陰キャリア充なひとりちゃん   作:粉物を作る時のダマの様な存在

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2連符目 私は芋なのでダンボールに籠ります。

 

翌朝、私は鏡の前で硬直していた。

 

「わたし……イモすぎ。」

 

目にかかるくらいの整えられていない前髪。

無造作に伸びた長髪。

血色の悪い、病的に白い肌。

それに引きたてられる寝不足の隈。

リップを付けたけど、今日だけではどうしようもない乾燥したカサカサな唇。

 

一度気になれば、色々気になってきてヤバい。

むしろ、今までなんで気にとめて無かったんだろう。

 

優くんに初めて見せる制服姿だと思って、鏡の前で念入りに確認しなければ良かった。

 

高校生活のスタートがこんなので良いんだろうか?

 

良くない。

良くない。

良くない。

 

しかも、最悪の場合……

 

「俺、お前みたいな芋女と一緒に歩きたくない。」

 

とか言われるかもしれない。

 

そんなこと言われたら……

 

 

絶命してしまう。

 

 

いや、優くんなら絶対そんなこと言わないけど!わかってるけど!優くん好き!マジ天使!

 

けど……心の中までは分からないよなぁ。

 

「俺はいつまでこの芋女幼馴染の面倒をお隣さんのよしみで世話しないといけないんだ。」

とか思われてたら、本当に死んでしまう。

 

「そうだ。1週間位学校休んで、メイクの練習をして登校しよう。そしたら、ある程度グループも出来上がっているだろうし、陰キャっぽい所に入れさせて貰えるかも。」

 

この作戦、いいんじゃないかな。

なんで1週間も休んでたのー?

とか聞いてもらえそうだし。

話題性ばっちり。

そうと決まれば。

 

「お母さん。やっぱり高校行くの1週間くらい遅らせる。」

 

「え!?」

 

「じゃあ、そういうことだから。」

 

ごめん。お母さん。

でも…私は最高の状態で高校生活をスタートさせたいんだ!

 

「ひとり、高校生活が不安なのは分かるわ。けど、優くんもいるんだからきっと大丈夫よ。」

 

いや、優くんがいるからこそ休みたいんだけど…

 

「ごめん。でも……もう決めたことだから。」

 

私は引き留める母を置いて、自分の部屋に戻り、押し入れの中のノートパソコンを引っ張り出した。

 

「今はYouTubeでなんでも調べられる時代。メイクを習得するのだってギターに比べれば簡単なはず……」

 

「よし、今日から1週間忙しくなるぞ!」

 

\ピンポーン/

 

やばい!優くん来た!

メッセージ送らないと。

 

後藤ひとり

:ごめん。今日から1週間学校行かない。

 

優(幼馴染)

:今行く

 

今行く?

もう家に着いてるよね?

もしかして……部屋に来るの?

 

ヤバい!

私は押し入れに引きこもった。

 

タンタンタンと階段を上がってくる音が聞こえる。

 

「ひとり。入るよー。」

「ダ…ダメ」

「着替えは終わったの?」

「イチオウ…」

「じゃあ、遠慮なく。」スパン

 

アイツ、乙女の部屋に許可なしで入ってきたんだけど!

 

「やっぱり、押し入れの中か」

「ウジ虫ですいません……」

「いや、そこまで言ってないから。

ほら、ドラちゃん出てきなさ〜い。」

「コ…ここは開けちゃダメだから。」

「開けちゃダメって、押入れから出てこないと学校に行けないよ。」

「ガ…学校は行かない。1週間位。」

「ひとり、初日から行かなかったらどんどん学校に行くのが辛くなるよ。」

「それはわかってる。ケド…1週間あれば大丈夫。」

「なんなの。その1週間に対する自信は……」

「1週間なら、まだ巻き返せる。たぶんグループも出来上がって、陰キャグループに入りやすくなると思う。1週間何してたのーっていう話題も出来る。」

「また、取って付けたような理由を……そんな都合のいい事なんて無いって分かってるよね?」

 

え?そうなの…?

でも優くんが言うなら、そうなんだろう。

コミュ障の私なんかより、優くんはそういう事に聡い。

 

何も言い返せない。

でも……こんな私を見せたくない!

 

「別にいいじゃん。私の事なんて……」

「ハァ……じゃあ、せめて襖を開けてくれないかな?なんか距離を感じる。」

 

絶対めんどくさい女だと思われた!

絶対めんどくさい女だと思われた!

 

というか、その言い方は狡くない?

 

「ィ…イヤ。」

 

顔なんて、今1番見せたくない!

 

「じゃあ隙間だけでも開けてくれない?ちゃんと話し合おう。」

 

「それくらいならいいけど……」

 

私は3センチ程の隙間を開けて、

ピシャン

すぐ閉めた。

 

「え!?なんで閉めるの!?」

 

ヤバイ…やばい、やばい、やばい…

優くんがカッコよすぎる!

制服姿が新鮮!

なんか、大人っぽく見える!

 

私なんかの幼馴染がこんなにかっこいいはずがない!

 

「ご…ゴメン。やっぱりこのままでお願いします。」

 

「しょうがないか……」

 

すいません。耐性付くまで直視できないです。

 

「で、なんで学校に行きたくないの?」

「イ…言いたくない。」

「なぁ、ひとり。学校行くのが怖くなったのか?

俺も結果的には同じ高校に通う事になったんだし、できる限りサポートしたいと思ってるんだけど……」

 

ぎぁあああアアアアァ

そんな優しい声で話しかけないでぇ

ただ、高校デビューする準備期間が欲しいだけなのぉ。

 

罪悪感が凄い。

 

「ア…イヤそういうワケじゃ無くて…」

「やっぱり、俺だと力不足かな……」

 

アヴァ、それ いい!

その根っこの思考回路が陰キャな感じ!

親近感湧く〜、キュンキュンする!

 

だけど罪悪感で押し潰されそうです。

 

「違う!!! ア…コエオオキスギタ」

「本当か!」

「うん……優くんは本当に頼りにしている。失礼かもしれないけど、優くんが第1志望の高校に落ちて、私と同じ高校に通うって知って……凄い嬉しかった。」

「それは失礼だね……」

「ご…ゴメン」

「いや、嬉しいよ。学校は怖くないのか?」

「うん……怖くない。高校生活は楽しみにしている。」

「そっか…安心したよ……おばさんにだったら、行かない理由をちゃんと話せそうかな?」

「お母さんだったら……大丈夫。」

「じゃあ、呼んでくるから、ちょっと待ってて。」

 

そうだよね。流石に理由も言わないで学校に行きたくないなんて、心配させるよね。

 

恥ずかしいけど……お母さんにはちゃんと説明しよう。

 

私は押入れから出て、2組のクッションを用意し、片側に座った。

 

「ひとり。入るわよ〜。」

「うん。」

 

部屋に入ってきたお母さんは私の反対側に座る。

 

「ヨイショっと。お母さん、ひとりがちゃんと話してくれて嬉しいわ。それで、どうして学校に行きたくたいの?」

 

「その……学校に行きたくないとかではないの。ただ……コ…高校デビューしたくて……その準備期間が欲しいだけなの……」

 

「……それは春休みにすることだと、お母さん思うなぁ」

 

「いや、そうなんだけど……なんというか気付かなかったというか……今日優くんに制服を見せる日だと思ったら、急に気になってきて……」

 

「あら〜。そういうことなら大丈夫よ!ほら、ひとり、立って立って。」

 

「?…うん。」

 

立った瞬間、いきなりお母さんに抱きしめられた。

 

「チョ……お母さん…恥ずかしいって。」

 

「いいのいいの。ひとりも立派な女の子ね。背も私と変わらなくなって……大丈夫よ、ひとりは可愛いわ。」

 

そう言って、お母さんは私の頭を撫でる。

 

…なんか複雑な気分だけど、凄い安らぐ。

これがお母さんパワー。

 

と、フワフワしていたら、急にお母さんが抱きしめる力を痛い位に強めてきた。

 

ぇ?

 

「ゆうくーん!!上がってきてー!!」

「チョチョチョちょっと、お母さん!?何してるの!?」

「ひとりなら大丈夫よ☆」

 

大丈夫じゃないから!

本当に大丈夫じゃないから!

 

まずい。

お母さんに捕まって、押し入れにも逃げられない!

 

「いや!お母さん本当に離して!」

「ふふ。だ〜め。」

「いやぁぁあ!やめて〜!」

 

優くんが部屋に上がって来るまでの間、私はなんとか角度を変えて、入口と私の間にお母さんを置き、優くんが見る方向から隠れることしか出来なかった。

 

「ひとり、入るよ〜。」

「ダメ!!!」

「気にしないで〜。」

「じゃあ、遠慮なく」スパン

 

だから!なんでアイツ許可なしで入ってくるの!?

 

「ひとり!押入れから出たんだな!それに、解決したみたいで良かったよ…そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに。」

 

何も解決してないから!

そんな感動的な理由で抱き合ってるワケじゃないから!

お母さんと抱き合ってるのが恥ずかしいワケじゃないから!

拘束されてるだけだから!

 

「優くん、ありがとね〜。あとは最後のおまじないだけよ。」

 

そう言ったお母さんは私を半回転させて自分と同じ向きにした後、私と一緒に振り返って優くんの方へ向いた。

 

力が強い!目回りそう!

 

お母さんやめて!!!

私を優くんに見せないで!!!

 

「優くん。ひとり、可愛いでしょ?」

「はい。ひとり、似合ってるよ。」

 

え?

 

私は拘束の緩くなったお母さんの手から抜け出して、優くんに詰め寄る。

 

「本当?」

「嘘なんてつかないよ。似合ってると思う。」

「あ…イヤ…そっちじゃなくて…、イヤソッチモナンダケド…ウヘヘ」

「ん?あぁ、可愛いよ。」

 

 

「うへ。うへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへ」

 

「あー…壊れちゃった。おばさん、ありがと。」

 

「こちらこそ、いつもごめんなさいねぇ。優くんのおかげで正直に話してくれたわ。ありがとう。これからも面倒見てあげて。」

 

「任せてよ。ほら、ひとり、時間押してるから早く行くぞー。」

 

「うへへへへへへへへへへへへへ」

 

「行ってらっしゃい。私達も後から車で行くからね。入学式、楽しみにしてるわぁ。」

 

「はい。行ってきます。」イッテキマス

 

 

ま、まぁ。優くんがそのままで良いって言うなら、それでもいいかなぁ〜。

 

やっぱり、メイクとか美容室とかってお金とか時間もかかるし?私はギター頑張んないといけないし、もし可愛くなって、優くん以外の男子から告白とかされても困っちゃうし ?それにもし結婚を目指すのであれば、すっぴんを見せることの方が多いいんだから、見せかけの虚構に何の意味があるんだって話だし?それにどうせならメイクとかキラキラした事が苦手な素の私を受け入れて欲しいし、やっぱり内面を磨いていくべきだよね!だいたい今は離婚も当たり前の時代になってきてるし、外見ばっかり磨いてもしょうがないというか、幸いお母さんとお父さんには家事とかもけっこう叩き込まれているから、メイクとかイソスタとか盛れる写真とかばっかりに時間を注ぎこんでいるイケイケ女子達には生活力という一点では勝ってるし?やっぱり結婚を目標にするなら一緒に居てストレスがない人を目指すべきだと思うんだよね。帰ってきて部屋が汚いとか優くんも嫌だと思うし?毎日のご飯が不味いとか地獄だろうし?それに優くんも私のギターを聞くのが心地良いって言ってくれてるし?無言でも気にならない関係というか、熟年夫婦みたいな感覚が私達にはあるし、それにもし可愛くなりすぎてリア充グループに入るなんて事があれば優くんとの時間も少なくなっちゃうし?

それに!………etc

 

 

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