陰キャリア充なひとりちゃん   作:粉物を作る時のダマの様な存在

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1連符目 私は陰キャリア充。なんだその目は?言いたいことがあるなら言え!ひぇ、ごめんなさい。調子乗ってました。

 

 

ギターを片手に暗い押し入れの中で適当に鉄の弦を弾いていると、頭の中でフワフワと考えが浮かんでは消えていく。

 

「私ギター上手くなったなー」とか、横目で見た興味のないTVのこと、元気な妹のこと、飼っている犬のこと。

そして、自分のことも。

 

私は昔から、人と話すのが苦手……無理なタイプの人間で、同性の友達すら出来たことがない。

コンビニに入ることすら怖いし、他人と目を合わすことも出来ない。

 

そんなダメダメな自分を呪うこともある……というか、毎回の休み時間中に呪っていたけれど、「捨てる神がいるのならば拾う神もいる」ということわざは正しかったようで、私には異性の友達がいるのだ。

しかも、そこらのイケイケ女子のような普通の男友達じゃない。

 

幼馴染のイケメン男友達なのだ。

つまり私は陰キャリア充。

 

「ふへへ……エネルギー湧いてきた。嫌なこと思いつく前に私のゴミみたいなギターは辞めて、バンドのカバー動画アップしよ。」

 

ノートパソコンを開いて、先日撮ったギターの弾いてみた動画をYouTubeにアップロードし、概要欄を入力していく。

 

明日は高校の入学式!!

友達が1人もいない高校に入学するから緊張する〜(>艸<)

でも、彼氏も同じ学校に入学することになったから安心した(*˘ ˘*)

だけど彼氏にとっては滑り止めの学校だったから、複雑な気分(> <)

高校ではバンドを組んで学園祭を盛り上げるぞー٩(๑>∀<๑)۶

 

「よし。完璧。あとは、明日の入学式に備えて寝るだけ。」

 

自分の幼馴染を彼氏役とした、妄想垂れ流し概要欄を入力した私はノソノソと押し入れから出て、布団に入る。

 

明日からは花の高校生活。

小中学生の自分を知らない、新しい人間関係が待っているのだ。

 

バンド作って、放課後に喋りながら練習したり、一緒に昼ごはん食べたり、文化祭でライブして人気者になっちゃったりするかもしれない。

 

もしかしたら、告白されて、幼馴染カップルとして友達から羨望の眼差しで見られるなんてこともあるかも!

 

「ウヘ、ウヘヘヘヘへへ……へ…ヘヘ」

 

急に心が冷めていく。

現実に引き戻されてく。

 

「そんな事、ありえないのに。何回この妄想繰り返してるんだろ。」

 

私はメンタルを浮上させる為に、充電中の携帯を手に持ち、ロインのトーク画面を開く。

 

 

優くん(幼馴染)

:明日入学式だな。改めて高校でもよろしく

 

後藤ひとり

:こちこそよろしくね。

 

優くん(幼馴染)

:6時15分に迎えに行く。寝坊しないように

 

後藤ひとり

:わかった。

 

優くん(幼馴染)

:じゃあ、おやすみ

 

後藤ひとり

:おやすみ。

 

 

「ヘヘ…おやすみロイン……カップルみたい。やっぱり、私だとこれ位の関係性が精一杯だよね。それでも幸せだけどさぁ。」

 

優くんはアイドル並にイケメンで優しくて高身長で頭が良いとかなりの高スペック男子だ。

根が陰キャでヲタク趣味という欠点はあるけど、私ほどコミュ障じゃないし、ヲタク趣味に理解のある可愛い娘だって沢山いそう。

 

家が隣で親同士が友達という、神に与えられたかのような立場じゃなかったら、私なんて関わることも出来ないような人間だ。

 

「昔の時代に産まれたかったな……そしたら優くんと許嫁になれたし、私を苦しめるSNSだって存在しない。専業主婦にもなれる……」

 

私はトーク履歴を辿り、彼と撮った卒業式の時の写真を見る。

 

妹も優くんに抱き付いて笑顔で、お父さんもお母さんも笑顔で、優くんのお母さんに無理やり優くんとくっつけられた私はキョドりながらも笑顔で、そんな私を横目に微笑む彼。

 

クラスの集合写真の死んだ目をしている私じゃない。

 

蝋燭の火のような、私には勿体ない位暖かな日常を切り取った宝物の写真。

 

だけど、わかっている。

この日常は有限だ。

 

今は優くんが彼女を作る気が無いから、私との時間も作れている。

ご近所さん同士の子供が遊ぶ様な関係を続ける事が出来ている。

 

だから、私は自分の心を押し殺して、否定して、この蝋燭の火を不意に消してしまわない様に、大事に大事に守っている。

この蝋燭が燃え尽きるまで、ずっと守ると心に決めている。

 

 

液晶の中にいる彼の顔に触る。

 

「イケメンじゃなくて、いいのに。」

 

そしたら、私なんかでもお付き合い出来たかもしれないのに。

 

 

いつの間にか目から溢れてきた涙を拭う。

「私、優くん関連だと本当に情緒不安定すぎる。」

 

だけど、後藤ひとり15歳。伊達に今日まで、この押し問答を長年繰り返して来たわけでは無い。

 

私は押し入れに戻り、ダンボールの中から、一通の封筒を取り出す。

 

『メンタルが死んだ私へ』

 

こんにちは未来の私。

私は今絶望しています。

優くんと私がお付き合いする未来がどう考えてもありえないからです。

でも、今日いい歌に巡り会えて、私の目指す道がはっきりしたので、未来の私が落ち込んだ時、励ます為にこの手紙を書きました。

私に勇気をくれた歌はこう歌っていました。

「最後に笑えればいい」

そう。私は優くんと結婚する事を目標にします。

だけど、私には魅力が無いので、優くんを金で養う事を目標にします。

 

私はこれから夢の印税生活に向けて、ギターの練習を始めます。

社会にも出たくないし、頑張ろう!

 

そして、封筒に入っている、優くんの隠し撮り写真BEST3を眺めて、気持ちを高めていく。

 

「深夜テンションで手紙を書いちゃったけど、意外と使える。元気出る。」

 

私はギターを手に取り、ヘッドホンを着けてメトロノームを鳴らす。

 

「よし、やるぞ。」

 

 

とりあえず、

 

同じクラスになりますように。

同じクラスになりますように。

同じクラスになりますように。

同じクラスになりますように。

同じクラスになりますように。

同じクラスになりますように。

同じクラスになりますように。

同じクラスになりますように。

同じクラスになりますように。

同じクラスになりますように。

同じクラスになりますように。

同じクラスになりますように。

同じクラスになりますように。

 

私は幼馴染との良縁を神に願いながらギターの練習をするのだった。

 

 

 

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