【短編集】憧憬の愛玩動物   作:ryure

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 お高いチョコの引換券。綺麗な黒い厚紙に素敵な金の箔押しがしてあって、その上ワックスでコーティングされた封筒に仕舞われている。これひとつで素敵なアンティークの品物みたい。でもね、こんなものじゃないから。しっかり封筒を無くさないようにしまい込む。
 すっごいよ、すっごく高いチョコはね、入れ物からしてすごいんだ。うん、たしかにこれは逆に食べてみたいかも。本物を見たらもったいなくてなかなか口を開けられないかもしれないけど!

「きっとノボリ、びっくりする」

 なんて。ぼくたちは以心伝心。いつだって通じ合ってきたものだから驚かせよう! って思ったことがない。ノボリがびっくりするってどんな風? ううん、知ってるの。知ってるけど、ぼくにびっくりさせられるってシチュエーションが想像もできない!

「楽しみだなあ」


不通のハッピーデイ

 家族団欒、水入らず。目的もなくぼーっとテレビでも見て、ぼーっと適当な感想を言い合って、飽きたらバトルレコードにしたり映画にしたり、それも面倒になったのならもういっそ寝ちゃえ。そんな「ちゃんとしてない」ぐーたらな時間。

 それこそがこの世でいちばん穏やかな時間。うん、これこそがじんわりとしたあたたかい幸せってやつ。ぼんやり、のんびり、目的なし。いつもシャキシャキちゃんとしているノボリがこの時ばかりは人並みにだらけて、ゆったりして、ふかふかのソファの上。ゆっくりゆっくりぼくのいれたホットミルクを飲みながらとろんとした眠い目で脱力しきってる。だんだん傾き、そのうちミルクをサイドテーブルに置いて寝ちゃいそうな構え。

 

 晩御飯のあと、片づけを仲良く済ませてから寝るまで。ぼくはそんな時間が好きだった。並び立って仕事して、勝利という目的地のために進み続けるのと同じくらいね。

 

 その日はだらだらテレビを見てた。ぼくは絨毯の上に寝そべって。だってノボリにソファを取られたんだもの。そのくせぼくが押し出されると端に寄ってテレビを見始めるんだから……隣、今なら空いてるけど今日はいいや。こっちはこっちでふかふかだもの。

 

「あれ、おいしそう」

「ん……」

 

 七割くらい眠っていたノボリが顔を上げてからだを起こすと、ぬるくなったミルクをぐいっと飲み干す。テレビは料理番組をやっていて、ゲストの料理人が出来立てほやほやのを見栄えする真っ白なお皿に盛りつけているシーンになっていた。

 

「ほら、材料はキャベツとお肉。コンソメスープ。秘伝のロールキャベツだって! なにもしなくたってこの組み合わせ、ぜったいおいしい……隠し味にスパイスを工夫するんだって。なんだっけ。でもたしかうちにもあるよね」

「たしかに……」

「でも面倒か、巻くの」

「市販がいちばん手軽でしょうね」

「そうだよねえ……」

「近所のスーパーに冷凍のが確かあったような」

「それじゃあこの味にならないよ」

「そうですねえ」

 

 なんて料理番組を見て話し合ったり。

 

「見て見て! 先取りバレンタイン特集だって! デパートの……すっごく高い!」

「……ゼロがよっつ……? あんな小さなチョコレートに出していい値段じゃありませんよ!」

「うわあ! だよね! でもなんかすごいよ、食べるのもったいない!」

「なんとブラボーな細工なのでしょう! この値段になるのは納得でございます!」

「欲しい?!」

「いりません! いえ逆に食べてみたいかもしれません!」

「だよね! だよね?!」

 

 なんて、すっかり目が覚めちゃったノボリとわあわあ言い合ったり。

 

 そのうち寝ちゃったノボリを何とか揺り起こしてベッドに追い立てて、小さな声でお休みを言ったり。

 

 ぼくはこうしてノボリと隣にいるだけで満たされてる。 それもこれも、ノボリとおんなじ価値観を持っていて、ぴったり心がつながっているから。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

「ノボリさん、こちら確認お願いします」

「はい。少々お待ちくださいまし」

「白ボス! バトルサブウェイ公式アカウントの、イベント投稿の件なんですが……」

「うんうん。あとで確認するって言ってたね。今見よっか」

 

 サブウェイマスターはふたりいる。だけど仕事の量は当然ひとりぶんじゃない。正直ふたりぶんも超えてる気がするけど、それはそれ。とりあえずぼくたちとっても忙しい。できることはノボリと仕事を分け合ってうまいこと回してる。

 

 でも、とっても忙しいから。「ぼくここまでやったよ」「こっちをやるからあの仕事をお願い」なんていちいち話し合っている暇はないの。打合せすらあんまりできない。だけど問題なくバトルサブウェイは回ってる。他の人間じゃそうはいかない。ぼくたちだからできるの。

 

 それはぼくたち、いつでも以心伝心だから! いちいち口になんて出さなくても考えてること、みーんなわかってるんだもの。

 

 こうやって事務室にいる時、向かいのデスクのノボリがすっと手を差し出したら何が欲しいのかわかる。今回はボールペンだね? そっちのはインクが切れちゃったね。ぼくのデスクにはまだ何本かあるもの。ペン先を出してから載せてあげるとひとつ頷いて、ぼくの差し出した手にタブレットを乗せてくれた。ありがとう。

 

 そのままぼくにノボリのサインがしてある書類を渡され、ざっとチェックしてぼくもサインをする。ノボリの前にいた鉄道員に書類を渡してぼくのデスクにSNS担当の子を手招きし、タブレットのロックを解除して……。

 

 この間、ぼくらは目さえ合わせなかった。

 

「相変わらずですね、白ボス」

「ノボリと今日も息ぴったりでしょ?」

「ええ。確認もされないんですね」

「うん。要らないもの。あ、でもみんなはちゃんと確認してね?」

「もちろんですって! みんなボスたちのことは尊敬してますけど、ボスたちの真似をしたいわけじゃないんです! 真似できませんって」

「そう? ちょっぴり照れちゃった」

 

 ノボリにもちゃんと聞こえているはずだけどこちらをちらりとも気にしているそぶりを見せずに仕事を続けているはず。あ、でも。ノボリも照れてるね。

 

「じゃあ、えーっと。仕切り直して。次のイベント告知の下書き案、いくつか見せてもらおうかな?」

 

 ノボリと息ぴったりなのは当たり前。ぼくたち一緒に生まれてから今日までずーっと一緒に生きてきた。ノボリを補うのはぼくだし、ぼくを助けるのはノボリ。絶対に大丈夫、間違いなくノボリはぼくのこと分かってる、ノボリに確認なんて必要ない。うん、だってぼくの心はいつだってノボリと繋がっているんだから!

 

 顔には出さないけど、態度には見せないけど。とっても誇らしいんだよ? ノボリだってそう思ってる。だからいいの、確認しなくたって。絶対にノボリとぼくは息ぴったり!

 

 

 

 

 

・・・・

 

 

 

 

 

 

 丁寧にベッドシーツを張り替える。まくらカバーも交換して、干したてのふかふかのお布団をふんわりかぶせて出来上がり! 完璧な寝床を作り上げて、ぼく満足!

 今頃ノボリはごはんを作ってくれているの。汁気たっぷりのミートパイ、表面をこんがり焼いたグラタン、好きなベーカリーの塩パンをトースターで温めなおし、余った野菜をたっぷり使ったミネストローネが煮えててね。完成までに家中のお掃除とお洗濯の仕上げを終わらせなくっちゃ!

 

 あとは取り込んだシャツにアイロンをかけて……。

 

 バタン。寝室のドアが開き、ごはんのいい匂いと一緒にノボリが廊下から顔を出す。

 

「クダリ。できましたよ。片づけはあとで一緒にやってしまいましょう? 熱いうちに食べましょうね」

「あれっ。ずいぶん早いね!」

「ええ。この前テレビで見かけたロールキャベツのレシピが美味しそうでしたので。肉だねをキャベツで巻くのはちょっと面倒でしたが、昨日のうちに作っておいたので今日の調理の時短になりました。いかがですか? からだが温まる野菜たっぷりロールキャベツスープに熱々のグラタン、温めなおした塩パン。スープがかなり重たいメニューですのでミートパイは明日にしたんです」

 

 ロールキャベツ? 全く意外なメニューにびっくり! でもなんで? ノボリの作るごはん、ぼくの予想が外れるなんてはじめてだ!

 

「……あ! ぼくが食べたいって言ったから?」

「ふふ」

 

 びっくりのあまり、相当間抜けな顔をしちゃったらしい。

 

 だってびっくりしちゃって。本当にびっくりしちゃって。ノボリに連れられるがままリビングに向かい、テーブルの真ん中に置かれた素敵な鍋に近寄るといつかの日の料理番組で見た通りのキャベツがくつくつ煮えてた。

 

「面倒だったでしょ!」

「その顔を見たら吹き飛びました」

「もしかして……見ちゃったの?」

 

 あ。ノボリは今一瞬、本気できょとんとしてたね。これ本当に何も知らないってこと? なんにも知らないで、ぼくら互いにサプライズ?

 

「なにを、でしょう?」

「なんだろね、えっと! いっこだけヒント! ロールキャベツとおんなじかな!」

「はてさて」

 

 ノボリは首をかしげながら、いたずらっぽくぼくのお皿をいっぱいにして差し出した。

 

 愛情たっぷりのサプライズ。ぼくたち心が繋がってて、話し合わなくたって分かるんだ。だけどね、たまに、たまーに相手を想う気持ちが心をずらして。こういう素敵なこと、起きるみたい!

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