここで立ち止まる訳には絶対にいかない。………もう……ここにいることができないのなら………せめて、初めて出来た友達を………守る事ぐらい……してもいいですよね?」

 

 ……もう、そんなもの、何処にもないのにと自虐したくはなるが……いつもの私なら行うはずがない、敵うはずがない相手との戦いをしようとする時点で、既に私は自身の覚悟は等に決まっている。

 

 どんな奴が相手だろうが、人ならざる化物(フリークス)なんかに私の友達を素直にむざむざと渡すつもりはないのだから。

 

 そう気持ちを新たにすると、まず大きく息を吐いて気持ちを落ち着かせる。

 

 そして覚悟に満ちた手で扉を開け、部屋の奥へと侵入する。

 

 中に入ると唸り声を上げる三頭犬ことフラッフィーが足元の仕掛け扉を守らんと、こちらを威嚇して爪を剥きだしていた。

 

 本来の正攻法ならば、何かしらの楽器の演奏でフラッフィーを眠らせるなりなんなりするところではあるものの、生憎私には演奏の才能も、その様な類の魔法の何もかも、一切備わっていない。

 

パーリエース・エートス(壁よ現れよ)ボンバーダ(爆発せよ)ボンバーダ(爆発せよ)ボンバーダ(爆発せよ)!!」

 

 故に、私は壁を生やす事で自身を守りつつ、フラッフィーの背後を複数回爆破。

  

 爆風によって視覚と嗅覚を使えなくすると共に、恐ろしほどの爆発と爆音をフラッフィーの頭部に向かって思いっきり喰らわせた。

 

 三頭犬と呼ばれる生物は太古の昔より魔法使いが宝を守る為に飼い慣らされてきたという歴史を持つだけあって、その五感全てと頑丈さが異常なまでに発達。

 

 特にその聴覚と聴覚は数キロ先にまで逃げた獲物を察知可能なほど優れており、下手をするとそれは吸血鬼のものを上回る。

 

「しかし、その優れた聴覚は長所であり大きな弱点。あの爆撃をまともに喰らったのにも関わらず、立とうとする頑丈さは確かに凄いですが、動けなければ意味ありません」

 

 爆発によって数メートルほど吹き飛ばされたなお、フラッフィーは少し煤まみれなっただけで目立つ怪我はなく、唸り声を上げて立ち上がろうとした。

 

 しかし、近距離で爆音を喰らった影響で脳震盪に近いものを起こしているらしく、普通に動けはするものの足元が激しく震え、立とうとするがまともに立つことが出来ない。

 

 ここが閉鎖された狭い空間だという事もあって、爆音が何倍にも増幅されたのも効いているのだろう。

 

 少なくとも数分間、戦闘を行う事は目に見えて不可能だった。

 

「ハグリットにはいつかこの事は謝るとして……。……果たして、この暗闇の先には一体何があるのやら?底が深すぎて何も分からないにしろ、行かなきゃいけない事には全く変わりがないんですが」

 

 そんな事を思わず呟きながら、数度の爆発で跡形もなくなった仕掛け扉の先の暗闇の中に、私は一人飛び込む。

 

 それから数百メートルほど暗闇の中に落ちて、落ちて、10秒ほど経ったころだろうか?

 

 ドシンと、奇妙に鈍い音を立てて、何やら妙に柔らかいものの上に着地した。

 

「随分と柔らかいものの様ですけど……これは………もしかしなくても悪魔の罠?………どうにか無事に生き残って、安心し切った相手に向ける次の罠が殺人植物とは………何とも、性格が悪い」

 

 床一杯に敷き詰められた植物があっという間に自分の足に絡みついていく恐怖映像に、私は思わずげんなりする。

 

 悪魔の罠は湿気と暗闇を好み、世界中の森に群生する殺人植物。

 

 スプラウト先生の薬草学で習うほどの定番危険植物(こんなものが跋扈している魔法界は、やはり色々おかしい)であるものの、その対処方法はあまり知られていない。

 

 例え武力のみに優れた者が侵入したとしても、知力でも優れ、対処方を知っていなければ突破できないという、正しく二重構造の罠という訳だ。

 

「……まぁ、火を灯せば直ぐに突破できるこれが……果たして二重構造として本当に機能しているかは、甚だ疑問ではありますけどね」

 

 もしかすると、大慌てして暴れる人を狙った罠かもとも思いつつ、杖先から炎を噴射。

 

 すると体を締め付けていた蔓は見る見るうちにすくみあがって解けていき、私は蔓を振り払って自由になった。

 

 この程度の炎で悪魔の罠が消えてなくなると思えないが、何も全て相手する必要はない。

 

 どうも、この先の通路から月明かりの様な灯りが漏れているらしく、通路の先にまで勢力を広げられないようであったからだ。

 

 少し通路を進んでいくとカチリ、カチリと、金属が軽くぶつかる音が耳に響いていき、通路を進むごとにその音はハッキリしたものになっていく。

 

 通路の出口を出ると、目の前にまばゆく輝く部屋が広がっており、その上空には無数の鍵が文字通り飛び回っていた。

 

 出口であろう扉はにはあるものの、ガチガチに鍵がかかっており、開錠呪文を何度使おうにも全く鍵が開く気配はない。

 

 おそらく、近くに箒がある様子からして、飛び回る鍵の中から本物の鍵を見つけ出し、解錠しなくてはならないのだろう。

 

アクシオ(来い)、ハルコンネン。アクシオ(来い)、劣化ウラン弾」

 

 だが、そんな製作者の意図など何処へやら。

 

 被っている帽子からハルコンネンを呼び寄せして弾を装填し、一切の躊躇いもなく私は出口の扉を破壊した。

 

 魔法による破壊の対策をしているであろう扉をそうも簡単に破壊など出来ないはずなのだが、魔法無効の弾丸を持つ私にとって、そんな事情など一切関係ない。

 

 貴重な弾薬をこんな所で一つ消費した事が唯一の心残りではあるものの、先回りという幾ら時間があっても足りないこの状況下では仕方のないことだろう。

 

 ハルコンネンを帽子にしまい次の部屋に向かって進んでいくと、今度はつい先ほどの部屋とは一変。

 

 辺りは不気味なほど真っ暗で暗く、人間の視力では何も見えないであろう部屋だった。

 

 どの部屋とも違う装いに首を傾げながら進んでいくと、突然光が部屋中に溢れたかと思うとチェス盤が現れ、その上に幾つもの駒が出現する。

 

「………まさか、いや、これしかないんでしょうけど、まさか、この部屋って、チェスに勝たなきゃ、進めない部屋?」

 

 考えたくない状況に苦笑いしながら盤の上を進もうとするが、幾つもの白い駒に行く手を阻まれる。

 

 まさか、まさかと他のルートも試すが、結果は全て同じであり、ガチガチの難攻不落な防御によって、私が扉に触れるのは不可能なようだった。

 

「けど、チェスをしようにも、私ルールが分かりませんし……1度だってやったことないんですよね………。………どこかにルールブックみたいなものが置いてあるなんてことは……やっぱりありませんし」

 

 チェス盤降りて周囲を一度調べ尽くすも、それらしき物は見つかりそうにない。

 

 長年化物(フーリークス)達と一応ではあるが渡り合ってきた私ではあるものの、同年代の人間が周囲に長年いなかった事も相まって、その様な遊びの経験は非常に乏しい。

 

 この罠を作ったであろうマクゴナガル先生も、挑戦者がそもそもチェスのルールを知らないなどという前代未聞の事態、おそらく予見もしていなかったであろう。

 

 ………色々と悲しくなってくる。

 

「ええ、わかっています。石を手に入れるのは我々です。何者かに後手を取っているのは確かですが、必ずやこれでその者かに追いつけるはず」

 

 そんなことに頭を悩ませている最中、誰かに話し掛けているともとれる声が入口の階段の方から聞こえてきた。

 

 急いで身を隠して様子を疑っていると、あの森で見たであろうフードの男がなんと杖を片手に持ちながら現れた。

 

 男は無性に頭部を抑えながら独り言を呟いており、例のチェス盤の白いクイーンの置かれた盤の下を、何故か一心不乱に調べている。

 

「ありました、これです。石がある場所の隠し通路はこちらです。マクゴナガルは随分と用心深い魔法使いでしてね。聞き出すのにかなり苦労致しました」

 

 そう男が自らの杖をで盤を数回叩く。

 

 すると次の瞬間、盤全体が震えたと思うと駒が置かれていない中央の盤4つが消えてなくなり、その下から隠し階段が明らかとなる。

 

 ………この部屋に隠し階段なんてものがあると思いもしなかったが、罠の制作者がマクゴナガル先生というならばおかしな話ではない。

 

 マクゴナガル先生はこの学校で最もダンブルアに近しい教師であり、生徒及び教師陣達からの信頼も厚い。

 

 故に、ダンブルドアが彼女に頼みこの通路を罠で覆い、万が一の備えとして隠していたとしても、何もおかしくはない。

  

(ですが、これは何にしろ好都合。石がある場所であいつを待ち構えるつもりでしたが、叩く分には早い方がいい。………今この場で、全てにケリをつける………!)

 

 そう思うと私は音を立てずハルコンネンを帽子から取り出して、砲身に爆裂鉄鋼弾を装填。

  

 砲身を握る手が汗ばむの感じつつも、小刻みに震え手で引き金を握り、奴に狙いを定める。

 

 ……距離はそう遠くなく、奴はこちらに気づいてない。

 

 引き金を引けばあの化物(フリークス)は死に、ようやく全てが終わる事となる。

 

 ………そう、全てが終わるのだ。

 

『その程度で隠れたつもりか、小娘?俺様はこの部屋に入った瞬間から、お前の存在に気づいている。貴様が俺様を殺そうとしている事も、全てお見通しだ』

 

 引き金を引く直前、あの森で聞いた悍ましい声が聞こえ、私は一瞬躊躇ってしまった。

 

 その一瞬の動揺でこちらを察知したのだろう。

 

 フードの男はこちらに杖を向ける。

 

「お前が先に侵入していた事などとうに分かっていた!そんなところに隠れていたのか!ネズミめ!!」

 

 男がそう言いつつ呪文を放つと同時に、私は弾を発射。

  

 弾と呪文は互いにぶつかり合いながら、互いの軌道をずらしつつ駒を掠めながら互いの背後に直撃。

  

 直後起こった爆発によって、部屋一帯は土煙に包まれる。

 

(土煙があるうちに攻撃を仕掛ければいいものを……あくまで牽制仕掛けるのみで、こっちに全く攻めては来ない。………ドタドタと奥に走る足音。まさか、あいつ……ここから、今すぐにでも逃げ出すつもり!?)

 

 次の攻撃に備え弾を装填している最中、数発の放たれた呪文が私の直ぐ側を掠める。

 

 直ぐに柱に身を隠して反撃の構えを取るが、一向にそれ以上の攻撃を見せる気配はなく、どういう訳かあちらの足音だけがこちらに響いてくるのみ。

 

 どうなっているのかと土煙が晴れるのを見計らって隠し階段を確認すると、フードの男はこちらの事など相手にする暇などないと言わんばかりに逃げの姿勢を取っており、慌ただしい足音を立てながら隠し階段を駆け下りていた。

 

「待て!逃がさない!!お前だけは、絶対に逃がさない!!」

  

 ハルコンネンを帽子にしまい、私もまた隠し階段を駆け降りる。

 

 時間差で消えた盤が元に戻る仕掛けだったようで、出口が塞がれ逃げ道がなくなってしまったが、犯人を追いかけている今、逃げ道などそんなことはどうだっていい。

 

 吸血鬼の脚力と体力で逃げる男を追い駆け、みるみるうちに迫り距離を詰める。

 

 自身の射程に男が入ったことを確認し、呪文を放とうと腰から抜いた杖を奴に向けた。

 

「………行け、トロール!!あの小娘を、ここで足止めしろ!!」

 

 男がそう叫んだかと思うと、何処からかトロールが通路の壁を壊しながら現れ、行く手を阻んとその手に持つ棍棒を振り下ろしてきた。

 

 攻撃をどうにか躱し反撃とばかりに杖を振って、片っ端から攻撃呪文を放つがどれもいまいちダメージが入る様子がなく、呪いで苦しむ様子もない。

 

 ハロウィンのトロールと同様、何かしらの魔法で頑丈さなどを強化されている事は明らかであり、並大抵の攻撃では傷をつける事すら厳しいようだ。

 

「ですが、この1年………散々ほど、トロールには苦しめられてきましたからね。残念ながら、その手はもう効かないんですよ!」

 

 効かないと理解しながらも呪文で敵を牽制しつつ、牽制して出来た隙を使い近くの瓦礫を拾いトロールの目元に向かって投擲。

 

 だが、いくら魔法で頑丈さなどを強化されているといっても、目などの剥き出しの急所への攻撃は本能的に体が動くらしく、あと一歩で当たるという所で瓦礫を防御はされてしまう。

 

「ですが、ここまでの距離にまで近づきさえすれば、後はもう十分」

 

 渾身の力でトロールの顎を思いっきり殴りつけて、真横方向にトロールを吹き飛ばす。

 

 吹き飛ばされ壁に激突したトロールに一気に接近し、なおも反撃しようとしたトロールの喉元に杖を突きつけて爆破魔法を発動。

 

 引き起こされた爆破は衝撃と共にその内臓を全て焼き尽くしていき、いくら魔法でも強化しきれない体内からトロールを完全に破壊した。

 

 私が杖を引き抜くとトロールだったものは口から煙を出しながら、自身が侵入してきた通路に向かって倒れ込む。

  

 おそらく正規の通路であろう場所と隠し通路を隔てる壁は、破壊されると自動の修復呪文が発動するらしく、トロールを覆い隠すように壁は元に戻っていく。

 

「………石を隠すだけならばこの通路だけでいいのにも関わらず、どうして、ダンブルドアは2つもの通路を作ったんでしょう?チェスに勝てば開く様な扉なんて作らずとも、あの隠し階段だけ隠しておけば、守りとして十分なはずなのに」

  

 壁が元通りに修復されていくのを横目に見つつ、私はふとそんな事を思った。

 

 トロールは別枠として考えるにしても、ここままでに作られた罠の数々には罠としてお粗末なほどの何かしらの欠点が存在しており、その欠点のどれもが知識のある学生が突破できるほどの致命的なものであった。

 

 賢者の石という重大な物質を守る罠にしては、些か遊びが過ぎるというか、些か詰めが甘すぎる気がする。

 

 ………尤も、これはあくまで気のせいの領域の範疇を過ぎず、考え過ぎなだけなのかもしれないのだが。

 

「何であろうと、あの男を追って倒さないといけない事には変わりはない。いくら勝ち目がない戦いだったとしても、ここで引き下がる訳にはいかないんだ」

 

 そう改めて自分に言い聞かせつつ、考え振り切って私は通路の出口へと走っていった。

 

 途中あの男の妨害がないかと警戒はしてはいたのだが、それらしいものは何処にもなく、あるのはただの通路と出口のみ。

 

 部屋に入ると鏡の横でフードを脱いだ男が冷たく鋭い笑みで、私の事を待ち構えていた。

 

「待っていたよ、セラス・ヴィクトリア。君ならばここに来ると、そう思っていたよ」

 

 やはりというべきか、その男は闇の魔術に対する防衛術の教師であり、トロールの専門家である人物。

 

 いつもの怯えた様子など欠片ほどもない、クィレル・クィリナスが、そこにはいた。

 

 

 

 

 

 

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