無職転生-魔術を極める- 作:魔術師見習いa
ルディがジュリに魔術を教え始めて一ヶ月が経った。
ジュリは、漸く土弾を無詠唱で作れるようになったらしい。
ジュリに才能が無かったのか、エミリー達に才能があったのか分からないけど、ルディが教えている割に遅いなとは思っていた。
「ねえ、エミリー。ジュリの無詠唱習得が遅いのは、ジュリの才能が原因だと思う?」
「いえ、普通はあんなものだと思いますよ」
ちょうど研究室に飲み物を持って来てくれたエミリーに問いかければ、特に表情を変えずに答える。
「けど、エミリーとアリシアは、一ヶ月で初級魔術は無詠唱で使えるようになったじゃない」
私の言葉にエミリーはジトっとした目を向けて来る。
「エルシア様が教えたからに決まってるじゃないですか。才能の差もあるでしょうが、私達とジュリでは大した差は出来ないでしょう」
「私とルディでも差はないと思うけど……?」
「はあ。エルシア様、ルーデウス様は魔力が見えないのではないですか?」
「……あぁ、そういえば、そうだったわね」
ルディは魔力が見えないんだったわね。
なら、差が出るのも仕方ないのかな。
ルディの弟子を取るわけにはいかないし、大人しく見守りましょうか。
ジュリのことを見守ると決めて研究を再開すると、今度はアリシアが入ってきた。
しかも少し慌てた様子で、言いにくそうな顔で話し始めた。
「エルシア様、その、ルーデウス様が……獣族の姫達を襲撃して自室に監禁しているそうです」
「………………え?」
ルディが?え?ん?どうして?
「えっと、どういうこと?」
「詳細は不明ですが、ザノバ様と協力して襲撃したそうです」
「………………間違いないのね?」
「はい……昨晩から二人の目撃情報がないので、間違いないかと」
「……はあ、分かったわ。理由とかはルディに聞きましょうか」
全く、ルディは何を考えているのか。
弟子とは言え、ザノバがやられたことに関する復讐とは思えない。
あれに関してはザノバにも責任がある。
くだらない理由でないことを祈るしかないか。
私が男子寮に行けば、すれ違った生徒達に驚かれたが全て無視する。
ルディの部屋を寮生の一人に聞き、ルディの部屋に向かう。
声を掛けることもなく扉を開けて中に入れば、ルディとフィッツの二人とふざけた刺繍が顔に描かれたリニアとプルセナが正座していた。
突然部屋に乗り込んできた私に四人とも驚いた顔を向け、リニアとプルセナは絶望したような顔になる。
取り敢えず、部屋から誰も出さず、誰も入れないために結界を張り、音が外に漏れないように防音の効果も付けて置く。
「さて。ルディ、これはどういうことか、詳しく説明してくれますか?」
「こ、これは……」
「見たところかなり酷いことをしているのですから、しっかりとした理由があるのでしょう。それを聞いているのです」
「じ、実は、この二人が、僕がザノバに上げた大切な物を壊したんです」
ルディの話を聞いて私はリニアとプルセナに視線を向ける。
「本当ですか?」
「ち、違うの」
「どう違うんですか?」
「あれは、決闘の賭けで貰った物ニャ」
「去年の決闘ですか?」
私の問いに二人は必死に頷いて答える。
ルディも特に否定してないし、間違いないでしょう。
「決闘の賭けで貰ったとはいえ、大切な物を壊すのは良くないわね」
「そ、そうですよね」
私の言葉に、ルディは少し安心したような顔をして、リニアとプルセナは今にも泣きだしそうな顔になる。
「でも、どう考えてもやり過ぎでしょう。それに話を聞く感じだと、決闘にそんな大切な物を賭けたザノバにも責任があるでしょう。二人だけを責めるのは、間違っているでしょう」
「そ、それは……」
「他にも理由があるのかしら?」
「……」
ルディが何も言わなくなったので、リニアとプルセナに視線を向けて問いかける。
「二人は何か聞いてる?」
「か、神をかたどった人形って言ってたニャ」
「神?」
まさか、ヒトガミのこと?
二人が視線をよく分からない棚に向けているので、その中に神に関する何かがあるのだろう。
オルステッドのこともあるし、調べておいた方がいいかな。
私が棚に視線を向けると、ルディが棚と私の間に入り、棚を開けられないように塞ぐ。
「なぜ隠すの?」
「えっと、ですね……」
ルディはかなり目を泳がせて言い訳を考えているようね。
リニアとプルセナが棚を見てたってことは、二人には見せたってことよね。
ヒトガミに関わることなら、知っておかないと面倒なことになるわよね。
「ルディ、悪いけど見させてもらうわよ」
「!?」
ルディを魔法で拘束して椅子に座らせる。
フィッツはルディを心配して近寄るが、土魔術で拘束しているだけだから心配することは無い。
さっそく棚を開けてみれば、どこかで見たことがある女性の下着が入っていた。
「え?」
私は棚を閉じてルディの前に椅子を作りだして座り、ルディに問いかける。
「あれはどういうこと?」
「えっと、その……」
「ロキシー先生のよね」
「は、はい」
「やっぱり」
見覚えがあるはずだ。
昔、ロキシー先生が家に居た頃に盗んだのだろう。
まあ、先にリニアとプルセナの問題を終わらせようか。
「つまり、二人が壊したのは、ロキシー先生の人形というわけね」
「はい」
「二人にしたことはやり過ぎだけど、今回はもういいわ」
「あ、ありがとうございます」
私は視線をルディからリニアとプルセナに移す。
「二人も知らなかっただろうから許すけど、次師匠をかたどった人形を壊したら許さないわよ」
「に、二度としないニャ」
「しないの」
「じゃあ、もういいわよ」
二人の変な刺青を消してやり、結界も解いて三人を帰らせる。
フィッツはかなりルディのことを心配していたけど、追い出すように帰らせた。
「さて、ロキシー先生の下着を盗んだことについて話しましょうか」
「……はい」
ルディが諦めたことで、床に正座させ姿勢を正した状態を土魔術で固定する。
そのまま真夜中まで説教を続け、最後にロキシー先生の人形を一つ作って貰う約束をして家に帰った。
あれからしばらく経ち、秋になった。
そして獣族の発情期らしい。
アリエルの頼みで、アリシアとエミリーは交代で毎日警備に参加している。
発情期とかどうでもいいけど、周りに迷惑はかけないで欲しいわよね。
そんな季節など関係もなく、いつも通り研究室に籠っていると警備に行っているはずのアリシアがかなり慌てた様子で駆け込んできた。
仮にも風帝級魔術師のアリシアが、かなり慌てて戻ってきただけで嫌な予感しかしない。
「何かあったの?」
「魔王の襲来です」
「え?」
「理由は不明ですが、魔法大学に魔王が襲撃してきました。現在、シャリーアに居る少ない兵力で魔法大学を包囲している状態です」
「……私にどうしろと?」
「魔王の撃退あるいは事情をきいてほしいとのことです」
「つまり、私に魔王の対処をしろってことね」
「はい」
どうして私が対処しないといけないんでしょうね。
「アリシアとエミリーが協力すれば、魔王の撃退くらいは出来るでしょう」
「出来るかもしれませんが、魔法大学とシャリーアに大きな被害が出ると思います」
「……分かったわ」
研究を中断し、アリシアとエミリーに連れられて魔法大学に向かう。
向かった先は上級魔術用演習場。
どうしてこんなところに居るのだろうか?
そして生徒と教師が大量に集まっている。
魔王の襲撃を受けているんじゃないの?
「おお、エルシア様こちらです」
「校長、この集まりは何?」
「ただのやじ馬です。魔王が現在ルーデウス様と睨み合っている状態で、動きはありません」
「ルディが?」
生徒達が道を開いたことで演習場の中央でルディと六本腕の漆黒の肌をした大男が向かい合っているのが見えた。
あれが魔王ね。
魔力が見えない。
魔力が無いわけじゃなさそうだし、何か特殊な方法で魔眼を無力化してるのかな?
「校長、あの魔王とオルステッドどっちが強いの?」
「あの魔王は七大列強ではありませんから、七大列強二位の龍神の方が強いでしょうが、それがどうしたのですか?」
「いや、どのくらい強いか確認しただけよ」
オルステッドより弱いなら問題ないでしょう。
「じゃあ、話を聞いて来るわ」
「え?あ、よろしくお願いします」
校長とアリシア達を置いてルディ達に近づいていく。
二人とも私に気づいたようで視線を向けて来る。
ある程度近づいて魔王に話しかける。
「魔王、名前は?」
「我輩はバーディガーディだ。そなたの名は?」
「私は魔導神エルシア。そこにいるルディの双子の姉よ」
「なんと、そうであったか」
普通に話せるわね。
「少し聞きたいんだけど、魔力が見えないんだけど、魔眼対策でもしてるの?」
「我輩に魔眼は効かぬのでな。ふむ、高位の魔力眼を持っておるのか」
「高位かは知らないけど、魔力眼はあるわ」
「それで、聞きたいのはそれだけか?」
「もう一つあるわ」
「何が聞きたい」
「何しにここに来たの?」
バーディガーディは腕の一本でルディを指差して口を開いた。
「そなたの弟のルーデウスと決闘をするためだ」
「ルディを殺さないって約束できる?」
「うむ、構わぬぞ。殺すことが目的ではないのでな」
「そう。ならいいわ。ルディ、頑張ってね、応援してるわ」
「え?」
ルディに手を振ってアリシア達のところに戻る。
「魔王は何と言っておりましたか?」
「ルディと決闘しに来たそうよ。まあ、ルディに任せておけば大丈夫でしょう」
「エルシア様がそう仰るなら……」
校長は渋々といった様子でルディ達に視線を向ける。
少しすると、フィッツがルディの杖をルディに届けに行った。
フィッツから杖を受け取り、決闘が始まった。
バーディガーディは一撃受けるつもりなのか、何もせずにルディの魔法を待っている。
ルディの魔術は岩砲弾ね。
だけど、なぜか岩砲弾を高速回転させてるわね。
魔術の訓練をサボっていたのか、魔力を込めるのが遅いわね。
杖はアリシア達と同じくらいの魔力効率かな。
威力は帝級並みね。
ルディが撃った岩砲弾がバーディガーディの上半身を爆散させる。
少しすると、サイズが小さくなったバーディガーディが立ち上がった。
そして何か話した後、ルディの杖を持つ手を掴み上へ持ち上げる。
「勝ったどぉぉおおおお!」
決着がついたみたいなので、二人に近づく。
その途中、なぜかルディが殴り飛ばされて気絶した。
「決闘は終わったんじゃないの?」
気絶しているルディを治療してバーディガーディに問いかける。
「うむ、終わったぞ。もう戦う気はない」
やっぱり話が通じないのかな?
その後バーディガーディは、校長達がどこかに連れて行った。
特に何もしていないのだが、全員私に一礼してバーディガーディと一緒にどこかに行った。
何か話があるのだろう。
その後、気絶しているルディを起こすと、教頭に連れられ教員等の一室で歓待を受けることになった。
紅茶と茶菓子を貰い、教頭の話を聞き流す。
教頭に解放された後部屋を出ると、ザノバが走り寄って来た。
「おお、師匠、見ていましたぞ。流石ですな。いや、当然というべきですか」
ザノバはそう褒めたが、ルディは首を振った。
「胸を貸してもらっただけですよ」
「そうね。殺し合いなら死んでたわよ」
「分かっています」
「そう。なら、もっと早く魔力を込められるように訓練しておいた方がいいわよ」
「分かりました」
バーディガーディに勝って慢心してたら、どうしようかと思ったけど、そんなことはなさそうね。
確かにルディなら簡単には負けないだろうけど、バーディガーディが殺す気だったら間違いなく殺されていたでしょうね。
まあ、ルディもしっかりと分かっているようだから、わざわざ言わなくても大丈夫でしょう。
「そういえば、どうして岩砲弾を回転させてたの?」
「その方が貫通力が上がるんですよ」
「そうなんだ。けど、貫通させるより、速度を上げて威力を強めた方が良くない?」
「威力だけならそうですが、それだと衝撃が分散して硬い魔物の皮膚を貫きにくいんですよ。だから、急所を一撃で破壊できるように貫通力を上げたわけです」
「なるほど」
急所だけを的確に破壊するために貫通力を上げてるわけね。
冒険者的にはそっちの方が正しいのかな。
私だと思いつかない考えね。
そもそも殺すつもりで撃った魔術を受けて生きてるのは、オルステッドだけだしね。
それにしても高速回転させて貫通力を上げるね。
防御力の高い相手には使えそうだし、今度研究してみようかしら。
クリフ、すまない。
どうしてもエルシアと絡む展開がイメージ出来なかったんだ。
チートは戦闘描写楽になるけど、物語の展開が死ぬほど難しいですね。