無職転生-魔術を極める- 作:魔術師見習いa
私、エルシア・グレイラットには双子の弟がいる。
弟の名前はルーデウス・グレイラット。
ルディは天才だった。
ルディは二歳の時、家に置いてあった魔術教本を読み、初級魔術を行使し、二回目を無詠唱で行使した。
私はルディが発動させた魔術を見た時、魔術の魅力に取りつかれた。
私はルディのように魔術教本を読めなかったけど、それでもルディの真似をして魔術を行使することが出来た。
私は生まれつき魔力眼を持っていたため、詠唱関係なく魔力の流れを再現できれば魔術が使えることを何となく理解出来た。
ただ、魔力が見え、操れても、ルディのように新しい魔術が使えるわけではない。
私はいつもルディの真似をしているだけ、二歳の私はそれが悔しくて文字を教えてとお母さんに泣きついたほどだ。
ルディと一緒に初級魔術の練習を毎日魔力が無くなるまで続け、空いた時間に文字の勉強をした。
私が魔術教本を読めるようになった頃、ルディは中級魔術を行使して家の壁を盛大に破壊した。
またしても先を越された私は、お父さんとお母さんにルディが犯人だと言った。
しかし、ルディは怒られることなく、お母さんは魔術の教師を雇おうと言い出した。
その言葉に、私はまたお母さんに泣きつき、魔術を習わせてもらえるようになった。
家庭教師は長年魔術師として研鑽を積んだ中年か老人で、髭をたくわえたまさに魔術師って感じのが来るだろうといっていた。
「ロキシー・ミグルディアです。よろしくお願いします」
実際に来たのは少女だった。
私やルディよりは年上だけど、お父さんやお母さんより若く見える少女。
お父さんとお母さんも驚いたようで、少しの間何も言わずに少女を見ていた。
「ああ、君が、その、家庭教師の?」
「そのー、ず、随分とそのー」
「小さいんですね」
「あなたに言われたくありません」
何か言いにくそうにしている両親の代わりに、お父さんに抱っこされたルディが言った。
少女はルディに対してすぐに言い返す。
確かに、私やルディよりは小さくない。
「それで、私が教える生徒はどちらに?」
少女は周囲を見渡して聞いてくる。
「ああ、それがこの子達なの」
お母さんは抱きかかえている私をルディに近づけ、私達二人が生徒だという。
それを聞いて少女は目を見開いた後、ため息をついた。
「はぁ、たまにいるんですよねぇ。ちょっと成長が早いだけで自分の子供に才能があると思い込んじゃうバカ親……」
ぼそりと呟くような言葉だけど、しっかりと聞こえた。
「何か」
「いえ。しかし、そちらのお子様方には魔術の理論を理解できるとは思いませんが?」
「大丈夫よ、うちの子達はとっても優秀なんだから!」
自信を持って宣言するお母さんに、少女はまたため息をついた。
「分かりました。やれるだけの事はやってみましょう」
少女、ロキシー先生は荷物を持って庭に向かう。
「外でやるんですか?」
「当たり前じゃないですか」
ルディは外が怖いのか不安そうな顔をして庭に出る。
そういえば、ルディが家の外に出たこと無かったな。
庭でロキシー先生が簡単に魔術の説明をする。
「では、お二人がどれほど魔術を使えるか試してみましょう。まずは、お手本を詠唱するので真似してみて下さい」
「詠唱が必要なんですか?」
「当たり前じゃないですか」
詠唱、最後に唱えたのいつだろう……
「汝の求める所に大いなる水の加護あらん、清涼なるせせらぎの流れを今ここに、ウォーターボール」
ロキシー先生は水弾を庭木の一つに向かって飛ばし、簡単にへし折った。
「どうですか?」
「その木は母さまが大事に育ててきたものですので、母さまが怒るとおもいます」
「え?それはまずいですね」
ロキシー先生は慌てて木に近づくと、倒れた幹を支えたまま詠唱する。
「神なる力は芳醇なる糧、力失いしかの者に再び立ち上がる力を与えん、ヒーリング」
ロキシー先生の魔術により、木の幹は倒れる前へと戻った。
治癒魔術、初めて見た。
「治癒魔術も使えるんですね!」
「すごい!すごい!」
「いいえ、きちんと訓練すればこのぐらいは誰にでも出来ますよ」
私とルディがすごいすごいと褒めると、ロキシー先生は嬉しそうに顔を背けた。
「では、ルディ。やってみてください」
「はい」
まずはルディからやってみることになった。
「汝の求める所に大いなる水の加護あらん……」
ルディの詠唱中に風が吹き、ロキシー先生のスカートがめくれた。
ルディは詠唱を続けず、ロキシー先生のスカートを覗き込む。
詠唱の途中だった魔術はいつも通り発動し、水弾が飛んでいった。
スカートの中を覗き込むことに夢中になっているルディの頭に水弾を叩きつける。
「ルディ、授業に集中しないとだめでしょ!」
「だからって、姉さま。いきなり、水弾を後頭部に叩き付けないでくださいよ」
「ルディがよそ見するから、ああなるのよ」
私は水弾が飛んでいった方を指差してルディに言う。
ルディとロキシー先生の視線が私の指さした方に向いた。
そこにはルディの水弾によって、先ほどロキシー先生が治した庭木が倒れかけていた。
「全く、次はちゃんと集中してやるのよ」
「はい、ごめんなさい」
ルディの謝罪を聞きいて庭木に走って近づく。
何とか庭木が倒れる前にたどり着き、先ほどロキシー先生がやったように治癒魔術で庭木を治す。
「これでよし」
庭木を治してロキシー先生のところに戻ると、驚いた顔で私を見る。
「治癒魔術、使えたんですか?」
「?いえ、ロキシー先生が使っているのを見て真似しただけです」
「けど、詠唱してませんでしたよね」
「私もルディもいつもしてませんよ」
「……そう。いつもはしてない。なるほど、疲れは感じていますか?」
かなり驚いているようだけど、ロキシー先生は私の状態を確認してくる。
「全然大丈夫です」
「ルディは?」
「僕も大丈夫です」
私達の返事を聞いてロキシー先生は微笑んだ。
「……これは鍛えがいがありそうですね」
ロキシー先生が何か呟いていると、お母さんが家から出て来た。
どうやらロキシー先生の歓迎会をするそうだ。
次の日からルディだけ、午後からはお父さんと剣術の鍛錬を始めた。
私は一人で午前中に習ったことの復習や魔術の複雑な制御を練習した。
最近は魔力総量がかなり増えたので、今までより細かく複雑な制御を行い。
複雑な制御に慣れてきたら魔力量を増やしていく。
少量で複雑な制御が出来るだけでは意味がない、目標は最大出力で出来るようになること。
ロキシー先生が来てから一年経った。
魔術の授業は順調で、全ての系統の上級魔術まで扱えるようになった。
上級魔術は範囲が広いため、家の周りで範囲と威力を制御して練習した。
そして剣術をルディに教える時、お父さんがやっている魔力の使い方を真似してみた。
どうやら身体能力を上げることが出来るようで、重たいものでも軽々と持てるようになった。
楽しい毎日を送っていたある日、ロキシー先生が魔術学校の話をしてきた。
「見てください。あそこに薄っすらと山が見えるでしょう」
「赤竜山脈ですよね」
「正解です。よく勉強していますね」
ルディはロキシー先生に褒められて嬉しそうに笑う。
「ここからずーっと北の方、あの山脈の向こうにラノアという国があります」
「どんな国なんですか?」
「冬はとても寒くて物凄く雪が積もるんです」
私の問いにロキシー先生が答えて話を続けた。
「そこにはラノア魔法大学という。世界一の魔術学校があるんです。近代的で高度な講義を受けることが出来ます」
ロキシー先生の説明に私は赤竜山脈に視線を向ける。
ここから赤竜山脈でもかなりの距離がある。
さらに向こう側となれば、物凄く遠いことになる。
「魔法大学には変な格式やプライドがありません。様々な種族を受け入れ、真面目に魔術を研究しています」
私が赤竜山脈をじっと見ていると、ロキシー先生は私達に目線を合わせて続ける。
「もし、このままお二人が魔術の道を進みたいというのなら、ラノアに行くことをお勧めします」
ラノア魔法大学、私が行きたいと言えばお父さんとお母さんは許してくれるだろうか。
もし、ラノアに行けばこの家には簡単には帰って来れない。
「そんなところに行かなくても、僕はロキシー師匠が居ればそれでいいです」
「その呼び方はやめてください。貴方は私を簡単に超えてしまうでしょうし、自分より劣る者を師匠と呼ぶのは嫌でしょう」
「嫌じゃないですよ」
「ルディにもその内分かるようになりますよ」
ロキシー先生はそういうと家の中に入っていった。
私は視線をもう一度赤竜山脈に向ける。
ロキシー先生が来て一年半が経った。
私とルディは五歳になり、皆に祝ってもらった。
ルディはお父さんから剣を、お母さんから本を、ロキシー先生から杖を貰った。
私はお父さんから髪を縛るリボンを、お母さんから本を、ロキシー先生から杖を貰った。
ロキシー先生の話では、師匠は初級魔術が使えるようになった弟子に杖を作るそうらしい。
「ルディ、エル。明日、卒業試験を行います」
ロキシー先生の言葉に、私とルディは何も言えなかった。
魔術を学ぶ楽しい日々が、明日終わる。
翌日、卒業試験の為に村の外に行くことになったのだけど、ルディが怖がった。
何がそんなに怖いのか分からないけど、ルディは昔から外に出ることを怖がる。
怯えているルディをロキシー先生は馬に乗せた。
私はルディの後ろに乗り、ルディが少しでも落ち着けるように優しく抱きしめる。
ロキシー先生が馬の手綱を握り、村の外に向かう。
最初は庭から出た後もルディは怯えていたが、途中から怯える必要が無いと分かったのか村の人に元気に挨拶していた。
ルディが何が怖かったのか、何も分からないまま解決した。
昔からそうだった。
私がルディにしてあげられることは何もない。
卒業試験は水聖級攻撃魔術『
結果は合格だった。
私は無詠唱で行い、ルディは私やロキシー先生より大きなものを作った。
初めて魔術を使った日から、私はルディに負けないように必死に練習して来た。
魔術の制御だって負けてないはずだし、魔力量は私の方が多いのに、ルディに勝てない。
卒業試験に合格し、水聖級魔術師になった私はルディには内緒でお父さんとお母さんにお願いに行った。
「お父さん、お母さん。ラノア魔法大学に通わせてください」
二人は真剣な顔の私にお互い顔を見合って問いかけて来た。
「どうしたんだ急に?」
「今以上にもっと魔術の勉強がしたいんです。今のままだとルディに追いつけなくなりそうで……」
「エルもルディと同じで水聖級魔術師になれたじゃないか。追いつけないなんてことは無いだろう……」
「そうよ。エルが心配し過ぎなだけよ」
二人が励ましてくれるのは嬉しいけど、二人は私とルディの差を分かってない。
「違います。ルディは魔術だけじゃなく剣術も習いながら水聖級になりました。私は一日中魔術の勉強をしてたのに、水聖級の魔術も私よりルディの方がすごかった。最初に魔術を使えるようになったのも、文字を読めるようになったのもルディ。今、魔術で差をつけられたら、私は何一つルディに勝てなくなる。大好きな魔術でも負けるなんて嫌!だから、ラノアに行かせてください!」
私は泣きながら頭を下げた。
お母さんに泣きついたのは、これで三回目。
ルディは一度もわがままなことは言ってないのに……でも、魔術だけはルディに負けたくない。
「エルの気持ちは分かったが……水聖級魔術師とは言え五歳の娘を一人旅させるのは……」
「でしたら、私がエルをラノア魔法大学まで送りますよ」
私が声が聞こえた方に視線を向けると、ロキシー先生が立っていた。
「良いんですか?先生」
「ええ、エルにラノア魔法大学を勧めたのは私ですから」
「ありがとうございます、先生」
お父さんが先ほどあげた問題が解決したので、満面の笑みでお父さんを見る。
お父さんは苦笑して渋々、私がラノアへ行くことを許してくれた。
「エル、ここはお前の家なんだから好きな時に帰ってきていいんだからな」
「たまにで良いから手紙も送ってね」
「はい」
両親の許可が出たので私は急いで準備を終わらせた。
そして次の日、ロキシー先生が家を出た後、ルディに気づかれないように私も家を出た。
家から見えない距離まで離れたところでロキシー先生と合流し、ラノアへ一緒に向かう。
ルディに手紙は残してきたけど、次会った時に抜け駆けしたことを怒られそうだな。