20 There's nothing more troublesome than pride
夏休みに入ってからというもの、日夜勉強や訓練、加重タスクの仕事に追われ、
ホグワーツでの生活が休みで、こっちが平日だったのでは?
などとも思いつつ、非常に慌ただしい、休む暇もない毎日を私は送っていた。
「天気はサイコー。空気もサイコー。こんなにボーっとのんびり出来るだなんて………やっぱり休みは素晴らしいな。こんなんだったら常日頃から休みをくれればいいのに。あと給料ももっと欲しい」
しかし、そんな忙しい日常から今日は離れ、待ちに待ったお休みの日。
………尤も、今日は正確に言うとお休みなどではなく、仕事の一環での出張のようなものをしているだけなのだが。
「どうもー、ドラコ。一応こないだ会ったぶりですけど、お久しぶりです。仕事ついでに遊びに来ましたよー。元気にしてました?」
屋敷に辿り着き庭先を抜けると、辿り着いた屋敷の扉を数回ノックし、屋敷の扉が開くのを私は待った。
「やぁ、セラス。君が日本で言う土下座を披露した事には随分と驚いたけど、それ以外は至って元気さ。そっちこそ元気でやってたのかい?多分、忙しくてそれどころじゃなかっただろうけど」
しばらくすると扉が開き、そんな事を言いながらドラコが私を出迎えてくれた。
「そうなんですよ。今日も今日とで夜は仕事ですし、昼も昼でまずは仕事です。……まぁ、尤も?昼の仕事はたった一つだけですし、それさえ終われば夕方になるまではフリーなので、一応は実質的にお休みなんですけど」
「いいや、それは休みじゃないだろ。冗談で言ったはずなんだけど、まさか本当にそこまで忙しいとはね。あの蛮族で、ひたすら騒ぎを起こしてばかりの君が………ちゃんと仕事をして、少し気難しい父上の相手をするだなんて………僕には全く想像つかないけど────って、いきなり何をするんだい!?急に僕の頭を叩く事はないだろう!」
「余計な事を言ったからです。これでもちゃんとオンとオフの切り替えは出来るタイプなので、毎度、毎度、問題なくやってるんです!これでも!!想像がつかないなんて、言う事ないじゃないですか!!あと誰の事が蛮族ですか!?」
「毎度…毎度……こうやって君が直ぐに手を出すから……想像つかないんだよ………。蛮族なのは間違いないだろうし───」
「何か、言いました?」
「………何も言ってないよ(やっぱり蛮族じゃないか)」
兎にも角にも、出迎えてくれたドラコの案内に従って客室に向かい、途中自分の部屋に戻るよう言われたドラコと別れつつ、客室の扉を数回ノックして、その中へと私は入った。
「こんにちは、ルシウス卿。本日はお日柄もよく、お招き頂き誠にありがとうございます。先日ぶりではありますが、ご無沙汰ぶりです。お変わりありませんでしたか?」
中に入ると私を今日呼び出した張本人にして、現マルフォイ家の当主。
ルシウス・マルフォイさんがこちらを品定めする様な目付きのまま私を迎え、私は少し張り詰めた空気に緊張しつつも対岸の椅子に座る。
「やぁ、ミス・ヴィクトリア。実に先日ぶりだ。忙しいところを今日はよく来てくれた。歓迎するよ。先日頭を下げ謝罪したのにも関わらず、ドラコに対し少し、過剰な触れ合いさえなければ、なおの事歓迎したのだがね」
………どうも、この空気の原因は、私が玄関先でドラコの頭を叩いたからだったらしい。
自身の子供が玄関先で叩かれたなど、親としては不機嫌になって当然の案件であるから、こればかりは仕方ない。
「ドラコに対しての無礼、誠に申し訳ありませんでした。ルシウス卿」
「一応の礼儀正しさと、君がヘルシング家の養子であるという事実さえなければ、叩きだしているところなのだがね。今回はドラコの顔に免じ、一先ずこの事を許す事しよう。これは1つ借しだ。ヘルシング家にまた1つ借しが出来たとなれば、マルフォイ家の箔も上がる。………君の実家が偉大だった事を、感謝するのだな」
「はい。申し訳ありませんでした(ヤバい……。またインテグラさんに……怒られる………)」
「前置きはこれくらいにして、本題に入るとしよう。契約書の方は持ってきているのだろうな?」
「はい、ここに。既にこちら側の署名は済んでいるので、あとはルシウスさんがサインするだけです。ですが、サインをする前に、売却する分の魔法具の方を」
「承知した。渡す分を棚から取り出してくる。今しがた待ち給え」
私が片手に保持していたトランクを開け、中に入っていた契約書を確認すると、ルシウスさんは魔法具をこちらに持ってくる。
先日頭を下げ、謝罪を行った際に、ルシウスさんがこちらに求めたのはマルフォイ家の保有する魔法具の一部の買い取りだった。
どうも、ルシウスさんは趣味で魔法具を集めているそうなのだが、最近魔法省の抜き打ち立ち入り調査が激しくなり、マルフォイ家にもその調査の手が及ぶ事を危惧したそうだ。
火がない所に煙は立たないと言うし、ルシウスさん個人が危険な魔法具に手を出したことによる自業自得だと思うのだが………売却するにあたり、長年マルフォイ家が利用する店のみに売却しては不審がられる可能性を心配し、他の売却先を検討中だったそう。
そこで、白羽の矢が立ったのが我々HELLSING。
HELLSINGは基本魔法界に干渉しない方針を取っているが、人間界で生産された食料を魔法界へ輸出するにあたっての仲介や、対化物兵器及び魔法開発を行う為の資料や魔法具を独自のルートで手に入れたりと、なんだかんだ言って魔法界との関り自体は持っている。
そして今回、ルシウスさんが注目したのはこのHELLSING独自のルートであり、借しを用いた今回限りではあるが、このルートを用いて魔法具を売却することを考えた。
例のあの人を何度も返り討ちにしたヘルシング家に魔法具を売却したとなれば下手に調査を行えないし、いつも利用する店に対しての調査もしにくくなる。
後に問題となったとしても、危険な魔法具だと知らず手に入れてしまった為、信用できる相手に売ったとでも言えばどうとでもなるし、こちらも普段手が出しにくい貴重な魔法具を安全に手に入れる事が出来れば万々歳。
両者に利益があるとして互いに合意し、今日私が契約書を持って来て今に至るという訳だ。
………色々駄目な気もしないでもないが。
「ふむ。契約書の方は確かにサインした。金額の方は魔法具の鑑定が済んでから後日という事で、間違いないかな?」
「はい、後日またこちらから連絡します。本部の鑑定士の方に鑑定してもらって、魔法具に問題があった時も同様に。……まぁ、最初からそんな事、しないとは思ってますけど」
「当然だ。HELLSINGのみでもお断りだというのに、アーカードの相手などごめん被る」
(そりゃそうだ。誰だって
何がともあれ契約書にサインを貰うという私の仕事が終わり、一先ず仕事が無事終わった事に安堵する。
売却分の金額の方は後でウォルターさんが渡してくれるから考える必要はないし……更に借りが増えたなど、色々と報告する事は沢山あるが、後はこの魔法具をインテグラさんに渡すだけ。
あとはドラコをからかうなり、からかうなどして、たっぷり休み(仮)を楽しむ事にしよう。
せっかくの休み(仮)なのだから。
「さて、これで取引は終わった訳だか、少し話しをしても構わないかね?あくまで私的な場だ。話し方も普段通りで構わない。ドラコの学校での様子について、少し聞きたいのだ」
魔法具と契約書を入れたトランクを持って立ち上がろうとしていた頃に、ルシウスさんはそんな事を言い出した。
一応確認の体で話しをしているが、明らかにこちらに拒否権がないのを理解して話しを進めており、私は再度椅子に座ることとなる。
「ドラコは学校ではいつも━━━あっ、いつも通りの話し方でいいんでしたっけ?まぁ、勉強もそこそこに出来て、友達も結構いるみたいですし、順風満帆な学校生活を送ってると思いますよ?特段悩み事もないはずですし」
「順風満帆という割には、全科目の試験でマグル出身の小娘に劣っていたようだが」
「(マグル出身の小娘?多分、ハーマイオニーの事ですよね)確かに成績ではちょっと敗けてましたけど、そこまで気にすることじゃないと思いますよ?そりゃあ、親としては少し、気になるのかもしれないですけど、箒の腕とかだとドラコの方が全然上ですし、交友関係もドラコの方が圧倒的に広いですしね。そのマグル出身者が劣っているだなんて、一言も言うつもりはありませんけど」
「………ドラコから話は聞いていたが、君は本当に寮同士の関係など気にせぬのだな。マグル産まれと関わっているのは少々頂けないが……一先ずはいいだろう」
何か一人で納得したらしく、ルシウスさんは数回ほど頷いた。
「今後ともドラコと仲良くしておくれ。それがお互いの為になる。話はこれで終わりだ。今日のところはこれで失礼するよ」
そう言って軽く頭を下げると、ルシウスさんは立ち上がって客室から出ていった。
(……純血主義を主張しようがしまいが別に構いやしないですけど、それはそれとして、ハーマイオニーや他のマグル出身の魔法使いを明らかに侮辱する必要があるのか、って話ですよ。わざわざ侮辱する必要なんてないでしょうに)
誰もいなくなった部屋で一人、私はため息をつきながら先程までのルシウスさんの発言に少し腹を立てた。
私にとって主義主張など勝手にやっていろと思っているし、純血主義についても真っ向から否定する気はない。
けれど、主義主張を押し付けるのは迷惑この上ない行為であり、やられた方としては堪ったものではないのだ。
契約書のサインに当たって”私のみ”を館に招いて懐柔し、HELLSINGに接近しようとした挙句、自身の尊敬する相手を侮辱し、家の為にドラコと仲良くしてくれと言われたのだから尚更の事。
本当に馬鹿馬鹿しくて、非常に腹立たしい。
「父上から話が無事終わったと聞いた。本当に、君がちゃんと仕事ができるだなんて……思いもしなかった。案外やれるもんなんだな」
私が一人部屋で悶々していると、何も知らないドラコがそんな事を言いつつ、どかどかと部屋に入ってきた。
部屋に入ってきたドラコを見つける否や、私はなんとなく無言で数秒ドラコを見つめた後に、なんとなくドラコの髪を無言でぐしゃぐしゃにし、なんとなく一人満足して、イライラを解消する。
「何をするんだい!?急に僕の髪を滅茶苦茶にして!別に大した事は言ってないだろう!」
「なんでこんな事したんでしょうね?正直自分でも分かりません。強いて言えば好奇心でやりました。ですが、後悔していません。というかスッキリしました。ここまでぐしゃぐしゃにしたなら1回も、2回も変わりませんし、この際もう何回かやっても構いませんよね?ちなみに拒否権はありません」
「ふざけるな!そう何度もやられてたまるか!毎度、毎度……僕の事をからかって……そんなに面白いか?楽しいのか?」
「はいっ!凄く面白くて楽しいで───」
「
「
ドラゴが放った光線に直様反応し、盾魔法で私は光線を打ち消す。
「奇襲自体はいい判断ですけど、呪文を出すまでがあまりに遅すぎて欠伸が出ます。そんな魔法では虫一匹倒す事は出来ませーん」
「随分と上から言ってくれるじゃないか。今度は手加減しない。一回君をコテンパンにして、もう二度とこんな事出来ないようにしてやる!」
「ふふっ、いいでしょう。いつも通りに遊び倒して、その自信を根っこから叩き折ってあげますよ。かかってらっしゃい!」
そう言って杖を振り回すドラコの魔法を防いだり、躱したりしていると、いつの間にか抱いていたイラつきを完全に忘れていた。
そんなもの最初からまるでなかったかのようであり、凄く些細で気にするまでもないかのように思えた。
ドラコをたっぷりとからかい、遊び倒しつつ、仕事の事なども忘れ、久方ぶりにの休みを私は満喫する。
◆◆◆◆
ドラコの家を訪れてから、早くも数日が経った。
先日ハリーが休みの間、監禁されていた(明らかな虐待の為、警察に通報しようと思っている)家をロンの手引きで脱出をしたなどという珍事が書き記された手紙に返事を書いたり、相も変わらず膨大な仕事をこなしているうちに、新学期は目の前にまで迫っていた。
去年と同様、テストで学年トップ10に入れやら、学校で騒ぎを起こすなやら、お言葉をインテグラさんから貰いつつ、今朝方ホグワーツから届いた手紙を私は確認した。
その内容というと新しい教科書のリストであり、ギルデロイ・ロックハートという魔法使いが書いた本がリストの9割以上を占めている。
「何ですか?このリスト?教科書一覧のリストをロックハート著書一覧のリストと取り違えて、手紙を送って来た訳じゃありませんよね?」
訂正の文章がないかを確認しながら、私はそう言う。
「ギルデロイ・ロックハート。近頃、魔法界の女性の間で高い人気を誇っている魔法使いだったか、ウォルター?」
「はい。闇の魔術に対する防衛術連盟の名誉会員であり、過去に勲三等マーリン勲章の受賞もされています。自らの体験談を描いた小説を7つほど発行しており、近日中に自伝も発売予定だとか」
ウォルターさんの説明を聞き、前の手紙でハーマイオニーがこの魔法使いについて熱心に書いていた事を、ふと思い出した。
「脚色を多分に含む小説を教科書にするのは個人的に思うところがあるが……まぁいい。教科書の購入ついては………明日、グレンジャー嬢等と約束をしているのだったな?」
「はい。漏れ鍋でハーマイオニーと合流してから、グリンゴッツでハリー達と落ち合う予定です」
「会議に出ねばならないから、私は明日本部から動くことが出来ない。代わりにウォルターを途中まで同行させる。先日、マルフォイ家から買い取った鑑定済みの魔法具の金額を
「いえいえ、そんな、付き添いなんて……。ウォルターさんも忙しいでしょうから、私一人で───」
「何を勘違いしている?同行させるウォルターの役目は付き人ではない。お前の、監視役だ。ホグワーツでの面倒事だけで十分だというのに、ダイアゴン横町でまで騒ぎを起こされでもしたら、堪ったものではないからな」
「そんな!酷い!私は問題を起こしたくて起こしてませんし!問題を起こしてる訳ではなく、問題が勝手にこっちに来るのが悪いんで───痛い!痛い!痛い!!頬をつねらないで!!」
その後は頬をつねられつつ
『お前の見張りを直接出来ない事が心残りだが、途中までウォルターを付かせるのだから、絶対に問題を起こすなよ。いいな?絶対に、問題を、起こすなよ。わかったな。いいな?』
などと、再三注意を受け、どれだけ私に信用がないのだと反論したら、更に強く頬をつねられた。
納得がいかない。
そして、次の日。
夜間の仕事のせいで寝坊をし、インテグラさんの銃声で無理矢理叩き起こされつつ、ウォルターさんの運転する車に乗って漏れ鍋に向かった。
漏れ鍋は前来た時同様、魔法使いや魔女でごった返しており、人混みを掻き分けやっとの思いで私は店内に入った。
カウンター席でバタービールを一杯頼み、それを飲んでしばらく時間を潰していると入り口の方から聞き覚えのある声がこちらに近づいて来る。
「元気にしてましたか、ハーマイオニー?こないだ手紙を出したばっかりなので、久しぶりって感じはしませんけど」
「はーい、セラス。そっちも元気にしてた?私も手紙を受け取ったばっかりだから、確かにあまり久しぶりって感じはしないわね」
そう言いつつもハーマイオニーの表情は緩んでおり、それにつられて私の表情までもが緩み、互いに笑みを浮かべて抱きつきあう。
「これはこれはグレンジャー様。お初にお目にかかり、とても光栄です」
私とハーマイオニーがある程度再会の喜びを分かち合うと、頃合いを見計らったかのようにウォルターさんが話しかけた。
「どうも、初めまして。セラスから話は聞いています。
「ええ、その通り。ヘルシング家
「そんな、お礼だなんて、気にしないで下さい。寧ろ、私が……いつも、お世話になってばかりですし………」
「へぇー……そんな事いつも思っていたんですか。そう思われて、悪い気はしませんけど」
「もうっ、言わないでよ!私も恥ずかしい事言ったと思っているんだから!そんな事より、私の両親にあなたの事を紹介していい?親友のあなたを、一度合わせたくって」
「……真正面から親友だなんて。随分と……恥ずかしい思いをさせてくれるじゃないですか」
ついさっきのお返しだとでも言いたげに、ハーマイオニーはクスッと笑うと、両親のところに私を連れて行く。
なかなか友達が出来なかった娘の友達になってくれてありがとうと、むず痒い言葉を貰いながらも挨拶を済ませ、共にダイアゴン横町へと入って行った。
「ではセラス様、グレンジャー様。私はこの先に用がありますので、一度失礼させて頂きます。また後ほど」
しばらく歩き、
この先に何があるのだと聞いて来るハーマイオニーに、碌でもないものが集まる場所とだけ告げて路地を離れ、私達はグリンゴッツ銀行へと向かう。
「あれ?あの銀行の前にいる、ハグリットの隣の煤だらけの人。もしかして、ハリーじゃないですか?」
グリンゴッツ銀行の白い大理石の階段が見えてきた頃。
遠くからでもよく見える巨体のハグリットの隣にいる、ハリーの姿がこちらに目に入った。
何故か暖炉に中にでも突っ込んだかのように、ハリーの全身は真っ黒。
転んだ時にでも壊したのだろうか?
掛けている眼鏡も壊れている。
「ハリー!ハリー!ここよ!」
「一体どうしたんですか、その恰好?あっ、ハグリット。どうもお久しぶり」
声を掛けるとハリーは自身の顔や服の煤を払いつつ、ハグリットとこちらやって来た。
「やぁ、セラス、ハーマイオニー。
「『肉食ナメクジの駆除剤』を探しとったら、いきなりハリーと会ったもんで驚いたよ。聞いたか?ハリーが夏休み中腐れマグルに閉じ込められたって話。俺がその事を知ってたら、直ぐにでもとっちめてやったのに」
「気持ちだけ受け取っておくよ、ハグリット。それより2人はロンとその家族を途中で見なかった?」
「いいえ。多分だけど、会ってないと思うわ」
「それについて心配せんでもいいと思うぞ。もうこっちに来とる」
そうニッコリとハグリットは笑った。
私達が辺りを見渡すと、人混みでごった返した通りを駆けて来る、ロンとその家族が目に入った。
「ハリー!こんな所にいたのか、探したよ。モリーが半狂乱になってあちこちを回る始末さ」
「心配したよ。どっから出たんだい?」
「
ハリーの返答にロンのお父さんは額の汗を拭い、後ろのジョージとフレッドが感心した様子で顔を見合わせ、ロンが羨ましそうに頷いた。
「ああ、ハリー!とんでもない所に行ったんじゃないかと思って………!………って、あら?アーサー、ハグリットの隣にいるそこの2人は誰?ハリーのお友達かしら?」
私とハーマイオニーがはたき切れていない煤を払って、壊れた眼鏡を魔法で直していると、飛び跳ねるようにロンのお母さんがこちらにやって来た。
「そうだよ、ママ。前に話した2人だよ。こっちがセラスで、こっちがハーマイオニー」
「そうか。紹介が遅れてすまなかったね。私はアーサー・ウィズーリー。こっちが妻のモリーで、その後ろにいるのがジニー。今年ホグワーツに入学するんだ」
「そうですか、初めまして。知ってるかもしれないですけど、セラス・ヴィクトリアです。今年からよろしくお願いします」
そう言って手を差し出し握手をしようとするが、ジニーは顔を真っ青にし、モリーさんの後ろに隠れてしまう。
「気にしなくていいよ。僕と初めて会った時もこんな感じだったんだ。顔が凄く真っ赤になってた」
「いいや、明らかにハリーの時と反応が真逆ですよね?明らかに顔が真っ青になってましたよ」
「ロン。セラスの事で、ジニーに何か言った?」
「い、いいや、別に、僕は何も───」
「こないだセラスの事を直ぐに頭を叩く蛮族だって、ロンがジニーに言ってたぜ」
「ついでに言うと、気に食わなかったら魔法で向こう彼方まで吹っ飛ばすってのも、冗談半分で言ってた、言ってた」
「フレッド!ジョージ!それは言わないって約束だろ!それに僕はそこまで言って───」
二の句を継げぬ前に私は
「おっと、俺はそれはもう行かにゃならん。お前さん等みんな銀行に用があるんだろう?早いとこ行って来たらどうだ?」
ロンへの制裁で微妙な空気を流れたのを察したのか、ハグリットが大声でそう言った。
アーサーさんはこれ幸いとハーマイオニーの両親へ興味を移し、人間界のお金ついて質問しながらモリーさん等と共に銀行へ入って行った。
ハリーとロンが続いて銀行に入り、ジョージとフレッドが悪友リー・ジョーダンと向こうで話し合いを始めた皮切りに待っている間、私はジニーの誤解を解こうと奮闘。
最初こそハーマイオニーの後ろに隠れ、話すら聞いてくれなかったものの、10分を掛けて必死の弁明し、駄目押しとばかりにハーマイオニーが仲裁してくれたお陰で、誤解をどうにか解くことが出来た。
……まぁ、元はといえば、ロンが余計な事を言わなければよかっただけの話だし、知らぬところで人を蛮族呼ばわりとは気に障る。
誤解が解けたのは何よりとして、ロンには後日改めて制裁をしよう。
待っている間2人と話をしながら、私をそう心に決める。
「一時間後にみんなフローリッシュ・アンド・ブロッツ書店で落ち合いましょう。分かってると思いますが、
お金を卸し終えた皆と合流すると、ハリーとロン、私とハーマイオニーの4人は思い思いの店を順番に回った。
高級クィディッチ用品店でチャドリー・キャノンズのユニホームに釘付けになった、ハリーとロンを無理やり引きずって雑貨屋でインクと羊皮紙を購入。
ギャンボル・アンド・ジェイプスいたずら専門店で、フレッド達がヒヤヒヤ花火や糞爆弾などを買い溜めしているのを見ているうちに、あっという間に1時間が経った。
「
ハリーに買って貰ったアイスクリームを舐めつつ書店に向かっていると、ハリーがそんな事を言いだした。
「500ガリオンだって?そんなお金があったら、丸一年は遊んで暮らせるじゃないか!」
「そこの店主もそんな高値で買ったのかって、凄く驚いてた。貴重なものばかりだったからって、男は説明してたけど」
「きっと、マルフォイの奴は闇の魔術の品を売ったに違いないよ。男はその手のブローカーさ。パパがマルフォイ家には絶対そういうのがあるって、前に言っていたもの」
「調べた限り、法律に触れるような品はありませんでしたよ?金額の方も正当な金額ですし、買い取った品も鑑定士のお墨付きです。あと、ウォルターさんはあなた達の言うような怪しい人じゃありませんから、そこも勘違いしないで下さい。ここ重要です」
ハリーとロンがお得意の陰謀論を熱心に語っているのをバッサリと切り、私はその論説を全てを否定した。
「何で、君がそんな事を知っているのさ?その人と知り合い?」
「知り合いというか、上司兼執事です。こないだ色々あってドラコの家と取引する事になって、今日ウォルターさんがお金を渡す約束をしていたんです。ハリーが見たのはその現場かと」
「そういえばウォルターさん途中で私達と分かれて、
「というか君の家、マルフォイ家なんかと取り引きをしたのかい?何か脅されて、取り引きをすることになったんじゃないよね?」
ロンは眉を潜めて怪訝な表情で言う。
「そんな訳は……無くもないですが、少なくとも取り引き自体は正当なものです。たかだか魔法具の取り引きをしたぐらいで疑うだなんて、ドラコの家を何だと思っているんですか?」
「だって、あのマルフォイ家だぜ?例のあの人の側について、今も純血主義なんか掲げてる碌でもない家だもの。疑って当然じゃないか」
「前にも言った通り、私は主義主張についてどうこう言うつもりもありませんし、今は今で過去は過去。人のことをどうこう言う暇があったら、2年生になるっていうのに少しも成長しない自分のことでも見つめ直して下さいよ。この馬鹿」
つい先程同様、
制裁を加えた事に理不尽だと激しく抗議するロンを無視して路地を歩き、ハリーとハーマイオニーがそれを宥めているうちに、私達は書店に到着した。
店の前にはかなりの人だかりが出来ており、押し合い、へし合いながらでも、皆が中に入ろうとしているのが印象的だった。
『サイン会 ギルデロイ・ロックハート 私はマジックだ』。
上階にはそうデカデカと書かれた横断幕が飾られている。
「凄い!本物よ!!リストの教科書は彼が殆ど書いたの!会えるだなんて光栄だわ!!」
今まで見た事がないくらいテンションが高まっているハーマイオニーに少し驚いていると、奥からギルデロイ・ロックハートであろう人物がこちらに姿を現した。
「日刊予言者新聞です。写真を一枚お願いします」
いつの間にやら現れたカメラマンにロックハートは慣れたように対応し、抜群の笑顔でカメラの方に顔を上げた。
そしてその直後、驚いた様子でこちらに目を向ける。
「もしや、ハリー・ポッターでは?」
ロックハートがそう言うと、直様人だかりがパッと割れ、彼は割れた道を通ってハリーを前に連れて行った。
「ニッコリ笑って。君と私で一面大見出し記事ですよ」
彼に言われるがままハリーがぎこちなく笑うとシャッターが切られ、フラッシュの閃光が店内を照らす。
撮影が終わると一目散に、ハリーはこちらに戻ろうとするが、ロックハートはハリーの肩を掴んで放してくれず、こちらに戻ることは叶わない様子だ。
「皆さん。なんと記念すべき瞬間でしょうか?ハリー君が、フローリッシュ・アンド・ブロッツ書店に私の自伝、私はマジックだを買いに立ち寄った」
ロックハートの言葉にモリーさんなど店内の魔女は皆拍手をし、どんな口から出任せだと、私とロンは思わず顔を見合わせる。
「ついでながらこの本は、日刊預言者新聞ベストセラーで27週連続1位を飾っている訳でありますが、彼は思いがけずその本だけではなく、私の全作品を、手にするのです。無料でね」
彼は山ほど本をハリーに渡すとにっと笑い、またも店内をフラッシュの閃光が照らした。
「彼はこの事を誇りに思うでしょう。何故ならこの本を手に、9月からホグワーツ魔法魔術学校で私から『闇の魔術に対する防衛術』を教わるのだから。名高い彼は私の教えを伝授し、より素晴らしき魔法使いになってくれるでしょう。勿論、これを読んだ紳士淑女皆様方もね」
彼が最後に笑って頭を下げると、モリーさんは疎かハーマイオニーまでもが彼のパフォーマンスにうっとりして本を取り、サインを貰おうと迷いなき歩みで列に並んだ。
一方のハリーは本の重みと気疲れで少しよろけつつ、あげるついでに本をジニーの大鍋に入れる。
有名人になるのは良い事だが、それも時と場合によって面倒そのものだなと、思わず感じずにはいられない。
「いい気分だろうねポッター。有名人のポッター。ちょっと書店に行くだけで、一面大見出し記事だ」
あまりのごった返しように外に出ようとしていると、皮肉交じりの言葉で私達は呼び止められた。
「どうも、ドラコ。こないだぶり。転んでできた傷は治りました?」
「やぁ、セラス。君もいたのかい。……こないだは、どうも」
声を掛けたのはやはりドラコであり、私がいるとは思っていなかったのか少し目を反らす。
あの後のじゃれあいで、自分の魔法に当たって転んでしまった事を、未だ恥ずかしく思っているらしい。
「ほっといてよ。ハリーが望んだことじゃないわ!」
「おや、良かったじゃないかポッター。素敵なガールフレンドができて」
『君はハリーと仲良さそうで羨ましいよ。僕もハリーと仲良くなりたいな』
「というのが、今のドラコ語の訳です。あの人基本皮肉でしか話しませんから、まともに受け止めない方がいいですよ?
「ほっとけって言っているだろ!君はハリーの事を僻んでいるだけだろう!!」
「なお、まともに受け止めるとああなります。皮肉を皮肉として受け止めず、馬鹿正直に突っ込んでいくだけのアホです。ジニーはあんな
「誰が馬鹿だ!僕の妹に何を余計な事を教えてるんだい!?あと何度馬鹿アホ言えば、気が済むんだ!?」
「今の聞き捨てならないぞ、セラス!この僕がこいつと同列だなんて、ふざけるな!今すぐ訂正をしろ!訂正を!!」
書店で何やら喧嘩を始めそうな2人を遠巻きに、ジニーに事の解説をしていると、2人が何故か怒り出す。
「訂正といっても、訂正するとこないでしょ?初対面の相手に皮肉を言う馬鹿と、書店で喧嘩を始めようとする馬鹿を、逆になんて呼べばいいんです?公衆の面前で喧嘩だなんて、恥さらしもいいとこでしょ」
「うっ……。それは……そうだが………」
「元はと言えばマルフォイが悪いんだ。彼が余計な事を言わなければ───」
「誰が悪いだなんて聞いてないんですよ。口を開けば余計な事を言い、似たような喧嘩を繰り返す事を………改めろって言っているんですよ!この馬鹿!!自分のことを見つめ直せって、言ったばっかりですよね!?」
「ここは酷いもんだ。みんな早く外に出よう。どうしたんだ、ロン?頭なんか抱えて」
今日で何度目か、数えるのも面倒になって来た拳を収めていると、アーサーさんがフレッドとジョージと人混みを掻き分けてやって来た。
頭を抱えて蹲るロンに、アーサーさんは首を傾げる。
「これは、これは、アーサー・ウィーズリー。随分とお元気そうですな」
アーサーさんがロンの事を心配していると、その後ろからルシウスさんが現れ声を掛けた。
「ルシウス」
アーサーさんはそっけなく返事をすると、途端に少し不機嫌になった。
「役所は大忙しですな。何回も無駄な抜き打ち調査を………残業代は当然貰っているのでしょうな?」
「お前がよからぬものを屋敷に隠しているのは分かっているぞ。いつかその尻尾を掴んでやる」
「おや、何の事かな?思い当たる節がない。そんなに気になるなら一度屋敷に来てもらっても構わんぞ。君の探し物は見つからないと思うが」
「減らず口を……」
「役所が満足に給料を払わないなら、戯言の一つや二つ言いたくなるのは分かるがね。君も一応の魔法使いなのだ。少しでもその面汚しにならぬよう、もう少しばかり努力してみてはどうなのかね?」
ジニーの大鍋から中古の『変身術入門』の教科書を取り出しながら、嫌味ったらしくルシウスさんはそう言った。
アーサーさんの機嫌が更に悪いものとなって行き、深々と真っ赤になる。
「マルフォイ、魔法使いの面汚しがどういう意味かについて、私たちは意見が違うようだが」
「さようですな」
ルシウスさんの薄す灰色の目が、書店の外で成り行きを見守っているグレンジャー夫妻に移る。
「ウィーズリー。こんな連中と付き合っているようでは……君の家族はもう落ちるとこまで落ちたと思っていたですがねぇ──」
その直後、ルシウスさんが言葉を言い切る前にアーサーさんは跳びかかり、その背中を本棚に叩きつけた。
「いいぞ!やっつけろ、パパ!」
「アーサー!だめ!やめて!」
フレッドとジョージが煽り、モリーさんが制止の声を上げる中、双方ともに互いを睨みつけた。
「お止め下さい、2人共。公衆の面前で殴り合いなど、
互いが互いに掴み掛ろうとした瞬間、何処からともなく放たれた鋼線が2人を縛り、動きを完全に停止させた。
周囲が異様な光景に驚いているが、こんな芸当出来るのは一人しかいない。
「ウォルター、執事の分際でこれは何のつもりだ。お前はこちら側につくと思っていたのだが」
2人を捕縛した張本人たるウォルターさんは2人の鋼線を解きつつ、カツカツと音を立てながらこちらにやって来る。
「ご無礼お許し下さい、ルシウス卿。あなた様との取り引きが実に有益だったとはいえ、我々HELLSINGはあくまで中立。どちら側にもつくつもりはありませんので」
「なに?取り引きだと?」
アーサーさんは少し眉をひそめるが、ウォルターさんはその事に構おうとしない。
「ですがな、あなたの顔もってしても、譲れぬプライドというものがある。マルフォイのものがウィーズリー家のものにいい様にやられたなど、あってはならんのだ。ここで引き下がる訳には───」
「分かっております。あなた様が家のプライドと自らの良心の間で苦慮している事は、承知しております。ならば一つ、ここは私どもの顔を立ててはどうでしょう?前にも申した通り、ここは公衆の面前。純血主義のあなたが寛容な心を持ってウィーズリー家のものを許したとなれば、悪評の1つや2つなくなるのでは?」
顔を近づけ、ルシウスさんと私にしか聞こえない声でウォルターさんが話すと、ルシウスさんは目の色を怪しく輝かせた。
軽く自身の服を払い、ルシウスさんはアーサーさんに手を伸ばす。
「いやはや、先ほどは私も言い過ぎた。謝罪しよう。君の探し物が見つからぬ事は残念であるが、こればかりはどうしようもない。お互いの子等の為にも、ここは一つ仲直りと興じようではないか」
遠回しの挑発に眉をぴくぴくさせるも、アーサーさんはこれ以上どうすることもできないと悟る。
「そうだな。引き続き探し物はするが、それはそれだ。これ以上は子供達の教育に悪い。遺憾ではあるが、仲直りをする事としよう。……誠に遺憾だが」
苦々しくそう言うと、アーサーさんは差し出された手を握る。
言い負かす事が出来て満足したのか、取り上げた教科書をジニーの鍋に入れると、ルシウスさんは店から出て行った。
「じゃあ、セラス。僕は父上に付いて行くから、これで。また、ホグワーツで」
自身の父が普段見せない一面に驚いたのか、袋を地面に置いてしまうほど少し元気がない。
それでもウォルターさんがいつの間にやら持ち上げていた袋を受け取ると気を取り直し、少し気落ちした様子ではあるものの、ドラコは店から出て行った。
「喧嘩を止める為とはいえ、割を食う形になってしまい、申し訳ありません。何せ、あれぐらいでしか、ルシウス卿を鎮められる手段がなかったもので」
「その事はいいさ、ウォルター。私も少し頭に血が上っていた。だが、マルフォイ家の連中と取り引きをしたとはどういう事だ?奴等、骨の髄まで腐っている連中だぞ」
先ほどの一連はともかく、流石に取り引きについては不満があるのか、アーサーさんはウォルターさんに詰め寄る。
「何しろ、事情が事情だったもので、断る事が出来なかったのです。如何に取り引きが有益とはいえ、中立たる我々が純血主義の側に立つなど、あってはなりませんから」
「分かっているならいい。事情があるなら……これ以上追及するつもりはないよ。親友たるアーサー、インテグラの父に頼まれ後見人を一応はしているが、結局のところ名前を貸しているだからな。言う資格もない。……だが、これだけは言っておく。付き合う相手は、なるべく選んだ方がいい」
「なるほど。心に留めておきます」
「セラス、君もだ。こういう事はあまり言いたくないんだが……マルフォイ家の息子に入れ込み過ぎると、いずれ酷い目に遭う。彼と今後どうするか君次第だが……その事だけは、忘れないでおいてくれ」
もう少し何か言いたそうだったが、アーサーさんはそれだけを言うと、カンカンに怒っているモリーさんの方に歩いて行った。
「なんで、どうしたって……こんなにも上手く、いかないんだろう………」
ただ友達でいたいだけなのに、周囲にはあまりにもしがらみが多すぎる。
けれど、そのしがらみはまごう事なき現実で、その一端が誰かを傷つけたのもまた事実。
前と似た事を言われたことに苛つきを感じると共に、空の快晴の天気とは裏腹、やるせなさを感じざるを得なかった。