キングヘイローに憧れたウマ娘の話   作:CiAn.

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お久しぶりです。
アウトプットの感覚を取り戻すリハビリ投稿になりますので短めです。


目標設定

 予期せぬ出会いを果たしていたことが判明したメイクデビュー当日から早数日。初めてのレースということもあり体に異常がないか、特に私には血液の問題もあって入念に健康状態をチェックされた。

 

 その間は実質休みのようなものだったので存分にオタ活に精を出し活力はMAXである。8割くらいはアグネスデジタルさんのパカチューブを観ていたが。

 

「久しぶりのターフはテンション上がりますねえ〜!」

 

 ぐいーっと伸びをしながら芝コースに視線を向ける。肌を撫でる風が心地よく気分は右肩上がりだ。タイムに影響するから計測中は吹いてほしくないんだけどね。

 

「十分に身体も休ませることができたから存分に走るといい。君のことだ、この期間も何か企みの1つや2つ浮かんだりしてるんじゃないのか?」

「人聞きの悪いことを……。ま、事実ですけど」

 

 公式のレースに出たからこそ見えてくる課題はもちろんあって、その解決のためにどんな方法が取れるかを考えている時に行き着いたのがデジタルさんの動画であった。

 

 さすがG1ウマ娘と言うべきか彼女の解説はかなり細かくて、紹介された先輩方が個々に持つ強みを分かりやすくまとめてくれている。

 

「上手くいくかどうかは分かりませんけど、私も威圧感ってヤツを使ってみようと思いましてね」

「威圧感を使う……?」

「そこで引っかかるのはよーく理解できるますがね、今は流してくださいよ」

 

 放てるものなら私だってそうしたいけどご覧の通り可憐なジュニア級ウマ娘なので出来っこない。ならばと思いついた案が1つ。

 

「ひとまず様子見も兼ねて一周走ってみてくれ。君の試したいことというのを盛り込んでもらっても構わないから」

「分かりました。それじゃあしっかり見ててくださいねっ」

 

 コースに入りトレーナーの腕が振り下ろされるのとほぼ同時にスタートを切る。走りたくてうずうずしていたからかいつもより反応が良い。

 デビューレースと同じく差しでの展開を想定してペースはやや控えめに走る。腕を振りながら手のひらの角度を変えてみれば普段は感じられない抵抗が感じられた。

 

(思ったより影響は少ないかな?レースでは1回きりしか使わないしやってみて損はなさそう)

 

 コーナーでは遠心力や速度に気を配る必要があるのでここでは試せない。直線に入った後に再度挑戦してみればちょうど風が吹いてきた。走りを阻まれるほどではないけど私がやりたいことにはぴったりの環境が整う。

 

『このウマ娘ちゃんの凄いところと言えばなんと言ってもスパートに入る時のこの踏み込みですよ!ドンッ!と強い音が響いて視線がこの子に集まったと思えば急加速!!だからこそレースを観る多くの人の目に焼きついて離れないんです!見せ場はここだって教えてくれるんです!こんなサービスが他にありますか!!ないでしょうとも!!!』

 

 この解説から着想を得た新たな秘策。

 

(めちゃくちゃデカい風切音だ!!)

 

 体勢を変えるのと同時に手のひらで空を割く。ウマ娘の力で意図的に為されたそれは大きな音を生み出した。さながら優駿と呼ばれるウマ娘のスパート時を思わせるものでこんなのがレース中に突然響けば萎縮する子も出てくるかもしれない。

 

「どうです?トレーナーさん」

「今のが秘策か。よくもそうポンポンと思いつくものだよ」

「頭が柔らかいので。じゃなくてですね、レースで使えそうかの意見を聞きたいんですけど」

「環境が揃えば使えるんじゃないか?さっきは君しか走っていなかったからよく音が聞こえたが実際は10人以上でのレースが大半を占める事になる。その足音の中でもかき消されない音量でなければ実用は難しいだろう」

 

 なるほど、ならばそれを加味した改善案を考えなければならない。であれば使えるタイミングはおのずと絞られてくる。

 

「バ群ができる前、スパートに入るよりも先、レース中盤の先頭と最後尾までの差がある状態なら通じるかもですね」

「加えて身体が出来上がるクラシック中期に入れば環境を揃えても通用しなくなる可能性が高い。そういう手管に触れる経験も得ているからな」

「むむ……。意外と寿命が短いみたいですね。なら次のレースで使って終わりですかね」

 

 残念だけど通じない奥の手を信用して負けては世話がないし他の手を考えておかなくちゃ。

 

「あまり落ち込まないんだな」

「慣れてますからね。ずっと誰かの真似と周りがやってないことを続けてきたので役に立たないことなんて沢山ありました」

 

 コンコルド効果だっけ?費やした時間を惜しんで更に損益を出すっての。私はいち早く強くならなきゃと張り切っていたから役に立たないと分かったものに対しての執着がかなり薄く、そういったものとは無縁だった。

 才能があるからこそできる事だったり、癖なだけで走りに影響がなかったりなんてのを両手で数えられる以上に経験すればおのずとそういう思考に変わった。

 

「そうか。ならせっかくだ、G1レースの前にどこかで使って次に警戒心を持たせる目的で使ってみるか」

「ほう……。となるとOPですかね」

「いや、G2だ」

 

 んー?聞き間違いかな?我デビュー戦終わったばかりぞ?

 

「出れなくないですか?」

「出れるぞ。君のファン数と期待値なら」

 

 そう言ってトレーナーは私にタブレットを見せる。画面には私の顔写真と共にいろんな数字が載っていた。

 URA公式のウマ娘データページか。スカスカの戦績欄とレース映像、血統欄に母の名前、そこから下に視線を向ければファン数1万5千とG1勝利期待値数34%の記載が……。

 

「ガチですかこれ」

「うん。ガチのガチだ」

 

 ファン数の方は無理やり納得する事はできる。デジタルさんとの接点もあるしシャオさんと映った写真を度々投稿しているから注目されていても不自然じゃない。

 でももう1つ、期待値の方は私ではここまで上がらないはずだ。デビュー戦でG1出場の権利を手に入れるウマ娘はもちろんいる。ただ、それは圧倒的な勝利か魅せる走りをした場合だけだ。私のはお世辞にもその2つを満たしたとは言えない。

 

「大丈夫なやつですかこれ?」

「組織票でも裏取引でもないから安心してくれ。新人の俺にそんな伝手はない」

「それもそうですね」

「失礼だな君は」

「冗談ですよ。誠実そうなトレーナーがそんな事しないって信じてますから、あなたを疑ってはいません」

 

 そう言うとトレーナーは視線を外し照れながら曖昧な返事を返した。チョロい。

 

 もちろん本心だし腹に何か隠すような人ならまず私をスカウトしようなどと考えるはずがないことくらい分かる。分かりやすく強いシャインさんと家の力があるシャオさんを使った方がやり易いだろうから。

 

「それで、私は何を目指すことになるんですか?」

 

 次走によっては持久力や加速力、最高速度など鍛える要点が変わってくる。

 

「デイリー杯ジュニアステークスだ」

「わぁ……ほんとにG2だ」

 

 メイクデビューもマイルだったしそれに合わせてくれたのかな。

 

「地力の強化のために君にはメイクデビューまでの間加速力を鍛えてもらっていた。持久力を付けるためのトレーニングも中には挟んでいたがそれは『もしも』を仮定しての付け焼き刃、言ってしまうと長い距離を走るためのものじゃない」

「中距離に挑む段階ではない、と」

「そういうことだ。加えて高速化したレースへの適応は早い方が良いから、適性上無理がないなら短い距離でトップスピードの使い方を身につけてしまいたいんだ」

 

 使い方、その言葉に含まれている意味はレース観戦をしている者なら思い当たる節がある。

 あと少しスパートが早ければ、逆に残していれば。もう少し余力があればと、もしもを夢想されるウマ娘がいる。土壇場で自分の手札を適切に切れるかどうかで勝敗が決するのは勝負事の常だ。

 

 だけどレースにもしもなんて存在しない。結果が全て。

 

「全力疾走の限界を知る、次回のレースでの第二目標はそれだ。短距離ほどではないがそれなりにマイルも勉強していたから応用もしやすいし当日にはしっかり調整を終えられるだろう」

「他の出走メンバーに聞かれたら反感買いそうですねぇ。勝利のついでに未来を見据えた経験値も頂いちゃおうなんて欲張りじゃないですか?」

「露見しなければ怒りの矛先も向かないさ。トロフィーの中に隠してしまえば誰かに見られることもないだろう?」

 

 勝利の総取りも敗北からの雌伏も結果という形で決する。

 

「トレーナーもわりと性格悪いですね〜」

「野心家なだけだよ。俺も、ジェットもな」

 

 人のよさそうな誠実さの裏にある、野生を思わせる獰猛さ。きっと私も彼と同じ歪な笑みを浮かべていた。

 

 レースは結果が全てである。私が欲する結果は勝利も経験も含めた、レースで手に入る全てを手に入れる大金星。

 

 出走する誰もが求めて止まず、されど邪念として切り離し克己で抗わなければならない過ぎたもの。

 

「イイですねそれ。外向けにぴったりで私好みです」

 

 頂点を目指す者が当然持つそれを私も欲しいと思っただけ。

 

 違うのは邪念と疎むことなく、味方にしてやろうと貪欲に生きる姿勢のみである。




天才じゃないからこそ小綺麗に振る舞わない、振る舞えない子好き。
身の丈に合わない我欲ででっけえ塔を建ててくれ。
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