文豪ストレイドッグス ~少年の日の思い出~   作:しじみ酢

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ポオとの日常回です。


第四話。横浜探訪

「暫く乱歩君用の執筆活動に追われて、中々お見舞いには行けなかったが……体調はどうであるかな」

 

ボスと入れ替わる様に、ボクの部屋に訪れたのはあのポオであった。

 

それも何故か、高級ホテルの高層階の窓から。

 

ポオが勢いよく窓を開けた途端、物凄い爆風がボク達を襲ってしまう。

 

「え、こ……此処、結構高いのにどうして。……そもそも、こう言う所の窓って開くの。あと寒い」

 

「いきなりそんな野暮な事を言っている様では、我輩に小説を書いて貰おう等と百年は早いぞ」

 

しかしそう言う割には、本人も風でなびく前髪が邪魔だったらしく、直ぐに窓を閉めてボクの部屋に入る。

 

「そ、そうだ。そう言えば……あれから、ポオさんは大丈夫だったの」

 

「ああ、咄嗟に小説世界へ避難したからな。我輩はこれでも裏社会の人間。常日頃から、襲撃される際の備えは出来ている。やはり爆破襲撃用の耐熱特化書物は、常に欠かせないであるな」

 

さらにポオはお見舞いの品として、バスケットの中にたんまり入ったフルーツと書物の盛り合わせを持ってきてくれた。

 

「ポオさんまで……優しい。しかも、いつもと違ってボクによく話しかけてくれてるし。ど、どうなってるの」

 

「し、新人君は、我輩を何だと思っているんだ。まあ……このお見舞いの品は、あの時騙してしまった事の謝罪も込めてだが」

 

「騙してしまった……って、どういう事?」

 

「いや、何でも無い。それより……その、芥川君について話そうでは無いか。あ、お見舞いの品は、適当な床に置いておこう。インテリアが……ほぼ、見当たらないであるからな」

 

そう言って、【彼等】について触れづらそうな目で、彼はフルーツと書物盛り合わせセットをボクの足元にまで置く。

 

しかしそんな事よりも突如として現れた芥川の名字にボクは思わず、眼を見開いてしまう。

 

 

「え、知ってるの? 芥川君の事」

 

 

「ああ……実は、悪いと思ったがボスとの会話を聞かせて貰った。それも、窓際で本に隠れながら。中々に興味深かったので、我輩が逆に芥川君について聞きたいのだよ。もしかしたら、良い展開が思いつくかもしれない」

 

そう言うポオは、明らかに何かを考えている企み顔であった。

 

「と言うかどんな経緯で、窓際で本に隠れてたの」

 

「えー……ちなみに、このお見舞いの品の書物には耐風特化書物もあるが……いかがかな? 高層建築物のビル風にも余裕で耐えられる事はつい先程、証明済みであるぞ」

 

「……明らかに誤魔化してるね。まあ、後で絶対読んであげる」

 

ボクはポオさんに求められたのがかなり嬉しかったので、そのまま話す事にした。

 

芥川君を、新たに【彼等】の仲間として迎え入れたいと言う事を。

 

 

 

 

「【彼等】とは……この針に塗れた趣味の悪いマネキンであるか……。以前から見た事はあったものの、闇が深そうだった故あまり触れない様にしていたのだが」

 

そう言ってポオは、懐疑的な眼で部屋中の【彼等】に近づく。

 

「ああ……沢山、自慢のお気に入りが居るけど安心してね。決して、ハーレム系が好きとかじゃないから。ボクは【彼等】をお友達として愛してるんだ。友達は一杯居た方が賑やかで楽しいでしょ?」

 

「そ、それは人それぞれだと思うであるが……。う、うむ……」

 

するとポオは何故か、強引に話の流れを変えてしまう。

 

「おほん。では、話を芥川君に戻そう。……我輩としては一つ、君に提案をしたい」

 

「え、何……」

 

さらにポオは、完全に【彼等】の下りを無かった事にして案を勧める。

 

「どうだ。我輩と協力して、乱歩君と芥川君を一緒に追わないか?」

 

「つまり……此処から抜け出して、横浜へ向かうって事?」

 

「悪い思いつきでは無いだろう。あの……我輩とて、誰かに会いたいとか、誰かに刺したいとか、えー……新人君の気持ちは十二分に理解出来る。き……君の、手助けをしたいのである! これは乗っかった方が得であるぞ、新人君」

 

かなりの動揺からか、慣れない嘘からか、何ともポオからはぎこちない笑顔が見える。

 

「まあ、断る理由は無いよ。だって元から、ボクは行きたかったんだから。ポオさんと横浜探訪」

 

 

 

 

 

 

 

――横浜探訪。

 

実に甘美な響きに満ちている。

 

それだけでボクがボスの言いつけを守らないで、外出する理由にはなるだろう。

 

 

 

 

 

 

――なので思い立ったが吉日の言葉通り、ボク達は横浜に到着していた。

 

初めて来たにも関わらず、何とも懐かしいモダンな雰囲気を演出してくれる横浜にボクは心が踊っていた。

 

「ちょ、ちょっと……我輩、こう言う人混みが多いところは苦手である」

 

一方でポオは客船やホテルのアジトの時とは、ほとんど様子が違っていた。

 

まるで借りて来た黒猫の様に、ボクの後ろでカールにひそひそ話しかけながら怯えていた。

 

「そ、それも知ってる。だからボクが代わりに乱歩君、と言うか探偵社について聞き込みするから……」

 

正直、二人で乱歩君と芥川君の捜索を協力すると言っても、やる事は単なる聞き込み。

 

しかもポオさんは大の人見知りの為、その単なる聞き込みすらままならない始末だ。

 

正直、ポオの手に乗るカールの方が、客寄せの為の聞き込みに役に立ちそうな程だ。

 

「も、勿論……教育係の威厳を保つ為、アドバイスは施してあげよう……。表立って色々と聞いてしまうと、我輩達のボスが嗅ぎ付ける恐れがあるから気を付けるのだ。それにマフィアや探偵が、先に我輩達に勘付かれる恐れもある」

 

「た、確かにそうかも。え……どうしよ」

 

 

なんと聞き込みを開始する前から、ボク等はじっと考え込んでしまった。

 

 

 

「まさか……ポートマフィアどころか、探偵社の場所さえ分からぬとは。流石強敵共が集う魔都と言ったところである。ああ、恐ろしい所であるな。横浜は……」

 

「……か、関係ないと思うけど」

 

しかしそれから、何も良いアイディアが出る事は無かった。

 

暫し沈黙の後、空気に耐えられなくなったポオが歩きながら呟く。

 

「とりあえず、今後について喫茶店で会議を実行するとしよう。コーヒーをお供に読む推理小説、これで心を落ち着かせるであるぞ」

 

「あ、ボクは苦いの飲めないから」

 

「そ、そうか……成程。そうか……」

 

するとさらに、ボクと彼で沈黙が流れてしまう。

 

「そうだな、それはそれとして……前々から気になってたから言うのだが何故、我輩のファンなのだ。別に他にも作家とかは居るはずであろう」

 

「勿論、ポオさんの人柄! だから、ボクの理想のハッピーエンド小説も書いてくれるはずだって……!」

 

それにポオは、無駄に喫茶店を探す素振りを見せながら話を続ける。

 

「うむ……それは当時から聞いていたが、具体性があまりに無さすぎるであるな。もう少し情報が無いと我輩も書けぬぞ。書かぬけど」

 

「ぐ、具体性……。えーと……ボクは……血反吐を吐く様な努力の末に、大団円ハッピーエンドが好き、とか? 後、青春に満ちた甘酸っぱいラブコメも好きだよ」

 

「新人君の好みを聞いたつもりは無いのだが……。ただそう言うのは、努力、友情、勝利に満ちた少年漫画がお勧めであるな。中々面白い読み物であるぞ、漫画と言うものも。それと、我輩としてはミステリーも捨てがたい。特に眼鏡を付けた少年の探偵が……」

 

「あの、ボクは小説派……だから」

 

ちょっと何だか危ない匂いがしたので、ボクは遮る様に反論を提示する。

 

「しかし人気作品だと、漫画の小説化も為されているらしい。我輩もそう言った経緯から、漫画を嗜む様になった訳である。我輩も元は作家が故、色んな書物に視野を広げる事で……」

 

「あ、あの……な、なんで心理描写を書く事が多い作家が、僕の心を此処まで理解出来ないの」

 

するとあまりにポオが鈍感過ぎて、思わずボクは本音をぶちまけてしまった。

 

「……そ、そんな事は無いぞ。我輩だって芥川と言う人物への憧れを、十二分に理解しているからこそ、君とこうして話しているつもりなのだ……! そうだ、折角だ。……喫茶店では無く、自動販売機でコーヒーを飲もうではないか。たまには、缶コーヒーも乙なものであるな!そうだ!」

 

「……は、話そらした。ちょっと声裏返ってるし」

 

「そらしてない。断じてない。我輩のアライグマ、カールに誓ってあり得ないのである……!」

 

ボク等のやり取りに、ポオの手に乗る肝心のカールはきょとんとしている。

 

「で、ではコーヒーを自動販売機で飲もうか。しかし……苦いのは嫌なのか。では違う飲み物を……」

 

 

 

「……良いよ、別に。とびっきり苦くても」

 

 

ボクは純度100%の優しい瞳で、彼に応える。

 

「さ、さっきは嫌と言っていたでは無いか。わ、分からぬな……。では、同じ飲み物を買うとしよう」

 

「うん、ありがと。……じゃあ、ボクこれが良い。見た感じ甘そうだし」

 

ボクは丁度、近くに置かれていた自動販売機の一番上の列で鎮座するコーヒーに指を差す。

 

「いや、君が選ぶのであるか……」

 

「え、だってボクの背じゃ届かないよ。押して」

 

「しょ、しょうがないであるな。心の読める作家、エドガー・アラン・ポオがいとも容易く自動販売機のボタンを押してあげよう」

 

特に心変わりがあった訳じゃない。

 

さっきの通りボクは、苦いのがまるで駄目だ。

 

 

 

「やはり、コーヒーは格別であるな」

 

 

 

「……そうだね」

 

 

 

――でも今日、こう言うほろ苦いのもありだなと思った。

 

 

 

 

 

「あの……お、思ったより百倍……に、苦いよ」

 

「ヘッセ君。コーヒーはあまり、一気飲みする飲み物では無い気がするぞ」




ちなみにわざわざ、ポオが窓際で本に隠れていた理由は彼なりに罪悪感を患っていたので、ヘッセが自分の嘘に気付いて怒っているかどうか気になっていた為です。
なのでフランシスとの会話は、本当に偶然聞いただけです。お見舞いは後でしっかり行う予定だったので、手元に持っていた感じです。
また最後の苦いのが嫌なのに、ポオと一緒の珈琲を飲んだ理由は秘密と言う事で……。
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