陰キャリア充なひとりちゃん   作:粉物を作る時のダマの様な存在

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4連符目 私が、友達100人できるかな♪と歌ったら誰もいなかった。幻の101人目は私

へへへ、優くん私に歩幅合わせてくれてる。

 

私は、ファブリーズでビショビショになったブレザーを抱えた優くんの後ろを歩いて、学校へ向かっていた。

 

こういう、私達だけしかわからない関係性みたいなのっていいよね……

 

まぁ、そんな後ろを歩いていると、周りの声もちょくちょく聞こえるわけで。

 

「あの人、電車で見たけど凄いイケメンだった。」

「ほんと?背も高いし。レベル高いね。」

「たぶん新入生だと思う。」

「1年うらやま。」

 

とか

 

「あの人、ウチらと同じ新入生だよね?」

「たぶん。明らかに荷物量が多い。」

「だよね!同じクラスになれないかなぁ。」

「わかる〜。」

 

わかる〜。

私も同じクラスがいいなぁ…

お互い不干渉だけど、やっぱりクラスで顔を見れると、精神の安定が違うよねぇ。

 

あの子、こういうこと話してたから、こういう風に話しかけたら?みたいなアドバイスもしてくれそうだし。

 

優くんと同じクラスになりますようにいぃぃぃぃぃぃぃ

 

·····

 

はい。ダメでしたっと。

そんな気はしてた……

 

そうだ。高望みをするな、後藤ひとり。

優くんと幼馴染ということが、最大の幸運。

私は既に勝ち組側なのだ

 

 

そして、ついに私は決戦の場所……教室の前に立った。

 

私は携帯を持ちロインのトーク画面を開く。

 

優(幼馴染)

:頑張れ

 

よし。

 

私は気合いを入れて教室に入る。

教室の皆が私を横目でチラチラ見るのがわかる。

 

ひぃ!

そんなに私を見ないでぇ……

 

久しく感じていなかった多数の視線に怯えながら、私はなるべく周りを見ないように、黒板の前まで歩いた。

 

黒板に張り出された自分の席を探す。

 

えっと。黒板側が上だから、あそこらへんかな。

私は自分の席に目を向ける。

 

最悪……

もう結構グループが出来始めている。

 

ヨダレの一件のせいで、学校に着くのが学校開始の10分前となってしまった私達。

 

完全にスタートダッシュを切り損ねていた。

 

私は緊張しながらも、大人しく席に向かって、自分の席に座る。

 

 

やっぱり話しかけられない……

 

皆、他の人と話す事に夢中だ。

 

そうだよね……

私なんて…皆興味無いよね…

 

そもそも私の存在って認知されてるのかな?

 

 

いや、ヘコ垂れるな!後藤ひとり!

 

まだ、左斜め前の人だけクラスに来てない。

まずは、その人と友達になろう。

 

こんなギリギリに来るなんて、私と同じで人と関わる事が苦手な陰キャのはず……

 

それから数分後、ガララと扉が開く。

 

来た……女子!

絶対あの子が私の左斜め前の子だ!

 

見た目は、微妙な雰囲気だ。

陰か陽かわかんない。

 

「みんな、よろしくね〜」

 

あ。絶対陽キャだ。

 

陽キャじゃなきゃ、手をヒラヒラさせて挨拶しながら席に向かうなんて出来ない。

 

というか、挨拶って初対面の人ともするの?

私、何もしてないんだけど。

 

もしかして、私って非常識人間?

 

だから話しかけて貰えない?

 

やっちゃった!!

 

 

……いや、そもそも私が他人と挨拶なんて高等技術が出来るはずが無い……。

 

落ち着こう。後藤ひとり。

これから、挽回しよう。

 

むしろ、陽キャでよかった。

 

陽キャなら絶対、周りとロイン交換しようってなる場面があるはず……

 

そこに自然な感じで私も参加して、会話に混ぜて貰えばいいのだ。

 

私はロインのふるふる機能を準備して、その時を待つことにした。

 

こ……怖い……

私の足が先にふるふるしてきた。

 

自分から話しかけるなんて、幼馴染と家族以外にした事がほとんど無い……

 

そもそも私なんかが陽キャと仲良くして大丈夫なのかな。

イジメ…られないかな……

 

体が冷えていく

足の震えが強くなっていく

どんどん思考が悪い方へ流れていく

 

そんな時、スマホにロインのポップアップが流れる。

 

優(幼馴染):大丈夫

 

え?

驚いた私は教室の入口を見る。

そこには誰もいなかった。

 

「さっき通ったのって、噂のイケメン君?」

「だと思う…長身だったし。」

「3組の人でしょ?」

「そう。ウチらは2組だからニアピン賞だね。」

「そのニアピン賞になんの価値が……」

「ウーン。選択科目で同じクラスになる可能性がある位かな…」

「前言撤回。ラッキーだった。」

「わかる〜イケメンは目の保養。」

 

あ……やっぱり私の事見てたんだ。

 

わざわざ私の様子を確認しに来てくれたんだ………

 

う…嬉しい……

口角が上がってくる。

 

変な人だと思われないように、必死に口元を引き締めた。

 

さっきまで、かなり精神的には底の方に居たので、喜びの感情が溢れてくる。

 

いやいやいや、都合良く解釈しすぎだ私…フヘヘ…何か別の用事があったんだろう。

 

でも、ファブリーズ買いに行った時にトイレはしてたし、飲み物は水筒派だし…性格的に他のクラスの顔を見て回るなんてありえないし……

 

やっぱり、私の事気にかけて見に来てくれたの…かな?

 

なんだろう、すごく暖かい。

1人じゃないって思える……

私が震えてるのに気付いてくれたのも凄く嬉しい。

 

けど、私って優くんに元気貰ってばっかりだなぁ。

私が優くんの為になった事なんてあるのだろうか?

 

……彼女になれなくても、結婚出来なくても、この恩だけは返していきたい。

 

まずは優くんを安心させよう。

 

私は大丈夫だって、成長したんだって、友達を作って証明しよう。

頑張れ……私!

 

「ねぇ。ロイン交換しない?」

 

来た。あそこの会話に私も混ざる!

 

「いいよー。学年グループには入ってる?」

「いるよー。」

 

…?………学年グループ…?

 

え……なにそれ?

私って既にハブられてる?

 

あなた、さっき来たばっかりですよね?

 

え…なに…私と優くんだけ田舎だから、2日目登校でしたとか?

そんなハズないと思うけど……

 

「えーアイコンかわいい!」

「ありがと〜。そっちも可愛いね。」

「ありがと!クラスのグループに招待しといたよ!」

「どうも〜。じゃあ、皆のも追加しとくね〜。」

 

あ。終わった。

 

\キーンコーンカーンコーン/

 

 

終わった………

 

 

 

私のロインだけがふるふるの待機画面だった。

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

 

私は今、体育館前の廊下で入学式の待機列に並んで座っていた。

 

終わった……

どうせ、私は幼馴染以外とはまともに話す事も出来ないコミュ障陰キャですよ……

 

あの後ホームルームで自己紹介があったけど、誰も私に話しかけてこない。その事実が誰の興味も得られなかった事を私に痛感させてくる。

 

せっかく優くんと練習したのになぁ。

 

こんな何の成果も出せないゴミみたいな自己紹介に貴方の時間を使わせてしまい、申し訳ございません……

 

 

クラスの列で皆が世間話をしてる中、私は俯いていた。

 

 

惨めだ………

 

なんでみんなこういう時、普通に話せるのかな?

私はこういう式とかの待ち時間って普段の3割増し位で胸が痛くなるんだけど…

 

俯いていたら、いつの間にか入場が始まる。

 

やっと、この苦しみから解放される…

 

私が列に並んで歩きながら進んでいると、丁度よく保護者席に座る両親と妹を見つけた。

すると私と目が合った3人が手を振ってきた。

 

あ〜。少しメンタルが回復する……

私、生きてて良いんだって思える〜。

 

そうして私のクラスが並び終わって着席した後、今度は優くんのクラスの入場となった。

 

そしたら周りもざわめき出す。

 

「そういえば、このクラスにイケメンがいるらしいよ…」

「あの人かな?やば、かっこいい」

 

噂になるレベルってやっぱり凄いよなぁ。

 

知ってますかお嬢さん。

その人私の幼馴染なんですよ。

 

ちょっとだけ優越感を感じた後、私は優くんが入場し、歩いているみたいなので、振り向いて様子を観察する。

 

優くん……なんか、ピリッとしている?

何かあったのかな?

 

そんな風に幼馴染を観察していると、聞き覚えのある声が体育館に響いた。

 

「ゆうくーーーーーーーん!!」

 

妹の声だ!

 

両親が居た場所を急いで見てみると、両手をブンブン振って、猛アピールしている笑顔の妹がいた。

 

は……恥ずかしい。

私だったら、絶対真似できない…

 

本当に私の妹?

性格が真逆すぎる…

 

そしたら、優くんが今までの真面目な表情から一変して、とても柔和な笑顔で妹に手を振り返す。

 

その瞬間、保護者席から生徒席までざわめきが走った。

 

「ヤバ、かっこよ。推せるわ。」

「え?見えなかったんだけど。何があったの?」

「あのクラス羨ましすぎる。」

「あのちっちゃい子、可愛いい〜」

「イケメンは罪」

「わかる。」

 

などなど。

 

ちなみに私は…

 

「へへ…ふたり、ありがと。」

 

バッチリとその姿を盗撮したのだった。

 

学校シチュでの妹に向ける笑顔も趣があっていいよね。

 

 

そんな感じでホクホクしながら、自分の世界に入っていると、長い校長の話とは違い、聞き流す事が出来ない音声が私の耳に飛び込んできた。

 

「生徒代表、普通科、3組、高咲優。」

 

「はい。」

 

「ェ?……ンン、グフグフ」

 

ヤバい!変な声が喉から出た!

私に発言権なんて無いのに!

 

私は急いで両隣を横目で見て、確認するが誰も気付いた様子が無い。

 

というか、周りもかなりザワついている。

私の声はその中に紛れ込んで気づかれなかったようだ。

 

「あいつ完璧かよ……」

「え…3組って、普通のコースだよね?難関選抜コースじゃないよね?」

「神は不公平。」

「漫画みたい……」

「惚れた。」

「ドンマイ。絶対に叶わないよ、それ。」

「あれが天才か…」

 

いや、優くんはちゃんと努力もしてるから!

通学の時間は全て勉強時間にするって言ってたし。

 

そういえば…この高校受ける時、第一志望の高校の試験のために難関選抜のテストを練習で受けたって言ってた……

 

まさか、生徒代表に選ばれる程の高得点を叩き出しているとは……

 

代表挨拶するって、教えて欲しかった……

おかげでかなり焦った。

 

壇上で喋る優くんを見る。

 

かっこいいな……

 

私はただただその姿に見惚れていた。

 

 

式の締めだった優くんの挨拶も終わり、私はある事を思いながら、入学式を退場していった。

 

 

私なんかの幼馴染がハイスペックすぎる……

 

 

 


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