あべこべ・ざ・ろっく!   作:ポターて

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9. 雨にも負けず、アウェーにも負けず

 後藤家の訪問から刻一刻とライブの日が近づいていく中、全員そろっての初ライブを少しでもいいものにするために今日もSTARRYに結束バンドは集まっていた。

 

「いい案が出なかったので、Tシャツはあたしのデザインに決まりました~!」

 

虹夏のデザインしたTシャツは真ん中に『結束バンド』の文字と結束バンドのイラストが描かれており、シンプルでなおかつわかりやすい、まとまりのあるデザインとなっている。

 

「なら最初から虹夏がデザインすればよかったのにな?」

「あっはい実は私もちょっと思いました」

 

郁代に褒められて、後出しでデザインが得意だと鼻を伸ばしている虹夏に対して、自分たちの頑張りは何だったのかと、フジは横にいたひとりとボソボソと話していたら、そんな考えはお見通しだという目をして虹夏はフジたちをジロリと見ていた。

 

「二人とも、じゃあ最初から虹夏がデザインすればよかったとでも言いたげだね?」

「えっエスパー!?」

「そんなわかりやすい顔してたか?」

 

ひとりは虹夏がエスパーだと驚いていたが、そんなわけもなく、虹夏が考えを見破ったのは、単にフジたちがわかりやすく『最初からこうすればよかった』みたいな顔をしていたからに他ならない。

 

「いいね!結束感出てきたよ!」

「確かに全員同じ衣装だとバンド感あるな」

 

各自もらったTシャツに着替え集合し直した。Tシャツでそこまで変わるかと疑問を持っていたが、同じく服を着たことで一体感が生まれたように見える。さらにフジにとっては、暑苦しいシャツからTシャツへの移行したことで解放感に満たされていた。

 

「やっぱり半袖は刺激が強いね…」

「リョウ先輩みたいに長袖の上に着た方が良くないですか?」

「でも、あの腕が見れないのは…」

 

今まではシャツに隠れていた逞しい腕が露わになったことで、あべこべ世界の女子目線にはとても刺激が強く、虹夏に至ってはヨダレを拭うほどであった。

こちらの方をチラチラと見てはコソコソと話している虹夏たちの様子が気になっているフジにリョウが近づいてきた。

 

「ちょっと力入れてみて」

「ん?こうか」

 

フジはリョウに腕をちょんちょんと指でつつかれ、力を入れてみてと催促される。はじめはリョウに何を要求されるかと気構えていたが、そのくらいなら別にいいかと、要望通りグッと腕に力を入れた。

 

「おお~これはすごい」

「キーボード結構重いからな。筋肉もつく」

 

力んだ腕は筋肉が引き締まって硬くなっているが、リョウはそれをペタペタと触って、感嘆の声をあげている。

この世界における男性の腕の筋肉はかなりのチャームポイントのようで、リョウもその例外ではなく、お気に召したのか、何度も感触を確かめるように触っていた。

 

「よし!このままでいこう!」

「虹夏先輩!欲に忠実!」

 

その光景をまじまじと見ていた虹夏は、もはや再考の余地なしでリーダー権限を行使し、フジの半袖を決定した。先ほどまで悩んでいたにもかかわらず、虹夏の変わり身の早さに郁代は自身の欲望にとことん抗う気はないのかと思った。

 

「リョウはいつまで触ってんだよ」

「もう少しだけ…あぁ」

 

そう言いつつも一向に触るのを止める気配がないリョウに対し、フジがちょっと強引に腕を振り払うと、名残惜しそうな声をあげていた。

 

「フーッ!フーッ!」

「ぼっちちゃん息荒いって!」

「後藤さんには刺激が強すぎたんだわ!」

 

フジが半袖に着替えてからというものずっと悶々としていたひとりは蒸気機関のように鼻息が荒くなっており、虹夏から心配されていた。

その生腕に触れているリョウに対する嫉妬か、はたまた単に男性の腕を直に見たことへの興奮か、その内情は本人にしかわからない。

バンドTシャツのお披露目だけで、ここまでひと悶着あるのは結束バンドぐらいだと虹夏は思った。

 

やっと練習を始めようというところで、新しい衣装に身を包んだメンバーの写真を撮り、イソスタへ投稿していた郁代から不吉な知らせが届く。

 

「台風が近づいて来てるみたいです」

「うそ~!そんなの出てなかったのに~!」

 

なんとく郁代はイソスタのついでに天気予報を眺めていると、当日までに台風が接近しているという予報が目に入った。

 

「夏の天気は気まぐれ」

「気まぐれ同士台風と仲良くできそうだな」

 

どうせなら台風と仲良しになって、関東から外れてもらえるように説得してほしいものだと、気まぐれの自覚があるのかないのかわからないリョウを見てフジは思った。

 

「じゃあライブは!?」

 

天候に左右されない屋内のライブといえど、台風が近づけば、その分客足も遠のいてしまう。せめてチケットを買ってきてくれた人たちには見に来てもらいたいが、台風が直撃すれば、それすらも難しくなってしまう。

 

人一倍ライブの心配をしていたひとりは当日無事に迎えられるのかを危惧していた。

 

「てるてる坊主でも作る?」

「それだ!一人につきノルマ10個!」

「台風には数で対抗か」

 

一足先にひとりの心情を察したリョウが気休めとして、てるてる坊主をと作ってはどうかという提案をし、虹夏がそれに乗っかった。虹夏から一人ノルマ10個という指令が下され、5人で作れば、総数は50個ということになる。

 

作ったてるてる坊主はSTARRYに飾ることになると思われるが、いかんせん数が多すぎて、満員電車のようにぎゅうぎゅうになりかねない。

 

「でも関東からはずれているみたいです!」

「よかった~!じゃあ練習はじめよっか!」

 

台風の進路について詳しい情報を得ようと、郁代は引き続きスマホで調べていると、予想図では台風は関東を避けて進行していくということが分かった。そのことを聞いた虹夏はひとまず目先の不安が消えたと少々楽観的に判断して、他のメンバーへ練習開始の号令をかける。

 

「あの!やっやっぱり作りませんか?そっそのてるてる坊主…」

 

他のメンバーは予報を信じて、練習へと意識が切り替わっている中、ひとりはどうしても最悪の事態が頭から離れなかった。

例え気休めだとしても、ひとりは何かせずにはいられなかった。

 

「そうだね!なにが起こるわからないし!」

「備えあれば、なんとやらっていうしな」

「てるてる坊主作るなんて久しぶりです!」

 

練習そっちのけで、てるてる坊主作りにバンドメンバー全員で励むことになった。Tシャツと同じくメンバーの個性がてるてる坊主にも出ていた。

 

「この化け物なに?」

「あっそれ私が作ったやつです…」

「この怖さなら台風もびびって避けていくかもな」

 

てるてる坊主で個性を出す部分といえば、顔しかないのだが、ひとりの作ったてるてる坊主は瞳孔や口から何かの液体が垂れており、恐ろしい顔をしたホラーテイストに仕上がっている。

 

「それ本当に飾るのか…?」

「せっかくぼっさんが作ったんですし、これも飾らないと」

 

店長からは本当に飾るのかと何度も念を押されたが、厄除けどころか、厄を呼び寄せてしまいそうなひとり作のてるてる坊主も他のものと一緒に並べていく。

 

「これだけあれば台風でもへっちゃらでしょ!」

「明日が楽しみですね!」

 

すべて飾り終えて、改めて50体のてるてる坊主が並んでいるバーカウンター付近の姿は仰々しい光景となっており、お化け屋敷の様相を呈している。

店の雰囲気を変える域の模様替えの果てにやれることはやったと、残りは明日の本番を待つだけとなった。

 

「といったもののこの有様か…」

 

 迎えたライブ当日の日。願掛けむなしく、フジたちの期待を悪い方向に裏切るように天候は大雨に見舞われることになった。

縦横無尽に雨は降り注いでいるため、STARRYに向かうだけでも、雨の勢いが強すぎるあまりフジは傘を差そうが関係なしにところが濡れてしまっている。

 

「夕方以降はもっと強くなるみたいだな」

「私の友達も今日は来れないって、今連絡来ました」

「あっうちの親もふたりをおばあちゃんが見てくれるから来るって言ってたんですけど、やっぱりダメみたいで…」

 

ライブ前の最終確認の合間にチケットを買ってくれた人たちからは、キャンセルの連絡が届き、悪い知らせが重なっていく。

 

「僕らのノルマ買ってくれた人たちも期待できそうにないな」

「元々晴れでも来るか人わからない人たちだし」

 

純粋に曲を聴きたいと思っていないだろう路上ライブでチケット購入した人に対して、リョウをひどく冷めた発言だったが、結束バンドの曲を聴かせて見返してやろうという気持ちは少なからずあったのか、無表情ながらもフジには少し落胆しているようにも見えた。

 

「ぼっちちゃん来たよ~!」

「あっお姉さん…」

「この酒の匂いはまさか…!?」

 

フジはまだバンドTシャツの上にパーカーを羽織っている状態なので、幸いバンドメンバーだとばれていないと思いたいが、なぜこの場に現れたのか、疑問だらけだ。

千鳥足かつ全身ずぶ濡れで登場したひとりの知り合いらしき女性にフジのみではならず、虹夏も郁代も動揺が隠せない。

 

「え?お前ぼっちちゃん目当てできたの?」

「そうだよ~チケットもちゃんと買ったもん」

「あっお知り合いだったんですか?」

 

知り合いと再会したような反応を見せる店長は酔っ払いの女性を知っていたのか、ひとりが尋ねると大学時代の後輩だという。

 

「ぼっちちゃんにあんな知り合いがいたとはね。あれフジくんどうしたの?」

「あの女の人に新宿で昔絡まれたことがあるんだ…」

 

酔っ払いの女性が現れてからというもの、パーカーのフードを被り、こそこそと隠れているフジを虹夏は不思議に思っていた。

酔っ払いの女は店長にうざ絡みしており、フジの方へ意識は向いていなかなかったが、例の女は打ち上げに参加するつもりであるという恐ろしい言葉を耳にしたことでフジは気が気ではなかった。

 

「あ!ひとりちゃん!」

「あっこの前の路上ライブの…来てくれたんですか!?」

 

しかし、悪い知らせばかりではなく、続いて現れた女の子2人組はフジたちにとって嬉しいことに結束バンドを見にきてくれたらしく、なんでもひとりが開催した路上ライブを見てファンになったという。

 

「もちろん!私たちひとりちゃんのファンですから」

「台風吹き飛ばしちゃうくらいのライブ期待してますね!」

「ぼっちちゃん!やったね!」

「ぼっさんすごいじゃん!」

 

ひとりの努力の甲斐あってか、結束バンドを見るためにライブハウスにまで足を運んでくれるファンも存在していた。

 

「あっふへへっぐふふっ私のファン…」

「すいません!人違いでした!」

 

ただファンの獲得によって承認欲求が大いに満たされたのか、気持ちの悪い笑みをこぼし、最速でファンを幻滅させて無くしかけようとしていた。

 

「でも結局半分以下になっちゃいましたね」

「いまからネットで無観客ライブ配信して初めから客なんていなかったことに…」

「無理に決まってんだろ。ほらシャキッと立て」

 

アウェーな環境に珍しくリョウは怖気付いているのか、観客の少なさを利用したリモートライブの作戦を下策していた。そんな様子で低気圧の気だるさのあまりしなだれかかってくるリョウにフジは喝を入れる。

 

少々暗い雰囲気になっていた結束バンドの面々だったが、一際元気を取り戻したメンバーがいた。

 

先ほど現実のファンができたことを知ったひとりである。

 

「大丈夫です!見てくれているファンの方もいるので頑張りましょう!」

 

自身の初めてのファンがライブに駆けつけてくれたことが余程嬉しいのか、調子に乗ったひとりは初ライブ以来の完熟マンゴーを再び身に纏っていた。

 

「なんか進化してるし!そんなのダメだから脱げ〜!」

 

完熟マンゴーのダンボールはひとりの初ライブの時とは異なり、機動性を重視の上半身のみの形態で、かつ両腕が出せるように改造されていた。

どれだけ姿形が変わろうとも、ひとりを完熟マンゴーのままステージに出したくない虹夏は必死で脱がしていた。

結束バンドの中でも、異彩を放っているのはひとりだけではない。

オーディション以来のフジも犬マスクがひとりにゲロをかけられたことでリニューアルし、ハスキーからポメラニアンへと変身していた。

 

ステージ上では、被り物をしているフジも異物混入感が満載で、改めてじっくりと眺めた郁代はこれで演奏していたのかと驚くばかりだ。

 

「フジ先輩はそれ被って演奏するんですよね、気になってたんですけどキーボード見えるんですか?」

「見えないこともないよ。強いて言うなら暑苦しい」

 

既にライブの準備が完了し、フジたちは出番を待つだけの状態となっている。各々メンバーは緊張解すために雑談をしたり、時折ステージの様子を覗いたりしていた。

 

「もう本番始まるのにお客さん全然いませんね」

「ライブが始まったら、他のバンドも見に人も増える…はず」

 

結束バンドはトップバッターという都合上、ライブが始まれば、他のバンドを見にきたお客さんも来て、数が増えていくと思われるが、フジたちが想定した客の入りよりも今の観客はずっと少ない状態である。

 

「1番目結束バンドだって、知ってる?」

「知らないし、興味な〜い」

「見とくのだるいね」

 

フジたちは舞台袖から二桁にも満たない観客の様子を確認するが、全く無名のバンドである結束バンドを期待する声は非常に少ない。

 

「まっまあしょうがないね!あたしたちまだ無名だし、これからファンも増えていくよ!」

「でっですね!」

 

元々少ない今日の集客にも関わらず、その中で結束バンドを純粋に観にきた人というのはより少ない数となる。

 

そのため、自分たちに期待する声がないことはフジたちにとって、ある程度予想の範疇であり、虹夏は即座に意識を切り替える。しかし、実際に目にしたことのショックは大きかったのか、動揺を無理やり隠していることは、フジにはわかった。

 

「うわフジくん!なにするの!」

「緊張しすぎて辛そうな顔してたからつい。ごめんな」

「も〜なにそれ髪ぐちゃぐちゃになったじゃん!」

 

虹夏が思い詰めていることはわかったでも、フジにはなんと言葉をかければいいか、なにも思い浮かばなかった。

 

ただ、ここで迷ってなにもしないというのも憚れたので、少しでも気が紛れればいいと思い、フジは虹夏の頭を乱雑に撫でた。

 

「緊張解いてくれたのはわかるけど、それとこれとは別だから!」

「悪かったって」

「なに2人でイチャついてるの?」

「本番前になにやってるんですか!後藤さんまた効いちゃってますよ!」

 

髪型が崩れたことにほっぺたを膨らませて抗議してくる虹夏に対して、フジは犬の被り物をずらし、笑って誤魔化しながら次は髪を優しく撫でるように整えると、虹夏の機嫌は見る見る良くなった。

 

その様子を見ていた外野の3人の中でも、リョウは非難の目線を2人に送っており、郁代は青春コンプレックスの大ダメージを受けているひとりを介護していた。

 

「よっよし、じゃあみんな気合い入れていこう!」

「ごまかした」

「なに拗ねてんだよ。ほらいくぞぼっさんも」

 

いつもの顔面崩壊を起こしたひとりを高速修理で元に戻した後、結束バンドの面々はステージへ上がり、各自機材の最終調整を行う。

音の出方を聴いて、機材に問題ないことを確認し、いよいよライブが始まると集中のためにフジはマスク越しにふぅっと息を吐きだす。

 

「結束バンドです!今日は皆さん天気が悪い中、足を運んでいただいてありがとうございます」

「カウンターのてるてる坊主も私たちが作ったんですけど、むしろ逆効果になっちゃいました!」

 

すべり続きだった結束バンドのMCも今回の掴みはよかったのか、ところどころ観客の笑いが溢れており、上々のスタートを切ることができていた。

 

(虹夏ちゃんたちが場を盛り上げてる。ここは私も!)

(ぼっさん、ステイ)

(あっはい)

 

ひとりもその勢いに乗ろうと、例の星縁のサングラスを取り出し、笑いを取ろうと考えた。しかし、フジがひとりの不穏な雰囲気を感じとり、寸前に止めたことで地獄の悲劇は免れた。

 

「一曲目は『ギターと孤独と蒼い惑星』です!」

 

郁代の曲紹介の後、虹夏の合図によって、一斉に演奏が始まる。

初めてのライブでオリジナルの曲を歌うプレッシャーがのしかかっているのか、緊張による細かなミスが郁代にあったり、虹夏とリョウにズレがあったりしつつも修正し直し、順調な運び出しであった。

 

(この状況下のライブにしてはよくやっていると言いたいところだが…)

 

オーディションの時から結束バンドを見てきた店長からすると、細かなミスも多くまだまだ荒削りな部分もある。今の演奏の現状に点数をつけるとすれば、70点といったところで、まずまずな出来として成功といってもいいだろう。

ただ、どうしても店長の中には結束バンドはこんなものじゃない、もっと周囲の目を惹きつける演奏ができるはずだとモヤついていてしまう部分もある。主に注目してきたひとりに対しては、本来の技術力を出し切れていないように見えた。

 

(ぼっさんの力を僕たちがまだ引き出せていないのか…)

 

オーディションから時折見せる人が変わったかのように演奏に気迫が増すひとりのギターはあの日だけのまぐれだとはフジには信じられなかった。何らか理由でひとり本来の実力が発揮できていないのではないかと自分たちの力不足を感じていた。

 

「続いての曲は…」

(このまま終わらせたくない。私は結束バンドのギターなんだ!)

 

ひとりは元々ソロでギターを弾いてきたことからバンドに合わせることに慣れおらず、走りやすいことは重々承知していた。そのため、ライブにおける自身の力を最大限発揮できる部分は、イントロへのつなぎをソロで弾くしかないと考えていた。

 

ひとりは一瞬だけフジをちらりと見た。『ロキ』という曲に対する理解が最も深く、これから行うギターソロから曲に入るにはフジのカバー必須だと思ったからだ。しっかり目を見て、アイコンタクト行わなければ、意図が伝わらない可能性があったが、ひとりが異性とずっと目を合わせられるはずもなく、フジが気づいた瞬間には目を逸らしていた。

 

(うぅ…目が見れないフジさん今ので気づいてくれたかな…)

(やっぱり上手い。それでこのまま曲に入ればいいんだな)

 

ただ鈍いのは色恋だけのようでフジには、その仕草でひとりがなにかしたがっているのかを察することができていた。

 

そして、まるで覚醒したかのように短い時間に自身の最大限の技術を詰め込み、圧倒的な演奏をひとりは披露する。その圧巻のパフォーマンスに結束バンドのメンバーのみならず、ライブハウス全体がステージへと注目を集める。

 

フジは全員の演奏が乱れないようにカバーに徹し、2曲目の『ロキ』へと突入する。

郁代とリョウのダブルボーカルに切り替わり、また違った雰囲気の曲となったことで、より観客の注目が上がる。

 

(やりゃできんじゃん)

(おっ見事なドヤ顔)

 

一気に観客を沸かせ始めた結束バンドの底力を見た店長は思い知ったかと言わんばかりの後方プロデューサー面にドヤ顔を決めていた。その浮かれ顔を見事に隣にいる酔っ払いの後輩のスマホで撮られてしまったわけだが、それに気づくことはなかった。

 

十分な手ごたえを感じたひとりはおそらくこれで良かったのだろうと思い、不安ながらも虹夏にグッドサインを送ると、そんな彼女の不安を吹き飛ばすような満面の笑顔でそれに返した。

 

1番目のバンドとは思えないくらいの盛り上がりを感じ、名残惜しくも最後の曲へと向かう。

 

「2曲目は『ロキ』でした!そして次の3曲目が最後になります!聴いてください『あのバンド』」

 

『あのバンド』という曲は『ギターと孤独と蒼い惑星』と同じく、後藤ひとり節の効いた世の中への不満を込めた歌となっている。

 

結束バンドでは、幅広いジャンルの理解があり、作曲を担当しているリョウに全員が従う形で演奏している。ただ、バンドの個性を大事にするリョウは他のメンバーがよりいい音色が思いついたら、そっちを採用するスタンスを同時にとっている。特にキーボードは音色の数が豊富であるため、リョウは担当であるフジに裁量を自由に任せている。

 

(今までだったらこんな曲の印象を壊す可能性のあることなんて絶対しないが…!)

 

普段であれば、フジはリョウと打ち合わせをして、曲の印象を考えながら音色を決めるため、ライブでの音色変更はほとんどしない。

しかし、今の盛り上がりなら間違いなく、アレンジを加えた方がいいとフジは判断した。ぶっつけ本番でやる怖さが切り替えを行うフットペダルを押す足を竦ませるが、先陣を切ったひとりの姿を思い出し、覚悟を決めてキーボードの音色を変更する。

 

練習にはない完全なるアドリブでフジの演奏で一段と重厚感が増す。その曲の変化に結束バンドのメンバーはすぐに気づいた。

 

(ぼっちちゃんもフジくんもすごい!)

(確かにこっちの方がいいかも)

(私もしっかりしなきゃ!)

 

三者三様の反応を見せ、虹夏は素直に賞賛し、リョウは事前の打ち合わせよりもいいアレンジだと受け入れ、郁代は自分も負けていられないと気合を入れ直す。

 

(最高のメンバーだ。バンドに誘ってくれたことに本当に感謝しないと)

 

慣れない演奏に神経を消費しつつも、完璧に合わせてくれるバンド仲間がいる。それだけでフジは今この瞬間が楽しくて仕方なかった。

 

他のバンド目当てで興味なさそうにしていた観客も結束バンドの出番が終わる頃には全員が拍手を送る程にまで変化していたおり、ライブは大成功という形で終了した。

 

「あっつい。やっと脱げる」

「フジ先輩!顔がしわっ皺ですよ!」

「顔の水分持っていかれすぎ!」

 

控室に戻り、息苦しいマスクを取ったフジの素顔はダー○ベイダーの死に際に仮面を外した時と同じように皺まみれの顔となっていた。

この30分のライブで恐ろしいぐらいに歳をとってしまった好きな人の顔が戻ることを虹夏は切に願った。

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