実のところ前話を倍以上の分量にしようとして、読みにくかったので2つに分けてました。
どうも、熊です。
前回の投稿からあまり日を挟んでいませんが、早々に完成したので投稿です。
いつもこれくらいの速さで投稿しろとは言わないでね(汗)
「ハグリットだ。50年前、『秘密の部屋』を開けたのは、ハグリットだったんだ」
バレンタインの次の日の朝、ハリーは熱に浮かされたかのように、そう何度も私達に言った。
ハリーの話によると、T・M・リドルの日記には彼本人の記憶が閉じ込められており、その力でハリーは怪物を外に逃がそうとしたハグリットをリドルが捕える光景を見たらしい。
確かに、去年ハグリットがセラスに止められるまで、本気でドラゴンを飼おうとしていたのはよく覚えているし、学生時代から危険な怪物の1匹や2匹を飼っていたとしても驚きはしない。
そして、そんな自分が大切にしていた怪物を誰かに傷つけられそうになった時、例え誰に何を言われようと、その怪物を守ろうとしたであろう事も容易に想像がついた。
けれど、本当にそうとは思えない。
「昔、ハグリットが危険な魔法生物を飼っていたのは本当かもしれない。でも、だとしたらハグリットが今のホグワーツにいるのはおかしいじゃない。きっと、リドルは犯人を間違えたのよ」
「話を聞いた限りじゃリドルって、パーシにそっくりだ。先生からの評価の為に、きっと犯人をでっち上げたに違いない。そもそもハグリットがそんな事する訳ないじゃないか。考え過ぎだよ」
ロンと私は顔を見合わせてそう話し、私達の意見にハリーはうんざりとした。
かれこれこの話は朝から続いており、堂々巡りの似た議論を既に何回も繰り返している。
ハリーは何処か焦った様子でハグリットが犯人だと私達に納得させようとしているが、どうも不可解だしそもそもの発端があの日記だというのが如何にも怪しい。
「ここまで調べといて言うのもあれなのかもしれないけど……あの日記って、そもそも本当に信用できるのかしら?」
「何だって?」
少しハリーが眉間に皺を寄せて言うが、構わず続ける。
「だってそうじゃない。人間の記憶を閉じ込める魔法なんて聞いた事ないし、本でも見たことない。そもそも仮にリドルが本当に犯人を捕まえたとして、だとしたらどうして何年も見つかってない『秘密の部屋』の怪物の事について記した日記を、その時の校長に渡さなかったのよ?」
「……確かに、僕がもし校長だとしたら、そんな怪物が学校にいるだなんて溜まったものじゃない。パーシーに頭を下げることになったとしても……怪物の事について聞くと思うな」
パーシーに頭を下げる光景を想像したのか、少し嫌そうな顔をしつつ、ロンは私の言葉に頷く。
「セラスの言葉を借りるとしたら、根拠もなしにあの日記だけを信じるのは危険よ。それこそ犯人と怪物の思う壺かもしれない。仮にハグリットを調べるとしても、先にHELLSIGの本部に日記を送って調べてもらった方が、きっと確実に本当の事がわかるはずよ」
『それがきっと、セラスの為にもなる』
最後の方は言葉に出さず、心の内にだけ留めて私は断言する。
ハリーとロンは気づいていなかったけど、前々からセラスはあの本を遠回しに捨てるべきだと何度も言っていたし、何よりもセラスはあの日記を視界に入れる事を妙に避けていた。
その理由が一体何なのかはまでは分からないが、少なくともここ数日、セラスがその事で無理している事は間違いない。
ハリー達に話した事も全て本音ではあるが、それ以上にこれまでの事件の事で心身ともに疲れ切っているであろうセラスに無理をさせたくはなく、その要因となる物を私としては手元に置いておきたくはなかった。
ハリーは唇を噛んで、考え込んだような顔をする。
「……なら、50年前にマグル生れが怪物に殺されたって話を、一体どうやって説明するのさ。マルフォイの話じゃ部屋を開けた奴は追放されて、今年に至るまで誰が怪物に襲われたなんて話は1度も聞いた事がない。そんでもってそいつが追放された年にリドルは表彰されたっていうのは、本当に偶然かい?僕にはリドルがハグリットを掴めたようにしか見えないんだけど」
眉間に更に皺を寄せて、ハリーはそう言った。
自分の意見を曲げる気など毛頭なく、自分の意見こそが正しいと思い込んでいる。
とことんハグリットを犯人だと言いたいらしい、
「確かにリドルは
「思い違いにしては随分と偶然が重なり過ぎている気がするけどね。君はあの光景を見てないから、そんな事が言えるんだ。そうでなかったらそんな事言えるはずがない」
「……ねぇ、ハリー。ハグリットは、友達よ。あなたそうまでして、自分の友達を疑いたいわけ?」
「わかってるよ!僕だってそんな事したくないよ!……けど、仕方ないじゃないか!こうでもしなくちゃ!」
怒ったような、惨めそうな顔して、ハリー周りの目も気にせずに大きな声で叫んだ。
ハリーが今している表情は皮肉にも、前にマルフォイが疑われた時のセラスと酷く似ていた。
「僕は昨日の夜、確かにハグリットが何か怪物を隠しているのを見た。君達が信じようと信じまいと、それは確かな事実なんだ。もし本当にハグリットが犯人でないのなら、それならいいよ。けど、もしグリットが、僕の友達が怪物を野に放って、そいつが本当に暴れているのなら……絶対に止めなくちゃいけない。……そう思うんだ」
またもハリーは唇を噛んで、私達の間にはひゅるりと冷たい風が吹く。
ハリーのあんな表情を見てしまっただけあって、私からは何も言えず、ロンは難しそうな顔をして、何か言葉を選んでいるようだった。
全員が黙りこくって、しばらくの間長い沈黙が続く。
「そんなにその時の事が知りたいんだったら、ハグリットのところに行って、直接全部聞いてみればいいじゃないか。その方がよっぽど手っ取り早い」
ロンは躊躇いながら、一番言いにくい事を私達に言った。
溜息交じりにハリーはロンの事を見る。
「へぇ、そりゃあ、楽しいお客様になるだろうね。「やぁ、ハグリット。最近毛むくじゃらの化物を嗾けなかった?」とでも言う気かい?そんな事言える訳ないじゃないか」
「けど、今みたいにこそこそしてるよりかはいいじゃないか。前みたいにマルフォイが相手ならまだしも、今回はハグリットだぜ?聞けば答えてくれそうな気がするけど」
「そうか、そうか、そりゃあいい事聞いた。ところで、その毛むくじゃらってのは、まさか俺の事じゃないだろうな?」
突然の大きな声にギョッとなって後ろを振り向くと、ハグリットが何やら大きな缶を持って後ろに立っていた。
「違う!君の事じゃない!」「別の事について話してたんだ!」「ハグリットとは全然関係ない事よ!勘違いしないで!」
私達が口々にそう言うと、ハグリットは思わず一歩下がるような仕草をする。
どうやら私達を少しばかり脅かすつもりであんな事を言ったつもりらしく、ここまでの勢いで返されるとは思っていなかったらしい。
全員が顔を見合わせて、またも冷たい風と気まずい空気が流れていく。
「そういえば、お前さん等はいつも4人でいるっていうのに、セラスの姿が見やしないな。一体どうした?まさか、風邪でも引いたのか?」
空気を変えようとハグリットが話を振ると、ハリーとロンはそれに飛びついた。
あまりの気まずい空気に耐え切れなかったらしい。
「じ、実は、セラスの奴、今日の午前中は授業に出てないんだ。体調が悪いとかじゃないんだろうけど、昨日から様子がおかしくって」
「そうそう。昨日なんか僕達に突然謝れなんて言ってくるもんだから、どういう事か僕等もどういうさっぱりで」
ロンとハリーの冗談めいた言葉を聞き、昨日の夜に聞いた話を思い出して私をそっぽを向いた。
………これまでジニーの気持ちに気づかなかった私も私もだが、ハリーもロンとで少し鈍感すぎる。
ジニーと顔を合わせたくないと、夜から棺桶に引きこもっているセラスの気持ちが分かったような気がした。
………色々と申し訳ない。
「ところで、ハグリットはさっきから何持ってるの?その大きな缶」
なんとも言えない気持ちになって適当な話題を上げ、私はハグリットが持つ大きな缶を指差した。
缶の表面にはナメクジの絵が描かれている。
「ああ、これか。こいつは『肉食ナメクジ』の駆除剤だ。マンドレイク用のな。スプラウト先生に頼まれて持って来たんだ。あと少してマンドレイクのニキビが綺麗に取れたら、刈り取って、煮込んで、石なっちょる連中を戻せる薬が作れるって訳だ」
駆除剤を私達に見せながら、ハグリットは説明する。
「だから、それまでの間3人ともよーく用心しておけ。こうは言いたくねぇが、また誰が襲われてもおかしくはねぇ。勿論、今ここにいないセラスもな。わかったか?」
そう優し気に私達に言い聞かせるように言って何度か頷くと、ハグリットは行ってしまった。
………やはり、あのハグリットが犯人だとは到底思えないし、まして怪物を暴れさせてるとも思えない。
ハリーも同じことを考えていたようで、かなり複雑そうな顔をしていた。
しばらく経って
3年生で選択する科目を決めろというものであり、私達の将来に直結する重要なものだ。
なお、今のところ新たな犠牲者はまだ出ていない。
「僕、魔法薬やめたいな」
「そりゃ、無理。これまでの科目は全部続くんだ。そうじゃなきゃ、僕は『闇の魔術に対する防衛術』を捨ててるよ」
「もし仮に来年もこの調子であの授業の教え方が続くようなら、私もそれに強く同感です。今のところロックハートからは何も学んでませんし」
「同感。給料泥棒もいいところさ」
片手で頬杖ついてセラスは言い、軽く笑いながらロンはそれに続く。
あの日、ハグリットについて話していた日の午後に、一応の気持ちの整理が出来たのかセラスは姿を現した。
恋愛方面の知識は全くと言っていいほどないものの、ジニーの気持ちを応援しつつ可能な限りサポートする事を決めたらしい。
前々から内容自体は聞いてはいないものの、相談自体は聞いていたらしく、この際乗りかかった船との事だ。
それはそうと、ハリーとロンの鈍感さ加減については、最早どうしようもないとも語っていたが(私も激しく同意した)。
「3人とも、いい加減な事を言ってないで真面目に決めなさい。将来に全面的に影響するかもしれないんだから、もし後で後悔するになっても、その時にはもう手遅れなのよ?」
私があまりに適当な様子の3人を咎めるように言ったものの、3人は耳を貸そうとしない。
「そうは言っても、私は今とこれからもやる事を変える気はないですし、その為に必要な科目はもう決まってます。インテグラさんに選ぶ教科についても伝えましたし」
そう言って『魔法生物飼育学』と『マグル学』にチェックが付いた用紙をちらつかせながら、のんびりとした様子でセラスは言う。
「それはいいや。僕も同じのにしよ。セラスのやる仕事ってHELLSING職員だろ?とりあえず同じ科目を選んでおけば、将来に困る事ないだろうし」
「セラスにも言いたい事は山ほどあるけど……ロンはそれ以前ね。そんな何となくで、決めていい訳ないじゃない」
「だからって、将来役立つって理由だけで、全部の科目を選ぼうとしてる奴には言われたくないよ。将来以前に、来年どうなるか分かったもんじゃないか」
「君、それ本気かい?」
ロンが私の全て欄にチェックを入れた用紙をペンで指し、ハリーが一応の為という感じで尋ね、何も言わずやめた方がいいという視線をセラスが向ける。
しかし、私がそれに構う事はない
「ええ、当然。役立つってのもそうだけど、どれも面白そうだもの。ただ、どうやっても授業を受ける時間が足りないだろうから、一回マクゴナガル先生に相談して、どうにかならないか聞いてみないとなんだけど───」
期待十分な様子で説明する私をさておいて、何故かロンとハリーは突然大真面目に教科選びを始め、セラスは頭を抱えた。
どういう事か見当もつかない。
その後、更にしばらく経って、休暇が終わり再び授業が始まったタイミングで、今度はハリーのクィディッチの試合が迫っていた。
次のグリフィンドールの対戦相手はハッフルパフであり、この試合に勝つかどうかで、今年のクィディッチ杯の行方が大きく変わってくる。
「ハリー行け!そっちだ!スニッチがそっち行ったぞ!」
「点数はまだ余裕があるから焦らなくて大丈夫!余裕を持って確実に取りに行って!」
「頑張れ!ハリー!!」
ハリー達、クィディッチの選手達がいつも以上に熱いウッドの指揮の下、授業と睡眠以外のほぼ全てを練習に費やして励んでいるうちに時間が過ぎ、いつの間にか土曜日の試合当日を迎えていた。
その日は正にクィディッチ日和のカラッとした快晴であり、グリフィンドール全体のテンションもピークそのもの。
いつも通り試合当日には、身動き取れない程の数の観客が一斉にスタジアムに集まり、フーチ先生の合図と共に試合が始まった。
ハッフルパフのカナリア・イエローのユニフォームと、グリフィンドールの真紅のユニフォームが瞬時に交差し合い、瞬く間に試合が進行。
点数はグリフィンドールが70点リードとかなり優勢で、ハリーがスニッチを取り150点を獲得すれば、点数が暫定1位のスリザリンに迫る事となり、グリフィンドールの優勝の可能性が一気に高まる事となる。
それを分かっているこそハッフルパフのシーカー、セドリック・ディゴリーは巧みな箒捌きでハリーの動きを妨害し、スニッチを取られまいとしていた。
けれど、その均衡は長くは続かない。
「よしっ!ハリーがセドリックの横を抜けた!単純な速さならニンバスの方が上だ!」
「もはやスニッチは目の前!行って下さいハリー!!」
点数のリードが30点に差し掛かった辺りで、さしものセドリックの疲れが出たのか、一瞬動きが鈍り、その隙をついてハリーは箒をセドリックの前へと進めた。
ロンが言った通り、単純なスピードの戦いではセドリックのコメット260とハリーのニンバス2000では勝負にならず、セドリックが懸命に加速するもその差が縮まる事はない。
そしてセドリックを大きく引き離したハリーはその手を伸ばし、決して逃すまいとスニッチを確実に掴み取った。
『ハリー・ポッターがスニッチをキャッチ!グリフィンドールの勝利!!』
実況席から放送されるアナウンスにスタジアムは揺れ、グリフィンドールの応援席からは特段の歓声が溢れた。
最終的にグリフィンドールは暫定2位にまで踊り出る結果となり、翌月行われるスリザリン対ハッフルパフ、グリフィンドール対レイブンクローの試合に、クィディッチ杯の行方は委ねられる事となった。
しかし、そんな素晴らしい時間が続くことはない。
「生徒の皆さん、先生達の指示に従って至急寮に戻って下さい。そして以後は決して寮から出てはなりません。理由については各寮の生徒が全員いる事を確認次第説明するので、今は直ちに寮へ戻るように。繰り返します───」
いくら試合が終わったとはいえ、余韻にも浸らせてくれないマクゴナガル先生の急なアナウンスに、あちこちから野次や怒号が乱れ飛んだ。
グラウンドで大喜びして、肩を組んでいたウッド達もこれには顔色を変えて、マクゴナガル先生のところに駆け寄っていく。
「こりゃあ一体どういうことだ?せっかくグリフィンドールが勝ったっていうのに、これじゃあまるで台無しだ。マクゴナガル先生も喜んでそうなものなのに何を考えてるんだろう?」
「あれ、そういえばロン。ジニーは今日はどうしたんだい?いつもなら絶対見に来てるはずなのに見当たらなくって」
「僕は知らないな。他の1年生と一緒にいるんじゃないか?言われてみると……今朝から見てないような」
先生の指示に従って寮に戻っている途中、ロンとネビルがそんな会話をしていると横の廊下からマクゴナガル先生がやって来た。
何だか嫌な予感がする。
「ミスター・ウィーズリー、ミス・ハーマイオニー、ミス・ヴィクトリア、一緒に来なさい。あなた達に伝えなければならない事があります。とにかく、急いで」
蒼白な表情のマクゴナガル先生に促され、私達は階段を降りて廊下を歩いた、
自分の考えている事が当たってないと祈りつつ、前に進んでいくと目の前には保健室があり、その扉の前にはハリーもいた。
私達同様詳しい事は知らされていないらしい。
「いいですか?あなた達には誰よりも早く伝えねばと思いお呼びしたのです。少しショックかもしれませんが……どうか落ち着いて」
言い聞かせるようにマクゴナガル先生は言うと扉を開け、私達は保健室の中に入った。
中ではマダム・ポンプリーの他に、フレッドとジョージ、パーシーの3人が2つのベッドの前で立ち尽くしており、そのそばではマダム・ポンプリーがベットの傍でかがみこんでいた。
2つのベッドの上にはそれぞれ生徒が寝かされており、片方はレイブンクローの女子学生、確か監督生のペネロピー・クリアウォーターである事が直ぐに分かった。
そして、その隣に寝かせれている赤いローブのグリフィンドール生を見て、私達は言葉を失う。
「嘘だろ……ジニー!どうして、お前が……どうして!?」
ベッドの上ではジニーが身動きもせず、他の石になった被害者達と同じく目を見開いて固まっていた。
ロンが呻き声を上げてベッドに駆け寄り、ジニーを揺さぶるが変化はない。
「2人とも、スタジアム内のグリフィンドールの控室の前で倒れていたのを、スネイプ先生が見つけました。控室の中は大きく荒れており、ロッカーの中の荷物があちこちに散らばっていたそうです。おそらくは………試合中に襲われたのだと」
私達が呑気にもクィディッチを観戦している間、ジニーは怪物に襲われたのだと知って愕然となり私はまともに思考する事が出来ない。
ハリーも状況が飲み込めない様子で唖然となって固まっていた。
ロンに至っては話などまともに聞けず、一言も言葉を発さず手を震わせている。
「何で……何で……嘘だ……嘘だ………。まだ、謝ってすらないのに………。次こそ、守ると誓ったのに……何で…どうして………」
今の今まで無言を貫いていたセラスは事態を受け止め切れず、膝から崩れ落ちてその場で座り込んだ。
その目の涙は最早枯れ果て、ただ彼女は嗚咽を溢す事しか出来ない。
いくら後悔しても、嘆いても結果は変わらず、ただそこに事実があるだけ。
たった一つのボタンの掛け違いで起きてしまった、致命的な間違いを変える事は出来ず、こうして彼女の思いはまたも裏切られていく。
超満員の談話室で、グリフィンドール生はマクゴナガル先生からの説明を聞いた。
マクゴナガル先生は羊皮紙を広げて読んだあと、紙をクルクル巻きながら少し声を詰まらせる。
「言うまでもない事ですが、私はこれほど落胆した事はありません。これまでの襲撃事件の犯人が捕まらない限り、直ぐにでも学校が閉鎖される可能性もあります。犯人について何か心当たりが生徒は、どうか申し出るように」
少しぎこちない声のマクゴナガル先生は一瞬私を見ると、明らかに力の籠ってない足取りで肖像画の裏の穴から出て行った。
グリフィンドール生が頭を上げて一斉に喋り出す。
「これでグリフィンドール生は2人やられた。寮付きのゴーストを別にしても、レイブンクローが1人、ハッフルパフの1人。どういう事かスリザリン生に至ってはみんな無事だ。スリザリンの継承者、スリザリンの怪物、スリザリンの秘密の部屋───今度の事は全部スリザリンに関係してるって、誰だってわかりそうなものなのに、どうして先生方はスリザリン生を全部追い出さないんだ?」
リー・ジョーダンが指折って数え上げて演説をしてみせると、ぱらぱらと拍手が起こりみんなが頷いた。
いつもならこれにフレッドとジョージのジョークか、パーシーのお言葉がセットに付いてきそうなものだが、そのどちらも一向に飛んでこない。
保健室から戻るとフレッドとジョージは何も言わず自室へと戻り、パーシは談話室にこそいるものの青い顔でぼーっとしていたからだ。
その事実がより一層私をみじめにさせた。
「ハグリットと会って、まずは話さなくちゃ。本当に彼が犯人なのかは分からないけど、今50年前の事件の事を知っているのはこの学校できっと彼だけ。それが『秘密の部屋』に入る糸口になるはずだ」
固く決心した様子のハリーがそう言うと、直ぐにロンが頷いた。
ついさっきまで、石になったジニーの事でいっぱいいっぱいのはずだったのだが、早くも立ち直ったらしい。
これまでの事件と合わせて何も出来ず俯き続けるしかなかった私にとって、この時のロンは珍しく妬ましく感じた。
………そうだ。今はまだ、立ち止まっている時ではない。
「何故、今まで息を潜めていた
「ハリーの透明マントが役に立つ時ね」
前に私がスリザリンの寮室に潜入する際にも使った、ハリーが父親から受け継いだという『透明マント』。
HELLSINGの倉庫にも『透明マント』は何枚かあるが、そのどれもは化物の目を騙すには不十分な代物であり、目くらまし術で充分代用可能な事からあまり重宝はされていない。
しかし、ハリーが持つこの『透明マント』は別格だ。
そこそこ年代使われているであろう痕跡があるのにも関わらず、透明化の魔法が一切弱まらず維持されている上に、掛けられている魔法自体もとても強力。
先生や監督生、ゴーストが2人組になってあちこちに目を光らせているのにも関わらず、その警戒網を破り容易に城外に抜け出せた事が何よりの証拠だ。
唯一の弱点と言える物音までは消せないという点に関しても、ハーマイオニーの消音魔法によってある程度カバーされており、スネイプ先生の近くでロンが躓いてしまった際もどうにか誤魔化す事が出来た。
私達はハグリットの小屋の前でマントを脱ぐと、その扉を何回か叩く。
しばらくすると石弓を構えたハグリットが、飼い犬のファングを連れて姿を現した。
「おぉ、何だお前さん達か。それはそうと4人とも、何でこんなところにいる?」
「ハグリットこその弓は何?随分と何かを警戒してたみたいだけど」
「こいつは…まぁ……何でもねぇ。念の為の用心だ。とにかく中に入れ。今茶を入れてたところだ。さぁ、早く」
そう言ってハグリットは私達の中に入れてお茶を入れようとするが、やかんから水を溢したり、ポットを粉々に割ったりと、明らかに様子がおかしかった。
何処か上の空で何かに怯え、チラッチラッと不安そうに窓を確認している様子は挙動不審そのもの。
怪しさのみで言ったら前にドラゴンの卵を隠し持っていた時以上かもしれない。
「ハグリット、ジニーの事は聞いた?」
「ああ、聞いた。聞いたとも。全く酷い話だ」
「僕等、君に聞きたい事があってここに来たんだ。『秘密の部屋』を、開けたのが誰なのか……ハグリットは知ってる?」
そうでないと願う面持ちで、ハリーが言葉を詰ませながら言うとハグリットの目が少し泳いだ。
何か知っているらしい。
しかし、追及する暇もなく扉を叩く大きな音がした。
「まずいな。お前さん達、マントを被れ。声を出すじゃねぇぞ。説明は後だ」
大急ぎで私達がマントを被ったタイミングで、小屋の中にダンブルドアが背の低い男を連れて、深刻そうな様子で中に入ってきた。
一緒に入ってきた男には何処か見覚えがある。
「パパのボス、コーネリウス・ファッジだ」
「魔法省大臣。魔法界の事実上のトップよ。でも、どうしてこんな所に?」
誰だったかと顎に手を当てて考えていると、ロンとハーマイオニーが小さな声で男の正体を教えてくれた。
ファッジさんはハグリットに話し掛ける。
「ハグリット、状況はよくない。すこぶるよくない。残念ながらマグル生まれが3人もやられた上に、遂に純血の者までもやられた。魔法省としてもこれ以上は看過できん」
「お言葉ですがファッジ大臣。個人の責任を論ずる以前にこれは魔法省の怠慢でしょう。
「インテグラさん!?」
突如後ろから入ってきたインテグラさんの登場に、私は大きく驚いてロンに口を塞がれた。
眉間には大きく皺が寄り、常日頃私を叱る時よりも目に見えてかなり不機嫌そうだ。
そういえばファッジさんの事について、度々インテグラさんが文句を溢していたを思い出した。
「そうは言うがねヘルシング卿。魔法生物のみを相手してればいい
「そう言って放置した結果がこの有様だ。
「ハグリットには50年前の前科がある。今最も疑わしい彼を調べ上げるのは当然であろう。それを言うなら今ホグワーツに在籍しているヘルシング職員、その者はこれまで何をしていたのだと私は問いたいところだが」
「あれの存在など些細なものです。可能な限りの事をやらせてはいますがその程度です。残念ながらあれに出来る事と言えば、雑用ぐらいのものですので」
現魔法省大臣と現HELLSING団長の口論に、部屋全体の空気がピリリとひりついた。
ファッジさんとインテグラさんの仲が険悪である事は知っていたが、どうやら想像以上だったらしい。
それはそうと、私の事をなんだと思っているのだと問いただしたい気分であるが。
「コーネリウス、インテグラ、両方とも落ち着きなさい。口論する為だけに、わざわざ君達が出向いた訳ではないじゃろうて」
ダンブルドアの鶴の一声で、2人は渋々抜いた刀を鞘に収めた。
連行という単語を聞いたからか、ハグリットは震えている。
「大臣、俺は何もしてねぇ。本当です、先生」
「コーネリウス、これだけは分かって欲しい。わしはハグリットに全幅の信頼を置いておる。インテグラの言う通り証拠も不十分じゃ。何とか考えを改めて貰えんか」
「アルバス、これは決定事項なのだ。ハグリットはアズカバンに連行する。だが、これは念の為だ。他の誰かが捕まれば、君は十分な謝罪の上、釈放される………」
「そんな!アズカバンの監獄だなんて!出てこられる保証もねぇ!あんまりだ!!」
小屋が揺れるかと思うばかりの悲鳴をハグリットは上げ、その直後にまた激しく戸を叩く音がした。
ダンブルドアが戸を開けると、ルシウスさんが大股で入ってきた。
ゾッとするような冷たい微笑みを浮かべている。
「来ていたのか、ファッジ。よろしい、よろしい………」
「何の用だマルフォイ。帰れ!俺の家から出て行け!」
「威勢がいいね、言われるまでもない。私が用があるのはダンブルドア校長だ」
「それで、わしに何の用があるのかね?」
ダンブルドアの言葉は丁寧だったが、鋭い目でルシウスさんの事を見ていた。
インテグラさんに至っては、今にも杖を抜きかねない顔していた。
構わず、ルシウスさんは長い羊皮紙の巻紙を取り出す。
「私を始め理事全員がここにあなたの退陣を決定した。ここに『停職命令』がある。残念ながら、あなたが現状を掌握出来ていないと感じておりましてな。このまま事件が続けばマグル出身者は1人もいなくなる。それがホグワーツにとってどれほどの損失になるか」
「やはり、そうだったか、ルシウス卿。ここ最近妙な動きをしていると話を聞いていたが、それが狙いだったか」
「流石ヘルシング卿は耳が早い。しかし、あなた方HELLSINGは魔法界に決して干渉できない存在。それもダンブルドアともあろう方の退陣という、政治色が強く関わる事となればより尚更のこと」
凄い形相でインテグラさんは睨みつけるが、ルシウスさんは意にも返さない。
魔法省の役割が秩序の維持ならば、HELLSINGの役割は
あくまで人間界の側に所属する事から、協力要請を受ける事は出来ても、内政干渉の恐れがあるという理由から古い魔法契約によって魔法界の事に極力首を出す事を事を封じられている。
HELLSINGが魔法界と人間界の国境の管理という、一応の中立の立場を取っているのこの為だ。
「ダンブルドア先生を辞めさせてみろ。この次はきっと殺しになる!ジニーの奴が襲われたんだ。純血の奴等だって安全の保障はねぇ!」
「貴様は
「忠告についてはありがたく受け取るが、これはあいにく決定事項だ。覆る事は無い。特にハグリット、君はそんな風に怒鳴らない方がいい。アズカバンの看守にそんな態度をとっては、ただでは済まないだろうからね」
ハグリットは怒りで体を震わせ、インテグラさんは遂に杖に手を掛けた。
我慢の限界が来たらしい。
しかし、そんな2人をダンブルドアは目で制する。
「理事達がわしに退陣を求めるなら、勿論わしは退こう」
「駄目だ!」
ハグリットが後ろで唸るが、ダンブルドアの目はルシウスさんを見据えたままだった。
一瞬、ダンブルドアの目が私達の隠れている片隅に向けかと思うと、言葉を続ける。
「しかし、覚えておくがよい。ホグワーツでは助けを求める者には、必ずそれが与えられる。わしが本当にこの学校を離れるのは、わしの忠実な者が、ここに一人もいなくなった時じゃ」
ダンブルドアはそう締め括り、インテグラさんはピクリと眉を動かした。
よく見るとテーブルにはハグリットのものの他に、4つのカップが置かれ、どのカップからも湯気が立っていた。
私達がいる事に気が付いたのかもしれない。
「あっぱれなご心境で。アルバス、我々は、あなたの──あー──非常に個性的なやり方を懐かしく思うでしょう。では、私はこれで失礼するとしよう。あなたに変わる後任者を新たに見つけねばならないのでね」
ルシウスさんは大股で小屋を去り、途中から周りの空気に圧倒されて何も言えなかったファッジさんもそれに続いた。
外で待っているであろう闇払いのところに行かなければならないハグリットは、足を踏ん張り、深呼吸すると、言葉を選びながら口を開く。
「もし、何かを見つけたけりゃ、蜘蛛の後を追っかければいい。そうすればちゃんと糸口が分かる。あと、誰か俺がいない間、ファングに餌をやっといてくれ。俺が言いたいのはそれだけだ」
学校ということもあって我慢していたのだろう。
懐から葉巻を取り出して口に咥えると、インテグラさんは杖で火を着けた。
紫煙を燻らせながら口を開く。
「そういえば、随分と立派な鶏小屋があるというのに、鶏を一匹も見る事ができなかった。もし生き物の声でも聞く事が出来たら探せそうなものだが、生憎私にそんな力はない。とても残念だ」
これだけ言えば十分だろうと言いたげな仕草をすると、吸い残しの葉巻を暖炉に放り入れてインテグラさんは小屋を出た。
その様子を見たダンブルドアは満足そうな顔をすると、またも私達が隠れている片隅に視線を向け、暖炉の火を消すと開いていた扉をパタンと閉める。
小屋には誰もいなくなった。
「大変だ。ダンブルドアはもうここにはいない。この学校はもうお終いだ。ダンブルドアがいなけりゃ、1日1人は襲われるぜ」
同意するようにファングが閉まった戸を搔きむしりながら、悲し気に泣き始める。
「蜘蛛……鶏……声………。……そうよ、何で気付かなかったのかしら。こんなにも沢山手掛かりがあったというのに!」
「そうだ……確か、あの
一方の私とハーマイオニーはというと、ようやくの
床に置かれたマントを拾う。
「ハグリットの言う通り、2人は蜘蛛の後を追い駆けて。それでハグリットが言いたかったことがきっと分かるはずだから、そっちはよろしく」
「ちょっと待って。そっちはよろしくって、君達も一緒に行くんじゃないのかい?何か分かった様子だったけど………もしかしてその事?」
「はい、その通りです。その確認の為に私達は図書室へ向かいます。もし私達の考えが正しいのなら、化物の正体を明らかにする事が出来るはず!」
「何だって!?怪物の正体が!?なら僕も一緒にって……ちょっと!2人だけマントを被って行くなんて酷いよ!僕蜘蛛苦手なのに!!」
ロンの制止を無視し、私達はマントを被ると、ひたすらに階段を登って図書室に辿り着いた。
大量の本がしまってある棚の中で魔法生物の棚を見つけると、次々に本を取り出して内容を物色する。
しばらくして、探していた内容の書いてある本とページをようやく見つけ出した。
私達は息を呑む。
「あった、ようやく見つけた。怪物の正体は……これで間違いない」
「そうか。こいつが、これまで多くの人達を……。こいつが、ジニーを………!」
『魔法生物とその生息地』と表紙に書かれた本の一節を見て、私は怒りに震えその手を強く握る。
全ての蛇の頂点に君臨する、万物を死に至らしめる毒を持つ蛇
その魔眼は時に獲物を石し、死を与え、その鱗は数多の魔法を寄せ付けない
雄鶏が死に、蜘蛛が逃げ出す予兆があれば気を付けよ
蛇の王『バジリスク』は闇より其方を狙う
今まで多くの人物達を石に変え、襲ってきた全ての元凶。
蛇の王バジリスクこそが、『秘密の部屋』にいるという怪物の正体だったのだ。