皆さん、お久しぶりです。どうも、熊です。
諸事情(正月サボり)と諸事情(別の小説を書いてた)を重ねた結果、投稿がかなり遅れてしました。
大変申し訳ございません。
今後は実生活が忙しくなるのもあって更に更新ペースが遅くなるかもしれませんが、どうか気長に待っていただけると幸いです。
それと最近もう一つ作品を書き始めたので、良ければそちらもご覧いただけるとありがたいです。
どうかそっちにも、コメント頂戴(願望駄々洩れ)。
山のような仕事から解放され迎えた、ホグワーツ新学期。
去年と同様、キングスクロス駅はホグワーツ生とその両親とでごった返しおり、9と3/4番線に入るだけでも一苦労だった。
共に来ていたウォルターさんから荷物を受け取って列車に乗り、簡単な挨拶を済ませて空いているコンパートメントに座る。
持ち込んでいたお菓子を食べて時間を潰していると列車が発射し、窓から見える風景がのどかなものへと変わった。
ガタゴトと小刻みの良い音を鳴らしつつ、列車はホグワーツへと向かう。
「こんにちは、セラス
持ち込んだお菓子を食べ切ってしまい、社内販売のお菓子を買うか買わないかで思案していた頃。
特徴的な赤髪を揺らしつつ、ジニーがこちらに声を掛けた。
「勿論ですよ、ジニー。そっちこそ元気にしてました?あの騒がしい兄弟に囲まれでもしていたら、少なくとも退屈はしないでしょうけど」
「偶に五月蠅過ぎるのが傷ですけどね。セラスさんこそロンがいつも余計な事を言って、大変じゃありませんか?ジョージとフレッド程じゃありませんけど、いつも私の事を揶揄って、こないだなんか入学式で一発芸が出来なきゃスリザリン行きだって、私に嘘を教えてきたんです!ハーマイオニーに本当の事を事前に教えてもらっていたので騙されてませんでしたけど……知らないで入学式に行っていたらどうなってたことか」
「あの馬鹿……また余計な事を………。……あとで制裁しておきます」
「どうか思いっきり、やっちゃってください」
出会いこそ最悪であったものの、誤解を解きある程度話をしたからか、ジニーと私は打ち解けてそこそこに話をする仲になった。
最初こそ大人しくて物静かだと思っていたのだが、素の性格の彼女はかなりのお喋りであり、気も下手をすると私以上に強い性格だとも分かった。
本人に人見知りの気質こそあれど、その本質的な性格が私と似ていたのも、直ぐに仲良くなるきっかけだったのだろう。
ただし、1つ留意することがあるとすれば………
「前にも言いましたけど、私の事はセラス
「いいえ。セラスさんは、セラスさんです。呼び方を変えるつもりはありません。私、セラスさんの事を、尊敬してますから」
………ロンに容赦なく制裁をする姿を見て、謎の尊敬の念を私に抱いたらしく、さん付けで呼ぶのを止めてくれないのだ。
ハーマイニーにその事を相談してみても、気持ちは分かると、答えになってない返しをされ、ロンに相談したらしたらで、真顔でなんでと、逆に尋ねられる始末(直後に制裁をした)。
本人に何度言っても直してくれない為、この際バッサリと直してもらう事は諦めた方がいいのかもしれない。
……どうしてこうなった。
「ところでちょっと、相談したい事があるんですけど、今、お時間、大丈夫ですか?」
買い物を終えて私が自身のコンパートメントに戻ろうとすると、ジニーがそんな事を言い出した。
「構いやしないですけど、そんなに改まって言う事なんですか?相談をする相手だったら、ハーマイオニーなり、フレッドとジョージなり、他にもいると思いますが」
「兄達には話したくないんです。ハーマイオニーには話してもいいけど、セラスさんからまず最初に話を聞いて欲しいんです。私にとって、凄く大切な事で、その……相談しにくい、事ですから」
ジニーが初めて会った時同様に口詰まり、私の体に緊張が走る。
フレッド達肉親には言えず、まず最初に私に相談するべきだと考えた事。
それはきっと、本人にとって言いにくい事であり、私にしか対処できないと考えたのだろう。
余計な事ばかりを言う奴とはいえ、仮にも友達の妹の相談となれば受けるしかない。
気持ちを新たにして引き締め、次に来るジニーの言葉を私は待つ。
『1年生の皆さんは、各自ローブに着替えて下さい。間もなく駅に到着します。閣僚の監督生は、速やかに1年生の先導の準備をお願いします。繰り返します』
何ともまぁ、間が悪い。
ジニーが言葉を紡ごうとした最中に放送が車内に響き、近くのコンパートメントからはガタガタと荷物を漁る音がした。
窓からの景色も、ホグズミード村が遠目で見えるものとなっている。
「まぁ……今回はタイミングが悪いって事で、相談事はまた今度にしましょう。ホグワーツにいる間だったら、幾らでも時間はありますし」
「そ、そうですね。それじゃあ、また」
何処かシュンと肩を落としながらジニーはその場を去って、自身のコンパートメントへと帰って行った。
相談に乗ると言った最中にこれなのだから、こちらにも自然と罪悪感が湧いてきてしまう。
「さてと。そろそろ私も私で、速く降りる準備をしないと」
1年生の方が早めに降ろされるとはいえ、その直後に私達上級生が降ろされる事に変わりはない。
お菓子の残骸をトランクに詰め、取り出したグリフィンドールのローブを身に纏う。
去年は列車から姿くらましでホグワーツに連行されたので知らなかったのだが、1年生はハグリッドの引率で湖をボートで渡って城に行き、2年生からは一人でに動く馬車に乗って城まで行くらしい。
馬車に乗る傍ら、ボートを漕いで毎年死に掛ける羽目にならなくてよかったと、私は人知れず心の底から安堵をした。
私達吸血鬼は、川や湖を渡る事は出来ないのだ。
馬車に乗って城の大広間に行くと、グリフィンドールの席には既にハーマイオニーが先に座っていた。
しかし、どういう訳か、その隣は何処か妙に物寂しい。
「セラス、良かった。探してたの。列車の何処を探しても見当たらないし、大広間にもなかなか来ないから心配で」
「心配をかけてごめんなさい。結構前のコンパートメントにいて、途中でお菓子を買いにも行ってましたから、多分すれ違いになったんだと」
「ところでハリー達は一緒じゃないの?てっきり一緒にいるんだと思ってたんだけど」
「いいえ、こっちにはいませんでしたよ。てっきり私もそっちにいるものだと───」
互いに会えた事に安堵し、ハリー達の心配をし始ようとした最中、大広間の扉が開いた。
1年生が職員の机の前に整列し、私達も急いで席に座る。
「ABC順に名前が呼ばれたら、帽子を被って椅子に座り、組み分け帽子を受けていてください。ではまず、バーカリー・ベイカー!前に」
その後は例年通り組み分けがなされた後、『闇の魔術に対する防衛術』の教職にロックハートが就く事をダンブルドアが発表して宴が始まった。
目の前に山ほどのご馳走が出現し、皆がそれに手を伸ばして大広間が一気に騒がしくなる。
しかし、一ハリー達は一向に現れない。
一体どうしたのだろうとハーマイオニーと顔を見合わせている間にも宴は進み、ご馳走を頬張っている間もハリー達の行方が気になってしょうがない。
ローストチキンを口に入れつつ、キョロキョロ頭を振って辺りを見渡していると、先生達の様子が騒がしくなった事に私はふと気が付いた。
全員が困惑の表情で新聞を見入っており、何やらスネイプ先生は眉間に眉に寄せていつも以上に不機嫌になっている。
「見ろよ!この新聞!あの2人やりやがった!」
「ああ、やりやがった!こりゃあママはカンカンだ!」
先生達が見ているのと同じ新聞を見て、大笑いしながらフレッドとジョージが新聞をこちらに渡した。
何事かと思って渡された新聞見てみると、思い思いもよらなかった事態に、私とハーマイオニーは愕然とする。
「何よこれ!?『空飛ぶフォード・アングリア、いぶかるマグル』。ロンドンで空飛ぶ中古のアングリアを少なくとも7人のマグルが目撃。魔法省はこれを国際魔法使い機密保持法を犯した事例として、即刻犯人を調査。結果、犯人として浮かび上がったのはマグル製品不正使用取締局の局長、アーサー・ウィーズリーの息子であるロナルド・ウィーズリーと……かの有名なハリー・ポッターですって!?」
「アングリアはホグワーツ魔法学校の『暴れ柳』に墜落し、機密保持法を違反した両名は現在尋問中。処分については校長であるアルバス・ダンブルドアに委ねられるものの、監督不行き届きとしてアーサー・ウィーズリーが後日尋問を受ける事になるのは確定的。魔法省はHELLSINGへの全面的な協力要請を出すとともに、現在早急な対処と目撃者の調査に追われているって……何をやらかしているんですか……あの馬鹿2人………」
読めば読むほど頭を抱え、最後の行を読み終える頃には私の全身は真っ白。
渇いた笑いが出ては消え、宴を終えた後もそれを永遠に繰り返すものだから、ハーマイオニーとネビルに心配される始末だ。
その後は少し時間をおいて、ハーマイオニーに支えられながら階段を登って寮に向かっていると、途中で上から聞き慣れた声を察知する。
顔を見合わせ、階段を駆け上り寮に入ると、そこには
名も知らぬ上級生までもが2人を煽てるものだから完全に調子に乗っており、それを止める立場の監督生であるパーシーは手をこまねいて、頼むと言いたげにこちらを一瞥すると、その場をあとにする。
「まったく、酷い目にあったよ。何せ、木にぶつかったと思ったら車は勝手に何処かに行って、僕の杖はこの通りさ。おっと、お説教なら今はやめてくれよ。僕達本当に、疲れているんだ」
調子良さげに戯けるロンを見て、私の中の何かが完全に切れた。
ハーマイオニーが諦め顔でそっぽを向き、それを見て流石に色々と不味いと感づいたハリーが言い訳をして、ロンに頭を下げるよう促すが、もう何もかもが手遅れ。
顔や首に血管を浮き出せながら、私は全力で振りかぶって拳を振るう。
その一撃を
勿論、彼らにとっての災難はこれで終わりではない。
『ロナルド・ウィーズリー!車を盗み出すなんて、退学処分になっても当たり前です!お父さんは役所で尋問を受けていますよ!HELLSINGからの厳重注意も貰いました!みんなお前のせいです。訪ねてきたインテグラに呆れた目で見つめられた時に……どれほど私とお父さんが恥ずかしさのあまり死んでしまうのではないかと、思った事か────』
翌朝の朝食の席でモリーさんから『吼えメール』が届き、ロンがやむなしにそれをその場で開封したものだから、彼等を中心に怒鳴り声が何百倍にもなって、大広間を襲ったのだ。
あまりの爆音にあちこちのテーブルが震えて、ガチャガチャと皿やスプーンが揺れ、大広間の全員がこちらに目を向ける。
しばらく時間が経って、手紙は言いたい事を言い終えた思うと炎となって燃え尽きて灰になり、一度その場は静まり返る。
しかし、その直後、何人かが笑い声を漏らしたかと思うと、それがあちこちに伝播して何人かが笑い声をあげた。
2人の頭に大きなたん瘤が出来ていた事も、より拍車をかけたのだろう。
ドラコに至っては腹を抱え、酸欠で苦しむほどの大笑いをしている。
「……当然の報いを受けたって、君は言いたいんだろ」
「よく分かりましたね。全くもってその通りです」
ロンは私の言葉で更にいじけて机に突っ伏し、ハリーは居心地が悪そうに配られた時間割を注視しだした。
向こう見ずな行動をしがちな2人とって、これは良い薬になっただろう。自業自得だ。
2人にとっては針の筵な朝食を終えると、私達は枝のあちこちに包帯を巻かれた『暴れ柳』を哀れに思いつつも温室に向かい、そこでマンドレイクの植え替えの実習を行った。
温室に向かう途中、ハリーが執拗以上にロックハート先生に絡まれ、その様子をハーマイオニーが羨ましそうに眺めていた事が凄く印象的だった。
普段は冷静なハーマイオニーでも、憧れの男性の前では骨抜きになるのだなと、妙に感心したからだ。
それはそうと、とてつもない勢いで絡まれたハリーには、素直に同情するが。
「こいつめ……役立たず!コンチクショー!」
「元から明らかに古くて寿命でしたし、そもそもテープでくっつけただけで折れた杖が直る訳ないでしょ。あと、染みついた服とローブの匂いが取れるまで、私の半径1メートルには近づかないで貰えます?普通に臭くて嫌なので」
「仕方ないだろ!?これっばかりは!このポンコツが全部悪いんだ!」
「元を辿れば全部あなたのせいですけどね」
匂いで気持ち悪くなってきた気分を抑えつつ、呆れた表情でロンの折れた杖を私は見つめる。
『薬草学』に続き行われた『変身術』ではコガネムシをボタンに変える課題を出され、私自体はハーマイオニーと早々に課題を終わらせ共に得点を貰い(相も変わらず理論を理解せず感覚で変身術を使っている私に、マクゴナガル先生は微妙な表情をしていたが)、のんびりしていたのだがロンの状況は悲惨そのもの。
スペロテープで折れた杖を修復して使ったものの、そんなもので壊れた杖が直る訳もなく、幾ら振っても魔法が使えない上に、灰色の煙を教室中に撒き散らすしかなかったのだ。
しかも、その煙の臭いが腐った卵を思わせる程のとてつもなく臭い異臭だったのだから、本当に始末に負えない。
服とローブに纏わりついた匂いが嗅覚の鋭い私ぐらいにしか分からない僅かなもので、ロンが今後臭いキャラとして生きていく事はないというのが不幸中の幸いなのだろうが、今は本当に近づかないで欲しい。
でなければ本気で手が出てしまう。窓からロンを殴り飛ばす勢いで。
「午後の授業は何だっけ?」
「闇の魔術に対する防衛術よ」
ジリジリ近づいて来るロンに手を出すかを思案していると、ハリーがその空気を感じ取ったらしく、慌てて話題を別のものにした。
どうも最近、ハリーの空気を読む力が、驚くほど成長している気がする。
「君、ロックハートの授業を全部小さいハートで囲んであるけど、どうして?まさか君、ロックハートに恋でもしているかい?」
「か、からかわないでよ!純粋に尊敬しているだけよ!セラス!ロンの事、思いっきり引っ叩いて!!」
「了解です。調度私も一発喰らわせたかったところなので、ついでにもう1発やっときますね」
「はぁ!?何でさ!?僕はただどうしてかを聞いただけじゃない────」
「黙らっしゃい!余計な事は言わなくていいんですよ!その臭い服を取り換えるついでに、その空っぽな頭もまとめて取り換えてきたらどうなんですか!?この馬鹿!!」
全く成長している気配がないロンを2発とついでに1発引っ叩き、赤面して湯気すら出てそうなハーマイオニーを私は軽く慰める。
後方で頬を赤くして抗議し、今年入って来たという、1年のグリフィンドール生であるコリン・クリービーにその様子を写真に撮られている奴がいるが、そんなもの知った事ではない。
あの姿を写真としてホグワーツ中にばらまかれて、自身もまた大きな恥を晒すぐらいが調度よいのだから、無視するのは当然のこと。
………あの程度であの馬鹿さ加減が治るとは、とてもじゃないけど思えないが。
「私だ。ギルデロイ・ロックハート。勲3等マーリン勲章、闇の魔術に対する防衛術連盟名誉会員、そして、週間魔女で5回連続チャーミングスマイル賞受賞。もっとも、私はそんな話をするつもりではありませんよ。バンドンの妖怪バンシーを笑顔で追い払ったわけではありませんしね!」
そんなこんなで昼食の終え、教室の席に座ってハーマイオニーと話し込んでいると、ロックハート先生がご自慢の笑みを浮かべ、そんな事を言いながら教室にやって来た。
しかし、その登場とは裏腹、あまりの勢いでお出しされた自慢混じりのジョークを前に、私を含め多くの生徒が沈黙し、ごく数人の生徒達だけが彼の言葉に曖昧に笑うだけ。
この教室で唯一、ハーマイオニーだけは彼の登場に目を輝かせ、例の時間割を手に持って彼の言葉に聞き入っていたが。
「全員が私の本を全巻揃えたようだね。大変よろしい。今日は最初にちょっとミニテストをやろうと思います。心配ご無用、君たちがどのくらい私の本を読んでいるか、どのくらい覚えているかチェックするだけですからね」
そう言ってテスト用紙を配り終えると、ロックハート先生は教室の前の席に戻って合図をした。
「30分です。よーい、始め!」
配られたテスト用紙を合図とともに裏返し、その問題の内容を確認する。
1. ギルデロイ・ロックハートの好きな色は何?
2. ギルデロイ・ロックハートの密かな大望は何?
3. 現時点までのギルデロイ・ロックハートの業績の中で、あなたは何が一番偉大だと思うか?
4.ギルデロイ・ロックハートの………(以下略)
「えっ、何これ?アンケート用紙?えっ、あれ?……えっ?」
問題内容を確認した次の瞬間、疑問符と困惑で脳内が一気に浸食され、何かを考える前に私は思わず呆けた声を出してしまっていた。
「そこの君。私の授業を受けれる事への嬉しさのあまり呆けてしまう気持ちは十分に分かりますが、テスト中に集中力を欠くとはいけない子だ。他の子の迷惑になってしまうからね。その気持ちはテストが終わるまで我慢しておきなさい」
『いいえ、そうじゃありません。集中力を欠いたのは間違いありませんが、そういう理由ではありません。この意味不明な問題達に、ただ困惑しているだけです』
口に出してそう言いたかったのだが、極度の困惑のあまり私は口を動かすことができなかった。
極度の困惑に襲われると、人間も吸血鬼も関係なく、咄嗟に体を動かせなるらしい。
正直こんな事で、その事実を知りたくはなかった。
その後の30分を私は虚無の表情で過ごし切り、一種の悟りを開きかけた。
ハーマイオニーがこの問題で満点を取って10点を獲得したことは素直に凄いと思ったが、このテストで満点を取るのは何かが違うとも思った。
数々の偉業を持つ人間とは思えない、過剰なまでの自尊心と胡散臭さを持つロックハートを前に、これからの授業の行く先がどんどん不安になっていく。
「さあ、気をつけて!魔法界の中で最も穢れた生き物と戦う術を授けるのが、私の役目なのです!この教室で君たちは、これまでに無い恐ろしい目に遭うことになるでしょう。ただし、私がここにいるかぎり、何物も君達に危害を加える事はないと思いたまえ。落ち着いているよう、それだけをお願いしましょう」
ロックハートは布がかけられた大きな籠を持ち上げ、机の上にそれを置きながらそう言った。
去年と同様、ロックハートが大外れな教師でない事を全力で祈りつつ、何かあった時の為に私は腰の杖を握る。
「どうか、叫ばないようお願いしたい。連中を挑発してしまうかもしれないのでね」
ロックハートが低い声で警告し、教室中の全員が息を殺す。
ぱっとロックハートが布を取り払うと、そこには何匹ものピクシー小妖精が籠の中に詰められていた。
ドラゴンでも出てくるのかと思っていた生徒達は肩透かしを喰らった事に安堵しつつも、皆が笑みを浮かべ中には吹き出してしまう生徒もいた。
ピクシー小妖精は危険度XXX級に分類される魔法生物ではあるものの、1匹1匹の戦闘力は0に等しく、小さい子供が素手で軽く倒せる程度。
魔法生物への危険意識が低い生徒達からしてみれば、籠に囚われているピクシーなど恐れるに足らない存在なのだろう。
実際その通りではあるのだが。
「思い込みはいけません!連中は厄介で危険な小悪魔になりえますぞ!」
ロックハートは真剣な表情で笑っている生徒に改めて警告をし、その姿を見て私は多少ロックハートを見直す。
ピクシー1匹の戦闘力が0に等しいのは紛うことなき事なき事実ではあるが、腐っても危険度XXX級に分類される
戦闘力が低いと認識こそすれど、警戒を解くべき相手ではないのだから。
「さあ、それでは。君達がピクシーをどう扱うかをやってみましょう!」
「……んっ?ちょっと待って。どう扱うって、具体的にはどういう………」
「それでは!お手並み、拝見!!」
「ちょっ、ちょっと待って。な。なんであの人鍵を───って、わあぁぁぁ!?!?」
私の中でロックハートの評価が回復しようとした瞬間、あろうことかロックハートは籠の戸を開け、ピクシー群れを教室中に解き放った。
そこから先の事態など、誰にだって予想がつく。
籠から解放されたピクシー達は四方八方に飛び散ったかと思うと、閉じ込められた腹いせとばかりに大暴れ。
インク瓶や棚の本を投げつけたり、天井に飾られていた模型を下に落としたり、窓ガラスを突き破りとやりたい放題だ。
先頭列にいたネビルに至っては真っ先に狙われ持ち上げられ、天井のシャンデリアに吊るされるときたものだから手に負えない。
毎度のことながら、誰かのやらかしに巻き込まれるネビルがどうも、哀れで仕方がない。
「さぁ、さぁ、捕まえなさい。捕まえてなさいよ。たかがピクシーでしょ………」
その一方、この状況を作り出したロックハートはというと相も変わらず余裕綽々といった様子で、完全に職務放棄を決め込んでいた。
どうも、あの男にとってこの状況は大して問題視するような事ではないらしく、自身の力量のみでどうにかなると思っているらしい。
その自信が真実か否かは分からないが、この状況を静観するのみに留めるあたり、あの男がハーマイオニーの思ったような偉大な人間などではない事は目に見えて明らかだった。
仮にこの状況をどうにか出来たとしても、私はあの男を認めるなんて事は絶対しないし、あの男が偉大な人間だとは絶対に思えない。
………私が憧れる人間という存在からは、あまりにも遠く、あの男はかけ離れていた。
少しでも期待した自分が馬鹿だったと、吊るされていたネビルを救出する傍ら、人知れず私の口からは溜息が零れ落ちる。
「………セラス?あなた、今……どうにかした?」
「………いえ、ハーマイオニー。………何でもありません。………まずは、あのピクシー達を、どうにかしないとしないとですよね。と、なるとやっぱり……手っ取り早いのはまとめて全部、吹き飛ばすのが一番だと思うんですけど───」
私が二の句を言おうとした瞬間、その場のロックハート以外の全員が一瞬顔を青ざめたと思うと、ピクシー以上に恐ろしいものでも見たかのように、我先にと皆が机の下に避難を始めた。
ハリーとロンに至ってはやっぱりと顔を見合わせながら既に避難を済ましており、ハーマイオニーも似た様子で、ガタガタと震えるネビルを連れ、迷わず机の下に潜っていった。
ドラコに関しては他のスリザリン生に囲まれながら、顔に手を当て眉間にしわを寄せ、これから起こる事に対し、酷く苦笑いをしている。
「あら、皆さん。そこのお嬢さん以外はもう降参ですか。ならば仕方ありませんね。ここは一つ私の魔法で、ピクシー達を一網打尽にしてみせましょう!」
芝居じみた事ばかりを言うあの男を無視して、私は無言呪文を唱える。
すると次の瞬間、凝縮された魔力が杖先から放出され、爆破魔法がピクシーの群れ目掛けて勢いよく襲い掛かった。
もろに魔法が直撃したピクシー数匹は跡形もなく消滅し、爆破の衝撃でその直ぐ傍を飛んでいたピクシー数匹は目を回して地面に墜落。
辛うじて被害を受けなかった残りのピクシー達は数秒思考停止したかと思うと数秒後にガタガタ震え、試しに杖を向けてみると全員が青い顔を真っ白に染め、元居た籠の中に一目散に逃げていった。
墜落し意識を失ったピクシー達も同様で、意識を取り戻し眼前に向けられた杖を見ると顔を真っ白に染め、元居た籠の中に我先にと戻っていく。
「…………っえ?………あっ…………えっ?……………あっ……なっ…わ、わ……私の頭が!??!」
一方、つい先ほどまで茫然自失となっていたロックハートはというと、何処からか取り出した鏡に映る自身の姿を見て、酷くショックを受けて声にならない悲鳴を上げていた。
どうも無防備に突っ立っていたせいでもろに爆破巻き込まれ、見事なまでに整えられていた頭が盛大に爆発したらしい。
つい先度まで芝居じみた様子のロックハートのこの有様には皆が笑いを隠しきれず、こんな風になるとは全く思っていなかった私も大きく腹を抱えて笑ってしまい、唯一ロックハートを心配していたハーマイオニーから強く肘を押し付けられる。
「い、いやはや皆さん!こんな幕切れになるとは、私でも想像がつきませんでした。ミス・ヴィクトリアは………あー……良く………やりました。……グリフィンドールに10点。では、授業は終了です!どうか片付けの方をお忘れなく!」
そう言い残すと自身の髪を隠しつつ、ロックハートは奥の扉から逃げるように教室から出て行った。
ドタバタと階段を駆け下りる音が聞こえてくるあたり、大急ぎで保健室に向かったのだろう。
保健室であの髪が元に戻るのかについては定かでないが。
「…………えーっと、皆さん。とりあえず………残りの時間は言われた通り……教室の、掃除でもします?ピクシーと諸々で、あの、その………。………なんか、色々とすいません」
未だ震えるピクシーの入った籠の鍵を閉めつつ、一先ず私は皆に頭を下げた。
「まぁ、いつも通り………といえば、いつも通りだよな。これ」
「今回は大分………派手だったけどね」
「セラス………君……いつも、こんな事をやってるのか………」
ハリーやロンといったグリフィンドール生徒達はもう慣れたと言わんばかりに片付けを始め、ドラコ達スリザリン生は珍獣でも見るような目でこちらを一瞥すると、渋々片付けを始めた。
ロックハートの頭を事故とはいえアフロヘアーにした件に関して、ハーマイオニーはかなり怒っていたらしく、掃除の傍ら何度も凄い形相でこちらを叱りつけ、私はしばらく『ハイ』という機械と化した。
なお、ロックハートの頭はやはり保健室ではどうにもならなかったらしく、魔法の整髪料が届くまでの3日間、ロックハートは頭を鳥の巣同然の状態で過ごす事を余儀なくされたときたものだから、更にその事で私はハーマイオニーに叱られる事となった。
恋は人を変えるとはよく言ったものである。