9月1日、ホグワーツ新学期当日。
キングス・クロス駅の9と3/4番線。
「それでは、セラス様。こちらがホグワーツに持っていく、最後の荷物となります。念の為、こちらの方のトランクも再確認しましたが、忘れ物の方は一切確認されず、列車の中で食べるお菓子と、”例の物”を含め、全ての必要物は収納済みです。それと、こちらが頼まれていたグリンゴッツから取り出したセラス様の給金のうち、3ガリオンほどを引き出したものです。利便性を考えシックル銀貨を34枚、クヌート銅貨を500枚程に分けておきましたので、後でご確認の方をお願いします」
「何から何まで、本当にありがとうございますウォルターさん。お陰で助かりました」
「いえいえ、末端とはいえHELLSING局員の貴方様の補助をするのも、私共
「じゃあ、駄目もとついでに頼みますけど、学期末試験の件。あれできることならトップ10位以内じゃなくて、せめてトップ50位以内にとかに変更を───」
「残念ながら、当主であるお嬢様が決めた以上、この目標を変更をすることはできません。まして、その目標を達成できなかった時の罰則の給料減額もまた、私の方で変えるのは不可能でございます」
「そこを何とか、1秒でも検討してくださいよ!お願いしますから!こないだの給料明細の金額、
「私共にそんな事を言われても、どうしようもありません。それにセラス様は座学の方はともかく、既に実技の方の腕前は並の1年を超えられているはず。そんなに気張らずとも、いつも通り毎日頑張れば大丈夫ですよ」
「それじゃ大丈夫じゃないから言ってるんです!実技はともかく座学で死ぬんです!!そんなコソコソ言っても変わらないんです!!ウォルターさんもインテグラさんも、私の座学における驚異的集中力のなさわかってて言ってますよね!?万年HELLSINGテスト最下位の私がトップ10なんてもの取れるわけないじゃないですか!?無理です!絶対に無理!!ぜっ……たいに無理です!!無理!!」
「苦労を楽しみ、苦労までも家とする。それが我々
「待って………話終わってません。どうか慈悲を………給料をどにうかください………。もう嫌だ……無給で働くのは………もう嫌だ…………」
私はそう言うが、その声虚しくウォルターさんは私にお辞儀をすると姿くらましで本部に帰ってしまい、私はというとため息をつき、思わず肩を大きく落とし特急の床に思わず腕をついて絶望した。
あの杖事件から早1ヶ月。
私の毎日は相変わらずのブラック環境で急に命令される任務を毎日こなし、休みができたらでできたらで、インテグラさんとウォルターさんの優秀が服着て歩いている2人に、みっちりと授業の予習をさせられるという、何とも有意義ではあるものの、息が詰まりそうな毎日を送っていた。
確かに、ホグワーツに入学することを私は心の奥から楽しみにしていたし、どんな授業を受けるのかと、この1ヶ月の任務の中で少しだけ楽しみにしていた。
だが、それは自分からやるのが楽しいというだけであって、強制的に勉強させられるのは色々違う。
そしてまして、学期末に行われるという、遠すぎ未来でのテストで学年トップ10位以内に入れなどというのは、更に色々違いすぎる………。
「……まぁ、もう決まったことは仕方ないし、まだ遠い先のことを、これ以上考えるのはやめよう。とりあえず今は、目先の何処か、空いているコンパートを探そう。目標に絶望しているうちに結構時間経っちゃったし、空いてる場所あるといいけど」
そんな事を呟きながら、私は荷物を持ってようやく出発したホグワーツ特急のドアの一つから移動を開始し、随分古い機関車の狭い通路をトボトボと歩き出した。
どうやらもう既に席は殆ど埋まっているか、既に知り合いで固まっているかの2択なようで、殆ど何処にも空いている席はない。
一応仮にも知り合いであるドラコならば席をもしかしたら一つ、譲ってくれるかもしれないが、どうやらこの辺りの列車にはいないようで、それらしいプラチナブロンドの髪型は一向に見えやしない。
そんなこんなで空いている席を一人探していると、ようやくそれらしいコンパートはあったのだが、しかし、中には先客がいる。
栗色のフサフサの髪をしていて、少しだけ前歯の大きい女の子のようだ。
「あの、すいません。前の席大丈夫ですか?色々あって動くの遅れて、他にコンパート見当たらないんです」
「ええ、構わないわ。どうぞ、前に座って」
「よかった。ここが駄目なら、もっと先の列車のコンパートを覗きに行く羽目になってました」
「私は【ハーマイオニー・グレンジャー】。ハーマイオニーでいいわ。あなたの名前は?」
「セラスです。セラス・ヴィクトリア」
そう言いながら私は上の段にトランクとバックを詰め込み、やっとゆったりとできるとばかりに、深くハーマイオニーの前の席に腰を下ろした。
どうやら両親がマグルだったようで、長いローブに如何にもな黒い帽子を付けている私にハーマイオニーは興味津々。
好奇心の目で、私を見つめる。
「私、家族に魔法族は誰もいないの。だから手紙をもらった時、驚いたわ。でも勿論嬉しかったわ。だって、最高の魔法学校だって聞いているもの………教科書は勿論、全部暗記したわ」
「教科書を全部暗記?それって最早、予習の範疇超えてるじゃないですか。私も保護者兼上司とその執事さんに、ほぼ強制的に予習させられましたけど、流石にそこまでやれとは言われませんでした」
「執事?もしかしてセラス、あなたお嬢様なの?貴女のご両親は魔法使い?」
「両親の方は、10年前に死んじゃったのでわかりません。確かに保護者のインテグラさんの家は名家で、お金持ちですけど、とんでもなくドケチです。お小遣いはくれたことないですし、ブラック環境の仕事にほぼ毎日駆り出されるし、
「ず、随分と苦労してるみたいね、あなた」
「はい。前に似たこと言われました。あっ、会ったばかりなのに愚痴っぽいこと言ってすいません」
「ううん、別に気にしてないから大丈夫。けど、私と同い年なのにお仕事なんて凄いわ。もしかして、魔法使えるの?」
「はい。仕事で使う魔法は一通り。例えばだと───」
「ごめんね。僕のヒキガエルのトレバーを見なかった?」
私とハーマイオニーが話していると、少し弱気な声を出しながら丸顔の男の子が泣きべそをかいて入ってきた。
「いいえ。私の方では見てません。前の方の車両から乗ってここまで来ましたけど、少なくとも前の方の車両にはいませんでした」
「私の方も見てないわ」
「乗った時は一緒にいたのに、いつの間にか逃げちゃったんだ。僕から逃げてばっかいるんだ!」
「な、泣かないでくださいよ、ほら、元気だして。人間界のキャンディーですけど、良かったらいりますか?」
「うん、ありがとう。1個、貰うよ」
「せっかくこうやって会ったんだもの。みんなでトレバーを探しましょ」
「けど、特急は広いし、コンパートは沢山あるし、本当に見つかるかな?」
「なら、私に任せてください。ハーマイオニーに魔法見せたかったですし、やる機会としては丁度いいです。えっと、名前は何でしたっけ?」
「トレバー。ヒキガエルの」
「そっちじゃなくて、あなたの方の、お名前です」
「ネビル。【ネビル・ロングボトム】」
「ネビルですね?わかりました。じゃあ2人共、できるだけ壁に寄っててください」
私の指示を素直に聞き、ハーマイオニーとネビルは壁に寄ってくれた。
車両の後ろと前のドアを開け、腰から杖を取り出して構え、いつものように杖を振り、呪文を唱える。
「アクシオ!ネビルのトレバー!」
私がそう呪文を唱えると、私の向いている方向からヒュンッ、という音がし、私の引き寄せられたトレバーだろう、ヒキガエルが私にめがけて飛んできた。
直様杖を腰にしまって飛んでくるボールを捕まえる体制になると、私は慎重になるべく優しくトレバーをキャッチし、どうにか卜レバーを捕まえることができた。
ざっと何処を見ても怪我はないようで、口元にはついさっきまで食べてたであろう、小虫の残骸がへばりついていた。
「卜レバー!良かった!怪我もないみたいだ!」
「単純にお腹が空いて、餌を求めて逃げ出したみたいです。ペット飼うなら、ちゃんと餌やりはしないと駄目ですよ」
「うん、わかった。次からは気をつけるよ。それにしても無事で良かった……」
「あなたそれ呼び寄せ呪文!?4年生で習う呪文じゃない!」
「直ぐに物が取り出せないのは仕事においてあまりに致命的だ、って、最初に教えてもらった呪文です。コツはビュンとやって!ギャンとやって!グワァー!と、やることです」
「えっ、えっと、今なんて言った?ビュン?ギャン?グワァー?」
「………セラス。あなたが凄いのはわかったけど、とてもじゃないけどそれじゃあやり方がわからないわ。あまりに擬音が多すぎるもの」
「すいません。教えるのは、どうも苦手で………」
「誰だ?誰だ?今カエルがこっちに飛んでいったぞ?」
「もしかして、今の魔法なのかな?」
「おや?誰かと思えばセラスじゃないか。もしや、今そのヒキガエルを呼び寄せたのは君かい?」
「あっ、ドラコ。どうもお久し振りです。元気にしてました?………で?そちらの方は誰ですか?初めて合う方と思いますけど」
「………その頭の傷、もしかして君が、あの【ハリー・ポッター】かい?そんでもって、後ろはウィーズリー家の………。………随分と人が集まったな」
こんな狭い汽車の中で目立つ事をしたからなのか、何処からともなく特徴的な赤毛の男の子と、頭に雷の様な傷のある、『生き残った男の子』と呼ばれるハリー・ポッターが現れ、後からガッチリとしたボディーガードのような2人と一緒にやって来たドラコがやってくるなり、赤毛の子の顔を見て怪訝な表情を見せた。
そして、どうやら赤毛の子は自分が馬鹿にされたと思ったのか、むかっ腹を立てた様子で、私やネビル、ハーマイオニーを置いてきぼりに、ドラコに対して突っかかる。
「何だい?僕がそんなに変なのかい?君が誰かなんて聞く必要ない。パパが言ってた。君、ドラコ・マルフォイだろ?純血主義で、”例のあの人”に仕えてたっていう、マルフォイ家の」
「だとしたら何だい?こっちだって君の名前を聞く必要なんてない。【ロン・ウィーズリー】だろ?みんな赤毛で、そばかすで、育てきれないほど沢山子供がいて貧乏だって、父上から聞いている」
「何だと!?僕の家族を侮辱する気か!?」
「やぁ。君がハリー・ポッターだよね?どうやら魔法界のことをあまり知らないようだけど、君にもそのうち家柄のいい魔法族と、そうでないのとがわかってくるよ。間違ったのと付き合わないことだね。セラス、君もだ」
「えっ、私もですか?」
「君もその年でありながら高学年が使う魔法を使いこなしてるし、養子の様な形ではあるが素晴らしい家柄の持ち主なんだろ?そんな君が、そんなのろまそうな奴とマグル生まれの奴と一緒にいちゃ駄目だ。安心したまえ。2人とも、そのへんは僕が教えてあげよう」
「間違ったのかどうかを見分けるのは、自分でもできると思うよ、どうもご親切様」
「………ふんっ。ポッター君、僕ならもう少し気をつけるがね。さてセラス。君はどうなんだい?まさかこんな下等な連中と一緒にいるわけじゃないだろ」
「うーん、下等かどうかはわかりませんけど、とりあえずロンは人の家の主義主張とか、過去とか、そういうのはあまり突っ込まない方がいいと思います。人によってはデリケートな部分が多くありますし、主義主張の正しい云々は人それぞれです。不用意にそういうのにつけて馬鹿にするのは、どうかと思います」
「君!?まさかドラコに味方するのかい!?嘘だろ!?」
「流石はセラス、正しい判断ができるようだ」
「………けど、ドラコ。あなたにも問題はあります」
「………何?何だと?」
少し驚いた様子のドラコの目を私はじっと見つめながら、私は言葉を紡ぐ。
「ロンにも言いましたが、人によって、デリケートな部分は多くあります。人の容姿やその家のお金の事に不用意に触れるなんて事は、最早論外です。そして、あなたが自分の家柄について誇りを持っていることは前に聞いたときに凄くわかりますし、実際立ち姿や言葉遣いなどはその家がしっかりと教育をし、あなたもそれに答えようとしているのもよくわかります。………ですが、だからといって、生まれやパッと見の印象だけで相手がどんな相手なのかを判断する理由には、決してなりません。確かにハーマイオニーはマグル生まれですけど教科書前暗記するなんて凄いことしてますし、ネビルだって他人に頼んでまで探そうとするほど、自分のペットを愛しています」
「……つまり、何が言いたい?」
「主義主張を述べるのは勝手ですし、相手にどんなイメージを持つかも勝手です。ですが、その2つだけで、決して相手を攻めてはいけません。それは互いにあまりに無益であり、お互いがお互いのイメージと自身のイメージを悪くするだけです。………だから、その、まぁ要は、お互いに互いのイメージが悪いけど、実際のところはわからないんだから、これから知っていけばいいじゃないか!と、いうことです。…………で、どうでしょう、皆さん。………えっと、私、何か、変なこと言いました?」
私が言葉を紡いだ直後、場はシンッと、静まり返っており、まさかスベった!?と、思い、なんて返されるかをビクビク待った。
「………わかったよ。要は、喧嘩しないでくれって、事だろ?正直馬鹿らしいと思ってたし、今直ぐ僕は止めにするよ」
「………僕もなんか、馬鹿らしくなったよ。………急に現れて、喧嘩してごめん」
「………はーっ。よかった………。てっきりスベったのかと思って、ビクビクしてました………」
「セラス、大丈夫?」
「いえいえ、ちょっと疲れただけです。ハーマイオニー、ありがとうございます。受け止めてくれて」
「………僕が凄い奴だって風言ってくれたけど………それは全然間違いだよ。僕、そこまで頭良くないし、魔法もセラスほど使えないし、卜レバーの餌だって忘れるし……そんな凄いやつなんかじゃ、全然ないよ」
「まぁ、みんな初めはそんなものでしょ。逆に最初から凄かったら私はドン引きします。最初から完璧超人って、何処の小説の主人公ですか」
「……そんなものかな?」
「そんなものですよ。じゃあ!とりあえず!この件は今をもってなかった事にしましょ!お互い喧嘩なんかふっかけてないし、喧嘩なんて起きてない!そういう事にしてこの件は終わりです!」
「じゃあ、ロン。そろそろ着く頃かもだし、僕達は僕達のコンパートに戻ろ。君のネズミのスキャバーズも、コンパートに置いてきたままだし」
「うん、そうだね。こっちに来た時は寝てたけど今は起きてるかもだし、それで逃げられちゃたまんないもんね」
「クラップ、ゴイル、僕達も自分のコンパートに戻るぞ。こんな低俗なことをして、少しばかり疲れた」
「マルフォイ、君が馬鹿にしなければこんなこと起こらなかっただろ」
「突っかかってきたのは君だろ、ウィーズリー」
「はい、はい。終わって早々喧嘩しないでください。あっ、これお菓子です。よかったら、仲直りの印に持っていってください。人間界の物なので、口に合うかわかりませんけど」
「仲直り?誰と誰が?」
ドラコの思わぬ問に、私は思わずハテナとなり、当然のように答えを返す。
「決まってるじゃないですか。そんなの、ロンと、ドラコ以外に、いるわけないじゃないですか。いやぁ、喧嘩した後は何だかんだで仲良くなるって言いますし、きっと2人も仲良くなれるはずです。寮は違うかもしれませんけどせっかく会った同級生ですし、この際友だちになっちゃいましょ。あっ、勿論、お菓子はちゃんと全員分あるので、そこはご心配な─────」
「「ふざけるな(いでくれ)!誰がこいつなんかと友達になんかなるか!!」」
「えっ!?何で!?今仲直りして友達になる流れでしょ!?!?」
「確かに喧嘩は止めにはしたが、それはこんなウィーズリー家と関わるだけ馬鹿馬鹿しいと思ったからだ!こんな奴と友達だなんて………全くもって笑えない!!」
「それはこっちのセリフさ!君と関わるだなんてこっちから願い下げだね!!大体君は言い方いちいち気取って大人ぶっててダサいし!髪型だって変だ!!こんな奴と友達だなんて、僕は絶対に嫌だ!!」
「壊れかけの杖を使っている君に言われたくはない!大体、そんな物でまともに魔法を扱えるわけがないし!そんなのを使って君だけが怪我するならまだしも、巻き込まれて僕まで怪我するのはごめんだ!!せめて誰か兄弟に杖を借りてから出直してこい!!」
「何だと!?マルフォイのくせに!!」
「ウィーズリーのくせ生意気な!!」
「ロンみっともないよ!子供っぽ過ぎる!一度落ち着いて!!」
「マルフォイもマルフォイで1度落ち着いてください!お菓子なら後でたっぷり上げますから!!人間界のが嫌なら私が買える魔法界のお菓子を後で上げますから落ち着いて!!」
「君も君だ!何故何かに付けてお菓子を渡して仲裁しようとする!?僕は子供じゃないんだぞ!!」
「そうだ!そこのいつの間にかお菓子漁ってる2人はともかく、そんなのに釣られて仲直りする奴なんているわけないだろ!!」
「あっ!私のお菓子!!グラップとゴイルは何勝手に食べてるんですか!?」
「そこの2人には後で話しておくが………まずは君と話がある。ちょっと、こっちに来い」
「いいや、こっちが先だ」
「いいや、こっちが先だった」
「あの?ちょっと?何してるんですか?2人とも!?ちょっと!?」
「行くぞセラスこっちだ!」
「そっちじゃない!こっちだ!!」
「痛い痛い痛い!!引っ張らないで!!引っ張らないで!!」
「セラス!!」
最早人の話を聞かない2人に、私はそれぞれ片方ずつ腕を持ってかれ、前にテレビで見た日本の昔の裁判の様に、私は2人に腕を引っ張られた。
流石に不味いと感じたのか、ハリーとネビルはロンを、ハーマイオニーはドラコを口や手を使って止めようとはしているものの(もうあの2人はもういないものとして考えよう)、2人はもう必死過ぎて言葉は伝わらず力も通じず、一向に力が強まっていくばかりだった。
私の体は吸血鬼なのでこれぐらいどうっていったこともありませんし、最悪怪我しても直ぐ治りますが、痛いものは痛いですし、何よりこのままだとせっかくインテグラさんが買ってくれたローブが袖なしローブになってしまう。
私は必死に静止するが、2人はそれでも止まらない
「止めて!!止めて!!痛いしローブの袖が破ける!!せっかくの支給品以外の服なのに!!せっかくの支給品以外の服なのに!!」
「ロン落ち着いて止めるんだ!!このままだと君あれと同格の人間になるぞ!!」
「セラスの腕から手を離して!本当に服切れちゃうよ!!」
「ドラコもいい加減落ち着きなさいよ!なんて子供っぽい振る舞いなの!?セラスが嫌がってるって、誰にだってわかるじゃない!!」
「うぬぬぬぬ……!なんて力………なんて重いんだ…………!!」
「確かに重いが……これ「これ?」だけは絶対に渡さない………!!これだけは絶対に…………!!」
「それはこっちのセリフだ……!これ「これ?」だけは……これだけは……絶対に貰う………!!」
「僕のだあぁ!!!」
「僕のだ!!!」
「2人とも………黙って聞いていればこれ、これ、これと………私を、何だと思っているんですか!!!」
流石の私もこれ、扱いは許容できず、もう完全に吸血鬼なのをバレないようにするという事を忘れる勢いで2人を思いっ切り持ち上げ、そのまま2人を列車の床に叩きつけた。
色々と疲れて息を吐いていると、妙な服の違和感を感じ、袖を見てみると………そこには、もう私の長い袖は跡形もなく、その長い袖はというと、私が床に叩きつけた2人が、震える様子で手の中に持っていた。
「………あの、セラス、これはその……………」
「べ、弁償する!どれだけ高かろうと必ず弁償する!!だから許してくれ!!悪かった!!この通りだ!!」
「あたふたしているだけのロンに対し、直ぐに頭を下げてジャパニーズ土下座をするとは………そこだけは評価しますよ、ドラコ。ですが、これ。そういう問題じゃないんです。確かにお金があれば新しいのを買えますし、その袖さえあれば、私が後で修復呪文で直ぐに元の状態に直ぐ戻す事ができます。ですが、私が言いたいのは、たった一つ」
私は物じゃありません!!!
ゴンッ!!!ゴンッ!!!
そう叫びながら私は2人の頭目掛けて思いっ切りの拳骨をお見舞いし、ほぼ急所殴られた2人は為す術もなく気絶。
地面に頭を付けて下半身は座った状態という、殆どジャパニーズ土下座の様な、何とも無惨な姿勢となった。
「…………インテグラさん、ウォルターさん。私、早くもあなた達が恋しいです。ちゃんと立派な大人達が………私とっても恋しいです…………」
思わずそんな事を言いながら破れた袖とローブに修復呪文を掛け、袖を付け直したローブを着直しながら私は早くもホームシックとなる。
それと同時に、私の知る大人という存在がどれだけ頼りになる存在だったのだと、改めて思い知った気がした。