ハリー・ポッターと王立国教騎士団   作:熊田ラナムカ27

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 皆さん、本当にお久しぶりです。どうも、熊です。
 
 熊鍋になったなんて事はありません。まだ生きていました。
 
 試験とインターンなどの事情により、投稿がかなり遅れてしました。
 
 何度目か分かりませんが、大変申し訳ございません。
 
 それと前にも前書きで書いた通り、実生活がかなり忙しい理由もあって、送られてきたコメント全てに返信する事が出来ておらず、前のように一つ一つのコメントに返信する事は難しい状況です。
 
 ですが、送られてきたコメントについては全て閲覧しており、余裕があれば返信の方も行えるようにしていくつもりなので、今後とも気長にコメントを送ってくれるととても幸いです。
 
 そろそろ原作改変のタグがかなり目立つ事になると思いますが、それでは本編の方を、どうぞ。
 
 


27 It's hard to get to know people think

 

 

 

 

「………あった。やっぱりここにも。もしかしたらと思ってはいましたが……どうやら全て予想通りだったみたいですね」

 

 クリスマスの夜から数週間。

 

 休暇が終わり学校に戻ってきた生徒達はハーマイオニーの姿が見えない事で口々に噂をし、一時は保健室の前に野次馬が押し掛ける事態になったものの、それ以外に事件らしい事件は起きる事はなかった。

 

 始めのうちはただ化物(フリークス)が息を潜めているものだと、皆が気を張り詰めて警戒していたのだが、数日経ってもホグワーツは平和そのもの。

 

 何時しか事件なんてものはもう起きないといった空気が流れ、マンドレイクも順調に育ちつつある事で、事件はまるで解決したかのように扱われつつあった。

 

 犯人の正体も、化物(フリークス)の正体も、何故この事件そのものが起きたのかも、何もかもがわからないまま。

 

「ハーマイオニー、お見舞いに来ましたよ。尻尾と耳は……健在みたいですね。………よかった

 

「本音丸聞こえだから。相変わらず他人事だと思って……。ところで、あの2人の姿は見えないみたいだけど」

 

「別に何もありませんよ。いつもハーマイオニーに頼っているツケが、今になって回ってきただけなので」

 

「あー、なるほど。宿題が終わってないのね」

 

 数週間経った事でハーマイオニーの容態も良くなり、顔の毛が綺麗さっぱり無くなって目や鼻も元に戻っていた。

 

 マダム・ポンプリー曰くあと数日で退院できるそうで、ハーマイオニー本人の気分も随分前向きになっていた。

 

 ……尤も、尻尾や猫耳は中途半端に生えたままであり、半ばコスプレのように見えなくもないが、そこは言わぬが花なのだろう。

 

 毎回見舞いに行く度に、ハーマイオニーと私の間で撫でる撫でさせないの戦いが勃発しているが、きっと大した問題ではない。

 

 なお、マダム・ポンプリーは怒るのを早々に諦めた。

 

「それで今日もハリー達に手伝ってもらって、事件が起きた場所の周囲を改めて調べたんですけど………やはりありました。壁や床、天井に最近出来たであろう、不自然な穴が」

 

 つい先程とは一転してお互い神妙な表情となり、穴があった場所を記録したメモを思わず睨みつける。

 

 ポリジュース薬での調べが結果として失敗に終わり、犯人に繋がる手掛かりは全て無くなってしまったものの、化物(フリークス)の存在を探るにあたっての当てはあった。

 

 以前、ジャスティンの着ているローブが何故か濡れていたことや、ミセス・ノリスを見つけた場所が辺り一面水浸しだったこと。

 

 これ等の情報から事件が起きた場所の周囲をもう一度調べ、現場に残されていた手掛かりを見ていくと、全ての現場に共通点があった。

 

 その共通点とは化物(フリークス)によって破壊されただろう、最近出来た不自然な穴がどの現場の壁の何処かしらに必ず1か所は存在し、その穴の先の水道管が破損して水漏れを起こしていたという事。

 

「そうなると、やっぱり『秘密の部屋』の怪物はホグワーツ全体にはぐり巡っている水道管を辿って、そこから現れて標的を襲っている可能性が高いわね」

 

「ホグワーツの内部、それも水道管がある場所なんて中々調べられるものじゃないですし、化物(フリークス)が長年身を隠せていたのも納得です。……そしてその住処であろう『秘密の部屋』がある場所も、おそらくは水道管の先の何処かしらにあるはず」

 

「けど、問題は結局怪物の正体が何かって話よね。コカトリスにカトブレパス、メドゥーサやゴルゴン………。……今思いつくだけでも候補の数が多過ぎて、怪物の正体なんて絞り切れないもの」

 

 人間界以上に危険生物が多くいる魔法界で、相手を石化させるという特徴だけで化物(フリークス)の正体を探るというのはあまりに無謀。

 

 砂漠の中で一つのコインを探し当てるレベルと言っても過言ではなく、当てもなくその正体を探るとなると、果てしなく時間が経ってしまうに違いない。

 

 せめてあと一つ、化物(フリークス)に関する手掛かりがあれば話は変わってくるのだが、時間が経ち過ぎた上にフィルチさんが念入りにモップ掛けをした廊下で、これ以上の手掛かりを見つけるのはかなり骨を折る事になってしまうだろう。

 

 それはそうと、図鑑も無しにあれだけの候補を並べるというのは流石でしかないが………。

 

「とにかく、こないだの事と合わせてこの事はHELLSINGに連絡しておきます。ホグワーツ以上に化物(フリークス)の資料が揃っている本部なら、何か分かるかもしれません」

 

「私も退院したら図書室で調べてみるわ。……前に読んだ事のある本で似たような事件について書いてあった気がするから、もしかしたらだけど分かる気がするのよね」

 

「この調子で犯人の当ても付けばいいんですけど………」

 

 それから少しの間、2人して頭をひねっては見たもののやはりお手上げであり、面会時間も終わったので私は寮に戻っていた。

  

 途中フィルチさんの怒鳴り声が聞こえたので、一応の確認の為に3階に来たものの、怒鳴り声の理由についてはモップ掛けについて文句だったらしい。

 

 ミセス・ノリスが襲われた近くの水道管からの水漏れもそうだが、それ以上に今日はマートルの機嫌があまり良くないらしく、廊下の半分が水浸しになっていた。

 

 その証拠にマートルのいる女子トイレからはおびただしい量の水が漏れ、マートルの泣き叫ぶ声が壁にこだまして廊下にまで聞こえてくる。

 

「あれ、セラス。君もここに来たの?」

 

「いつもマートルがどうたらって言って、自分から来ないのに珍しいよな。もしかして、マートルの様子が気になったの?僕等もなんだ」

 

 流れ出る大量に水に躊躇い、トイレに入ろうか迷っていると後ろからロンとハリーが声を掛けて来た。

 

 宿題の方はどうにか終わったらしい。

 

「ハリー、ロン。ええ、まぁ、そんなところです。中に入りたいには入りたいんですけど、避けようがない量の水で溢れてるって考えたら……どうしても足が竦んで………」

 

「ああ、そっか。セラスは水に触れられないんだもんな。ここまで水があるとなると避けようがないし」

 

「なら前にネビルを助けた時みたいに、幾つか足場を作ってその上を辿って行けばいいんじゃないかな?それなら足元から濡れるなんて事はないだろうし」

 

 それでも十分危な過ぎやしないだろうかと思ったが、尚も聞こえてくるマートルの泣き声を聞いて次第にそんな考えも収まっていく。

 

 普段なるべく近づかないようにしていたので気付かなったが、少なくとも私の知るマートルはいつもにこやか(問答無用で水を掛けてくるが)で、ここまで声を上げて泣き出した事など一度もない。

 

 彼女がここまで取り乱した姿を見るのは、これが初めてだった。

 

「………わかりました。本当に危なくなったら逃げますけど……とりあえずはハリーが言った方法を試してみます。………先頭の方には、絶対行かないですけど

 

 2人はこれに頷くとドアを開け、ローブの裾を踝までたくし上げて水などお構いなしに中に入って行った。

 

 取り出した杖を振って幾つかの場所を隆起させ、足場を作ると慎重に私も後に続く。

 

 トイレは中の蝋燭が消えている事でいつもより薄暗く、あちこちトイレから水が漏れ出し小規模の川を作っていた。

 

 一歩進むごとに寒気が全身を襲い、寿命がまるで10年は縮むような錯覚を受けそうになる、

 

『あなたまで私に投げつけに来たの?それとも自分から水を掛けられに来たの?』

 

 足を滑らせぬよう、足元以外も濡れないよう、慎重に歩いていると上の大きな窓のあたりからマートルの声がした。

 

 強い口調と言動で誤魔化そうとしてるものの、声は酷く震え、顔には涙の痕がハッキリ残っており、誤魔化そうにも誤魔化せる様子ではない。

  

「何かを投げつけに来たわけでも、水を掛けられたい訳でもありません。様子がおかしかったので……少し心配になって………」

 

『心にもないこと言って。本当は興味何てないくせに』

 

 不機嫌そうにそっぽを向きながらマートルは下に降りて来た。

 

 どこかしらか水が噴き出すのでは緊張したのだが、一向に何処からも水が噴き出す様子はない。

 

「どうしてセラスが何かを投げつけたりすると思ったんだい?誰かが君にそんな事でもしたのかい?何のために?」

 

『知らないわよ。見てないもの。私はただここでひっそり過ごしているだけなのに、私に本を投げつけて面白がる人がいるのよ………』

 

「でも、君に何かぶつけても、痛くないだろ?だって、体を通り抜けるだけじゃ───」

 

「そういう問題じゃないでしょ!あなたの立場でやられていい気しますか!?体どうこうなんて関係なく、そういうのは理屈じゃないんです!」

 

 いつも通りのロンの考えなしの言葉であり、何か言うにしてもそこまで言う必要はないはずなのだが、私は何故か声を強く荒げた。

 

 これには言われた側のロンは勿論、私自身も驚いており、いくら考えてもあんなに強く言ってしまった理由がわからなかった。

 

 そんな私をマートルは楽し気に見ている。

 

『その赤毛を今直ぐにでもずぶ濡れにしてやろうと思ってたけど……まぁいいわ。今回は水に流してあげる。けど、勿論ただじゃ許してあげない。……そうね。代わりに私が流してやったあそこの本、何処かにでも捨てておいて頂戴』

 

「流してやったって……もしかしてその本、それが君に投げつけられた本?」

 

『ええ、そうよ。よく覚えてる。トイレのパイプに座って死について考えていたら、頭のてっぺんに落ちてきたの。思い出すだけで腹が立つわ』

  

 忌々し気に手洗い台の下をマートルは指差し、ハリーとロンはそこを探しに行った。

 

 良く見ると、ビショ濡れの黒い表紙の本が下に落ちている。

 

『あなたってやっぱり変わってる。私と同じで、凄く変わってる』

 

 本をどうするかで揉めている2人を何気なしに見ていると、マートルが突然話し掛けて来た。

 

 声は何処か穏やか気だ。

 

「変わってるって……。自分でも変わってる自覚はありますけど……わざわざそれを言う必要ないじゃないですか。結構くるものがあるんですけど………」

 

『それもだけど普通の”人間”とは少し違うって意味。あなたまだ気づいてないの?"人間"と私達(人ならざる者)の当たり前は違うのに、それを何ら気にすることなく受け入れている、自分自身のおかしさに』

 

 最初は何を言っているのか分からなかったものの、その意味を次第に理解する。

 

 ……あの時、私がロンに対して強く怒ったのは純粋な怒りの感情だけでなく、きっと“人間“とは違う痛みを持つ、私達(人ならざる者)の存在を馬鹿にされたと感じたからだったのだろう。

 

 いくら取り繕うっても私の根っこは人ならざる存在であり、根本的な何もかもは“人間“と異なるのだ。

 

 本当に危険ならば一切近づかないようにすれば良いにも関わらず、何かと理由をつけて誰かと共にではあるが偶にここに来ていたのも、自分と同じ存在がいる事に無意識的に安心感を覚えていたからなのかもしれない。

 

『なんでかわからないけど、あなた前よりずっと気配が私達(人ならざる者)に近いものになってる。いくら変って言ってもそんな事あり得ないのに、間違いなくそうなのよ。不思議よね』

 

「えっ、それってどういう───」

 

「セラス、見てくれよこの日記。T・M・リドル、50年前、学校から『特別功労賞』を貰った奴のものみたいなんだ。前に散々フィルチにこいつの盾を磨かされたから、嫌でも覚えていてさ」 

 

 マートルに言葉を意味を問おうとすると、ロンがハリーの持つ黒い日記をこちらに見せてながらやって来た。

 

 黒い表紙に件のT・M・リドルの名前が書きこまれている以外は何も書いた痕跡が無く、少し古びている以外は至って普通の日記だ。

 

 パッと見ではあるものの呪いの類いが掛かっている様子もなく、早々に危険を招くものでもなさそうだ。

 

 ……しかし、何となく拾ってはいけない気がする。

 

「深い理由は無いんですけど……その日記は今直ぐ燃やすなり、捨てるなりした方がいいんじゃないですか?何というか、変な感じっていうか………。………上手くは言えませんけど、薄暗い気配がしますし」

 

 鋭い視線で日記を睨みつけて言うが、ハリーはピンと来ていないらしい。

 

「危険って言ったってたかだか日記帳だろう?今こうやって持ってるけど何も起きやしないし」

 

「それは……そうですけど………」

 

「僕も止めた方がいいって言ってるんだけど、ハリーが聞かなくってさ。こんなのメモ用紙ぐらいしか役に立ちそうにないっていうのに。あれ?そういえばマートルは?ついさっきまで一緒にいたんじゃないの?」

 

 ロンに言われて隣を見てみるが、マートルはいつの間にか何処かに消えてしまっていた。

 

 それから何度かハリーやロンに付いてきてもらって、女子トイレに行ったものの、あれ以降マートルに会う事は出来なかった。

 

 2月の初めになると尻尾や耳が完全に取れ、ハーマイオニーは退院した。

 

 ハーマイオニーが退院して、グリフィンドールの寮に帰ってきたその日の夜、ハリーはT・M・リドルの日記をハーマイオニーに見せて、それを見つけた時の話をした。

 

 そんな見るからに怪しいものに、ハーマイオニーは興味を示さないだろうと、私は思っていたのだが意外にもハーマイオニーは熱心にその詳細を調べ始め、次第に皆の興味はあの日記へと移っていった。

 

 この日記の持ち主であるT・M・リドルは50年前の人物らしく、偶然にも過去に『秘密の部屋』が開けられたのも50年前。

 

 しかも、T・M・リドルが『ホグワーツ特別功労賞』を貰ったのも50年前であり、その事からハリーとハーマイオニーは過去の『秘密の部屋』の事件をT・M・リドルが解決したと考えて、日記に何か情報が残されているかもと期待しているらしい。

 

 手掛かりが何もない現状を鑑みて、関連が少しでもありそうな物を調べてみるのは自然な流れだ。

 

(けど……例えそうだとしても……やっぱりあの日記は手元に置いてはいけない気がする。根拠なんて何処にも無いけど……あの日記は普通じゃない。……そんな感じがする)

 

 ハリーが日記を持って帰ったからというもの、私の脳裏には常に警告音のようなものが鳴り続けていた。

 

 あの日記が視界に入る度に私の体には異常が起き、ある時は無意識的に力が入って手の中にある物を壊しそうになったり、ある時には魔力が暴走して魔法が暴発しかけ、酷い時だと吸血衝動が僅かながら表に出かける事もあった。

 

 しかも、この症状が起きているのは私だけのようで、ハリー達3人にそんな症状が出ている様子はない。

 

(ハリー達になくて……私にはある要素。それは吸血鬼であること。きっと私の中の吸血鬼としての何かが、日記が持つ何かしらに反応しているに違いない。けど、そんな事3人に説明しても分って貰えるわけないし……かと言って何も言わず勝手な事をしようものなら……きっと反感を買うに決まってる………)

 

 正しく八方塞がりで何もすることが出来ず、これまで起こった事件の現場を何度目か分からない程調べるしか、今の私にはする事がなかった。

 

 今日も今日もとで、朝から廊下を端から端まで何度往復するも、ほぼ調べ尽くしたと言っていい場所をいくら調べてもやはり何も分からず、時間がただただ経過していくばかり。

 

 思わず肩を落としつつも、朝食の席でハリー達にこんな姿を見せまいと気分を入れ替えて階段を降りていると、速足気味で階段を降りてくる足音がした。

  

 赤いローブがちらりと見えたのでハリー達と思ったのだが、どうやら人違いらしい。

 

 けれど、知り合いの顔だ。

 

「セラスさん、おはようございます。いつもですけど今日も早いですね。これから朝食ですか?」

 

 ロンと同様の赤毛を揺らし、元気な様子でジニーは私に声を掛けた。

 

 一時期はコリンが石になった上、続けざまにジャスティスとほとんど首無しニックが石になったのでかなり元気がなかったのだが、事件が起きず、マンドレイクが育ちつつあるという事で、ここ最近は随分元気を取り戻しつつあった。

 

 そんな彼女に、私は笑みを返す。

 

「おはようございます、ジニー。勿論その通りです。早く行けばその分沢山食べれますし、ハリー達にも気を使わなくていいですからね。まぁ、気にしてると言っても気持ち程度ですが」

 

「ハーマイオニー達がいるいない関係なく、毎回沢山食べてますもんね」

 

 何故、わざわざハーマイオニー達と言い換えたのだろうと少し思いつつも、軽い雑談をしつつ私達は大広間に向かった。

 

 しかし、様子がおかしい。 

  

 大広間のあちこちはけばけばしいピンク色の花で覆われ、淡いブルーの天井からはハート型の紙吹雪が舞っていた。

 

 目の錯覚だろうと一度は目を擦るも現実は変わらず、それどころか壁の色と似たピンクのローブを身にまとった、ロックハートが目に入ってくる始末だ。

 

 全く持って理解が出来ない。

 

「えっと………何ですか、これ?私は今……幻覚でも見てるんですかね………」

 

「残念ながら、幻覚じゃないよ。だって僕にも同じものが見えてるもの」

 

「ロン。それにハーマイオニー」

 

「今日のバレンタインの為に、ロックハート先生が準備したに違いないわ!みんなを元気づける為にこんな事してくれるなんて……やっぱりロックハート先生は偉大な方だわ」

 

 偉大というより馬鹿なだけだろう。

 

 そんな言葉が喉元から出るのをロンと2人して抑え、堪らないとばかりに一面のピンク色から目を逸らす。

 

 ハーマイオニーはうっとりとした顔でロックハートの顔を見ているが、その両側に並ぶ先生達の顔は私と同じように無表情そのもの。

 

 ロンはとことんアホらしいといった様子で顔を机に突っ伏しているし、ジニーもあまり興味ないといった様子でロックハートを眼前の外に追いやっていた。

 

 ただでさえ事件に進展が無いせいで気落ちしているというのに、せっかく楽しみにしていた朝食もあちこち紙吹雪塗れで滅茶苦茶になっているのもあって、怒る気にもなれず思わず肩を大きく落として、私は深く溜息を付いた。

 

 あの男はつくづく余計な事しかしない………。

 

「これ、一体何事?」

 

 考えるのを止め、無言で料理の紙吹雪を払っていると、遅れてハリーが大広間にやって来た。

 

 説明するのも面倒といった様子で、ロンが先生達のテーブルを指を差す。

 

 その間ジニーは何故か顔を赤くして、私とハーマイオニーの後ろに席を移動した。

 

「バレンタインおめでとう!今までのところ、46人の皆さんが私にカードをくださいました。ありがとう!そうです。皆さんをちょっと驚かせようと、私がこのようにさせていただきました───しかも、これが全てではありませんよ!」

 

 もはや腹が立ってくる眩い笑顔でロックハートが手を叩くと、玄関ホールに続くドアから不愛想な顔をした小人12人がゾロゾロと入ってきた

 

 どの小人も背中に金色の翼が付いており、手には真っ白のなハープを持たされている。

 

 パッと見は天使に見えなくもないが、どの小人もしかめ面をしているせいで、お世辞にも似合っているとは言えない。

 

「私の愛すべき配達キューピッドです!今日は学校中を巡回して、皆さんのバレンタイン・カードを配達します。そしてお楽しみはまだまだこれからですよ!先生方もこのお祝いのムードにはまりたいと思っていらっしゃるはずです!さあ、スネイプ先生に『愛の妙薬』の作り方を見せてもらってはどうです?ついでに、フリットウィック先生ですが、『魅惑の呪文』について、私が知ってるどの魔法使いよりもご存知です。素知らぬ顔して憎いですね!」

 

 本当かどうか分からないが、フリットウィック先生は思わず顔を両手で覆い、スネイプ先生は冷たい目でロックハートの事を睨む。

 

 もし本当に『愛の妙薬』を貰いに行こうものなら、例え相手が生徒だとしても、今のスネイプ先生なら躊躇いもなく毒薬を飲ませてくるに違いない。

 

 相手がグリフィンドール生ならば、なお一層のこと喜んだ上で。

 

 そんな確信がふと浮かんだ。

 

「ハーマイオニー、一応言っておきますけどロックハートの言葉を本気にしないで下さいね。あいつの事ですから、どうせ口から出任せを言ってるだけです」

 

「何よ!そんな風に言わなくたっていいじゃない!せっかくロックハート先生がみんなの為に催しをやってくれたって言うのに!」

 

「みんなの為というよりは自分の見得の為だろ。フリットウィック先生は分からないけど、スネイプの奴がそんな事に協力する訳がない。君まさか、カードを送ったっていうの46人の中に入ってるわけじゃないだろうね?」

 

 呆れた表情でロンが聞くと、ハーマイオニーは急に時間割は何処かと鞄を漁り始めた。

 

 どうやら図星だったらしい。

  

 その後、天使の姿をした小人達は時も場所も構わず、時に手紙を渡して、時に歌を歌って、生徒達を困惑させるか赤面させ、もはや悪魔としか思えないほどの狼藉を働き続けた。

 

 その行為は授業中だろうとお構いなしに行われ、先生達は心底うんざりとした表情で授業を止める事を余儀なくされるほどだ。

 

 尤も、そんな事があろうと終始ハーマイオニーはうっとりとした顔で、小人に貰ったバレンタイン・カードを度々見ては、1人こっそりとにやけていたが。

 

「オー、あなたです!()()()・ポッター。直々に渡したいメッセージがあります」

 

 何時小人達がやって来るのか戦々恐々階段を上がっていると(ハーマイオニー以外)、1匹の小人がしかめっ面で人を押しのけながらハリーに近づいた。

 

 周りには同じ学年の生徒達に加えて、グリフィンドールの1年生であるジニー達も階段でごった返している。

  

 こんな場所でカードを渡されたら堪ったものではないと、ハリーは全身を赤くして逃げだそうとするが、小人はハープをかき鳴らしてみるみるうちに迫って来る。

 

「ここじゃ駄目だよ!」

 

「動くな!」

 

「放して!」

 

 ハリーの鞄をがっしりと捕まえた小人とそんな怒鳴り合いをしていると、鞄はビリビリと大きな音を立てて真っ二つに破れた。

 

 中の本や杖、羊皮紙や羽ペンといったものが一気に散らばり、インク壺が割れてその上に飛び散って、辺りを黒く染める。

 

 何処からどう見ても天使がやる事とは思えない。

 

「ハリー、大丈夫?あの、これ───」

 

「ジニー、ごめん。後にしてくれ。今は早く行かないと───」

 

「おい、一体これは何の騒ぎだ?今度は何をしてるんだポッター」

 

 本を渡そうとするジニーを無視して、ハリーは尚も逃げようとするが、ドラコの冷たい声でその足を止めた。

 

 その隙を見逃さず小人は膝のあたりをしっかり掴み、ハリーは床にバッタリと倒れた。

 

 この小人は過去にラグビーをしていたに違いない。

 

「これでよし。貴方に歌う、バレンタインです」

 

 そう言って手に持つハープを構えると、小人は高らかに歌を歌う。

 

 

 

 ♪あなたの目は緑色、まるで青いカエルの新漬のよう

  

 あなたの髪は真っ黒、まるで黒板のよう

 

 あなたがわたしのものならいいのに。あなたは素敵

 

 闇の帝王を征服した、あなたは英雄 

 

 

 

 

(うわっ……全くセンスが無い上にしかも下手………。こんなの面前で歌われようものなら……私なら1週間は引きこもりますよ………。………可哀想なハリー)

 

 小人の歌に周囲はドッと涙が止まらないほど笑い、あまり恥ずかしさでハリーは顔を真っ赤にした。

 

 あまりの罰ゲームにロンは苦笑いをして、私は思わず同情的な視線を送ってみるも、そんなものは慰めにすらならない。

 

「おい、ジネブラ。その本は何だ?いや、何だっていい。その本を、僕に渡せ」

 

 散々笑って気が済んだのか、周囲の生徒達が教室に散りつつあったタイミングで、ドラコはジニーの持っていた本に手を伸ばした。

 

 ドラコの掴んでいるそれは黒い表紙の随分と古めかしい本であり、何を隠そうあの本はT・M・リドルの日記そのもの。

 

 無理矢理笑顔を張り付けて、散らばった本を拾っていたハリーも顔色変え、立ち上がってドラコの事を睨みつける。

 

「何よ?放して!それにこれはハリーのものでしょう?あなたには関係ないじゃない!」

 

「マルフォイ、その手を放せ。これは僕のだ。いい加減日記を離さないなら、ただじゃおかないぞ」

  

「知った事か。いいから渡せ。少し中を見るだけだ。それとも僕に見られて困るような事でも書いてあるのかい?闇の帝王を征服した、英雄様のハリー・ポッター」

 

 ジニーとハリーがいくら言ってもドラコは聞く耳を持たず、それどころか込める力を寧ろ強くして、尚も日記を取ろうとした。

 

 余程あの日記の中身が気になるらしい。

 

「何だと!?言わせておけばマルフォイ!こうなったら───」

 

 対してハリーはつい先ほど挑発されたという事もあって、ドラコの腕を掴みつつも顔を真っ赤にして、杖を取り出し呪文を唱えようとする始末だ。

 

 廊下では魔法を使ってはいけない規則を忘れるほど頭に血が上り、日記を取り返せれば後はどうとでもなると思っているらしい。

 

 ドラコもドラコで十分大概だが、ハリーもハリーとでこれはやり過ぎだ。

  

「ちょっと、ハリー!杖を持ち出すのは流石に駄目です!ドラコもその手を放してください!これはそもそも危険かもしれないもので────」

 

 杖を振ろうとするハリーの腕を掴み、日記から手を放さないドラコの手を振り払おうとした瞬間、周囲にはパチリッと赤い光が走った。

 

「うわっ!?目が………」

 

「きゃあっ!何!?」

 

「くっそ、何も見えない………」

 

「今のは一体………」

 

 あまりに眩しい光に全員が目を覆って悲鳴を上げ、ジニーの手からは日記がポトリと零れ落ちた。

 

 突然の出来事に全員が状況を理解する事が出来ず、落ちている日記を拾う事など誰も出来ない。

 

 それは遠くで様子を見ていたロン達も同様で、私達ほどではないものの目が眩んでいるらしい。

 

「こらっ!そこで何をしてる?ベルは鳴ってそろそろ休み時間というのに、今のは一体何の光だ?何をしていた?」

 

 未だ眩んでいる目を擦りつつ、一体何が起こったのだと周りを見渡していると、大声を張り上げてパーシーがやって来た。

 

 今の光を見て飛んで来たらしい。

 

「そんなこと言ったって、僕達にも何が何だか分からない。気付いた時には突然何かが光って、目を開けたら全員これだよ」

 

「分からない?そんな馬鹿な事があるかロン。君達は光った場所の中心居たんだぞ?分からない訳がない。下手な事を言って誤魔化そうとするのなら、先生に報告したっていいんだぞ!」

 

「嘘は付いてないって言ってるだろ!知らないものは知らない!」

 

 駆け付けたパーシーとロンは口論を始め、パーシーはしつこくロンを問い詰めた。

 

 初めこそロンは怒るのを我慢していたものの、次第に問い詰められていくうちに我慢の限界になる。

 

「何度も言ってるっていうのに、どうしてわからないんだ!?脳味噌までカチッカチッの……この石頭!!

 

 強く反論したのを皮切りに、パーシーはカンカンになって顔を赤くした。

 

 これは不味いと察したハリーは日記を拾うとジニーと一緒に真っ先に逃げ、尚も反論しようとするロンを抱えてハーマイオニーと一緒に私も逃げる。

 

 ドラコはいつの間にやら逃げた後らしい。

 

 

 

「こらっ!待て!逃げるとは何事だ!?もう同じグリフィンドール生でも容赦しない!君達全員の事はしっかり報告する!特にロン!お前の事はみっちりと報告させてもらうからな!!謝ったところでもう遅いぞ!!分かったか!?」

 

 

 

 怒った声で叫びながら追いかけてくるパーシーから逃げ、私達は廊下をしばらく走った。

 

 幸いな事に足はそこまで速くなかったので、ある程度の時間で巻く事は出来たものの、ドタバタとあちこちを走り回ったせいでいつの間にか息は上がり、私達は空き教室に身を潜めて呼吸整える事を余儀なくされた。

 

 膝に手を付いてゆっくりと呼吸をし、髪からはたらりと汗が垂れていく。

 

 気のせいかいつもよりもずっと疲れを感じ、そのせいか腕や足が軽く震えている。

 

「あのどうしようもない石頭め!知らないって言ってるのに追いかけてくるなんて!全くどうかしてるよ!!」

 

「それを刺激したロンもロンでしょ。少し考えればパーシーがああなるって分かりそうなのものなのに、石頭なんてわざわざ言うから」

 

「そうは言っても、本当の事だろう!」

 

 機嫌が悪いとばかりにロンは腕を組み、そんなロンをジニーは強く睨む。

 

 兄妹それぞれで意見は違うようであるが、パーシーが石頭であるという部分だけは同意見らしい。

 

 まぁ、私としてもわざわざパーシーを刺激するべきではなかったと思うが。

 

「けど、あの光は結局何だったろう?セラスが僕とドラコを止めようとした瞬間、突然周りが光って何も見えなくなるだなんて」

 

「調べた限りだと日記にそんな魔法は掛かってなかったし、あの時誰が魔法を使った訳でもない。かと言って、あの規模だと何か道具の類の光でもないだろうし………見当も付かないわ」

 

「まさか、マルフォイの奴、日記に何かしたんじゃ………」

 

 ハーマイオニーは考え込んだように頭を捻り、ハリーは日記を懐から取り出して変化がないかを調べ出した。

 

 しかし、何か変化があるようには見えない。

 

(あの光は……おそらく私の魔法が暴発して起きたもの。ハリーとドラコを止めようとして、それどころではなかったとはいえ、暴走した魔力を抑えむ事を………すっかり忘れてた。完全に……私のうっかりせいだ………)

 

 どうも、呼吸が落ち着かない肩を動かしつつ、私は軽く顔に手を当てる。

 

 日記が視界に入る事によって起こる魔法が暴発する事態は、これまで私が暴走する魔力を抑え込んだことによって未遂で終わり、実際に暴発した事は今までない。

 

 しかし、それ等は全て暴走した魔力を抑え込んだ事によってギリギリ防いでいるに過ぎず、それを怠ればこうなるのも当然の事だ。

 

 今気づいた事ではあるが、片方の手にはいつの間にか杖が握られており、その先からはあの光と同じ赤い閃光がパチッパチッと音を立てて漏れ出ている。

 

 これで犯人が私だという事は間違いない。

 

「とにかく、そろそろ行かないと本当に授業に間に合わなくなるわ。パーシーに怒られるのも嫌だけど、マクゴナガル先生に怒られるのはもっと怖いもの。早く行きましょ」

 

 そう言って立ち上がるハーマイオニーの言葉を聞いて、怒るマクゴナガル先生を幻視する。

 

 最近は前と比べ怒られる回数がだいぶ減ったとはいえ、今もなおホグワーツで一番怒らせたくない相手といえばマクゴナガル先生だ。

 

 確かに、そんな相手を下らない理由で刺激したくはない。

 

「じゃあ、私もそろそろも行きます。セラスさん達も遅れないように気を付けて」

 

「うん、君も気を付けてねジニー。あの忌々しい天使も含めて。あんなのを聞く事になるのはしばらくごめんだ」

 

 ハリーの言葉に表情を曇らせつつ、ジニーは逃げるように走り去った。

 

 ……てっきり今まで読まれた詩は全て、ロックハートが書き上げたものだと思っていたのだが、もしかすると生徒の物も混ざっていたのかもしれない。

 

 よくよく考えてみると、ジニーはハリーを見ると姿を隠したり、顔を赤くしていたりしていたし、前にロン達には内緒での相談事があるとも言っていた。

 

 それも、普段見せる事のないような、とても神妙な顔で。

 

 そうなると、もしや、まさか…………。

 

「………何というか、ほんと、ごめんなさい。とにかく………色んな意味で」

 

「えっ、何。急に謝って。僕、君に何かしたっけ?」

  

「別にハリーに誤った訳じゃありません。寧ろハリーも謝るべきですから、反省してください」

 

「えっ、本当に何を?全然分からないんだけど」

 

 何も分かってないハリーをどうするべきかと内心頭を抱えつつ、心の中で深くジニーに謝罪した。

 

 今までそのような経験をした事はないので詳しい事は分からないが、様子からしておそらくはそうなのだろう。

 

 そう考えると、今までジニーの様子にも納得が行く。

 

「………もしかすると明日の午前中。私、授業を休むかもしれませんけど、気にしないで下さい。大した事ではないので」

 

「十分大した事だろう!一体どうしたんだい!?君、さっきから様子がおかしいぞ!」

 

「ハーマイオニーには後で理由を話します。あとの2人は何というか………反省して下さい」

 

「だから何を!?全く分からないんだけど!どうして、さっきからそんな可哀想な人を見る目で、僕達の事を見てるんだ!?」

 

「えっと……セラス、本当にどうしたの?」

 

 ハリーとロンは顔を見合わせつつも私に激しく言い、ハーマイオニーもどういう事かと首を傾げる。

 

 HELLSING職員で、吸血鬼の魔女。

 

 はたまた、例のあの人を退けた生き残った男の子。

 

 例え色んな肩書を例え持っていたとしても、所詮は14歳の子供と変わりない。

 

(ああ、それしてもジニーに……これから何て声を掛ければいいんだろう。気持ちとはしては勿論応援しますけど……今回の事で凄く、顔を合わせ辛い………)

 

 恋のこの字も知らない私達にとって、いくら何でも、これは許容オーバーだ。

 

          

 

 

 

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