あべこべ・ざ・ろっく!   作:ポターて

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一人称に戻す話でしたが、以降はずっと地の文は三人称視点にします。1話から4話あたりも気が向いたら三人称に変えます。すみません。

地の文におけるオリ主は結束バンドのキャラがフジと呼んでいるので、分かりやすいように地の文もフジにします。










8.友達に家での勉強は息抜きが本番

「いっぱい遊びましたねー!」

 

トランプやUNOなどのカードがテーブルの上に積み重なり、息抜きどころではない本腰入れた遊びの形跡が見られる。

数分前まではゲームで笑いあっていたが、虹夏はふと今日何しに来たっけと思い返した時に遊んでいる場合じゃないと我に返った。

 

「楽しかった…楽しかったけど…!」

「全然Tシャツデザイン進んでないもんな」

 

あんなに遊びに来たわけじゃないと前置きしたにもかかわらず、この有様だ。このままでは本当に郁代のどピンク一致団結Tシャツが正式採用となってしまう。

 

「後藤さん大丈夫ですかね?」

「ぼっちちゃん、運動ほんとにダメなんだね…」

「ツイスターゲームあんな最速で終わるの見たことない」

 

初めて友達と家で遊んだ感動をかみ締めていておかしくないひとりは心も体もボロボロになってしまったのか、机に突っ伏してしまっている。

 

こうなってしまった原因は練習に励んだはずのツイスターゲームがひとりによって、何連続も3ターンで終了させられていたことにある。運動神経皆無のひとりが下手すぎるあまりゲームがすぐに終わってしまうので、妹のふたりから「空気読んで」なんて言われる有様だ。

 

「あっ!リョウからもたくさんデザイン案きてるよ!」

「見たいです!」

「ぼっさんも見ようぜ」

 

リョウから虹夏宛にメッセージが届き、ちゃんとTシャツ案のことを覚えていたんだなと感心して、送られてきたメッセージを開くと、無地の白Tシャツの上にカレーライスの写真が貼り付けられた画像が出てきた。

 

「カレーですね」

「なにこれ…」

「変人扱い待ちか?」

 

続けて2件のメッセージが送られているが、何かと間違いだと信じて2個目を開くと次はTシャツの上に寿司の画像が貼り付けられている。

 

「今度はお寿司ですね」

「意味わかんないだけど…」

「もうなにも期待できないが、最後の一つ見てみよう」

 

満を持して最後のメッセージを開くとTシャツの上に『夕飯どっちがいいかな?』と付け加えられた画像が映し出された。

 

「どっちでもいいわ!」

「こいつなにがしたいんだ…」

 

自分たちも遊んではいた手前、リョウにどうこう言える立場ではないかも入れないが、フジはリョウのあまりの奔放さに本気で寿司とカレーがプリントされたTシャツをリョウだけ着させた方がいいんじゃないかと思えてきた。

 

「カレーがいいですっと!」

「喜多ちゃんもまじめに答えなくていいから!」

「この子も大概な気がしてきたな…」

 

リョウのことになると見境がなくなる喜多に対して、虹夏とフジは想像していたよりもヤバい子なのではないかと評価を改めた。

 

「あっ私のデザイン案も見てもらっていいですか?」

「うん、いいよ!」

 

いつもは引っ込み思案なひとりは自分の家というテリトリーにいるからか、いつにない主体性を持ち、考えたアイデアを発表した。

 

「どうですか?おしゃれすぎますかね…」

 

ひとりが見せたスケッチブックに描かれたTシャツはど真ん中によくわからないフォントの英単語が書かれ、ところどころダメージ加工のように破けている。Tシャツなのに用途不明のファスナーがつけられ、装飾品に鎖が巻き付けられている。

 

『だっっっっっっっっっせぇ~!』

『絶対にぼっさんの案だけは採用しないでくれよ!』

『そうですよね!びっくりしすぎてあたしのセンスがずれてるのかと思いました!』

 

自信満々にデザインを披露しているひとりを除き、他の面々はこれならひとりのジャージを全員で着る方がましだと思うレベルのダサさにフジはみんなにこの案だけは絶対に採用しないようにコソコソと頼んだ。

ただフジの相談の必要性もなく、虹夏も郁代も同じ意見だったようで心の底から安心した。

 

「大量のファスナーと鎖はなににつかうの?」

「ポケットにはギターピックを入れて、鎖はギターストラップにもできます」

「ドラムとキーボードが着たら、ただの飾りじゃん!」

 

郁代がファスナーや鎖の意味について聞いたところ、まさかちゃんと用途があってデザインされていたこと驚いたが、Tシャツにそこまでの機能性は必要ではない。

 

「これはないな…」

「あっいままでにないですよね…こんな斬新なデザイン」

「いや、そのないじゃなくて、ありかなしかの方でいうと…」

 

 

「「「…なし」」」

 

思わずこぼれたフジのつぶやきにいままでにないポジティブな捉え方をするひとりに対して、よりわかりやすいように伝え直し、ひとり以外の3人でアイコンタクトを行い、「なし」の判定が下される。

 

「えっあっはい…」

 

三人から却下の判定が出るとは思っていなかったのか、意気消沈したようにひとりは座り込んでしまった。

 

「もっもしかして私服もこんな感じかな…?」

「あっ服はお母さんが買ってきてくれるから違います。好みじゃないから一回も着たことないけど…」

 

季節感を感じさせない異次元のジャージスタイルであるひとりの私服を虹夏たちはいまだに見たことがなかったが、私服は母親が買ってきてはいるものの、好みではないらしく着たことがないという。

 

妹のふたりの服を見た限り母親のセンスを虹夏と郁代は信用できると思ったのか、ひとりにその服を着てほしいとお願いし始める。

 

「いやぁお見せするほどのものでは…」

「そこをなんとか!フジ先輩も見たいですよね!」

「え?ぼく?確かにいつもジャージだもんな…見たいかも」

 

知り合いの前でファッションショーをするのは恥ずかしいのか、渋るひとりを説得するために郁代はフジに話をふる。

 

自分に話をふられるとは思ってなかったのか、フジは気の抜けた返事をする。話は聞こえていたので、状況は把握しているが、フジはひとりの服について、いつもジャージだなと思っていただけで服装については気にしていなかった。

 

しかし、虹夏と郁代の空気を読めといいたげな視線を受け、つい虹夏と郁代の肩を持ってしまう。

 

「いいですけど…」

「「やったー!」」

 

さっきまで渋っていたにもかかわらず、ひとりはフジの一言が入るとあっさりと承諾した。

 

ひとりが着替えるために席を外してから数分経ったころ準備が終わったとひとりの声が聞こえたので、虹夏たちはどんな変身を見せるのか期待をしながら、扉を開ける。

 

「「かわいい~!」」

「いいじゃん」

 

ジャージが決して悪いわけではないが、全身がジャージではない私服姿のひとりはフジの目にも2割3割増しにかわいく映った。中でも郁代にはクリティカルヒットしたのか、スマホのカメラで激写している。

 

「喜多さんってやっぱり面食いか」

「そうなるとあたしたちに食いついてこないのアレじゃない?」

「え!?じゃあフジ先輩も虹夏先輩も好きにしていいんですか!?」

 

郁代が面食いだと察して、自分たちに興味ないのは郁代の好みではないんだなとフジと虹夏が互いに残念がっていると、郁代はすごい勢いでこちらに振り向き、そんなことを言い放った。

 

「こわいって…」

 

フジたちはそんなに食い気味に返事をしてくるとは想定していなかったので、郁代の知らない部分が垣間見えて末恐ろしくなった。

 

「フジ先輩の服はシンプルですよね」

「フジくんももっとおしゃれしようよ~」

「僕は十分おしゃれしてるつもりだけど」

「あのねフジくん、ジーンズにパーカーやシャツはおしゃれとは言わないんだよ…」

 

フジの服装はいつも似たような恰好で下はジーンズに上は季節によってパーカーやシャツに変わるだけの超ミニマムスタイルだ。虹夏からするとお気に召さないようでもっと自分の服装に気をつかってほしい。

 

「嘘だな。僕はこれで全然デートとか行けるし」

「一緒に歩いても男の子なのにリョウの方が街でスカウトされやすいんだよ!喜多ちゃんから見てもどう?」

 

「さすがリョウ先輩!モデルになったら出てる雑誌絶対買っちゃいます!」

「だめこりゃ…話ふる相手間違えた…」

 

二対一なら少しこちらの意見も聞き入れる気になるだろうと、郁代を味方に引き入れようとしたが、リョウがスカウトされたという部分しか聞いておらず、まったく戦力にならなかった。

 

さっき実はヤバい子だと再認識したのになぜ人は同じ過ちをするのか、虹夏は思わず、天を仰いだ。

 

「ぼっさんはどう思う?僕の恰好」

 

よりにもよって激ヤバのセンスの人間に服について聞くのかと虹夏は戦慄した。フジ自身も質問した後に聞く相手を間違えたと思い直した。

 

「えっあっダサくはないと思います…」

「ぼっちちゃん、毒にも薬にもならない言葉だね…」

 

意見を求められたひとりはなんとか相手の気分を害さないように言葉を選んだものの、結局一番つまらないコメントになってしまった。

 

「あっもう着替えていいですか…?」

 

バンドメンバーにあまり着ない私服を見られるのは恥ずかしかったのか、ひとりは着替えようとするが、虹夏はまだ変身できる余地を残していると思い、今一度ひとりの姿を眺める。

 

相変わらず人の視線になれないひとりは虹夏の目線に恥ずかしさのあまり身をよじっていたが、じっくりと眺めた結果、伸びっぱなしの髪が気になった。

 

「そうだ!せっかくなら前髪も上げてみようよ!」

「前髪伸ばしてるの?」

「あっいや美容院いけないから伸びてるだけで…」

「もう一生髪切れなくない?」

 

親同伴で美容院に行く手もあるが、成人してからも、それをし続けるには限度があるため、どこで踏ん切りがつられたらいいのだが、ひとりにそれができたら苦労はしない。これからも伸ばし続けて、ピンクの毛玉となってしまうことだろう。

 

「よし!あたしがセットしてあげよう!」

「ひっ!」

 

髪型をセットすればより可愛くなるのではないかと思った虹夏が櫛を持って近づくが、前髪をあげた瞬間、ひとりの体はまるで干物のようにカラカラになっていく。

 

「ぼっちちゃんがどんどんしおれていく!」

「前髪をあげるストレスに体が耐えきれなかったんだわ!」

「化学分解を起こしてる!どういう人体だ!」

 

やがて体の水分が完全になくなり、ひとりの体は塵と化して空中へと舞っていく。ひとりを元の体に戻そうにも、既に取り返しのつかない事態にまで崩壊が進んでいしまっている。

 

さらに空気と混じったことで、呼吸するとともにひとりの体であった何かがフジたちの体内へと次々に侵入してくる。

 

「この部屋空気薄くないですか?」

「なんか意識が朦朧としてきたかも…」

「これはまずいぞ、なんとしても部屋から出ないと…」

 

ひとりの体から粒子となって空中に舞い散ってからフジたちの体に異変が生じ始めており、部屋も日が差し込んで明るいはずなのにカーテンを閉め切ったように暗く感じる。

 

「私もうダメかも…」

「せっかくオーディションに受かってライブがあるのに…後藤さんの呪いだわ…」

「せめてリョウに一人でライブしてもらうようにお願いしないと…」

 

すでにひとりがいなくなってギターが欠けてしまっている状態でライブもくそもないが、そのひとりの残留思念にやられてしまった三人は意識を失い、床に倒れ込んでしまった。

このままここで全員息絶えることとなるかと思ったが、倒れ込むような音に異常を感じた後藤家の人たちがすぐに駆け付けた。

 

「すごい音したけど、大丈夫かい?って…うわ!!」

 

ノックしても応答がないことに異変を感じた後藤父は様子を確認するために扉を開けると真っ暗な部屋の死屍累々の光景に驚愕した。

 

「いつも明るさだけで乗り越えようとしてごめんなさい…」

「ギター上手くならなくてごめんなさい…あとかわいくてごめんなさい…」

 

大気中のひとり成分を体に取り入れてしまったことでネガティブ思考が伝染してしまい、3人は自虐的となるが、郁代の場合は少し自我が残っているのか自虐風自慢になっている。

 

「モテたいなんて高望みしないで今ある幸せを大切にしよう…」

「あははっ!みんなお姉ちゃんみた~い!」

「お父さん!塩とお札持ってきて!」

「霊媒師さんも呼んでこようか!?」

 

フジにいたってはもはやネガティブ思考の自虐から一周回って、前向きな気持ちに切り替わっていた。そして、ふたりはフジたちがひとり化するこの惨状を見て、無邪気という言葉で表していいのかというほどの態度で笑っていた。

 

 

「ちょっとトイレ借りてもいいかな?」

「あっはい。下に降りて右に曲がったところにあります」

「ありがとう」

 

なんとか後藤家の方たちの尽力によってフジたちは正気に戻ることに成功したが、記憶が朧気ながら精神汚染をもたらしたであろうひとりの存在をひそかに恐ろしく感じた。

 

別のことに気が向きつつ脱線を繰り返しながら、Tシャツについてあーでもないこーでもないと話続けていたら、少しの間フジが離籍し、部屋は女子3人だけとなる。

 

「ちょうどフジくんいなくなっちゃったし、リョウとの路上ライブの動画見ちゃう?」

「見たいです!私噂だけ聞いてまだ見てなかったんですよね!」

 

虹夏はちょっとしたドッキリをしようという意味でそんな提案をする。リョウに対するアンテナを常時はっている郁代は駅前にて二人で路上ライブをやっているという情報を掴んではいたものの、まだその様子を視聴していたわけではなかったので、その提案に賛成する。

 

「あっフジさんとリョウさん二人で路上ライブしてたんですか?」

「そうだよ~チケット売るためだって言って、二人でやってたんだよ!」

 

フジとリョウの路上ライブについて初耳だったひとりは詳しい事情を聴くとだいぶ感情が高ぶっている虹夏にひとりだけではなく、郁代も気圧されてしまう。

 

落ち着きを取り戻した虹夏は少しおびえた郁代とひとりに謝り、タブレットを操作してフジとリョウのライブの様子が撮影された動画を開く。

 

『──メルト 目も合わせられない』

 

「この歌知ってます!最近イソスタライブでも歌ってる人見ます!」

「フジくんの歌久しぶりに聴いたな~。最近ボカロの歌ってみたの動画も流行ってるよね~!」

「あっフジさん歌上手ですね…」

 

虹夏たちは各々体でリズムを刻みながら静かに聴いていたが、サビの終わりのあるフレーズを聴いた瞬間に虹夏に電撃が走った。

 

「今のところもう一回再生していい?」

「え?いいですけど…」

 

余程嬉しいことでもあったのか、少しだらしない顔をしている虹夏を疑問に思ったが、郁代はその申し出をあっさり承諾する。

 

『──だって君のことが好きだよ』

「っ!!」

 

これか!と郁代は2度目の歌を聴いて理解した。郁代でさえも、フジの歌声でこのフレーズを聴いたとき思わず、少しドキッとしてしまった。ならば、フジのことを意識しまくっている虹夏にはより一層響いたに違いない。

 

しかし、何度もリプレイしたいなら自宅まで我慢できなかったのかと郁代は思った。こんなバンドメンバーの家で自身の欲望に対して、あっぴろげすぎる。

 

「もう一回いい?」

「気持ちはわかりますけど、続き見ましょうよ!フジ先輩帰ってきますよ!」

「一回あと一回だけでいいから!」

 

もしかしたらリョウの歌も聴けるかもと期待感でいっぱいの中、一向に続きが見れない郁代となにかの禁断症状が出始めている虹夏が問答しているうちに実は同じく何回も聞きたかったひとりはこっそりシークバー動かし、勝手に巻き戻した。

 

『──だって君のことが好きだよ』

「ふへっ」

 

自身が陰キャだと自覚しているひとりは普段ならば、甘酸っぱい曲にグロッキーになってもおかしくはない。ただ、さきの壁ドンを受けて、青春コンプレックスが緩和されたのか、『好きだよ』という歌詞を聴いて、にやけるぐらいには自惚れていた。

 

「ただいま」

「おかえり~」

 

フジが戻ってきた瞬間、虹夏は郁代とのやり取りを一瞬でシャットアウトし、目に留まらないスピードで動画を閉じ、何食わぬ顔で出迎えた。その時の鬼気迫る顔での恐ろしく速いスワイプ。郁代でなきゃ見逃しちゃうね。

 

ヤムチャ視点のひとりはいつの間にか現実に引き戻されたことに気づき、にやけ面がばれないように取り繕うも、傍からは百面相をしているようにしか見えなかった。

フジたちはそんなひとりの様子は見慣れているので全員総スルーしており、話し合いを再開していた。

 

「フジ先輩はなにかデザイン思いつきました?」

「う~ん、僕はこれしか思いつかなかったな」

「できたの?見せて見せて!」

 

まだデザイン案を発表していないフジに何かあるか、郁代が尋ねるとフジは考えていた手を止めて、ひとまず思い付いていたデザインを発表する。

 

「結束バンドを繋げてみた」

「なんかこわい!」

 

フジの提示したデザインは結束バンドを数珠つなぎの要領で輪っかにしたものが、真ん中に描かれている。しかし、結束バンドの大きさがバラバラで、輪っかもきれいな円ではなく、ガタガタな円で酔っている人が書いた絵のような不気味さがある。

 

「この目みたいな黒い点はなんですか?」

「インパクト足りないと思って、ぼっさんの驚いた顔付け足した」

「え…これが私…?」

 

白地のTシャツに目立つように黒い斑点模様が存在し、結束バンドの数珠も相まって『ミ〇ク〇ャク様』と化している。これもデザインかと郁代が恐る恐る尋ねると、驚きの返答が来たため、ひとりは自分の姿が周囲にはこう見えているのか、疑心に囚われてしまった。

 

S〇N値が下がるという理由でフジの案は採用とはならず、結局Tシャツのデザインが決まることなかった。

 

話し合いを続けるも結論が出ないまま、すでに日が落ち始めており、後日また思い浮かんだ案が出たらその都度ロインで上げて、その中から正式に決めようという話になった。

 

「じゃあまたSTARRYでね!」

「後藤さん今日楽しかったわ!」

「あっよかったまた来てください…」

 

玄関まで見送りに来てくれたひとりに虹夏たちは家にお邪魔させてくれた礼を言って、靴を履いて家を出ようという直前リビングから顔を覗かせた後藤父はフジを名指しで呼び止めた。

 

「藤原くんちょっといいかな?」

 

突如呼び止められたフジは自分のことかと指を指すと、頷かれて手招きをされたため、何かしてしまったのかと心当たりが特にないものの少し不穏な気持ちなりながら近づくと、後藤父はあたりの様子を確認したあとフジに耳打ちをする。

 

一連の流れを虹夏や郁代はなんだなんだという様子で見ていたが、ひとりは自分の父親がフジを呼び出した理由が分からず、気が気ではなかった。

 

「藤原くんがもしかしてひとりの噂の彼氏だったりする?」

「噂?いや、ぼっさ…ひとりさんとはお付き合いしてませんが…」

 

自分とひとりが噂になるようなことなんてあったかと、フジは考え込んだが、二人きりで過ごしたこともほとんどなかったので、全く心当たりはなかった。

 

「もしかすると事実かと思ったけど、やっぱりあれはひとりの妄想だったのか…」

 

ひとりが家族の共有のアカウントを使って、動画投稿をしているため、ひとりがギターヒーローであることは後藤家にとって公然の事実である。

そのため、妄言まみれのリア充アピールも目にしており、彼氏いるなどてっきり嘘だと思っていたが、フジがもしかすると彼氏なのかと、かすかな希望を抱いた。

 

「ひとりさんに何かありました?」

 

ぶつぶつと考え込み始めた後藤父にひとりのことで聞きたいでもあるのかと、こちらから聞き直すとその質問ははぐらかされてしまった。

 

「ごめんごめんこっちの話!変なこと聞いてごめんね。女の子のバンドで男の子一人だと大変でしょ。妻は一人だけど、色々あったからね…」

「あっはい、頑張ります…」

 

数少ない男同士として歳の差はあれど、男の苦労をわかってくれそうな存在に出会えたことが嬉しいのか、遠い目をしながらそんなことを言う後藤父に自分もそう遠くない未来に同じ境遇に遭うことを予見して少し苦笑いをした。

 

その後、フジは後藤父とのやりとりを好奇心に刺激された虹夏たちに根掘り葉掘り聞かれることになった。

 

そして、近々投稿されるギターヒーローの動画は後藤家に新たな波紋を呼んだのだった。

 

 

問題のギターヒーロー(後藤ひとり)の動画

 

【ギター】『メルト』guitar cover【弾いてみた】

12,016回視聴

 

―――――――――――――

guitarhero

2,022/8/○○に公開

 

概要欄

結婚貯金も共有した彼氏がカラオケで歌詞アレンジして歌ってくれて

その勢いで弾いてみた動画撮っちゃいました!(*^▽^*)

その後お家デートで一緒に胸キュン映画見てたら壁ドンとかされちゃって

家族に聞かれてないか心配~!(*ノωノ)

 

のコメント欄

 

 

―――――――――――――

パパみかん 1時間前

 

原曲あまり知らないけどギターアレンジすごい!

 

返信b3 q

 

―――――――――――――

mou rock 1時間前

 

コード教えてほしいです!

 

返信b q

 

―――――――――――――

碧 1時間前

 

絶対顔(確信)かわいい!

 

返信b1 q

 

―――――――――――――

STARRY 1時間前

 

やっぱりいつ見てもうまいな

 

返信b2 q

 

 

 

 

―――――――――――――

世界のYAMADA 2時間前

 

概要欄に目が行く    

 

返信 b5 q

 

 

 






動画サイトのプラットフォームは岸若まみず様の「あの日のナポレオンを覚えているか」という作品から借りさせていただきました。
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