ED前のお話です!
※ネタバレ注意!
※鈴芽は出て来ません!
「え~、そんじゃまあ、採用試験合格おめでとう自分!乾杯!」
「......」
カツンと弱々しくグラスが鳴る。
少し後ろの席の女性客がざわつき出したことに腹が立っていないと言えば噓になる。当てつけと言わんばかりに3割増しのトーンで高らかに叫んでやった。草太ざまあみやがれ。
しかしまあ、彼の容姿にキャッキャする様にイラつくよりも、物思いにふけたツラして何かに悩んでいる様子にムカついた。
「なあ、俺一足先に受かってんだけど?酒がまずくなるんですけど?」
「オメデトウ」
「試験前に九州まで出掛けたお馬鹿さんありがとう」
「...はぁ」
「あ~~、腹立つなあ!なんだよ、すずめちゃんがどうしたんだよ」
「なっ!?」
一瞬でアルコールが回ったように頬を染める顔が無性に腹立つ。
ただ、コロコロと表情が変わる草太は今まで見たことが無かったから妙に新鮮だった。
いつもいつも澄ました顔して、自分の事は二の次のように考えるこの男には出会ってから半分以上イラついてばかりかもしれない。
「な、なんでそこで鈴芽さんが出てくるんだ?!」
「お前等が会わなくなってから2ヶ月、格好つけて稼業があるからと途中で別れたはいいが連絡先も聞いていない、学校を休んでまで九州から東北までの横断を成し遂げたのにお礼も返さずそれっきり。あ~可哀想になあ、脚とか傷だらけで服もボロボロだったらしいぞ?あれ、誰のためにここまで頑張ったんだっけ、なあ?」
「うっ....」
これくらい言ってやってもいいだろう。罰は当たらないさ。
詳しくは知らない、別に聞こうとも思わない。なぜ人に興味無いコイツが田舎の女子高生とつるみ始めたのか、なぜ急にいなくなったのか、なぜ急に戻って来たのか。
そんな疑問だらけの中でコイツと一緒に居たが、あんな不思議体験させておいて話さないということは、まあ、触れられたくない事情なんだろう。
けどな、その分こういう話題に関しては性格悪く行くけどな?
「今頃クラスの男子と進路相談なんかして、え?〇〇君も?一緒に勉強頑張ろうねとか言っちゃって、頭も愛も育むんだろうなあ。あ~、青春してえ」
「....」
「あ~あ、あの子の行動力なら海外に留学しますとか普通に言っちゃいそうだし、なんならもう会えないかもしれないなあ?」
「....」
凄い唇噛んでるし手握り締めてるけど、試験まで1週間切って九州に一人旅行くお前の行動力もなかなかだぞ。誰か、仙台まで闇深い家族と猫二匹連れて運転してやった俺を褒めて欲しい。頼む。
「...芹澤、俺は、彼女に会っても良いんだろうか」
「は?」
「彼女はまだ高校生で進路を決める大事な時期で、約一週間も彼女の大事な時間を奪ってしまった前科があるのに、またタイミング考えずに会って、邪魔にならないか?」
「....」
「なあ、せりざ...」
「お前は、会いたくないのか?」
その想いだけで、お前が彼女のことをどう思ってるかは分かった。
腹が立つけどなあ。
だから後は、お前次第だろ。羨ましい奴だ、本当に。
「迷惑だと思ってる奴追いかけてあんな真似しねえよ。お前はどうなんだ?」
「俺は、、会いに行きたい。もう一度お礼がしたい」
生気あるコイツの顔を見るのは悪い気がしない。
そう思い始めたのは、あの不思議な彼女と出会ったのが境だろう。
進んでいなかった酒をぐびっと喉を鳴らしながら流し込む姿は迷いが無さそうだ。
改めて、おかえりと言いたくなったのは気のせいにしておく。
もう一度お礼を言ってこい。はよ付き合え。
「明日、行ってくる」
「明日!?」
「芹澤、行ってきます」
「まじかよお前」
彼等が会うまで、あと12時間。
アホみたいな友人に笑いがこみ上げる。
「行ってら、草太」