ハリー・ポッターと王立国教騎士団   作:熊田ラナムカ27

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 長かった……本当に難産だった………。
 
 どうも、熊です。
 
 なんやかんやで20話近く話が続き、クライマックスの賢者の石編は今話と次話をもってお終りとなります(予定)
 
 残る次話も今回同様編集に時間が掛かるかもしれませんが、その分良いものを作ろうと思っているので、どうか気長に次話の方をお待ちください。
 
 それでは、お待たせしました。
 
 本編の方を、どうぞ。
 
 
 


18 Who is there?

 

 

 何も、闇の魔法使いと対面した体験がこれで初めてというわけではない。

 

 今まで多くの魔法生物の密輸入を企てた奴等を捕まえて来たし、あくまで援護(さもなくば囮)中心ではあるものの真正面から戦闘した事だってある。

 

 ………だが、この男、クィレル・クィリナスはこれまで戦ってきた者達と何もかもが異なっており、形こそ人間の形を保ってはいるが、内底にある気配は暗闇そのもの。

 

 どういう訳か、その気配は化物(フリークス)が纏うものと非常に酷似しており、漂う空気からは恐怖と嫌悪感が、何処までも滲み出ていた。

 

「ヴィクトリア、来たのはやはり君だけだったか。自らを守っていたものを疑い、罵られてもなお、自らを守らんとする友を見放すとは………。ポッターは実に、愚かな選択をしたものだ。君もそうとは思わないかい?」

 

「黙れ裏切者。お前と話す言葉なんてない。今すぐ杖を捨て、石から手は引け。ハリー達ならばともかく、私はお前一人、裏切り者を殺すことに、一切の躊躇はないぞ」

 

「虚勢だな。殺す躊躇はなくとも、その震える手で私を殺せるとでも?片腹が痛い。杖を捨てろなど言う時点で、君が私と正面から戦うつもりなどなかった事は手に取る様に分かる」

 

 杖先を懸命に向けるが、奴は一向に杖を抜く仕草すら見せない。

 

 悔しい限りではあるが、奴が私の事を今直ぐにでも殺せるのは事実であり、今この瞬間仮に私が呪文を放ったとしても返り討ちに遭う事は目に見えている。

 

 唯一の勝ち筋であり、虎の子であるハルコンネンは強力無比で奴を一撃で倒せる可能性こそ持つものの、弾数には制限がある。

 

 仮に撃ったとしても、躱されるか、撃つ前に攻撃を受けるリスクがあるのならば尚更の事だ。無駄撃ちをすることは出来ない。

 

「お前達の目的はなんだ?何が目的で、石なんてものを狙おうとした?一体誰の命令で、お前は動いている?」

 

 せめて、師匠(マスター)が来るまでの時間稼ぎと放った問いかけに、クィレルは小さく笑う。

 

「今更そんな事を聞くのか?答えなど分かり切っているだろうに。……だが、今回は敢えてその時間稼ぎに乗ってやろう。事の始まりは約1年前……私がアルバニアの森であの方と出会った事が全ての始まりだ。実に素晴らしき日だったよ。あの方に力を分け与えられ、私はあの方に忠誠を誓った」

 

 クィレルは思い出すかのように、そう話す。

 

 前に語った師匠(マスター)の考えの通り、例のあの人はあの大戦の後も生き延び、アルバニアの森で息を潜めていようだ。

 

 世界旅行をしている時に、クィレルはどういう因果か森を訪れ、例のあの人と初めての出会いを果たした。

 

「その時、あのお方は私がいかに誤っているのかを教えてくださった。善と悪が存在するのではなく、力と、力を求めるには弱すぎる者とが存在するだけのだと。………それ以来、私はあの方の忠実な下僕となった」

 

 どこまでも心酔した表情で、クィレルはそう語る。

 

「例のあの人の為に石を欲し、お前はグリンゴッツを襲撃した上、この学校でも騒ぎを起こした。ですが、前者はお前の動きを先読みをしていたダンブルドアが石を学校に移した為に無駄に終わり、後者はスネイプ先生の妨害で上手くいくことはなかった」

  

「過ちを簡単に許しては頂けない。あの方を何度も失望させてしまったのから……私は何度も罰せられた。お前とスネイプが散々と邪魔をしたお陰で………あの方は実にご立腹となった」

 

「だから事件の度にトロールを私に嗾け、私を何度も殺そうとしたと」

 

「元からトロールについての特別な才能があってね。思いのままにトロールを操る事は非常に容易い。………尤も、それ等全ては魔法で強化していたのにも関わらず、君に対してなす術なく、むざむざとやられてしまったわけだが」

 

「………森でトロールを操っていたのがあなたというのならば………一角獣(ユニコーン)の血を啜っていたのも、あなたという事になる。………一角獣(ユニコーン)を殺しただけでも呪われるというのに………死すら程遠い程の呪いを受ける事となる血を、あなたはその口に入れた。………そんな事を行って、今もなお、この場にいるあなたは………」

 

『本当に、人間(ヒューマン)、なんですか?』

 

 何処か人間らしさ感じさせない問いに、何処か確信めいたものを秘める問いに、クィレルは沈黙する。

 

 そして次の瞬間、クィレルは激しく震え出す。

 

「時には、ご主人様の命令にも従うのが難しい時もある………。あの方は偉大な魔法使いであるし、私はそれに遠く及ばない。だから、あの方は私にとても厳しくしなければならなかった。グリンゴッツから石をを盗み出すのに失敗したときは、とてもお怒りとなった。………そして、私をもっと間近で見張らなければいけないと、決心なされた」

 

 この時言った言葉と、纏う空気の変化。

 

 そして何よりも、私達と同じ。

  

 人間(ヒューマン)が出し得ぬ、化物(フリークス)表情(笑み)こそが、全ての答えだった。

 

 その事がわかるや否や考える前に手が動き、取り出したハルコンネンを構え、私はクィレルに向かって引き金を引いていた。

 

 しかし、あまりにも目に見えてわかりやすい攻撃など当たるはずもなく、それどころか杖先からの赤い閃光によって弾は軌道を変え、爆炎が広がるがままに私の背後一面を火の海へと変える。

 

 これによって唯一の逃げ道は完全に失われ、どの道を行こうと行かまいと、戦うしか道はなくなった。

 

「………全く、随分と時間を無駄にしたものだよ。下らん時間稼ぎなどには付き合うものではない」

  

「もう時間稼ぎなんてどうだっていい。お前はこの場で、私が何としてでも倒す。必要なものはそれだけで十分だ」

 

「いくらHELLSING局員とは言っても所詮は子供。あの方はおろか、私にすら遠く及ばない。そんなお前が、アーカードもなしに私を倒すなどという妄言を言うなどと………随分とおかしな事を言うじゃないか」

 

「妄言かどうかなんて直ぐにわかる。お前が人間を捨て、化物(フリークス)に成り下がったというならば生かす理由もない。私はHELLSING局員として、自らの役割を果たすだけだ」

 

「ならば、どうする?ならば、一体どうする?一体どのようにして、私を殺そうというのかね?」

 

 奴の放った薄ら笑みの問いかけの答えなど、とうの昔に決まっている。

 

パーリエース・エートス(壁よ現れよ)!!アクシオ(来い)、爆裂鉄鋼弾!!アクシオ(来い)、劣化ウラン弾!!!」

 

 10を遥かに超える数の攻撃を地面から放ち、弾を呼び寄せしてうち一発を即座に砲身へ弾を装填。

 

 地面からの攻撃に対処する奴の隙を突いて砲撃を行った。

 

 しかし、そんな攻撃など読めていると言わんばかりに、どういう訳かまたも弾は赤い閃光に軌道を反らされ防がれてしまい、高温の爆炎を宙にまき散らすのみで、奴に大したダメージを与えるには至らない。

 

 また、壁魔法による攻撃も同様で、全ての攻撃が躱わされるか、防がれるかの2択で冷静に対処されてしまっており、1人の魔法使いが対処するには圧倒的物量にも関わらず、目の前にあったはずの壁は全て破壊され、今度はこちらが隙だらけとなる。

  

「見た目は随分と派手だが、当たらなければ意味がない。君の攻撃に盾魔法が通用しないというのは少々厄介であるが、防ぎ切れないというほどではない。その攻撃には回数の限度があるのだろう?早々に2回目を使った事は失敗だったな」

 

 お返しとばかりに放たれる赤や青の閃光達を前に、今度は私が防御に回らなければいけなくなる。 

 

 迫る閃光を5重の壁で防ぎ切り、せめてもの目くらましと牽制ついでに爆破魔法で煙を生じさせ、その間に次の弾を装填するが撃つ暇など何処にもない。

 

 むしろ姿が見えないならばと、こちらがつい先程防ぎ切った倍の数の閃光を放ち、こちらの逃げる場を完全に無くそうとしてきたからだ。

 

「クッ………パーリエース・エートス(壁よ現れよ)ウィンガーディアムッ……レヴィオーサ(浮遊せよ)アプシー…ッ……フエーゴ(撃ち放て)!!」

  

 自らの足元に向かって壁魔法を使用し、カタパルトの要領で自らの体を吹き飛ばして、無理矢理攻撃を回避。

 

 体が宙に放り出されながらも再び杖を振って魔法を発動し、周囲の瓦礫や残骸を浮遊させるとともに、それ等を奴に向かって射出した。

 

 宙に体が浮き、無防備になった私を追撃しようとしたクィレルもこの攻撃は予想外だったらしく、自身に向かって振ってくる幾つもの瓦礫を打ち落とし、自らを守る事に専念せざるを得ない。

 

 一方の私は自身の着地など考えずに空中で魔法を使った為に、勢いを殺せぬまま壁に激突。

 

 腕と頭を強打し、口からは鈍い鉄の味。

 

 衝撃でハルコンネンが手から離れ勢いよく遠くに飛んでいってしまい、早々に使用する事が難しくなってしまった。

 

「今のは上手く躱したな。だが、次はない。貴様の実力は多く見積もっても私を大きく下回り、私の盾魔法を破る魔法も手段も持ち得ていない。いくら足掻いたところで全て無駄だ」

 

 畳み掛けるように放たれた新たな閃光は先ほどのよりも威力は低く、物量こそ劣ってはいるものの、とにかく速く、吸血鬼の目を持ってしても追いつけないほどのものだった。

 

 再度足元に壁魔法を使用し逃げに徹して攻撃を躱すが、クィレルは躱される事などお構いなしに次々に魔法を放ち、たちまちにして部屋全体が轟音に包まれた。

 

(ここまでの密度で攻撃をされると迂闊に前に出ることが出来ない!じわじわと消耗を誘って、確実に仕留めるつもりか!)

 

 必死に逃げ回って攻撃を運良く避け続けてはいるものの、消耗が激しい壁魔法を連発するというのはかなりの体力と魔力を消費する。

 

 どちらか片方が無くなれば即死の消耗戦において、ゆっくりながらも双方を大きく削られるというのは厄介な事この上ない。

 

 たたでさえ、元より大きすぎる実力差を、吸血鬼の体力と魔力の多さで補っているというのも相まって、このまま何も出来ず削られていくというのは文字通り死に直結する。

 

 早々に何とかしければならない。

 

(奴がハルコンネンの弾を反らした原理はおそらく、通常の倍の魔力を使い魔法を放った事によるもの。化物(フリークス)になった事で魔力が増えたのなら説明がつくし、この規模の魔法を連発している事にも説明がつく)

 

 法儀礼済み銀は一定以下の魔力を込められた魔法をはじく性質を持つ一方、一定以上の魔力を込められた魔法にはその性質が作用しない特徴を持ち合わせている。

 

 私が呪文が作用しないはずの弾を呼び寄せる事が出来ているのは吸血鬼の膨大な魔力をもって魔法をはじく性質を無効化しているからであり、森の戦いからその性質をクィレルが把握したというのは十分にあり得る。

 

 腕の良い魔法使いの魔力が増えたとなれば、正に鬼に金棒。

 

 高い技術を持つ上に、高威力の魔法を連発できるとなれば、戦ったとして敗北は必至だ。

 

 だが、()()()()、そうなっていない。

 

(10年間膨大な魔力を使い続けている私と違い、化物(フリークス)になって1年も経っていないクィレルは、その膨大な魔力を使いこなせていない!森の一戦と今の戦いが何よりの証拠だ!高威力の魔法でけりを付ければいいものを、一向に使おうとしていない!コントロールできないからだ!膨大な魔力で高威力の魔法を下手に使おうなんて事をすれば、自らに大きなダメージを与える事となる!だからやらなかった!!)

 

「なら、こっちにだってやりようはある!アクシオ(来い)、爆裂鉄鋼弾!アクシオ(来い)、338ラプア・マグナム改造弾!アプシー……フエーゴッ(撃ち放て)!!」

 

 いつ間にやら頭から落ちてしまっていた帽子から爆裂鉄鋼弾1発と、マグナム弾の残弾全てを呼び寄せし、それ等を即座に発射。

 

 銃を用いていないが為に弾速は遅く、目で追えるスピードで攻撃の雨など喰らえば途端に消し炭になってしまうだろうと思えてしまうが、そこは流石の法儀礼済み銀弾。

 

 奴が放つ攻撃の雨を次々に食い破り、気づけば目と鼻の先にまで接近。

 

 眼前のものを破壊しようと、その切っ先を奴に突き付ける。

 

「何をしたかと思えば、所詮は二番煎じ。詰まらない足掻きだ。そんな事をしても無駄だというのに、お前はまだそれを理解できないのか」

 

 何処か冷めた声でそう言うと、クィレルはまるで虫を払うかのように、弾の軌道を全て反らした。

 

 軌道を変えた弾丸達は背後を這うようにして、クィレルの傍を通過。

 

 今ので魔力の全てを使い果たしてしまった私は、思わず疲労でその場で座り込み、その私を殺そうとクィレルは杖先をこちらに向ける。

 

 抵抗しようにも魔法は使えず、銃だって手元にはなく、走って逃げようにも逃げる前に殺されるのが確実。

 

 緑の光が杖先に込もり、それが今この瞬間、私に向かって放たようとしていた。

 

 ()()()()、クィレルの背後で、大きな爆発が起きる。

  

「!?!?なんだ、この爆発は!?なんだ、この爆風は!?なんだ、この威力は!?」

 

 軌道の変えた弾丸達の起こした連鎖的な爆発を前に、この時クィレルは初めて冷静さを欠いた。

 

 今の今までクィレルは弾を躱す事はしていても、その威力を間近で見た事はなく、爆破を防いだ事だって一度もない。

 

 まして、弾丸が近くで暴発したらどうなるかなどの思考はなく、自身の背後でそれが爆発したらどうなるかなど考えもしなかったのだ。

 

 ……いいや。正確に言えば、考える事が出来ないというのが正しいのかもしれない。

 

 元より人間だった彼からすれば、化物(フリークス)の膨大な魔力は全能の力そのものであり、決して揺るがないもの。

 

 そんな力が持ったが故に、膨大な魔力を振り回す事のみに注視して、その結果魔力のコントロールを疎かとなり、思考が単調として読みやすいものとなってしまった。

 

 仮に、今の攻撃を奴が本気で妨害をしていたとしたら完全に打つ手なかっただろうし、仮に奴が膨大な魔力をコントロールして法儀礼済み銀弾を防げるほどの盾魔法を使えでもしたら、そもそもとして戦いにならなかっただろう。

 

 しかし、そうはならなかった。

 

 人間を捨てたが故に全能感を得て、人間を捨てたが故に慢心が生じた。

 

 全てはたったそれだけの事。

 

 たらればなどこの世には存在しない。

 

「貴様!よくもやってくれたな、ヴィクトリア!消えろ!私の目の前から今すぐにでも消えろ!!セラス・ヴィクトリア!!」  

 

 盾魔法で防ぎ切れなかった爆風で腕が爛れ、ローブのあちこちが焼け焦げているクィレルは突撃する私に向かって、明確な殺意と共に今まで見た中で一番強力な魔法を放った。

 

 落ちていたハルコンネンを回収していたとはいえ、魔力切れを引き起こしている私には一切の防御手段も、回避手段もなく、もろにその魔法が体に直撃。

 

 首と両腕に小さな幾つもの風穴が空き、胸から下半身にかけて大きく血が宙を舞う。 

 

 人間ならば即死の致命傷であり、吸血鬼の身からしても看過できない程の大傷。

 

 一瞬のうちに流れた血によって視界が暗転し、上半身が重力に従って静かに倒れていく。

 

 ………が、受けたそんな傷の痛みなど、今は本当にどうだっていい。

 

 走る体の危険信号を無視して倒れかけていた体を持ち直し、ハルコンネンをその手に握り直す。

 

 いつもより力の入らない腕に力を入れて体を引き起こし、残る全ての体力を使っての突撃を再び行った。

 

 確実に殺したであろうと確信していたクィレルは私の生存に対しての驚愕を一切隠しきれず、咄嗟のことに杖を振る事が出来ない。

 

「き、き、貴様!?何故、まだ生きている!?致命傷のはずだ!!………いいや、まさか……お前は私同様……人ならざる化物────」

 

「そんな事どうでもいい!お前を、化物(フリークス)を倒せれるのなら……友達を守れるのなら、全部どうだっていい!全部、全部、何もかもどうだっていい!!」

 

 ハルコンネンの砲口で顔を殴り飛ばし、クィレルを壁に叩きつけた。

 

 砲口を胸に突き付けている為逃げ場は何処にもなく、何かしようにも引き金を引く方が遥かに早い。

 

 ………この近距離で撃とうものなら私もただでは済まず、更に大きな傷を負うかもしれないが、所詮そんな事は些細なもの。

 

 私のあってないようの命で、たかだか木っ端に過ぎない化物(フリークス)の命で友達を守れるというのならば、本当に些細な事でしかない。

 

「らあぁぁぁぁァァァァァァッッッ!!!!!」

 

 雄叫びの様な叫び声と共に、私は引き金は引いた。

 

 弾が引き起こした爆発によって視界は真っ白に染まり、自身の存在すらも認識できなくなる。

 

 遂には視界が完全に暗転して意識も無意識の海に沈み、一度体が完全に動かなくなった。

 

 それからどれくらい………経ったのだろうか?

  

 周囲には自分の体から流れたとは思えない量の血が流れ、周囲に広がる錆びた鉄の匂いがツンッと、鼻の奥を刺激する。  

 

 痛く、熱く、何処か冷たく、仰向けに倒れ込んだ体を動かす事も出来ず、息をするのだってとても苦しい。

 

 ……けれど、生きている。まだ……生きている。

 

 人間ならばとうに10回は死んでいる傷にも関わらず、私は、まだ、ここで、確かに生きていた。

 

 クィレルがその後どうなったかは分からないが、何せあの距離での砲撃を受けたのだ。ただで済むはずがない。

 

 奴を倒したという安堵感が広がるとともに、自然と体から込っていた力が抜けた。

 

 息が苦しいながらも落ち着いたものになっていき、意識がゆっくりと、沈みそうになっていく。

 

「セラス………?………セラス!どうしたんだい、その傷は!?一体何があった!?一体誰と、君は戦ったんだい!?」

 

 意識と無意識の境を彷徨っていると、奥の通路からハリーが慌てた様子でこちらに向かって駆けて来た。

 

 どうもここに来たのハリーただ一人の様子で、ロンの気配も…………それ以外の気配も、奥の通路から更にやってくる様子はない。

 

(もう、全部……終わりました。あいつは……私が、倒しました。だから、もう……大丈夫)

 

 口を動かしそう言おうとするが、口の中に血が溜まっているためか上手く喋れない。

 

 その様子から私の怪我の深刻さが思っていたよりも酷いものだと気づいたのだろう。  

 

 ハリーは今にも泣きだしそうな、自分がとことん恨めしい様な、様々な感情が入り乱れた表情になる。

 

「………僕の、せいだ。僕が君を裏切り者扱いして、一人で、行かせるような事をしたからだ」

 

 そんな事ない。全部、自分で決めた事。私の心配なんてしなくていい。あなたが、謝る様な事じゃない。

 

 そう言葉を紡ごうとするが、やはり上手く喋ることが出来ない。

 

 それ以前に、ハリーとロンに吸血鬼だという事を未だ隠し、それに気がついたハーマイオニーを眠らせた私が謝罪される権利なんて、無いように思えて仕方なかった。

 

 正体を隠しているのにも関わらず、今もなお何処かで、ハリー達といつもの生活を過ごしたいだなんて思っている自分を恥ずかしく感じた。

 

 …………話さなければならない。自分の、本当の正体を。

 

 謝らなければならない。彼女を、ハーマイオニーを、傷つけてしまった事を。

 

 そう覚悟を決めた最中だったろうか。

 

 爆発で引き起こされた煙が一瞬の奥で揺らめいたかと思うと、一つの影がゆっくりと立ち上がった。

 

 嘘だ。そんなはずはない。そんな事は、あり得ない。

 

 頭の中で全力で否定をするが、その影はこちらに近づいて実像を持ち、私が否定したかった事の答えを、見事肯定してしまった。

 

「随分とやってくれたな、ヴィクトリア。あの方が私に力をお貸しくださらなかったら……お前の望むように、私はやられていただろう。最後の最後まで………つくづく邪魔をしてくれたものだよ………お前は」

 

 そこに現れたのは死んだはずのクィレルであり、倒れている私と息を呑んでいるハリーを見て、何処か勝ち誇った表情でゾッとするような笑みを溢していた。

 

 近距離の砲撃を受けたにも関わらず、傷は何処にも見当たらず、着ているローブすらも同様。

 

 杖を持っていない方の左腕に関しては、クィレルの言う貸し与えられた力の代償か、ミイラの様に萎びて使い物にならなくなっているものの、本人は軽く腕を抑える程度で、それを気にしている様子はない。

 

「あなたが!あなたが、セラスを!?そんな!僕はてっきり……スネイプが……セラスにこんな事をしたとばかり…………」

  

「セブルスが?確かにセブルスは正にそんなタイプに見える。だが、彼は実のところ君の知らぬところで、君を殺そうとする私から君を守り続けていたのだよ。そこに転がるヴィクトリアと同じように。尤も、君は愚かにも2人を敵だと見誤りった挙句、彼女がこの様な有様になるまで、戦うしかない道を強いたわけだが」

  

「黙れ!!よくもセラスを、こんなにもなるまでやってくれたな!!」

 

「騒ぐな。ヴィクトリアが随分と邪魔をしてくれたお陰で、この鏡を調べるのが随分と遅れている。この鏡が、石を見つける鍵なのだ。貴様の相手をしている暇などない」

 

 そう言うとクィレルはハリーに背を向け、背後にあった鏡の枠をコツコツと叩きながら呟いた。

 

『すつう をみぞの のろここ のたなあ くなはで おか のたなあ はしたわ』。

  

 などと、鏡の上の装飾にはそんな言葉が彫られいる。

 

「一体どうなっているのだ………この鏡は。石は……鏡の中に埋まっているのか?鏡を割ってみるか?」

 

 私達の事など一切気にも留めず、一心不乱にクィレルはブツブツと低い声で罵った。

 

 その間、私は地面を這いずって、近くに落ちていた杖と帽子を回収し、帽子から最後の弾薬、劣化ウラン弾を取り出してローブの裾に入れる。

 

 まだ意識が朦朧とし、手の震えも止まりそうにないが、あいつが私を無視したお陰であと一発、弾を放てる程度には魔力が回復した。

 

 到底これ一発で奴を倒せるとは思えないが、何せ相手は片腕が使い物にならない程度には消耗している。

 

 ハリーを逃げす時間稼ぎ程度ならば、これでどうにかなるだろう。

 

 ………尤も、これを行ったとして時間稼ぎが成功する確率は限りなく低いし、どちらにしろ私は間違いなく死ぬ事になるだろうが……こうなってしまった以上どうしようもない。

 

 何も出来ないままならばと杖を血が出るほど強く握り、震える杖の狙いを両手で奴に定め、未だ血が溜まる口で呪文を紡ぐ。

 

『その子供を使え……その子供を使え………』

 

 森で聞いたあの悍ましい声が突如部屋に響いたと思うと、クィレルは突然ハリーの方を向いた。

  

「わかりました………ポッター、ここへ来い。ここへ、来るんだ」

 

 クィレルがそう言ったと思うと、ハリーは操られたかのように、クィレルの方に向かって歩いて行った。

 

『その娘は縛り上げておけ。隠している物は今直ぐに破壊しろ。これ以上何もさせるな』

 

 そう言うや否や、ローブの裾に隠していたウラン弾は遠くに吹き飛ばされたかと思うと粉々に砕けちり、私は両手を縛られて地面にひれ伏した。

 

 縄を解こうともがくが縄が硬くて太刀打ちできず、奴を睨むしか出来る事がない。

 

「どうだ?何が見える?一体何が、そこにはある?」

 

 クィレルは待ちきれないのか、何処か苛立った口調でハリーにそう尋ねる。

 

「僕が、ダンブルドアと握手をしているのが見える。僕……僕のおかげで、グリフィンドールが寮杯を獲得したんだ」

 

 出鱈目だ。目に見えて分かる、作り話だ。

 

 その事をクィレルも感じ取っていたのか、明らかに苛立ちがピークに達する。

 

「嘘だ!本当の事を言え!!何が見える!?何が見えるんだ!?」

 

『わしが直に話す……わしが直に話す………』

 

 クィレルが叫んだと思うと直後にまた悍ましい声が響き、今度はクィレルは見るからにして狼狽えた様子になった。

 

「ご主人様、あなたは弱ってらっしゃる。十分に力が付いていません!」

 

『そのくらいに力はある。ワシに話をさせろ』

 

 悍ましい声の主に従って、クィレルは頭のターバンを解きだした。

 

 抑え事まれていたのだろう、貯め込まれた恐怖と嫌悪感が放たれたと思うと、それは姿を現した。

 

 クィレルの後頭部に張り付き、奴を化物(フリークス)に変えた張本人。

 

 今もなお恐れられ、ダンブルドアや師匠(マスター)をもってして倒す事は敵わず、英国を恐怖のどん底に陥れた闇の帝王。

 

 ヴォルデモート、その成れの果てが、そこにはいた。

 

 何処に潜んでいるのだろうと警戒はしていたが、まさかクィレルの中に潜んでいるなんて、予想外もいいところだ。

 

 つい先ほどの戦いで弾を完全に防いだのは、奴の力によるものなのだろう。

 

 最初から……勝目なんて………なかった。

 

 突き付けられた現実に、自身の体が地の底に落ちる錯覚と恐怖に、私は襲われる。

 

「ハリー・ポッター………また会ったな」

 

 何処までも悍ましい声が、ハリーに向けられる。

 

「この有様を見ろ。こうして……人の体を借りねば、生きる事すら出来ん。寄生虫の様な有様だ。一角獣(ユニコーン)の血で辛うじて生きているが、体は留められなかった。だが、ある物さえ手に入れられれば、自分の体を取り戻せる。そのポケットにある石だ。それを頂こうか」

 

 クィレルが指を鳴らしたかと思うと、部屋全体が炎の壁で覆われる。

 

「嫌だ。石は渡さない。馬鹿な真似はよせ」

 

「お前を守るものは何もない。あの小娘とお前の両親と同じ目に遭うだけだ。全員、自身の無力さに打ちひしがれながらやられていった」

 

「黙れ!セラスを、父さんと母さんを侮辱するな!」

 

「あの小娘を侮辱するな?実に滑稽な話だ。お前はまだ、あの者の正体に気付いていないのか?あの者に騙され続けていたと、まだ分からぬのか?」

 

 例のあの人の言葉に、私は心臓に刃を突き付けられた感覚に陥る。

 

「やめろ。やめて」

 

「あの小娘は人ではない。あの傷で生きている者が人である訳がないだろう?お前もあの者が異常だと感じていたはずだ」

 

「やめて……やめて………」

 

「太陽を恐れ、流水を身に浴びることが出来ない。その唯一のねぐらは自らの棺だけであり、この世に蘇りし化物(フリークス)…………」

 

「やめてぇぇぇぇぇぇ…………!!」

 

 気づけば私は叫んでいた。

 

 何度も覚悟していたはずなのに、言おうと決心していたのに、拒み続けていた事が現実になるのが………ただただ怖かった。

 

 嫌だ!嫌だ!!嫌だ!!!

 

「あの忌々しきアーカードと同じ吸血鬼(ノスフエラトウ)……!それが……奴の正体だ………!!」

 

「あ、ああ、あぁぁ……ぁぁあああ………」

 

 言われた。言われてしまった。知られてしまった。

 

 人ならざるものだと、化物だと。

 

 そこにあってはならない存在だと、知られてしまった。

 

「セラスが……吸血鬼……?ハーマイオニーが知ったのは……その事……?」

 

 見れない。見ることが出来ない。

 

 突き刺さるであろう拒絶の瞳を………私は、見たくない。

 

 顔を地面にこすり付け、そこから一生動けない気がした。

 

 もうやだ。消えてなくなってしまいたい。こんな事なら、普通なんて知るんじゃなかった。

 

 こんなに失うのが苦しい事なら、最初からこんなもの、知るべき事じゃなかった。

 

 ………友達なんて、作るんじゃなかった。

 

「お前の味方など何処にもいない事が分かっただろう。ワシの側につけ。石を渡すんだ」

 

 例のあの人の手がハリーに迫り、ハリーはどうしようもなくなる。

 

 ……その時、私の手に握られた杖が、鈍く光り輝いた気がした。

 

 ……いいや、気のせいなんかじゃない。

 

 杖は熱を少し持ちながら輝いており、その鈍い赤は、何処かで見た事がある気がした。

 

 杖先からどろりと数多の血が流れ出たと思うと、それが地面に文字を描く。

 

 

 

 

 

『この血を飲め、小娘。そうすればお前は使役される為の吸血鬼ではなくなる』

 

()()()()()()()、我々の一族となるのだ』

 

()()()()()()()()()()()()、自分の力で()()()()不死の血族(ノーライフキング)

 

『この血を飲め、小娘。………いや、セラス・ヴィクトリア!!

 

 

 

 

 

 

 描かれた文字に誘われるまま、私は地面に滴れた血を指先にのせる。

 

 これを飲めばどうなるか、なにかが終わってしまうのは分かっていたが、今はそんな事どうでもよかった。

 

 もう、自分が失いたくないものが終わってしまったから、どうだってよかった。

 

 指先にのせた血が滴り落ち、それがゆっくり口へと落ちていく。

 

 これで、もう終わる。これでもう、全部終わる。

 

 頭の中で何かが叫んでいたが、気にもならなかった。

 

「あっ、あああァァ!アアぁぁぁッ!!なんだ!?この魔法は、一体なんだ!?」

 

 その時だった。クィレルが叫び出したのは。

 

 顔を上げると無事だった右手が真っ赤に焼け爛れ、皮がベロリと捲れたクィレルがいた。

 

 何が起きたのか分からなかったが、奴の苦しみように驚いているうちに血は口ではなく地面に落ち、指先の血は全て地面に吸い込まれていく。

 

「石をよこせ!石を渡せ!お前の味方など何処にもいない!あの女はお前を裏切っていたのだぞ!?ワシの側につけば、あの女を殺せるのだぞ!?」

 

 例のあの人はそう叫ぶが、ハリーは決して揺らぐ事はない。

 

「セラスは僕の友達だ!人間じゃなくたって関係ない!僕の友達だ!!お前なんかに石は渡さない!彼女も、殺させやしない!!」

 

 そうハッキリ言ったハリーの言葉に、私の中で叫んでたものが露わとなった。

 

 それからの行動は単純だった。

 

 自身を縛る縄を引きちぎり、ヴォルデモートのもとへ駆けて行く。

 

 怨嗟の声を上げる奴の顔面に、全力の拳を叩き込んだ。

 

 その拳はいつもの手加減した拳ではなく、吸血鬼が持つ力の全てを込めた本気の拳。

 

 横跳びの方向にヴォルデモートとクィレルは吹っ飛んでいき、大きな音と衝撃と共に壁に激突。

 

 おびただしい量の血を口から流し、片膝を地面についた。

 

「貴様……ッ!よくも……ワシの顔を……!よくも……ワシの邪魔を……ッ!吸血鬼の分際で………生かしては返さんぞ!!」

 

「お前が何者だって関係ない。私が……何者だって関係ない。私は……ハリーの友達だ。そしてお前は……私の友達を傷つけた!そんなお前を……友達を傷つけたお前を……私は……絶対に許さないぞ………!!ヴォルデモートッ!!」

 

「ほざけ吸血鬼!貴様程度、相手にもなら────」

  

 

 

 

 

 ドンッ!ドンッ!ドンッ!!

 

 

 

 

 

 数発の渇いた銃声が聞こえたと思うと、クィレルの右肩の一部が吹き飛ぶ。

 

 その銃声の音源は炎の壁の向こうであり、壁の向こう側から何匹もの蝙蝠が飛び込んできたかと思うと、それ等が徐々に形を成していく。

 

『飲まなかったのか、バカ者め。お前なんか、臆病者の、ただの『小娘』だ』

 

 そんな言葉が聞こえたと思うと、人間(ヒューマン)が出し得ぬ、化物(フリークス)表情(笑み)と共に、蝙蝠達は人の形を成す。

 

 形を成した者の正体は、吸血鬼(ノスフエラトウ)

 

 ヘルシング一族が100年間かけて栄々と作り上げた最強のアンデットにして、歴史上最も優れた吸血鬼。

 

「馬鹿な……何故、お前がここに!?」

 

「よお、久しぶりだなヴォルデモート。10年ぶりとでも、言っておこうか」

 

「あッあッあッ、マッ、マスター──────ッ!!」

 

 吸血鬼アーカードが、そこにはいた。

 

  

 

 

  

 

 

 

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