時過ぎて(大人悪魔ほむら×大人さやか短編集)   作:さんかく@

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序盤甘々でその後はシリアスです。

「魔獣は暗闇より」(R18)と「犬の証明」https://syosetu.org/novel/303494/1.htmlに絡む短編です。シリアスな部分や警察ものの話はそちらを読まないと「?」となると思いますが、ほむらとさやかの甘々なシーンは存分に楽しめますので、興味のある方は読んで頂ければと思います。


棒の8

「ん~っ…」

 

美樹さやかはソファの上で寝転がったまま両手を伸ばし、気持良さそうに声をあげた。

 

「ふわあ」

 

間の抜けた声をあげて、一気に力を抜く。そうしてまた気持良さそうに目を瞑った。

休日の朝、彼女は早起きしたのはいいが、またすぐに眠くなりこうしてソファで寝転んでいた。要するに二度寝という奴だ。陽光の下、下着にワイシャツ一枚羽織って「ごろごろ」する姿は煽情的というよりも健康的で。長い手足をソファからはみ出させながら、さやかは身じろぎして仰向けになる。

 

「何してるの?」

「わ!」

 

艶のある声に驚いて、さやかは目を開けた。

 

「ほむら…あんた起きてたの?」

 

ソファの後ろに黒髪の美しい女性が腰に手をあて立っていた。白のキャミソール姿に髪に透き通るような白い肌。繊細な線で書き込んでいったような整った顔立ちと輪郭――

恐ろしいほど美しい黒髪の女性は、まるでこの世の者では無いようだ。だが今朝は珍しくその顔に「人間らしい」表情を浮かべてため息をついた。

 

「起きてたも何も、「飼い主」の務めだから当然でしょ」

「へ?務めって…」

「横で寝ていたはずのしょぼくれた犬がいなくなっているんですもの、探さないと…」

「ああ…ごめん、つい二度寝して…てか、犬って!あんたまだ私を犬扱いして…」

「え、違うの?」

 

不思議そうな表情を浮かべるほむら。

 

「え?…って、もう!」

 

一瞬戸惑って、そして数秒遅れて抗議するさやか。

 

ほむらは吹き出した。ソファの縁に両手をつきながら、くっ、くっ、と肩を震わせる。からかわれた怒りよりも、その嬉しそうな顔にさやかは新鮮な驚きを感じて。――こんなに人間的な表情を浮かべる彼女をさやかはあまり見た事が無かった。

 

「まあ、いいわ…二度寝なら許してあげる」

 

そう、悪魔は傍らで寄り添っていたはずの忠犬がいないことに不安を感じていたのだ。一緒に暮らすようになってから、8年。いつの間にか互いの体温を傍で感じるのが当たり前

になっていて。

 

「その代わり…」

 

そう囁くと美しい悪魔は両手を水平に広げた。Tの字に頭が飛び出た形になる。小首をかしげるさやか。

 

「へ…あんた何してんの?」

 

光合成?とさやかが呟くと、ニヤリとほむらは口元を歪めた。さやかは嫌な予感がした。と、今度は両手を下ろし、右手だけ高々とあげる。まるで手旗信号のようだ、とさやかは思った。そのシュールな相方のポーズをしばらく見つめ、さやかはハッ、と何かに気付く。

 

「あ、あんたまさか…」

「いくわよ」

 

次の瞬間、ソファの縁に手をかけたほむらの肢体がふわりと宙に舞った。

 

「わあ!」

 

さやかの視界いっぱいに相方の姿が映って。

 

「ぐえ!」

 

蛙のような声と、笑い声が同時に起きる。さやかの身体の上に悪魔がダイブしたのだ。バウンドして、ソファから転げ落ちそうになるほむらをさやかは背中から抱きしめた。ソファの上でもつれる二人。

 

「ちょ、ちょっとあんた!危ないじゃないの!」

 

アハハ、と珍しく声をあげてほむらが笑っている。

 

「アハハ…って、もう!」

 

華奢な身体を背後から抱きよせながら、さやかは顔を覗き込む、するとあちらもそうしたかったようで、上目遣いでこちらを覗き込んでいた。

 

――ビックリシタ?

 

猫のように目を細めて、ほむらは囁いた。

 

「びっくりしたわよ…」

 

そう言って、さやかはほむらを抱き寄せた。楽しげに声をあげるほむら。時折こうやって子供のように彼女達はじゃれることがある。この手の子供っぽいじゃれつきはほとんどがさやかの方から仕掛けることが多いのだが、時折美貌の悪魔から仕掛けることもあるのだ。こういう時、さやかはなんだか泣きたいような嬉しいような不思議な気持ちになる。華奢な相方の肩に顔をもたれさせて、さやかは幸せそうに目を瞑った。彼女の体温と鼓動を感じながら。

 

――このまま時が止まってしまえばいいのに

 

相方の保有能力も忘れ、さやかは思った。

 

…だが、そううまくはいかないらしい、それからほんの数秒後にさやかの携帯の着信音が高らかに鳴った。

 

*     *      *

 

人事異動の対象者に限って、なんで当日休みの場合が多いのか――岡山は心の中で愚痴をこぼす。しかもよりにもよって一番手塩にかけて育てたかった部下が異動なのだからタチが悪い。はあ、とため息ひとつついて、初老の男は携帯を切った。机の上には異動の内示の紙きれが一枚。アナログだが、連絡を取った異動対象の部下の名前を一人一人ペンでチェックを入れていた。

 

美樹さやかもチェック済みだった。

 

白髪を乱暴に掻いて、初老の男は立ち上がる。無機質なマル暴の刑事の執務室の中には、主任である岡山と若い部下一人しかいなかった。

 

「主任…とうとう美樹も異動ですね」

「ああ、まったく…まだ半人前のクセしてよう…」

 

そう言って、立ち上がる上司の背中を若い男は苦笑しながら見つめた。口は悪いが、蒼い髪の部下を誰よりも可愛がっていることは、課内の刑事は皆知っていた。と、初老の男は背中を向けたまま部下に声をかける。

 

「なあ、山本、ちょっと留守番しててくれないか」

「はい、わかりました…どちらへ?」

「…ちょっとな」

 

岡山は呟いた。険しい表情を浮かべながら。

 

*        *           *

 

「はい、わかりました、それじゃあ明日…」

 

神妙な面持ちで携帯を切る相方を、ほむらは不思議そうな表情で見つめていた。

 

「……どうしたの?」

 

つい先ほどまで身体を重ねながらじゃれ合っていた二人は、今はまるで会社の面接の様にソファの上で姿勢正しく座っていた。さやかの上司である岡山からの電話の所為だ。時折このように、さやかが休日の時、あるいは夜中、岡山から呼出の電話がかかることがある。

警察官は本当に過酷な仕事だとほむらは思う。時折仕事を辞めるようほむらは相方に進言するのだが、相方は笑って取り合わない。こういう譲らない所はお互いに似ているなとほむらはふと思った。

 

「うん…「異動」だって」

 

電話を切ると、さやかはほむらを見つめながら囁いた。イドウ?とほむらがオウム返しに呟く。相方よりも稼いではいるが、働いていないため、そっち方面にはほむらは疎かった。

 

「人事異動よ、マル暴から別の課に異動になったわ…ついでに職場も変わる。本部勤務よ」

「遠いの?」

「今より少し遠いわ、でも通える距離ね」

「そう…なら別に問題ないわ」

 

息を吐いて、黒髪の女性はさやかの肩に頭をもたれさせた。仕事の内容には興味が無いらしい。

 

「あ~あ…でも寂しくなっちゃうなあ」

「岡山さんのこと?」

「うん、警察の仕事でそんなことはいってられないけどさ…」

 

蒼い髪の女性が初老の上司を心から尊敬していることをほむらは知っていた。以前仕事中に魔獣と融合した暴力団員に襲われた時も、彼女は瀕死の重傷を負いながら彼を探し続けていたのだ。さやかの肩にもたれながら、はあ、と悪魔はため息ひとつついて。

 

「ねえ、貴方…もしかして好きなの?」

「は?ち、違うわよ、何言ってるの!私はただ上司として尊敬してて、後…」

「後?」

「なんだかお父さんみたいだなあ…って」

 

照れた顔を隠すことなくへらへらと笑う相方を、ほむらは嘆くような目で見つめた。こういう自分の感情を隠すことができず表情に出してしまう所は中学生の頃と全く変わらない。

 

「……呆れた、貴方ってそういう所は中学の頃と変わらないわね」

「へ?な、なにがさ?」

 

相方の肩から頭を離し、ほむらは顔を近づけた。

 

「上条君にのぼせてた頃よ、あの時と同じでデレデレして見てられないわ」

「はあ?恭介は関係ないでしょ、あいつはとっくに…それにデレデレなんて」

 

そう、美樹さやかが少女の頃淡い恋心を抱いていた少年は、いまや世界的な音楽家として活躍している。そして志筑仁美と婚約した。肩をすくめ悪魔はそっぽを向く。

 

「どうだか?貴方って誰にでも尻尾振るし」

「そんなことないわよ、私、あんたにしか尻尾振らないわ!」

 

しれっ、と大胆な事を口にするさやか。だが相方であるほむらももう慣れきった様子で。

 

「そう?」

「そうよ!」

「ほんとに私だけ?」

「当たり前でしょ!」

 

なんだか中学時代に戻ったような錯覚に捉われながら、さやかは相方の背中を見つめた。

 

まさかとは思うが……拗ねているのだろうか?

 

「……じゃあ、私の言うこと聞いてくれる?」

「もちろんよ、いつも聞いてるじゃない」

「ついでに首輪もつけてくれる?」

「もちろん…って、え?」

 

よく見ると、悪魔の肩は小刻みに揺れていて。横目でアメジストの瞳がこちらを面白そうに覗きこんでいる。ようやくからかわれていることに気付くさやか。

 

「あ…あんた、からかったわね!」

「ほんと、貴方ってわかりやすいわね」

 

くすくすと笑って、ほむらはソファから立ちあがった。軽やかに窓辺へ向かう。彼女の視野に広がるのは朝の街並み。ゆっくりと近づき、その横にそっと寄り添うさやか。大人の女性に成長した二人は、ただ黙って共に街並みを見つめている。

 

「ねえ……」

 

しばらくして、ほむらが口を開いた。形のいい唇。視線はそのままで。

 

「なあに?」

 

さやかはその横顔を見つめる。美しい、常に何かに耐えている様なほむらの横顔を。彼女は哲学的なほど自分に厳しく、そしてまた繊細であった。さやかは時折彼女の内面が知りたくてたまらない衝動にかられる時がある。

 

「……貴方が警察官になりたかった訳が今ならわかる気がするわ」

「………」

「性質だけじゃない、貴方にはそれなりの「過去」があった…」

「………」

 

「あの時」の事を言っているのだと察しがついたさやかはただ黙って聞いた。

 

「でも忘れないで」

 

ほむらがゆっくりとこちらを向いた。吸い込まれるようなアメジストの瞳。

 

「貴方にはもっと大事な事があるわ」

 

白い手が伸びて、さやかの腕を捉えた。見つめ合う二人。

 

「大事な事…」

 

さやかの瞳に真剣な表情の女性が映る。蒼とアメジストが交わって。

 

「私よ」

 

さやかの息が一瞬止まった。

 

「貴方は私とずっと一緒にいるの」

「……」

「ずっと一緒にいて、魔獣を倒し、まどかの生を見届ける…そして」

 

ほむらの手がスライドし、さやかの手に触れる。握り返すさやか。

 

「それから後もずっと一緒……でしょ?」

 

首をかしげながら、さやかは微笑む。

 

「ええ…わかってるじゃない…」

 

お利口さんね、と呟いて、ほむらはまた視線を窓の外へ移す。その頬はほんの少しだけ紅潮していて。指だけは離れることなくしっかりと絡み合って。さやかは少しだけ柔らかくなった相方の横顔を満足気に見つめると、同じように視線を窓の外へ向けた。

 

「だから…他の事に惑わされないで…さやか」

 

ほむらの柔らかい指がさやかの指に強く絡んで。

 

「私以外の事は皆…たいしたことはないわ」

「……ほむら」

 

――ああ、この女性はなんて……

 

さやかはその手を強く握り返す。そうして震える唇で囁いた。

 

「……ありがとう」

 

しばらく二人は無言のまま、街並みを見つめ続けていた――。

 

*******

○県本部の刑事課の個室にその男はいた。

実際はその部屋は刑事課長のものだったが、今はある「特命」のためこの特徴の無い男が使用している。オーク材のデスクの上に広げられた書類を揃えると立ちあがり鞄に入れる。

書類にはクリップで蒼い髪の女性の写真が数枚挟み込まれていた。

 

――トントン、

 

ノックの音がして、男の手は止まる。

 

「…どうぞ」

「入るぞ」

 

渋いバリトンの声と共にドアが開く。入って来たのは黒いスーツの長身の初老の男。

 

「ああ、貴方は…」

 

特徴の無い男は目を細める。長身の白髪の男とは面識が無かったが、その圧倒的な存在感と見る者に畏怖の念を起こさせる強い眼差しで察しはついた。

 

「○○署の岡山さんですね?わざわざ本部までお越しくださって…」

 

そう言って、友好的に手を差し出した。

岡山銀二郎、一昔前の「名刑事」の称号を持つ男だ。そして特徴の無い男と「上層部」が逸材として目をつけた蒼い髪の女性の上司でもある。岡山はポケットに両手を突っ込んだままだった。どうやら出す気は無いらしい、数秒ほどして特徴の無い男は肩をすくめ手を下ろした。デスクを挟み、二人は対峙する。

 

「……おめえ何を企んでいる?」

「何のことですか?」

「とぼけるのはやめろ、時間の無駄だ公安のリクルーター野郎」

「……さすがにお見通しですね」

「あたりめえだ、伊達に公安に5年もいたわけじゃねえ…美樹をどうする気だ」

 

デスクの上の鞄に一瞬視線を移し、そしてまた特徴の無い男を睨む。

 

「あそこに引き抜かれるのは、どんなに才能があったとしても「利用価値」のある者だけだ…使ったら棄てられる、あるいは消耗して疲労しきって使えなくなるまで使われる」

 

そうなのだ、岡山は自身の体験から知っていた。あの世界は「利用価値」が全てにおいて優先される。人格も性質も能力もその他はすべて意味も価値もなさない、「糞」の様な世界。

 

「言いすぎですなあ、我々が美樹さやかをただコマとして利用すると?」

 

特徴の無い男は肩をすくめ…そして口元を緩めた。顔が――現われた。

 

「…ほお、「顔」が出てきたじゃねえか」

「貴方に敬意を表して、ほんの少しだけ我々の事を喋りますよ」

 

冷たい、整った顔。思いつめたような目。ゼロだとて人の子だ、上下関係が絶対の警察官の世界で「名刑事」と称されている男に尊敬の念を抱かない訳が無い。一切の感情を押し殺していた「何も無い男」に感情が現れ表情が生まれる。

 

「…我々はあらゆる組織を追っている、国益の弊害となる組織を」

 

そうして手を伸ばし鞄から書類の抜きだすと、岡山の前にかざした。初老の男の目が見開かれる。それは部下の人事関係の書類一切。

 

「彼女の過去を全て調べさせてもらいました。私達が興味を持っているのはあの事件です」

「……」

「貴方はご存じだ、「見滝原○○ビル風俗店殺人事件」第一通報者は当時高校生だった美樹さやか」

「それがどうした」

「…悲惨極まりない事件でした、被害者もそして被害者に拉致された少女達も。だが何よりも重要なのは、死因が特定できないことだ」

「……」

「何か大きな獣に食いちぎられたかのような死体、そして雷に打たれたような死体…科捜研でも特定は不可能だった、不可思議極まりない、かつ――」

 

男の目が光る、まるで獲物を狙う猛禽類のように。

 

「暴力団の資金繰りに少女の身体が商品として使われ売られていた救いようの無い事実――…スキャンダラス極まりない最悪の事件」

「当時お前らはマスコミ操作に暗躍していたな」

 

岡山は頭を掻いて天井を見上げた。あの事件の事なら嫌と言うほど知っている。見滝原という平和過ぎて何も無いと言われた街が、あの事件を契機にまるっきり変わってしまった。

 

「で、事件の愚痴を言ってごまかすつもりか?」

「誤解しないで頂きたい、前置きが長くなったが必要なだけです」

 

男ははあ、と息を吐いて再び岡山を見つめた。今度は「顔」が無くなっていた、特徴の無い男に戻る。

 

「あの事件で拉致されていた少女の一人は地下室にいました」

「知ってるよ」

「地下で何が行われているかも?」

「…………ああ、だいたい予想は着くさ」

 

岡山の顔に刻まれる深い皺。苦渋の表情。

 

「美樹さやかはその現場を見たはずです。通報の後に」

「………何が言いたい」

「もうひとつ実は興味深い点がある、地下室には「男が二人いた」。そして二人とも瀕死の重傷を負っている。「死んではいない」というレベルで生易しいものじゃあない」

 

ここは私達が隠ぺいしてますが、と特徴の無い男が呟いて、そして続けた。

 

「……美樹がやったのか?」

「当時本人はそう証言しています。だが、証拠もなく、信憑性も無い、誰一人取り合わなかった。何故なら高校生である彼女が、素手で大の男二人に瀕死の重傷を負わせることができますか?数分間で?」

「男でも無理だ」

 

岡山の言葉に頷く男。

 

「そうです、無理がある、そしてこの事件にはあり得ない事柄が多い。人間では到底成しえない事柄が…」

 

何やら嫌な予感がして、岡山は顔をしかめる。

 

「それで…おめえらの結論は?」

「スーパーナチュラル」

「おい……正気か?」

「米国の捜査機関では当たり前に受け入れられています」

 

そう言って、男はいったん視線を逸らした。書類を鞄へ戻す。長いため息をつく岡山。

 

――なんてこった、とんでもないものにあいつは巻き込まれてやがる

 

まるでこの世界が本当の世界で無いような違和感。岡山は昔、誰かにこの世界について質問を受けたことがあるような気がした。思わず額をおさえる岡山。

 

「大丈夫ですか?」

「なんでもねえよ、それで…おめえらはあの事件を超常現象と決めつけてどうするつもしだ?」

「――裏に糸を引いているものがいるはずです。個人か、あるいは集団…」

「教団か?」

 

公安の調査対象は広範囲だ、カルト教団にも及ぶ。

 

「だが、それと美樹が何の関係がある?」

「「見ている」かもしれないからです、何かを。そして彼女自身すでに「耐性」を身につけている、「適任」なんです…おっと」

 

特徴の無い男は肩をすくめ、「喋りすぎましたね」と呟いた。

 

「…どういうことだ…あいつを「潜らせる」つもりか」

「……これ以上は言えません。わかってください、これでも大盤振る舞いなんですよ?」

 

確かに公安にしては喋りすぎている。岡山は唸りながら男を睨んだ。

 

「……覚えていろよ、あいつの適所はマル暴だ、すぐに取り返す」

「おや、まるで保護者のようですね」

「部下だよ、大事な部下だ。それにおめえらも甘く見るなよ…あいつは」

 

ニヤリ、と岡山は不敵にも笑った。

 

「今から大きく化ける逸材なんだ」

 

*      *        *

 

その白い「猫」は男の足元にいた。

 

「……お前、ピーナツ食うか?」

 

くたびれた作業着に野球帽をかぶった壮年の男は、橋の下に座りこみながら「猫」に話しかける。周囲には段ボールで設営されたテントが2つ3つ、ホームレスの住処だ。男もここに住んでいた。テントの入り口のドア代わりの毛布が開くと、別の髭面の男が顔を出す。

 

「おい、源さんよぉ、誰と話してんだ?」

「ああ…猫がいるんだよ、白いのが」

「猫?」

 

髭面の男が源と呼ばれた男の足元を見る。あるのは草むらだけ。

 

――何もいない

 

髭面の男は頭を振って、テントの中に戻る。とうとう、源さん頭までキテしまったのかと。あるいはヤクでもやったのかと…だがそれは全く違っていた。

 

そうして、いつもの穏やかな午後が過ぎ去った頃、男の姿は消えていた。

 

*********

 

蒼白い闇の中、月明かりが二人を照らす。

ベッドで一人の女性は既に眠りの世界に陥り、もう一人はまだ起きていた。

 

「………」

 

ぞっとするほど美しいその女性は、眠っている女性を見つめ続けている。長い黒髪、そして月明かりで蒼白く輝く肌、そしてアメジストの瞳。長く細い指は眠っている蒼い髪の女性の顔をなぞっていて。

 

『私、あんたのためならなんだってやるわ』

 

彼女は聞いていた、蒼い髪の女性が囁いたことを。何かに耐えるような表情を浮かべて、黒髪の女性は相方を見下ろす。そうしてゆっくりと身体を下ろした。

 

半分に欠けた月が重なった二人の姿を照らし出していた

 

 

END

 




こちらの続きはR18で展開していきますので、18歳以上で興味のある方は是非読んで頂ければありがたいです。ではでは!
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