後々判明したが彼女を端的に表すならば令嬢だ。それも物語の中のトラブルを起こしそうな空気が全開のタイプ。絵に描いたようなドヤ顔を披露する彼女は実に破天荒な第一声でこちらの度肝を抜いた。
「ルームメイト、の子かな?初めまして、私はライメイジェット」
「タカビシャオジョウですわ!適応が早い方は大歓迎でしてよ」
「いろいろ聞きたくはあるけどもうツッコミ疲れちゃってるからね……」
テレビでもタレント活動をしてるウマ娘はよく見るし個性的なタイプが多いなと思ってたけどまさかルームメイトすらもキャラが濃いだなんて予想していなかった。既にシャインさんという天然煽り枠で頭を抱えていたというのに今度はお嬢様ときた。そんな煌びやかな髪飾り初めて見たよ。
「あら、庶民の方は疲れを無視して頑張ってしまうとはお父様から聞いていましたけど貴女もですの?身の丈に合わない努力をしても成長は見込めませんわよ」
「忠告どうも。精神的にしんどいだけだから心配しないで」
「でしたら問題ありませんわね!何せわたくしを毎日特等席で見られるのですから心労も綺麗さっぱりなくなりますわ!」
「そうだといいね……」
絶賛加算中だが視点を変えればナルシスト気味な女の子というだけだし私の悩みの種になることはないはず。同時に癒しや回復といった効能も期待できないが。
「ところでジェットさんは学園周りの地理に詳しいのかしら」
「いいや、地方出身だから全然。そういうシャオさんは都会に明るそうだよね」
「ええ、トレセン入学は随分前から目指していましたから早く慣れるようにと両親が住まいを移してくれましたの」
娘のためにわざわざ引っ越しまでするとはスケールの大きな話だ。同じことができる娘なんてそれこそ名家のウマ娘くらいなものだろう。
「話は変りますけれどシャオ……というのはもしかしなくてもわたくしの事ですの?」
「うん、呼びやすくて良いかなと思ったんだけどダメだった?」
タカビシャさんもオジョウさんも何か違和感あるしなかなか良い案ではなかろうか。
「いいえ、あまり慣れていないだけですわ。悪くはないですわね、これからもその呼び方でも構いませんわよ?」
チョロいな。ウマ耳も尻尾も忙しなく動いていて実に分かりやすい。この感じなら舵取りも容易だろうし振り回されることは減らせそうだ。自前の縦ロール髪を指で弄びながら頬を赤らめる姿を見るに、私のような年頃の女の子が当たり前と思っている距離感はシャオさんにとっては未知かあるいは憧れのようなものだったのだろう。時おりにへら、っと破顔して喜びを最大限に表していた。
「お礼にわたくしからもジェットさんに素晴らしい呼び名を差し上げますわ」
「お気遣いなく」
「えぇ……、素っ気ないですわぁ……」
何となくだけどシャオさんのネーミングセンスに期待できないんだよね。申し訳ないがここは自分の直感を信じさせてもらおう。
「ま、そんなことより早く荷解きしちゃおうよ。見たところかなりの大荷物みたいだし手伝おうか?」
「こう見えて中身は書籍がほとんどですから心配いりませんわ。お気持ちだけ受け取っておきますわね」
「そっか。シャオさんって読書家なんだ」
「立場上他の方と時間が合わないことが多くて読書くらいしかやることがありませんの。トレセンで過ごすうちはそうでもありませんけれど雨の日なんかの暇潰しには丁度良さそうなのでまとめて持ってきましたわ」
外見を合わせれば静かに本を楽しむ姿は深窓の令嬢を思わせるのかもしれない。機会があれば見てみたいものだ。
「私はレース映像とか観たりすることが多いから本については知識がないんだけど初心者でも楽しめるやつってある?」
「そうですわね、癖がなくて入口として最適という要素で選ぶのでしたら『君にサイハイ!』しかありませんわ」
なんて??
「ちなみにどんな話か聞いても?」
「一般的なラブコメですわ。風紀委員の主人公がギャルや優等生、不良や担任などなどのヒロインたちにサイハイソックスを履いてもらう話ですの。その過程での交流を通して彼女たちの内面を知り親交を深めていき最後には校則で指定されているサイハイソックスを履いたヒロインたちを眺める素敵なお話ですわ!」
「個性的なストーリーだね……」
というか優等生は校則指定なのにサイハイじゃないのか。でも質問したら長くなりそうだなぁ……。
「イラストもかなり美麗ですし、ぶっ飛んだ設定もありませんから初心者におすすめの珠玉の一冊ですので是非一読してくださいな!」
「あー、うん。今度書店に寄ってみるよ」
十分にぶっ飛んだ設定だが?という感想を寸出の所で押さえ込み無難な返答をする。
「推しが決まったら教えてくださいまし。その属性から肌に合いそうな作品を見繕いますわ」
「怖いぐらい手厚いね。うん、その時が来ればお願いするよ」
「任されましたわ!大船に乗った気持ちでいてくださいまし!」
読書感想文の時くらいしか本なんて手に取らないから楽しめるか分からないが、普段と違うことをしてみるのも刺激になって良いかもしれない。今度キングさんが掲載される雑誌が出たらついでに買ってくるとしよう。
そこから黙々と荷解きを進めて、ある程度片付き少し休んでいたところシャオさんに話しかけられた。
「聞いておきたいのですけれどジェットさんは目標のレースは決めておいでかしら」
「ん~、すごく好きなレースはあるけど私の適正に合ってないし……。三冠路線の完走が今のところ目標かな」
「あら、クラシック三冠ウマ娘くらい大きく出ても良いのではなくて?」
夢を語るだけならそれでも良いのだが私は憧れの対象もあってその難易度の高さを知っている。だからこそ三冠ウマ娘になるとは軽々しく口にはできなかった。例え心の中では目指していても。
「ま、こう見えて現実主義なんだよ。周りの実力が分からないうちは目標も自分の目線の高さにってね」
「堅実ですわね」
本当はシャインさんと挑発しあっていたくらいには堅実とは程遠いのだが黙っておこう。
「シャオさんの方はどうなの?目標のレースとかは」
「わたくしは有馬記念と宝塚記念ですわね。やはりグランプリレースでの勝利は一際輝かしいですもの」
「ファンの期待を背負うって点では1番顕著なものだしねぇ」
会場のキャパを超えるほどの観客が集まることもあるくらいに注目度もあり、特にトゥインクルシリーズの3年間の集大成としての見方もできる有馬記念は思い入れのある者が多いレースだ。
その見方で言うと宝塚記念は上半期の締めくくりと言える。トレセンでは夏に合宿があり、このレースはそれよりも前に行われることもあって明確な目標やライバルを見つけ練習の方向性を決めることができるのも大きなポイントだとG1ウマ娘が雑誌で語っていた。そんな使い方ができるのは一握りにも満たない逸材だけだろうけど。
「大きなレースで勝つことができればわたくしの、そして父の会社の知名度も上がることでしょう。勝利の副産物としてこれほどまで魅力的なものはそうありませんわ」
「やっぱりシャオさんっていいとこの育ちなんだね。雰囲気で察してはいたけど」
「フッ、わたくしの抑えきれないオーラでは見抜かれてしまうようですわね」
オーラの前に口調でバレバレだとは指摘するだけ野暮か。彼女のアイデンティティであるわけだし世間一般に合わせる必要もない。インパクトが強くて印象に残りやすいのは利点だし。ただ心の中では『ちげえよ!』とツッコませてもらうが。
「わたくしの正体が数々のグループ子会社を持つ
「そこまでは気付いてなかったよ?」
「早速わたくしの強さを示し最強へ至るウマ娘だと知らしめて差し上げますわ!ジェットさん、わたくしとレースをしましょう!」
「生まれて初めて無視と宣戦布告を同時にされた……」
自由人が過ぎる。走るのは問題ないとしても人数が足りないし何よりコースの使用許可とかどうするのかとシャオさんに尋ねてみる。
「人数の補充は目についた方を手当たり次第誘ってしまえばいいでしょう。そしてコースの使用ならば新入生で貸切の場所がありますの」
「そうだっけ?」
「これだけ広大な敷地を見せられて走りたくならないウマ娘などいるはずがないでしょうから学園が今日1日限定で在校生の立ち入りを制限しているコースが1つだけ用意されているという話ですわ」
彼女はそう言って取り出した学園案内図のとある場所を指差す。坂無しコーナー有りの1周1800mという芝コース。本格化前の基礎能力のみで実力を測るならば丁度良い塩梅だ。
「そんなお知らせあったっけ?」
「わたくし発案、父主導、学園認可、昨日決定した出来立てホヤホヤのお知らせですから知らなくても無理はありませんわよ」
「じゃあ初耳にもなるね」
これが富豪のスピード感か。(企画書の)上がり最速は間違いなくこの子、タカビシャオジョウです。
つまりなんだ、大変喜ばしいことに初日からトレセンのコースで未来のライバルたちと競い合えるのか。それはとても胸が躍る。
「意気揚々と言ったところですわね。では参りましょう、出走者を集めますわよ!」
「うん、骨のありそうな子を選ばないとだ」
2人して立ち上がり部屋から出てとりあえずは寮内を歩き回る。普通より早く来たとあってまだ部屋を探している生徒に会うことができて相手を見つけることに苦労はしなかったのだが……。
「ご機嫌よう庶民の方!」
「ちょっ!?」
「え?」
「早速ですけれどわたくしの強さを証明するエキストラとしてあなたをスカウトしますわ。場所はこちらのコースですからなるべく早めに来てくださいまし!」
「良い度胸だね……」
こんなやり取りが10回くらい続いた。はっきり言って気が気じゃない。そりゃあここにいるのは中央トレセンに合格できる能力を持ったウマ娘だ、自分の実力には相応の自信は持っている。引き立て役として指名されるなど到底看過できないわけで人数を集めることには成功した。集まった面々の顔に青筋が浮かんでいなければ私は手放しで喜んでいただろう。ジャージに着替えて集合場所に来てみたら視線が一斉にこちらに向けられて声が出そうになった。
「これだけ集まると壮観ですわね」
「1回じゃ終わらないくらい集まってるけど?」
「そこはわたくしの知るところではありませんわ。ちゃんとジェットさんを入れて18人になるように声をかけただけですし」
シャオさんの言っていることは間違いではない。彼女の声量と注目を集める容姿によって聞き耳を立てていたウマ娘までも刺激してしまったことでこうなったのである。ま、賑やかだからいっか(思考放棄)
「あ、もしかして君たちかな?すっごく意気の良いウマ娘がいるって学園中で噂されてるよ〜」
「うそ……、もしかしてキングさんが言ってた友人って」
声の主はあのセイウンスカイさんだった。
高速回転し始めた頭から導き出された答えを確かめるべく辺りを見回せばやはりいた。黄金世代の面々が各々に話しかけてきた新入生の相手をしている。
日本総大将、怪鳥、怪物二世、トリックスター、そして尊敬する不屈の王。私たちにとって雲の上の存在である5人が揃っていることにテンションが急激に上がっていく。
「あら、セイウンスカイさんがいらしているとは思いませんでしたわ。ですがちょうど良かったかもしれませんわね。わたくしの見事な走りをお見せしますわ!」
「お、大きく出たねー。それじゃ期待して見ようかな」
「存分に御観覧くださいな。トリックスター顔負けのエンターテイメントを披露して見せますから」
その異名を持つ本人の前で言っちゃうのはどうかと思うよ。あと一瞬セイウンスカイさんの表情に現役時代を彷彿とさせる真剣味が混ざってたのちょっとビビりました。はい。わたしのルームメイトが怖い者知らずすぎて二冠ウマ娘に喧嘩を売ってる件。重版はしないでね。
「君はあの2人に混ざらないのか?」
「黄金世代相手に啖呵切るほど強い心臓してないよ。それよりシャインさんがどうしてここにいるのか聞いていい?」
今大物を前にして緊張してるから後ろから話しかけないでくれないか。危うく変な声が出るところだった。
多分同じ寮だからあの挑発まがいの『お誘い』が耳に入ったんだろうけど、まだ何か理由がある気がしてならない。このウマ娘は強者を求めるあまりコーチとかいうダメな大人の口上をしっかり覚えてしまう子だ。大方闘争本能を刺激されたウマ娘が集まりそうな気配に敏感に気付いてやってきたとかそんな流れのはず。
「実は君が本当にレース中は冷静なのか確かめたくなったんだ。疑っているわけではないけどあの感じだとどうも、ね」
「オーケー、その喧嘩買うよ。走りながら煽って舌噛まないように注意しておきなよ」
全然違うじゃないか。これがレース前の揺さぶりならば大したものだ。走り出してしまえば無意味になるとしても。
「シャオさん。この子も私と一緒に走るから」
「そうですの?でしたら19人になってしまいますし手狭ですから誰か削りませんと……」
「じゃああの2人とは別のグループでシャオちゃんが走ればいいんじゃない?」
そこで案を出したのはまさかのセイウンスカイさん。当初はわたしにその実力を見せつけると言っていたがご覧の通り彼女は今かなり注目を集めている。そのほとんどがシャオさんを叩きのめしてやると意気込んでいるわけで、ならば相手には困らないし私1人の空きくらい難なく埋められる。私は今猛烈に隣のウマ娘を相手取りたいからシャオさんとの対決はまたの機会で構わないから後は彼女次第だ。
「1つ訂正を。わたくしの名前は『タカビシャオジョウ』ですわ。黄金世代の二冠ウマ娘であろうとあだ名で呼ぶほどの仲になるまではその距離感はお預けでしてよ!」
「この流れでそこに食いつく?」
あとそれ言っちゃうと私とシャオさんがめちゃくちゃ仲が良いみたいになって、ほら〜!さっきまで一点集中してた視線が私にも分散されたんですけど!!
「ちょうど半分くらいに分かれてくれましたわね。やはり持つべきものは友と言うのは本当ですわ」
「言いたいことは山ほどあるけどまあ良いよ。どうせ2人だけでやる気はなかったし」
「これはこれは。いやぁー若い子がやる気になっている姿を見ては良いものだねー」
「私は君との
「お気遣いどうも。普通にぶち抜くから心配御無用だよ」
なんか初日から変な縁ばかりできるな。気苦労の比率が多すぎるから癒し枠が欲しい。ニシノフラワーさんみたいな子がいれば是非お友達になっていただきたい。
「だから何でこんなに舌戦が絶えないのよ……」
「キングヘイローさん!??」
「反応早いですわね」
まさかこんなに近くになるまで気付かないとは迂闊。そんでもって未熟。これからより一層励まねば。
「スカイさんも新入生を引っ掻き回すのはやめなさい。じゃないといつまで経っても始まらないでしょ」
「キングは相変わらず回りくどい言い方をするなあー。素直に気になってる後輩の走りを早く見たいって言えば良いのに」
「いいえ、キングは常に平等よ。私を慕ってくれる子に優劣なんて付けないわ」
「さすがキングさん!眩しいです!!」
「トリップしてるみたいですし、じゃあわたくしから始めておきますわよ」
私がキングさんの言葉に感動している間にシャオさんはさっさとコースに向かってしまった。むむ、早く私の走り方を見てもらいたかったから1走目に出たかったのだが。
「ま、ルームメイトの走りを見ながら準備運動でもしてればいっか」
入学初日の突発的な新入生限定レースが幕を開けた。
レースの描写は初めてなので次回はもっと間隔空いちゃうかも。
あとセイウンスカイの喋り方難しい。横になりますねが印象的強すぎて丁寧語で話してると思い込んでました。