あべこべ・ざ・ろっく!   作:ポターて

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4.アー写撮影

「え~みなさんに今日集まってもらったのは理由があります!アー写を撮ろう!」

 

結束バンドに郁代が再加入して、結束バンドの面々はまたSTARRYに集まっていた。今回の要件はどうやら新しくアーティスト写を撮ろうということで集められた。ひとりが突発的に加入していたことも相まって、せっかくなら新しく撮り直すべきかと虹夏は考えていたからだ。

 

「この前のライブの時のやつはどうしたんだ?」

「フジくんは事前に了承得てたけど、喜多ちゃんは逃げちゃったから…」

 

テーブルの前にこの前のライブのアー写が出されるが、郁代は卒業写真を欠席したクラスメイトみたいに雑に付け加え方をされていた。これだけでもひどいが、フジに至っては犬の被り物で演奏することから犬のぬいぐるみをリョウが持つことで代用されている。

 

「こんな酷いアー写初めて見た…」

 

ひとりの口からそんな言葉がこぼれ出ていたが、この写真を見れば、誰もが同じ感想を持つことだろう。実際このアー写が貼られた時、STARRYのスタッフは店長の妹さんがおかしくなったのではないかとざわついていたらしい。

 

アー写はバンドの方向性やメンバーの特徴を一枚で伝える上にフライヤーなどの広告においても重要なものされているので、パッと済ませてしまうよりも工夫を凝らすために虹夏は屋外に出て、アー写を撮ることを提案した。

 

「今日のためにバンドグッズだって作ってきたよ!」

「それって結束バンド巻いてるだけですよね!」

「あんなに結束バンドっていう名前変えたがってたのに図太いな」

「物販で500円で売ろうサイン付きは650円で」

 

虹夏の作ったバンドグッズとはカラフルな結束バンドを腕に巻いただけのものである。こんなアコギな商売をしてしまったら、また「これ原価率低いですよね」連中が勢いづくとフジは余計な心配をしていた。

 

「金欠バンドウーマンの定番どころといえば、階段・フェンス・植物の前・公園…あとなんかよさげな壁!」

「なんですか?そのふわふわしたやつは」

 

壁際に立っているバンドメンバーのアー写はよく見るものだが、ピンと来ていないらしい郁代に対して、虹夏はリョウをモデルに使ってどれだけ壁の効果があるか実演してみせる。

 

「たとえば普通の壁だとお昼に雑草を食べてお腹を壊したリョウにしか見ないけど…」

 

「本当に食べたんですか!?」

 

ちなみにガチで雑草を食べた。最初リョウは冗談でタンポポを手に持っていただけだったが、クラスメイトの変人を見る目線に期待されたと思ったらしく、調子に乗って口にまで入れた。それがあたったようで顔が真っ青で壁の前でしんどそうに立っている。

 

「こうゆう退廃的なよさげな壁だと、ちょっとダウナーな貫禄あるベーシストに見えるでしょ!?」

「そうですか!?」

 

壁が変わっても、ただお腹を壊したリョウから家につくまで我慢するんじゃなくて、さっき通り過ぎたコンビニのトイレを借りればよかったと後悔するリョウになっただけだった。

 

「とりあえず探検に行こう!」

「楽器持ってた方が更にかっこよくなりそうですけど…」

「君たちはね…。ドラマーは手に持つのはドラムスティックだけだよ」

「フジにいたってはキーボードでなにも持てないけどね」

 

ドラムスティックを持てるだけましだ。フジに至ってはキーボードを持とうとしたらラジカセ担ぐラッパーの如く肩に乗せるしかない。

 

「フジくんも写ればいいのに。またぬいぐるみ?」

「うん。ぬいぐるみもキャラ立ってて良くない?」

 

虹夏はフジにアー写にはいってはどうかと提案したものの、写真だと体格的に男だとバレやすいという理由でフジは断っていた。ライブ中は照明で暗く、ごまかせるものの、写真だとそうはいかなかったからだ。

 

今も外出するときだってフジには帽子とマスクが手放せない。フジ自身いつまでも隠し通せるとは思っていないので、別にそこまで神経質になる必要はないのだが、虹夏は渋々といった感じで了承してくれた。

 

「うーん、いまいちバンド感がないな」

 

アーティストの雰囲気が出そうな場所を発見したことで、フジがカメラマンをし、何枚か撮っているが、メンバーのキャラだけが前面に出ており、バンド感が出ていない。とにかくひとりが浮きすぎるあまり完全に修学旅行で無理やり3人組の仲良しグループ放り込まれた子みたいになっている。

 

「バンドマンのお手本たる存在こと私の表情をマネしてみて」

「どこからくるのその自信!!」

 

リョウはバンドの経験がフジたちよりもあるので、もしかしたらいい見本になる可能性もないとはいえないだろう。

 

「でも先輩のいう通りにすれば間違いなんてないわよね!ねっ後藤さん!」

「あっはい」

「イエスマンが二人…」

「じゃあ撮るぞー」

 

リョウの提案した案がごり押しで決まったが、

 

「お通夜みたい…」

 

次に撮った写真はリョウの無表情さが全員に伝播し、今度は修学旅行中にケンカして口もきかないのに一緒にいなければならないギスギスグループになった。ぬいぐるみも心なしか悲しそうな目をしている気がする。この後も何枚か撮ったが、中々これ!と決まるような写真が撮れない。

 

「それにしても喜多ちゃんはどの写真も可愛いねぇ」

「そんなことないですよ!でもイソスタはほぼ毎日更新しているので、写真はそのおかけで慣れてるかもです!」

「よし!SNS担当大臣に任命しよう!」

 

虹夏がどの写真を見ても映りがいい郁代を褒めると、郁代は謙遜しつつ、イソスタによって写真を撮る機会も必然と多いため、自然と写りの良い姿勢や角度を熟知しているからだと結論づけた。試しにSNS担当大臣に任命された郁代のアカウントをみんなで見させてもらった。

 

「うわっ!なんという光だ…これが陽の光」

「うぅ…青春コンプレックス発動…」

「ぼっちちゃんが瀕死状態に…!」

 

そのあまりの私生活の充実具合にフジでさえも直視できないキラキラを出現させている。さらに光耐性のないひとりは郁代の友達との写真や流行りの店のメニューが載せられたイソスタを見て震えあがり、ついには青春コンプレックスを発動させていた。

 

「後藤さんがツチノコから戻らないんですけど!」

「今日の当番はフジくんだから。喜多ちゃんも同じ学校だし、やり方を覚えといたほうがいいよ」

 

郁代と自身の高校生活のあまりの落差に現代の女子高生として自分を見失ったひとりは下北沢をさまようツチノコと化した。それを誰かが人間へと戻してやらねばならないのだが、今日の当番はフジの日となっている。

 

「当番!?やり方って何ですか!?」

「ぼっちはよく顔が崩壊するから日替わりで治してる」

「そんな当たり前かのように…」

 

虹夏は手先が器用なので一番忠実にひとりを元通りにする。リョウは不器用ではないが接合が甘いので、すぐ顔が崩れる。

 

「一番起こるのはブラックホールだな」

「ぶっブラックホール…?」

「ブラックホールはぼっさんの目と口が黒い渦になるやつ。ブラックホールは紙やすりで黒い部分削るだけだからそんなに難しくないよ。でもたまにパーツがとれるから糊とか米粒でくっつける」

 

「あの顔ブラックホールっていうんですね…。それより人間の話をしているとは思えないんですけど!」

 

ひとり自体が異次元の人体をしているので、フジたちも通常の人間ではありえない作業をせざるおえない。

 

「ツチノコはどうするんですか?」

「暗いじめじめした場所に移動させよう。そこでギターの音を聴かせたら人間であることを思い出すはずだ」

 

少し皮膚にツチノコの名残として鱗が残っているが、だいたいひとりをなんとか人の形戻すことに成功した。ただ、人に戻るときは恐ろしいほど気持ち悪いものだった。

同じ高校ということは毎回この作業が今後求められるのかと郁代は不安になったが、数日でコツを掴み、まさかルーティンになってしまうとはこの時は思いもしなかった。

 

「あっありがとうございます…」

 

人としてのあり方を思い出せてくれたフジと郁代にひとりは感謝していた。

 

「ぼっちちゃんもイソスタはじめてみれば?友達になろう!」

「あっいや大丈夫です…」

 

少しでもひとりの学校生活の彩りにでもなればと虹夏がひとりをイソスタに誘うものの、いつもイエスマンなひとりが珍しく断っていた。

 

フジもネットで成功してちやほやされたら現実を放棄して間違いなくニチャっていただろうとネットの依存を危険視している。

 

「それこそフジ先輩はイソスタやってないんですか?フォロワーいっぱいいそうですけど」

「僕はいいよ。そういうの苦手だから変なメッセージいっぱい来そうじゃない?」

 

『てか○○やってる?』って聞かれることが現実にあるなんてバイトを始めるまでフジは思いもしなかった。

 

「フジくんは変な子に好かれるからねー。距離感がおかしい時あるし」

「あっそれちょっとわかります…」

「私はリョウ先輩派です!」

 

会話の流れが変な方向に曲がり、フジ派とリョウ派という意味不明な派閥まで出来上がっていた。

 

「フジの時代はもう終わったこれから私が先頭に立つ」

「僕の時代ってなんだよ。もしあったとしてリョウの時代なんて来ないし来させない」

 

このクズベーシストの代表格みたいなやつの時代が来たら日本は終わってしまう。僕がなんとかしなければいけないとフジは使命感を感じていた。

 

引き続きアー写撮影に臨んではいるものの、やはり凝り性な一面がある虹夏が納得するものには出会えずにいた。

 

「なかなか決まらないね。フジくんは何か案ある?」

「僕?ポケットに手を入れるとかぐらいしか思いつかないな」

 

虹夏にアドバイスを求められ、色々ポーズを考えてはみたが、腕組みはアーティストっぽくないし、フジにはそれぐらいしか思いつかなかった。

 

「うーん、一応それでいってみよう!」

 

フジの提案したポーズで写真を撮ってはみたが、寒がりな人と鍵を無くして家に入るのをあきらめた人にしか見えず、ミステリアスなアーティスト感が全くない。フジの案も採用とはならず、結局振り出しに戻ってしまった。

 

「それにしてもアー写どうしようかなぁ」

「あっジャンプとかどうですか?絵になるしみんなの素の感じでそうですけど」

「確かにそれいいかも!喜多ちゃんてんさーい!」

「有識者が言っていた…OPでジャンプするアニメは神アニメ…と。つまりアー写でジャンプすれば神バンドになれるのでは…!?」

「なにがつまり!?」

 

まさかここで見られるのか!?あの伝説のきららジャンプが…!唯一心残りがあるとするならばバックに青空を移せないことで、そこだけが本当に悔やまれるとフジは思った。

 

「せーの!ジャンプ!」

 

みんなが飛ぶタイミングを合わせてシャッターを切る。

 

「あ~ぼっちちゃんとあたしパンツ見えちゃってる」

「うお!ごめん」

 

撮影のときは集中して気づかなかったが、改めて写真を確認するとガッツリスカートがめくれてひとりと虹夏のパンツが写ってしまっている。思わぬ光景に目を背けてしまったフジの反応に虹夏たちは不思議そうにしていた。

 

「え?なにが?」

「…あーいや別に気にしてないならいいっす…」

 

フジの前世の価値観であれば、ラッキースケベとも呼べる事態が起これば、なんらかの反応があって然るべきだが、こうも何ともない反応をされてしまうと、複雑な感情がフジの心に渦巻いた。

 

「フジくん急にどうしちゃったんだろ?」

「フジは満足に撮れないカメラマンとして才能に悩んでいるのかもしれない」

「本業忘れてカメラマンに目覚めないでほしいんだけど!」

 

急に歯切れの悪い返事をしだすフジに虹夏は不思議に思っていると、リョウから

もう一度撮り直すと、さきほどとはうって変わって事故が起こらず、今度はいい感じに撮ることができた。

 

「結構いいんじゃないか?」

 

「バンド感に青春っぽさがプラスされたね!人気バンドへの夢にまた一歩近づいた!結束バンドこれから本格始動だよ!」

「あっあのフジくんさんもいっ一応一枚くらい一緒に撮りませんか?いっいやだったらすっすみません…」

 

アー写が完成したことで、ひと段落つき、解散の流れになろうとしていたところ、ひとりは全員で集まった写真がないのは寂しく思った。

 

「そうだね!ぼっちちゃん!」

「フジ先輩も結束バンドのメンバーですからね!」

「これで5人だからセンターは私」

「…山田ァ。虹夏も喜多さんもぼっさんもありがとう」

 

ひとりは全員が映った写真がないのは寂しく思って提案し、すかさず虹夏と郁代がその後押しをした。リョウはともかく、写真を撮る誘いを受けるのは少し恥ずかしかったが、ひとりが勇気を出して提案してくれたことがフジはとても嬉しかった。

 

三脚がなかったので郁代の自撮り棒でアー写に使えない5人ギリギリ枠に収まった写真になってしまった。写真を見返すとガールズバンドに男が一人混じっている光景はなんだか僕がサークルの殿様に見えなくもなく、フジはなんとも言えない気持ちになった。

 

 

アー写撮影が終わってすぐフジはリョウに連れられておしゃれな喫茶店来ていた。リョウとフジの二人っきりであるが、恋愛的な雰囲気は全くない。ただお腹がすいて昼飯を食べに来たという有り様だ。

 

「曲の方は順調か?」

「ぼっちの歌詞次第」

「初めての作詞だし苦労してそうだな」

 

曲に合わせてフレーズを考えなければならない作詞は音楽経験が豊富でないとできない作業なので、ひとりに任せられているが、歌詞担当に任命されたときかなり調子に乗っていた。

郁代がボーカルとして歌うことを念頭に入れすぎて、変な方向に走ってえづきながら応援ソングを書いていないか、フジは大変心配である。

 

「ぼっちから歌詞見せたいってロイン来た」

「なら、ぼっさんが来たタイミングで僕は帰るよ。バンドのみんなで集まったときに見たいし」

 

ひとりも自分がいては試作段階の歌詞の相談もしづらいだろうとフジは思ったが、口下手なリョウのことを考えると同席した方がいい気もしてきた。だが、

 

「フジは曲出さないの?」

 

料理が来るまで二人で待っているといつもは無言でスマホをいじっているだけのリョウがめずらしく話を切り出してきた。リョウのいう曲とはフジがネットでアップしていたボカロ曲のことを言っていることはすぐにわかった。

 

この世界でボカロは前世ほど周知されているわけではない。なんせ誰津玄師がボカロPとして知られていないほどだ。

ピアノをかじっていたフジは意気込んで有名ボカロ曲をネットで上げていたわけだが、この世界ではまだマイナーなジャンルであり、下地ができておらず、バズるわけがなかった。

 

「まだ迷ってる」

 

有名ボカロの曲を借りたにも関わらず、思った通りの反応がなかったことでフジは自分が情けなくなり、ネットでアップすることはやめて、ボカロ曲を再現してはストックすること繰り返していた。

 

変人アピールをしているリョウはボカロも聴いていたようで、その場面を偶然目撃して投稿者が自分だとポロっとこぼしてしまったとき、頭がおかしくなったのかと疑われたのをフジは覚えている。

 

それ以降新曲は投稿しないのか、何回か聞かれ、もう上げないと言ったら残念そうにしていたので時々音源は聴いてもらっていた。リョウは虹夏から作曲の担当を任された時、フジがボカロの曲を作っていることを黙っていたのも、そういう事情があった。

 

「別にネットで上げなくても結束バンドでやるのもいいんじゃない?」

「…」

「なに?」

「意外と前向きなこと言ってくれるなぁと思って」

「ボカロ好きだし、もったいないと思ったから」

 

リョウに結束バンドでやってみてはどうかと提案されるとは思っていなかったので、フジが面食らった表情をしているとリョウは少し不服そうにしていた。

滅多にいうことのないリョウの本音が少し聞けて、フジは嬉しくなった。

 

フジは自分だけがこの曲を知っているという気持ちに囚われすぎていた。ただ自分一人で決めるわけにはいかないので、他のバンドメンバーにも相談した方がいいだろうとフジはバンドをやっていて良かったと改めて実感した。

 

「曲については虹夏にも相談してみる」

「待って」

「どうした?」

「今お金ないからおごって」

「え?リョウがこの店にしようっていったよな」

 

憑き物が落ちたようなすっきりした気持ちで会計を済ませようとフジが席を立った瞬間、リョウに呼び止められたので、なにか言い忘れたことでもあったのかと思いきや衝撃の言葉がリョウの口から出る。

 

リョウは最初から奢らせる前提だったから察しの良い虹夏じゃなくてフジを連れてきた理由はそこにあった。

 

「このまま残されたらぼっちに払ってもらうことになる」

「お前ほんとにやばいぞ!?」

 

リョウはもしフジがいなかったらひとりにお金を出してもらうつもりでいるという。別にリョウがどうなろうとも構わないのだが、何も知らないひとりにしわ寄せがいってしまうのはかわいそうだと思ったフジは本当に仕方なく奢って上げた。

 

来月返すといっているが、まあ返さないだろうとフジはリョウを全く信用していなかった。

 

店を出るとちょうどひとりが店に到着していたが、なぜか入口の扉の目の前に立っていたので、扉を開いた瞬間、両者ともめちゃくちゃびっくりした。ひとり曰く、おしゃれな喫茶店に気圧されてなかなか入れなかったらしいが、単独行動の適正なさすぎだろとフジは思った。

 

「リョウは僕がいなかったらこのお店のお会計ぼっさんに奢ってもらうつもりだったらしいぞ。いつかリョウにお金をたかられたら僕か虹夏に言ってくれていいからな」

「さっさすがにそれは…」

「いやマジで」

 

フジのあんまりな言い様にさすがにそんなことはないだろうとひとりは苦笑いをこぼしているが、断れないひとりは間違いなく奢らされた挙句、その返済の催促も人見知り故にできず、リョウへの貸しだけが増えていく未来までフジには見ていた。

 

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